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たとえ残りが少なくとも。 その残った命を飾る事くらいはできる。 悲しみにも、喜びにも。導いたままに。 ごく普通の商店街。最近はこういったものが日本で減っている、と聞く通り、ここもあまり流行っているとは言えないような場所だった。 けれども、そんな場所でも人はいる。そして、ひとりでも人がいれば、私の容姿は人目を引いた。 色素を持たない白髪。血のような深紅の瞳。 それは、私が普通ではない何よりの証。普通の人間が持つものを持っていない人間だけの特徴。アルビノの特徴だった。 昔は忌み嫌った事もある外見だけれど、今は気に入っている。こうして人目に晒しながら歩くのも、なかなか悪くない気分だった。 純白のマリア・キティ・ウェーバー。それが、私の名前であり、私自身。 そうして胸を張りながら歩いていると、 「あー! マリア!」 私は自分の名を呼ぶ聞き慣れない声に戸惑いを覚えた。 私の少し前にいるのは、見知らぬ少女。私の外見年齢よりもさらに幼い。そんな年頃の知り合いは、私にはいなかった。 「こら、やめなさい!」 と、そんな小さな女の子を、後ろから小走りにやって来た女性が抱き止めた。 「ごめんなさ、い……」 母親だろうか。謝罪する女性も、どこか私を見て驚いたような顔をしている。 「いいえ。それよりも、どうして私の名前を?」 「ああ、この子の好きなアニメにね、あなたにそっくりなキャラクターが出ているの。その子がマリアって名前なのよ」 なるほど、そういう事ね。偶然というのは時に面白い事象を引き起こしてくれる。 「それじゃあね。ほら、行くわよ」 幼い子供の手を引いて行く母親。その娘は、いまだに私に敵意のこもった瞳を向けている。 その目を見ていて、ふと気がつく。 「――あの子、もう長くないわね」 人の寿命は生の総量で決まる。生の塊のような存在である死導者は、その残量を感じ取る事ができる。私はアンジェラほど正確には残りの寿命を割り出す事なんてできないけれど、あれほどまでに少ないなら、そう長くはないだろうと予想するくらいはできる。 「……」 ちょっと、気になるわね。 思ったのなら、即行動。 私は物陰に隠れて姿を霊体化させると、そのまま母娘の後を追った。 母娘の家は、ごく普通のマンションの一角にあった。 家に帰った後、母親は夕食の支度を始め、娘はリビングでひとり、ぬいぐるみを相手にしている。 「ねーねーヴェンタス、きょう、マリアにあったんだよ!」 ピンク色の逆毛を持つ鳥だ。あれも、彼女が好きだというお話のキャラクターなんだろうか。 もちろん、ぬいぐるみは何も言わない。物言わぬ友人を前に、女の子はとうとうと話し続ける。 「マリア、しょーてんがいでなにしてたんだろ。また、わるいことかな?」 また、とは失礼ね。 「もしかして、アタシのビョーキがなおらないのも、マリアのせいだったりして!」 それは関係がないわ。言っても通じはしないけれど。 「そう、ぜったいにそうだ。だって、きょうもおちゅーしゃしたし……。もういたいの、やだよぉ……」 ぽろぽろと、涙がこぼれる。 この年齢の子供が、何かは知らないけれど、何かしらの病気の治療をしていて辛くないはずもない。それでも母親の前では気丈に振舞っている。一見した姿とは裏腹に、なかなか芯の強い子だと思う。 「ふむ」 こうして見ている限りでは、ごく普通の子供。間もなく死ぬ人間とはとてもじゃないけれど思えない。 けれど、死というのは突然に訪れる事も多い。生が尽きれば、世界の因果律は何があろうとも彼女を殺す。事故か、病気か、稀に殺人なんて事もありうるのかもしれない。 どのような理由にせよ、彼女の終末は近い。 そして、そんな死を迎えようとしている彼女のために私ができる事は、何もない。本当に、何も。 それは現実にして事実。