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■全ての物語は始まった
ワカバタウン・ウツギ研究所。ポケモン研究家として有名なウツギ博士の研究を行うための施設である。 「みんな〜!食事の時間だよ〜!」 研究所の広い庭では、様々なポケモンが飼育されている。今、ポケモンを呼んだ彼はその一切の世話を任されたウツギ博士の助手。名はショウという。 白衣の下はワイシャツにネクタイ。最近、少しサマになってきたように思えなくもない。 「たくさん食べな」 研究所のポケモン達が、ショウに呼ばれて集まってきた。 「ショウ君〜!ちょっと来てくれるか〜い?」 「は〜い!」 研究所の中からした博士の声を耳にし、ショウは返事をして研究所に向かった。 「あ、ナミさん」 研究所に入るなり、ショウは見知った顔に笑顔を見せた。 「久しぶりね。前に逢ったのは・・・ハザマの時だっけ?」 「ええ。だからもう半年前ですね」 半年。それだけの歳月を経た今、ジョウト地方は落ち着いていた。 元々、ハザマたちはできる限り騒ぎにならないよう、隠密で行動していた。世間の人間が事実を知ったのは全てが終わった後。騒ぎもあまり大きく ならず、事件はすでに風化した。 ジムリーダーたちはそれぞれのジムに戻り、職務を果たしている。問題が起きたのはアサギシティだけだ。 キクコとカンナの処分は軽かった。四天王からは除名されたが、それ以上の咎めは受けていない。元々、損害などほとんどないのだから。 その後、ふたりは行方をくらませた。当分の間は、ジョウト地方の四天王がカントー地方の分も兼任するらしい。 ほとんどが元通りとなり、ショウは研究所に戻り、ナミは当てのない旅路に出ていた。そして今日、久しぶりに戻ってきたらしい。 ナミは少し日焼けした顔を心配そうにゆがめた。 「ショウ、ランの様子は・・・?」 ショウの隣にはランが立っている。本来なら輝くはずの尻尾は、今は輝きを失ったままだ。 「・・・電気はまだ使えるようにはなっていません。俺が毎日、治療をしているんですけどね。それでも少しは回復したんですよ。“せいでんき”くらい は発生するようになりましたから」 ショウの隣で、ランは嬉しそうにメ〜と鳴いた。 「そうだ、ねえショウ。久しぶりにバトルしない?」 「・・・止めておきますよ。ナミさんは手加減を知らないから」 「信用してないわね・・・。私だって加減くらいできるのよ?」 「信用を得たかったらとりあえず新聞に載らないようにして下さい」 ぐ、と音を吐き、ナミはすねたようにそっぽを向いた。 「それでナミさん、今日は何の用ですか?」 「今日は・・・あの日でしょ?一緒に行こうかと思って」 ショウは黙ってウツギ博士を見た。 「ああ、いいよ。ゆっくり行ってらっしゃい。怪我はしないように」 ウツギ博士は優しく微笑み、ショウを送り出した。 シロガネ山のふもとに、小さな墓標がある。双子のような小さなふたつの墓標は、山道の直前で寄り添うようにあった。 ナミは用意してきた花を手向け、手を合わせた。 「博士とキメラ・・・、天国で幸せになったかな?」 「天国くらいでは幸せになって貰わないと困りますよ」 とても悲しい存在だった。存在する事すら許されない、生きられない存在だった。 それでも生きていた。この世では不幸だったのなら、せめて死の先では幸せになって欲しい。博士とふたりでなら、幸せになれるだろうか。 「ポケモンと人間って、どんな関係なんでしょうね」 誰に答えを求めるでもなく、ショウは呟いた。 「そんなのはポケモンと人間が決めるの。人それぞれなんだから、誰かがとやかく言う話じゃないわよ」 「・・・そう、ですね」 それが一番の答えなのかもしれない。たったそれだけの答えを求め、それを得た直後に・・・彼らはこの世を去ってしまった。 「さ、行こうか。いつまでもいたって仕方ないしね」 「そうですね」 ナミはボールを放り投げ、ボーマンダを繰り出した。ショウもそれを見習うようにカイを繰り出す。 「生きなきゃ、ダメなんだ」 言い聞かせるようにショウは呟く。 死した者は還ってこないから。だからせめて、生きている者は強くありたい。自らも死者となる時、先に逝った者に胸を張って「生きました」と言えるよ うに。 「ボーマンダ、ワカバまで『そらをとぶ』!」 ふわりとナミが飛び上がった。ショウも続いて飛び上がろうとカイの背に乗る。 『ありがとう・・・』 「ん?」 風か声か。何か音が聞こえた気がした。優しげな、暖かい音。 「ショウ!さっさとしなさい!」 上空からナミの叱咤が飛んできた。急がないと何かおごらされるかもしれない。 「カイ、行こうか」 ケン、と短く鳴き、カイは中空を舞った。 蒼い空に溶け込んでいくその姿を、影はいつまでも見守っていた。 みっつ、そっと寄り添うように。 END |