病院の中庭に、ひとりの青年と四人の女性たちがいる。
 青年は童顔に人のよい笑みを浮かべ、口を開く。
「そっか。星さんも自分の道を見つけられたんだね」
 その向かいに立つポーカーフェイスの少女は、ふるふると首を横に振る。
「私はまだ正確な道を見つけたわけではない。ただ。やらねばならない事は理解した」
「そっか。実はさ、僕もちょっと新しい道を進もうと思うんだ」
「そう」
 こくんと頷き、少女は手を突き出した。
 青年は面食らったようにその手を見つめ、しっかりと握り締めた。
「お互い、頑張ろう」
 こくん、と頷き返す少女。
 その、握り合った手に、柔らかな手が重ねられる。
「私も。くーを独りで行かせないよ」
 さらに、小さな手と力強い手が重なる。
「孤独の道ほど寂しいものはないわ」
「一緒に歩く事の楽しさを知っちゃったら、ちょっと離れられないわよね?」
「きゅう!」
 チリン――
 小さな鈴の音色が、その場の者たちの意識さえも同調させるように響く。
「正しくはないかもしれない」
「それでも構わないわよ」
「正解なんて、わかんないもんね」
「あるいは、そんなものは最初から存在しないのかもしれないわね」
「最善を尽くす。それが正解だろうと不正解だろうと」
 そして。誰からともなく、手を離す。
 孤独な天使は、足先を変える。その先に待つのは、どことも知れぬ明日。
「また。どこかで」
「うん、またね、星さん」
「紅葉。私の名前は。ガブリエル」
 ぽつりと呟いた言葉。聞き取れなくてもおかしくはないだろう声なのに、青年はしっかりと聞き取っている。
「うん。じゃあ、またね。ガブリエル」
 首だけで振り向いた天使は、微かに――本当に小さな微笑みを浮かべた。
「また。あなたには会いたい」
 陽の光の下を歩むその後姿は、小さな人間の少女そのものだった。

 それは、天使の長い人生における、小さな物語。



 チリン――



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