当然の結末。死なない人間など存在しないし、存在してもまずい。それは、消滅のない私だからこそ、実感する。 人の世で、死なない人間は生きられない。 「残念だけれど、ね」 これ以上、眺めていれば辛くなる。 思った私は、黙って部屋を出て行った。 数日が経とうとも、私の中から母娘の存在は消えなかった。 やはり気になった私は、足をあのマンションに向けていた。下から眺めても、別に娘の存在を感知できるわけでもない。それでも、それ以上に足は進まず、けれど、戻る事もできなかった。 中途半端な気持ちのままに見上げ続けていると、マンションの入り口から女性が出てきた。 「あら」 例の母親だった。買い物に行くつもりなのか、手提げ袋を抱えている。 「この間はごめんなさいね」 「いいえ、構わないわ」 周囲を軽く見渡す。娘の姿はどこにもなかった。 「ああ、あの子は今日はお留守番してるの」 「友人は?」 「それがねぇ、あの子、ちょっと病気がちなところがあってね。お友達を作る事ができなかったの」 病気がち、か。元より生の総量が少ないのだから、身体に変調をきたしてもおかしくはない。 「ちゃんとお友達がいればいいんだけど……、おかげでちょっと偏屈なところがあるのよ」 「なら、家で留守番していても面白くないでしょう?」 「そうでもないみたい。ほら、この間も言ってたアニメ、あれのぬいぐるみがお気に入りなの。あれを抱き締めてれば一日中だって大人しくしてるわ」 あの鳥のぬいぐるみの事だろうか。確かに、私が見た時もあのぬいぐるみに話しかけていた。つまりは、あれが友人の代わりという事なのだろう。 あの子の様子を思い浮かべていたら、ひとつ、考えが思いついた。人によってはいい顔をしないかもしれない計画。もちろん、私も全面的に賛成できる計画とも思えない。 それでも。あの子は、喜ぶかもしれない。 そう思った私は、質問を重ねる。 「……最後にひとつ、いいかしら?」 「いくつでもどうぞ」 私の外見年齢にそぐわない口調のせいか、母親はくすっと小さく笑った。構わず、私は問う。 「その、アニメのタイトルは何と言うの?」 「知らないわよ」 私の前に立つ桜色の着物を着た眷族は、困ったように眉を寄せた。 「あたしがアニメなんて知ってるわけないでしょーが」 「けれど、私たちの中で人間に最も近いのは貴女たちなんだもの。聞く相手も貴女たちしかないでしょう?」 アンジェラとケイ、それにエル。 私の娘とその部下たち。死導者の中でも特に人間と積極的に関わる変り種の彼女たちであれば、少しは人間社会の事も知っているだろうと、あの娘が好きというアニメについて聞いてみた。けれど、回答は予期されたもの。 「なら、そういったものに詳しい知り合いはいないかしら?」 「そう言われてもねぇ、メグミは知らないだろうし、裕也もダメだろーし」 ケイは上司たるアンジェラに救いの目を向ける。けれども、アンジェラも首を横に振った。 「私が思いつく限りでそういった日本独自の文化に詳しい人間はいないわ。最も近い存在といえば、田崎小雪あたりかしら?」 「真理の妹分? でも、あの子も小学校の高学年よね。知ってるかな?」 「私たちよりは詳しいでしょうね。さしあたって、真理に聞いてみたらどうかしら」 「真理ね」 田崎真理という女性は私も知っている。死導者にとって特別な存在である遠藤紅葉。その恋人が、田崎真理という女性だった。 「それで、そのアニメについて知ってどうするの? その子が死ぬのは変わんないんでしょ?」 「ええ。おそらくは、変えがたい事実であると思うわ。だから、せめて彼女が生きている間に、希望も知っておいて欲しいの」 「それとあんたがアニメについて知る事に何の関係があるわけ?」 「直接的な関係は皆無ね。ただ、彼女を励ますには、これが最も手っ取り早いんじゃないかと思うだけよ」 彼女が心を開く相手は、私が見た限りでは母親とぬいぐるみしかない。