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■終幕のこころ
間もなく、夜が明ける。3日間のお祭り騒ぎは終わり、心魔に平和と日常が帰ってきたのだ。 遠く山の切れ間から、明るい光が見え始めていた。今日は祭りの後片付けをしなければならないだろう。それまでの、ほんの僅かな時。 「眩しい、な」 「そーね」 公園のベンチに、聡と茜は並んで座っていた。他に人影はない。ふたりだけの空間、ふたりだけの場所。 特に何をするわけでもなく、疲れた体を休ませるように、ただ座っている。 「なあ、茜」 「・・・何?」 「俺たち、もうカップルなんだよな」 「・・・そうね」 聡は茜を選んだ。神楽の想いを知り、茜の想いを知り、最後に茜を選んだ。 神楽が嫌いなのではない。茜が好きなわけでもない。ただ、茜は“特別”だから。他の誰でもない。茜だけが、聡の特別だから。だから、選んだ。たとえそれが神楽を傷つける道だろうと、今まで通りに楽しめない可能性を含んでいたとしても。 それが、聡なりに真剣に考えた答えだから。 「ところでさー、カップルって何をすりゃいいんだ?」 「そっか。聡は付き合った経験ってないのよね」 「そりゃお前もだろうが」 「神楽の話を聞く限りだと、公園でおしゃべりとか、映画を見に行くとか、食事に行くとか、まあ色々あるみたいね」 「そんじゃあ、今までと変わらないじゃんか」 そうね、などと茜は呟いた。そうだよな、と聡も呟いた。 「じゃあさ、キスでもすっか」 「・・・は?」 茜は聡の顔を見た。平然としていて、特に変化はない。そこにはまるで散歩に行くと告げたような気安さがある。 「いやさ、恋人ってそういうもんじゃねーのか」 「・・・うん、でも、それはそのね、つまりは種種雑多なる事情があるわけでそれは細々としていて説明しにくいんだけど、つまり――」 ごにょごにょと言う茜の顔を強引に抱き寄せ、聡は茜の唇を奪った。 茜は目を見張り、聡はすぐさま顔を離す。たった数秒の、それでいてひどく重い意味があるような気がした。 「・・・茜。これからもよろしく」 「――うん」 唇に手を当て、頬を紅く染め。茜は小さく頷いた。 日が、昇った。 そのふたりの姿を、少し離れた木々の合間から見つめる影がいくつか。 「あれ、やったね」 「・・・そーね」 「いいの?」 「いいのも何も、もう付き合ってるふたりなんだから、キスしようが何をしようがいいじゃないのよ」 影は全部で四人。行人、桔梗、神楽、秀一。完全なるノゾキだ。 「神無月、未練でもあるわけ」 「そんなんじゃないのよ。茜に私の想いを託す覚悟もあるもん。でも、でもさ、ううん・・・だからこそ、あのふたりには幸せになって欲しいのよ」 「ならほっておきなさいよ」 「でも気になるじゃない」 桔梗は呆れたようにため息をつき、それ以上は何も言わなかった。 「ふんだ。彼氏持ちにはわかんないわよ。私の気持ちは」 「――誰が彼氏持ちよ」 「あんたよ、あんた。行人君と付き合うんでしょ?」 「その話、どこで聞いたのよ」 「『不死の暗黒』」 ぎり、と歯噛みし、桔梗は姿も見えぬアンデッドに殺意を抱いた。どうせバレる事とかいう思考は、とりあえずの間はない。 「あれ?こんなとこで何をしているんですか?」 静寂に響く声に、一同はびくりと肩を震わせた。振り返れば、由佳が頭の上に疑問符すら浮かべて立っている。その背後には、新藤まで立っていた。 「ちょ、由佳ちゃん、静かに――!」 「へ?どうかしたんですか?」 神楽は慌てるが、もう時すでに遅し。 「・・・神楽」 「行人、随分と暇なんだな」 ひゃあッ、と神楽たちは数センチばかり浮き上がった。ぎぎぎ、と振り返れば、そこには当然ふたりの魔法使いの姿がある。 「あ、えと、これはそのぉ・・・」 言い訳をしようとする神楽に、ふたりは声を揃えた。 「「問答無用!!」」 完璧に息の合った合体技が、神楽たちを襲った。 公園内を逃げ回る神楽たちを、聡と茜が追い回す。まったく、どこにそれだけの元気を蓄えているのだろうか。 「ええと、あたし・・・何か悪い事でもしたのかな?」 「おそらく、神無月さんが悪いのでしょう。止めるのも面倒ですし、後は任せます」 さらりと言い放ち、新藤は文字通り姿を消した。 慌てる由佳は、とりあえず走り出した。静かな公園に、聡たちの元気な声が響き渡る。 「待てって言ってるだろうがあ!」 叫ぶ聡の顔は、喜びに満ちていた。 |