それからしばらく、帝都は大混乱だった。
 ピースは何度も色々な役所に呼ばれ、さんざん同じ話を繰り返し繰り返しさせられた。
 前代未聞のテロ事件。そんなことが可能であるというのも問題だったが、あまりに前代未聞すぎて現行法が追いついていないことも議論になった。
 帝都の外からモンスターを引き連れて襲撃する、いわば魔王の再来。それを禁止する法律はもちろん存在せず(というかモンスターを操れるという概念さえ存在しなかった)、おかげでミリアやミハイルの処遇は揉めに揉めているそうだ。
 もちろん、そんなことはピースの専門外だ。時おり顔を会わせるラリーの消耗具合から見て、まあろくなことになっていないのだなと察する程度だ。
 一方で、あの日の防衛に関わった冒険者には、特別な報奨が出されることになった。意外というべきなのだろうか、最大の活躍をしたのはミニャ・カネチャで、討伐数トップとなった彼女はドラゴンゾンビにも痛打を与え、時間稼ぎに貢献していたらしい。

『わたくしの実力なら当然ですわ!』

 そう言った直後、ミハイルの逮捕をハルトが行ったと聞き、

『やっぱりあなた強いんじゃないですの!! 自信ない顔しといて!!』
 
 などと叫んでいた。
 そんなある日。今度は冒険者ギルドに呼ばれ、仕方なしに顔を出すことになった。

☆   ☆   ☆   ☆


「久しぶりね。ピース・チャック」
「ああ」
 ギルド長は今日も笑顔の欠片もない仏頂面で、ピースの前に座っていた。
「ミハイルが逮捕され、あなたにかけられた救護義務違反についても嫌疑が解けつつあります。もっとも正確にはミリアとミハイルの証言次第ですが、おおむね問題はないでしょう」
「そうでしょうね」
 もともとピースの冒険者資格が剥奪されたのは、迷宮内にミリアを含む仲間を置き去りにしたというもの。
 それもミリアの計略であったとするならば、根拠となる違反行為そのものが存在しなくなる。
「よって、あなたの冒険者資格は復帰できる見込みです。まずはそれを伝えること、そしてあなたに謝罪すること。それがわたくしの用件です」
「謝罪なんて必要ありません。あなたの裁量は間違っていない」
「いいえ、これは必要なことですよ、ピース。組織としては間違っていることは間違っていると正されるべきなのです」
 こほん、とギルド長は咳払いひとつ。
「それで、ピース。あなたは冒険者として活動を再開しますか? そうであるならば、冒険者ギルドは可能な限りサポートをする用意があります」
「残念ですが、冒険者としての活動は控えようと思っています。まあ、迷宮にはもぐるので、冒険者資格そのものはありがたいですが」
「はて。迷宮にもぐるのに冒険者ではない、とは?」
「ちょいと、教師ってものに興味が湧きましてね」
「ははぁ、あなたの弟子たちですか。確かにミハイルを討伐するというのはかなりの戦果。並の新人ではありませんね」
「あいつらの目的はそれだけじゃありませんからね。それを支援するのも、先達の仕事かなと」
「立派なことです。ですが、いいのですか? あなたは自分の戦果にこだわっていたでしょう」
「……俺はこの体ですからね。ガキの頃はずいぶんからかわれたし、見返すつもりで冒険者になろうって思ってました。討伐を志したのもそれが理由です。でも、しょせん俺の戦闘力はたかが知れる。それよりかは、俺の経験を生かせる奴に託した方が、よほどいいかなと思っただけですよ」
「冒険者ギルドとしては助かります。望むなら、学校の教員枠も用意できますよ」
「ま、それも考えておきます」
 ギルド長の部屋を辞する。廊下に出ると、三人の弟子が待っていた。
「なんだお前ら。こんなところで」
「お話は終わったようですね。では、今日は何の訓練をしましょうか。ちょうど、錬金術の調合時間について短縮する方法がないか検討していたんですけども」
「あたしはまだアーティファクトを使いこなせてもいないし! 先生ならなんかすっごい方法とか思いつかない!?」
「僕も、神前神楽式をもう少し鍛えたいんですが……」
 三者三様の悩みに、ピースはくすりと笑う。
「まったく、お前らは自由だな。あんだけの事件があって、冒険者引退しようとか思わねえのか」
 すると三人は顔を見合わせ、
「ラリーの呪いは解けていません。解呪ができるまで冒険をやめる理由にはなりませんよ」
「リンに負けるの嫌だし」
「ぼ、僕はお二人のお役に立てるなら……」
「ま、そうこなくっちゃな。いいよ、全部まとめて面倒みてやる」
 三人を引き連れ、ピースは建物の外に出た。
 いつぞやは一人だけ取り残されているような感覚のあった、雑多な道。
 そこに、自分を慕う者がいるというだけで、こんなにも受け入れられているような感覚に陥るとは。
「人間、都合のいいもんだよなぁ」
「先生?」
「なんでもねえ。じゃ、迷宮に行くか!」
 四人は一歩を踏み出す。
 それは、未来へと進む最初の一歩。