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4月12日 金曜日 AM10時00分 金曜日。入学時テストが返却された。 これは入学してすぐに5教科の試験をするもので、これによって自分の苦手分野を理解したり、今後の学習に役立てるために使うのだという。 僕の成績はだいたい50〜60点台、可もなく不可もなくといった具合。だいたい入学時の試験って、入試で十分レベルは分かっているだろうに、わざわざ調べる必要なんてあるのか。 試験用紙の右上には点数とは別に、二桁の数字が書いてある。これがクラスの中での順位らしい。僕の順位は20位前後。クラスは全部で26人だから……。まあまあ下の方、だろうか。 教師は全員を見渡し、 「答案は返ったな。全教科1位は南須原だ。みんな拍手!」 ぱらぱらと拍手がまき起こる。 南須原さんはさすがと言うべきか。たぶん入試が終わった後も勉強を欠かさない人なんだろう。僕はすぐ怠けちゃうからこの成績だけど、彼女ならそういうこともなさそうだ。 それにしても、全教科1位はすごいな……。クラスの中には理系が得意な人、文系が得意な人もいる様子だけど、その人らにも彼女は負けていないってことだ。 ゲームで言えば一点特化のキャラを越える上位互換。ひとりだけチートみたいな存在だな……。 ふと見ると、南須原さんはどこか不満そうだった。ちらりと見える答案用紙は90点台、横に1位と書いてあるのに。 「みんな、南須原に負けないように勉強するように。今回の試験はそれぞれ大問ごとに単元が分けてあって……」 先生が解説するのを、僕は聞き流していた。 4月12日 金曜日 AM11時10分 休み時間。特に女子とつるむ様子もない南須原さんに、僕は声をかけてみた。 「南須原さん」 「宮崎くん。どうかした?」 「さっきのテスト、全部1位だったんだね。やっぱり勉強できるんだ」 「あのくらい。たいしたことじゃないわ。入試でも出された内容と大差ないもの」 それで点数が取れない僕はいったい。 「1位なら十分だと思うけど……。なんだか不満そうだね」 「ええ。だって満点じゃないもの」 南須原さんの答案を見せてもらう。いずれも90点台だけど、どの答案用紙もどこかでミスがある。 よくよく見ると、ケアレスミスのようだった。数学なら途中の計算間違い、英語ならスペルが1文字間違ってる。国語は漢字を間違えてるようだ。 これ、問題の答えかたは全部わかってるってことだな……。 「南須原さん、もしかして100点を本気で取るつもりだったの?」 「もちろんよ。試験は満点を目指すためのものでしょう」 「そうだっけ……」 試験って赤点を回避するためのものじゃなかったのか。 彼女の意識が高いことは知っていたけれど、試験に対してもこれほどの熱量があるとは思わなかった。 けど、よくよく考えてみれば自然なことだ。彼女はもともと、成績にも関係のない課題にさえ真摯に取り組む。それが成績直結の試験ともなれば、満点を目指すのはごく当たり前のことなのかもしれない。 それでも僕は目指さない。ゲームで絶対にクリアできないインフェルノモードやるくらいなら、ノーマルモードか、なんだったらイージーモードでもいいタイプだから。 ……言い換えれば、”達成できそうな”目標くらいは目指す余地もあるけど、達成不可能ってわかりきっている目標には手を出す気も起きないってこと。その点、彼女にとっては目指すだけの価値がある目標なのかもしれない。 「まだまだよね。私、試験になるとどこか緊張しちゃって……。こうやってケアレスミスがなくせないのよね。何度も見直しているはずなのに」 「もう少し肩の力を抜いたら? 別に満点じゃなくても1位は1位なんだからさ」 「私は他人と競うために試験を受けているわけではないもの」 そう言われてみればそう……。なんだろうか? いやいや。試験なんて他人との順位を比べるためのものだ。入試だって他人より成績がよかったら入れるというだけのもの。他人に勝てるならそれで十分じゃないか。 このあたりは、僕と彼女の考え方が違うんだろう。それはそれ、彼女には彼女なりの思想があっていいのかもしれない。 「今度の試験、一番近いのは数学ね。今度は全問を2回解けるくらい時間を作らなきゃ……」 この人、僕の半分の時間で試験終わらせるつもりだぞ。 「ま、まあまあ。ほどほどにしておこうよ」 そうしないとクラス平均が上がって親の評価が悪くなるしね……。 「べ、勉強もいいけどさ。南須原さんは女子たちと遊んだりしないの?」 「放課後はちょっと……。弟の面倒もあるし、それに騒がしく遊ぶのってなんだか性分にあわないのよね」 確かにそんな感じはするけど。 教室の前に視線を向ける。そこにいるのはクラスの中でも一番目立つ女子グループ、中でもリーダー格の赤城さんがいた。 赤城さんはギャルっぽいというか、全体的に派手な感じだ。髪も染めているし、ピアスも開けている。胸元もけっこう開きぎみで、シルバーのネックレスが光っていた。校則的にはギリギリだけど、とりあえずセーフらしい。 読者モデルもしているという話が聞こえてくるくらい、彼女は明るく美人で人気だ。そんな彼女を中心とした女子グループは、確かに全員が明るくて騒がしい。 つまるところ、南須原さんとはタイプがだいぶ違う。確かにあのグループと遊んでいる南須原さんはあまり想像ができない。 「赤城さんね。彼女も悪い人ではないんでしょうけど」 「そうだよね」 僕はちょっと話したことがあるくらいだけど、彼女は誰にでも分け隔てなく優しかった。僕みたいなタイプにさえ優しくできるんだから、彼女は根っからの善人なんだろう。 「それじゃ男子とか……。彼氏とか?」 「恋愛は興味ないわ」 だろうね。 「いいのよ、別に。クラスではそこそこやれていると思うし。むしろ宮崎くんの方が心配よ」 まあ、南須原さんはクラスの中でも軋轢を生んでいない感じはある。むしろ僕の方が南須原さん以外と話すこともあまりなく、浮いているんじゃないかというくらい。……むしろ沈んでいると言うべきか。 「まあ、僕はほら……。ははは」 目が泳ぐ。隣を見ると、窓際の女子が目に入った。おさげの黒髪。この前、図書室にいた子だ。 「……? ああ、佐々木さん?」 「佐々木さんっていうの?」 「あなた、クラスメイトの名前もわからないの?」 あきれた、という顔をされるが、実際に覚えてないんだから仕方ない。名簿、いまだに一度もちゃんと見たことないし。 「この前、図書室にいたなって思って」 「そうだったかしら」 不思議と、佐々木さんは僕らを見ている気がした。こっちと視線が合うと、ふい、と顔を背けてどこかに出ていく。 僕の脳裏には、彼女の視線だけが残っていた。 |