母親から希望を与える事は難しい。となれば、あのぬいぐるみに、真の意味で友人になってもらうのが最も早い。 その気になれば、私に作れない存在などない。けれど、あまりそんな手は使いたくない。 私の言う『創造』とは、本当の意味での創造。何もないところから何かを生み出してしまう力だ。それは、命さえも作り出してしまう。 命を作る事には相応の重みがある。安易に創造し、また消し去るなんて事は、もう二度としたくない。 「彼女のために、命を作るの?」 そんな私の想いを見透かしたのだろうか。アンジェラは、奥深い綺麗な瞳を私に向ける。 「アンジェラ。貴女は、どうすべきだと思う?」 「正解はわからないけれど、私も、貴女が間違っているとは言えないわ」 「――命に価値はある?」 「価値のない命はない。存在はすべからく何かに影響を与える」 「貴女の持論ね」 今は、それが心地いい。私を励ましてくれる。 「それに」 アンジェラは肩に乗ったエルの頭をなでながら、 「奇跡というのは、信じる想いの中で生まれるものでしょう?」 その確信めいた言葉には、逆らいがたい魅力を感じた。 真理に聞いてみたところ、問題はあっさりと解決した。 「あるわよ、そのDVD」 あまりにあっさりとした答えに、質問をしたケイはぽかんと硬直した。 「……聞いといてなんだけど、なんであるわけ?」 「小雪が好きだからよ?」 「だって、そのなんたらいうアニメ、子供向けでしょ? 小雪ちゃんって、もうそういう年齢じゃなくない?」 「対象年齢は子供向けね。幼稚園から低学年向けくらいかな? けど、けっこー奥深いお話だし、私も好きよ」 理由はなんでもいい。私としては、その作品がどういった類のものなのか、見てみたいだけなのだから。 真理はDVDとやらを持ってきてくれた。こんな薄い円盤に映像を記録するというのだから、人間の技術には常に驚かされる。私たちが亀の歩みで進歩する間に、彼らは文字通り光速の進歩をしてきている。 「シリーズに分かれててね、最初のが12話。次のが24話。で、最後のが今もやってる途中で、23話までやってるの。全部を見るとすごく時間がかかるけど……?」 「私たちには昼も夜もないから構わないけれど、貴女にそこまでの迷惑はかけられないわね」 「まあ、この家にはお父さんもお母さんもいるしね。なら、ディスクを貸すわ。DVDならどれでも見られるから」 言って、真理は私に八枚のディスクを手渡した。 問題は、見る場所だ。私は丸一日、続けて見ても肉体的な問題は起きない。けれど、そんな事が可能な家というのは限られる。そもそも、人間の知り合いが私たちには極端に少ないのだから。 「DVDがあるかどうかは知らないけど、ずーっとテレビをつけてても問題なさそうな家なら心当たりがあるわよ」 困惑する私に、ケイの言葉は救世のように聞こえた。 「本当? ケイ」 「うん。たぶんDVDもあるでしょ。なきゃ買わせたればいいのよ」 「……どんな相手?」 「ん、退魔師」 さらりと、ケイは私たちの敵の名前を口にした。 私の前に立つ男は不機嫌そうに見えた。 「それで私のところに来たというのか」 「そゆ事」 事情の説明をしたケイは、どこか得意げにさえ見える。それが彼の不機嫌さを増加させているように思えてならない。 「君はここをどこだと思っているんだ? 映画館なら電車に乗って行け」 「いいじゃない、別に。あんたの家は部屋だきゃいっぱいあるんだから」 私は顔を上げた。 西洋風のエントランスから見渡す限り、また、入る前に眺めた外観から察するに、この屋敷には相当の広さがある。これだけの家に兄弟ふたりだけで住んでいるというのだから、確かに部屋ならばいくらでも余っているだろう。 視線を戻す。黒っぽい服装に身を包んだ退魔師――火野陽平に、アンジェラは問いかける。 「陽平。力を貸してくれないかしら?」 「……アンジェラ。