「ごめん、向きまで考えている余裕がなかったわ」
「う、ううん……。なんとか生きてるしセーフ」
 立ち直ったシジョーさんは、ふらふらしながらも四足で立っている。目立った怪我なんかも特になくて、わりと元気そうだった。
「それで、エージェントに遭遇したんだって?」
「はい。うちの副会長でした。実際にうちの生徒会役員だったので、少なくても一年近くは学校にひそんでいたみたいです」
「なるほどね。そこまでしていたんだ……。で、ロアンの身柄を要求されている、と」
「そうなんです。どうしたらいいんでしょう」
「まず第一に、副会長さんは嘘をついているわ。こっちと向こうの世界が繋がったのは、現状で繋ぎ続けている人物がいるからよ。ロアンがここにいるだけで繋がってしまうなら、どうして異世界のエージェントはこっちに来ていいの?」
「それは……」
「何が目的か、それは私にもよくわからない。でも、彼らなら本当に強制的な拘束も辞さないと思うわ。ただ、そうされたらロアンは二度とこっちに戻ってこられないでしょうし、自由があるかもわかんない」
「そうなりますかね……」
「たぶんね。抵抗するなら今しかないけど、それは連中と全面戦争するってことになる」
「全面戦争……」
 うちはシジョーさんを合わせても五人しかいない。なのに彼らは兵器を運用できるほどの資金力と人材がある。
 勝ち目なんかあるはずがない。
「それじゃ、諦めて降伏するしかないってことですかね」
「そんなわけないでしょ。諦めて成立する話なら最初から対立しないわ」
 それもそうか。
「でも、それじゃあシジョーさん、なにか考えがあるんですか」
「考えというか、方法はひとつ考えているわ。そのエージェントを、こちらが拘束してしまえばいいの」
「副会長を倒せってことですか?」
「そういうこと。そうすればロアンはこっちの世界にいられる。あっちの世界に行っちゃうよりは抵抗する方法も見つかるだろうし」
「でも……」
 僕の視線が蛍石たちを捉える。
 それは、彼女たちを戦いに巻き込むということだ。今までの、魔法少女ごっこじゃない。本物の戦争に。
「何を考えているのか、だいたい想像がつくけど。女を甘く見るんじゃないわよ」
 と、蛍石が僕をにらんだ。
「やるしかないんでしょ。なら、戦いましょう。そうしなきゃ欲しいものが手に入らないんだもの」
「そうは言っても……。具体的にどうしたら」
 すると、テーラが手をあげた。
「……シジョー。リーゼたちは、どうやってこちらの世界に搬入されるの?」
「どうやって?」
「こちらを真面目に攻撃しようとすれば、空間の裂け目なんて小さなものでは物量が足りない。今までのリーゼが一体ずつだったのは、量が必要なかったというのもあるかもしれないけど、技術的に難しいという理由もあったはず」
 なるほど。個々のリーゼは強かったけど、群れることはしていない。それは兵器の運用と考えればおかしな話だ。
「境界面が必要ね。こちらの世界とあちらの世界に。なるべく平らで、リーゼの軍隊が通れるほど大きなものを使用してくるはずだけど」
「リーゼの軍隊が通れるほど大きな平面ーー」
「高峰にある湖は? あそこの湖面なら平らな平面だよ」
「湖面ね。理論上は可能でしょう」
「じゃあ、そこで連中を迎え撃てばいいってこと?」
「それだけじゃ足りないわね」
 そう言ったのはヴェチルだった。
「あとからあとから沸いてくる兵器を潰したところで、相手の数は減らせない。相手の生産拠点を潰したいところだけど、それがあちらの世界にいるなら難しいでしょう。ってことは、こちらの世界にいるはずの指揮官を捉えるしかない」
 つまりはーー副会長が鍵。
 そう考えた直後、僕のスマホが震えた。
 ラインの通知で、メッセージが記載されている。

『三日後。高峰山の湖畔でお待ちしております』

「全部お見通しだ、ってさ」
 たぶん、シジョーさんを連れ出せたのも相手としては計算のうちなんだろう。そうでなきゃ、いくらヴェチルでも一人で回収なんてできなかったはずだ。
「ってことは、向こうもかなりの戦力を投入して、交渉が破談しても引っ張りこむつもりってことね」
「なら、こっちも全面戦争だわ!」
「危ないよ。死んじゃうかもしれない。ヴェチルやテーラも、それでいいの?」
 二人は顔を見合わせる。
「まあ、それくらいは付き合ってあげるわ。ヤバそうだったら撤退するし」
「かといって、なにもせずに逃げるほど臆病でもない、ってね。こちとら荒事のプロフェッショナルよ。ヤバいかどうかは自分で判断するわ」
「私は当然、戦うからね。ロアンだけを連れてくなんて、絶対に許さない」
「ヴェチル……。テーラ……。蛍石……」
 三人ともやる気だ。僕が止めても、きっと止まらないだろう。
 やるしかないんだ。それに、僕自身も逃げきれない以上、仲間がいてくれるのは心強い。
「……ありがとう、みんな。でも、無理はしないでね。僕が原因で死ぬとか、悪夢を見るよ」
「わかってるわ」
「ま、任せなさい」
「ロアンこそ! 絶対に無茶しちゃだめよ!」
「その日はお姉さんも協力するわ!」
 四人の仲間。相手はどれほどかも不明、か。不安はあるけど、やれることをやるしかない。

 三日後。
 きっとそこで、僕らの全てが決着する。