君も少しは部下の蛮行を止めるべきだと思うがね」 はあ、とため息をつき、陽平は首を振った。 「君たちはまったく理解していないようだが、ここも一応は名門と呼ばれる退魔の家系が住まう家なんだ。それをきちんと把握した上で行動して欲しいね」 「いいの? ダメなの? どっちよ」 陽平はじろりとケイをにらむ。もちろんケイにそんなものは通じない。第一、眼力の迫力だけならばサタンの方がずっと強い。 「今回は特別に許可してやる。感謝しておけ」 「ゴーマンな言い方ね。この間、助けてもらったのは誰よ」 「君に助けられた覚えはない。というか、私は誰にも助けられていない。私がルシフェルを助けたんだ」 反論しつつ、陽平は私たちを屋内に案内した。 陽平が私たちを連れて行ったのは、客間のひとつ。テレビにベッド、目的のDVDとやらもある。 「この部屋は普段は使わない。好きに使ってくれ。DVDやテレビの使い方はわかるのか?」 「ビデオみたいなもんでしょ? あたしがわかるわよ。えーっと、ここを押せばいいんでしょ?」 リモコンを手に取り、ボタンを押すケイ。と、DVDが動き、いきなり画面にどこかの景色が映し出された。 「あ、あれ?」 「……使い方がわからないなら素直にそう言ったらどうだ」 「う、うっさいわね!」 ため息をつきながら、陽平は私たちに丁寧に説明をしてくれた。 私もアンジェラも機械は苦手だけれど、懸命に覚える。そうして、なんとか動かす事には成功した。 それから、ひたすらにアニメを眺める。 物語の主人公。その敵役。それらは、まるで私たち死導者を模したのではないかと思えるほどに似ていた。あるいは、以前にアンジェラと出会った人間がこの物語を作ったのかもしれない。 夜が更け、朝となり、再び夜を迎える頃、私は全ての物語を見終える事ができた。 「ん〜、やっぱ死導者でも疲れる時は疲れるわねー」 ぐっと背筋を伸ばすケイを横目に眺めながら、私はディスクをケースに収める。 「参考になったかしら?」 アンジェラの問いに、私は頷いて答えた。 「ええ、とっても」 悲しみを導く者、ヴェンタス。 貴方に、喜びは導けるかしら? 夜中と呼ぶべき時刻。私は、マンションの一角にある例の家に忍び込んだ。 必要な準備を終えたところで、娘の部屋に入る。 娘はベッドの上で静かに眠っていた。母親は父と共に隣室で眠っている。そのふたりには気取られないように音を遮断しておいて、簡単な術式で娘を起こす。 「んー……」 娘は寝ぼけまなこをこすりながら体を起こした。そして、侵入者である私の存在に気づく。 「ひっ!? マ、マリア!」 「あら、ご挨拶ね。貴女にこの私がわざわざ会いに来てあげたというのに?」 あえて、恐ろしげな空気を作り出す。私の持つ気配に怖気づいたのか、娘は枕を抱きかかえながら後ずさりした。 「な、なによ!?」 「ふふふ、それを貴女が知る必要性がどこかにあったかしら?」 じりじりと歩み寄る。壁に背中をくっつけた娘に逃げ場はない。 そっと手を挙げる。と、そんな私と娘の間に、小さな影が割って入った。 「あら。生意気に白馬の騎士を連れているのね」 「――え?」 ピンク色の逆毛を持つ、鳥のような姿をしたぬいぐるみ。いや、元ぬいぐるみ、か。 「ヴェ、ンタス?」 「うむ。大丈夫か?」 羽を広げ、彼女を守るように立つヴェンタス。その姿は、小さな瞳に、どう映っているのか。 「ヴェンタスっ!」 「ぬおっ!?」 飛びかかり、抱きしめる。ヴェンタスは苦しげに暴れまわるけれど、少女は意に介さない。 「ヴェンタス、ヴェンタスだー!」 「く、苦しいぞ!? 放してくれ!」 「だーめ!」 「なんでだ!? ぐおおおぉぉぉ……」 苦しげに悲鳴をあげるヴェンタス。そんなふたりを前に、自然と苦笑が浮かぶ。 「あらあら。これは随分と頼りない騎士様ね?」 「そんなことないもん! ヴェンタスがあんたなんかやっつけちゃうんだから!」 「それは怖いわね。まあ、貴女にこだわる必要もないわけだし……、私は退散するわ」 とん、と体を浮かべ。姿を霊体化させる。少女の目には、私が消えたように映っただろう。 「いなく、なった?」 「逃げたようだな」 「んー、ありがとう! ヴェンタスのおかげよ!」 「だから、それは、苦しいとっ!?」 しばらく抱き続けられていたヴェンタスは、ようやく放してもらうと、床の上に降り立った。 「真奈美。実は、話があるんだが」 「ん? なーに?」 少女の目に疑いの色はない。あるいは、疑問などというものも知らずにいるのかもしれない。 「私は、そろそろ行かねばならんのだ」 「……どうして?」 一瞬にして、先ほどまであんなに嬉しそうだった少女の表情が、悲しみに満ちる。それでも、ヴェンタスは続ける。 「私は魔法少女のパートナーとしての使命を果たさなければならない。マリアが動き出した以上、どこかで苦しむ人も必ず出てくる。それを、私は防がねばならないのだ」 こうするしか、方法はなかった。 人形を動かす創魂の術式。行うのは私であればさほど難しくはない。けれど、意志を持ったぬいぐるみであるヴェンタスは、もうここにいるわけにはいかない。人間の日常の中にありえない存在である彼は、少女の日常にもいるわけにはいかない。 もちろん、これはどちらも私の勝手。少女の事を想ってとはいえ、それが必ずしも少女のためになるというわけでもない。だから、これは私の独善だ。 それでも、私はこれが最善と信じる。信じた先に、奇跡がある。 少女はしばらく悩んだように座りながら、やがて、満面の笑みを浮かべる。 「うん、わかった! ヴェンタスがそういうんだから、ひつよーなんだよねっ!」 「すまない」 「どーしてあやまるの? ヴェンタスはみんなのためにがんばるんだもん! アタシも、うれしいよ!」 無理をしているのは見え見えだ。なにせ、眼の端に涙が浮かんでいる。 それでも、娘は気丈に振る舞う。本当に、強い子だ。 「だから、ヴェンタス、がんばってね? それと、いつか、マリアをたおしたら、アタシにあいにきてね?」 「……ああ。約束だ!」 言って、一羽の鳥は翼を差し出す。少女は小さな手でそれを握る。 小さな奇跡の中。彼女は、希望を知れたかしら? その答えは、少女の顔に満ち溢れていた。 チリン―― 「んで、これ、どうするの」 「これとは何だ」 桜色の少女の物言いに、桃色の鳥は不満そうに返す。 純白の少女は夜空を踏みしめ、 「彼はすでにひとつの存在よ。彼の道は彼が決めるべきだわ」 「だってさ。で、あんたはどーすんの? えーと、ベンタスだっけ?」 「ヴェンタス、だ。どうするか、か」 鳥は頭を揺らし、 「しかしな、私はこの世界について何も知らん。道を決めようにも、どんな道があるのかさえわからんぞ」 「それなら、マリアとしばらく行動を共にしたらどうかしら」 提案した夜空色の少女は、それが一番とばかりに頷く。 「世界を自分の目で見つめて、答えを出せばいい。可能性は無限とまでは言わないけれど、探してみればいくつも見つけられるはずよ」 それは、自ら新たな可能性を引き出した少女の言葉。 その重みを知って知らずか、桃色の鳥は妙に人間染みた動作で頷く。 「なるほどな、それは悪くない考えだ。それでいいか、マリア?」 「私は構わないわ」 「交渉成立ね」 「きゅ!」 純白の少女は鳥を肩に乗せ、そっと笑む。 「よろしく頼むわよ、ヴェンタス」 「こちらこそだ、マリア」 新たな眷属とでも呼ぶべき存在を得た母に、娘も楽しそうに舞う。 チリン―― 「ひとりじゃない。それを感じられるのは、素晴らしい事だわ」 「それは、アンジェラも、でしょ?」 「きゅー!」 ぴたりと動きを止め、夜空色の少女は艶然と綻んだ口元を見せつける。 「もちろんよ。ケイ、エル」 それは、夜空で起こる、小さな小さな出会い。 新たな世界が、またひとつ、動き出した証。 チリン―― |