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特に日本人ってやつは、元犯罪者を許さない。 一度でも間違えたらそいつは地獄に堕ちるべきって無茶苦茶を言いやがる。 いつ自分がそうなるかなんて、分かりもしないくせに。 うちの喫茶店は、今どき珍しいチェーン店ではない個人経営だ。 普通ならやっていけないくらいに厳しいが、常連や地元の人間に支えられてなんとかやっている。 とはいえ、夜の時間はだいたい暇だ。俺も暇にあかせて店の掃除をしていると、携帯電話が鳴った。 「はい、幅ですが」 『あー、幅さん? 駅前のジークスの店長ですけど』 ジークスといえば、駅の近くにあるバーだ。顔見知りではあるものの、普段連絡を取り合うことはない。 『おたくの従業員さんに、比嘉って人がいますよね?』 「はい、おりますが」 『実はですね、昨晩比嘉さんがうちの店で喧嘩しまして。店も少し壊されちゃったんですよねぇ。警察呼ぼうかとも思ったんですけど、まあおたくの従業員ならそういうのも味が悪いですから』 「そういうことですか。じゃあ迎えに行きます」 俺は上着を手に取り、店のドアに準備中の札をかけると、鍵を閉めて車に乗った。 駅までは車で10分ほど。ジークスの隣にあるコインパーキングに車を停めると、店の中に入る。 店内では壊れた机の前で、比嘉がもさもさした金髪を揺らしながら不貞腐れていた。 「比嘉。またやりやがったな」 「店長。すんません」 「まったく。あ、ジークスの店長さん」 ジークスの店長は禿頭の大男で、昔はアメフトの選手だったと聞いている。比嘉を力ずくで押さえてくれたのも、たぶんこの人だろう。 「すみません、ジークスさん。うちのバカが面倒かけまして」 「いえいえ。ハーバーさんの考えもわかんないわけじゃないですからね。とはいえ、従業員はもう少し考えた方がいいと思いますけど」 「まあ、今日のところはこれで」 俺は封筒に入った現金を渡す。ジークスの店長は中身を確認し、 「まあ、そういうことなら」 本当に、警察には連絡はしていないようだ。 俺は比嘉と一緒に店を出ると、車に乗り込む。 「すんません、店長。本当に迷惑ばっかかけちまって……」 「で、今日は何したんだ」 「あの店で飲んでたら、他の客が碇の悪口を言ってやがって、そんでつい……」 「我慢を覚えな、お前も」 碇もまた、比嘉と同じうちの店の従業員だ。 こいつも碇も、喧嘩っ早いし頭も悪い。そもそも我慢するって根性もない。 だからこいつらは、やっちゃいけないことをした。そのせいで今はどこにも行くあてがない。俺がこいつらを見捨てれば、こいつらは路頭に迷ったあげく、新しい犯罪に走ることだろう。 だから俺は、こいつらを見捨てることができない。 店の片付けも終え、俺は二階に上がった。一階が店なら、二階は俺の自宅だ。 ベランダに出ると、タバコに火をつける。ふう、と紫煙を吐き出すと、月明かりの下で煙が揺らめいた。 「バカだよな、俺」 チリンーー 「どういう事?」 女の子の声に、どきりと俺は飛び跳ねた。いつの間にか、ベランダに黒いワンピース姿の女の子が立っていた。 「な、な、何!? お前どっから出てきた!?」 「通りすがりよ。それより、何を考えていたの?」 女の子は全てを見透かすような赤い瞳で俺を見つめる。その瞳を見ていると、なんだか不思議な気分になってくる。 「何って、たいしたことじゃねえよ。うちの店員についてだ」 「比嘉さんと碇さんだったかしら。二人とも、もともと暴力団に所属していたようね」 「……なんだお前。あいつらの知り合いか」 「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」 くすくすと笑う。 不思議な女の子だった。けど、イヤな感じはしなかった。 「なぜ暴力団員だった彼らを従業員として雇っているの?」 「そりゃ、あいつらがそれしかできねえからさ」 「それしかできない?」 俺は頷く。 「お嬢ちゃんに分かるか知らねえけど、暴力団ってやつは、一度でも所属しちまうと社会に戻れなくなるんだ。銀行口座も作れなくなるし、そうなると普通の会社はどこも雇っちゃくれねえ。もちろん起業なんて出来るはずもねえ。仕事がなきゃ金もねえし、金がなきゃ生きていけねえ。結果的にまた犯罪に走っちまう」 「あなたがそれを食い止めている、と」 「まあな」 「でも、そこまでする必要はあるのかしら? 暴力団に所属したという事は、彼らは大なり小なり犯罪に協力して生きていたという事よ。そんな彼らを救わなければいけない理由は何かあるの?」 「過去に罪を犯していたって、今は生きてんだ。そりゃ、一度も犯罪行為をしてないヤツの方が良いに決まってるさ。でも、それとこれとは話が違う。悪いヤツだから苦労するのは当然にしたって、生きていけなくするのは意味が全然違うだろ?」 「そうかしら? 選ばなければもっと生きていく手段はあるのかもしれない。彼らはただ甘えているだけなのかも」 「……そうかもな。でもよ、甘えちゃいけねえなんてのは無茶な理論だぜ。人間、いつ誰が犯罪者になるか分かりゃしねえんだ。なのに一度でも犯罪者になったら死ねってのか? そんなもん、気に入らないヤツを重殺してる国と何が違うってんだ」 「誰が犯罪者になるか分からない?」 「そりゃそうさ。その気がなくたって人を殺しちまうヤツもいるし、騙されて暴力団に荷担するヤツだっている。人間、思った以上に裏の世界は近いんだ。そういう事を言ってる連中ってのは、モノを知らねえのさ」 「ふうん。貴方の考え方はよく分かったわ」 女の子はこくんと頷き、ぴょん、とベランダの柵に飛び乗った。 「ありがとう、良い話を聞かせて貰ったわ」 チリンーー 小さな鈴の音色が聞こえたかと思うと、いつの間にか女の子の姿はなかった。 「……夢でも見てたんか?」 自分の頬をつねってみる。 痛みはそのままだった。 「ま、いっか」 そろそろ寝て、明日に備えよう。明日の出勤は碇と比嘉の二人だったはず。あいつら、二人ともアホのくせに、顔を合わせると喧嘩しかねないからな。俺が見張っていないと。 そうやって、あいつらが少しずつでも地域と繋がりを持てれば、少しは違う世界を見せてやれるかもしれない。 そんな事を夢見ながら、俺はタバコの火を消した。 チリンーー 小さな鈴の音色を響かせながら、少女が夜闇を歩いている。 すると、隣に桜色の少女が立った。 「あ、アンジェラこんなとこに居た」 「あら、ケイ」 「うん? どうしたの、アンジェラ。何かご機嫌ね」 「そうね。良い人間を見たから」 「良い人間?」 夜空色の少女はくすりと笑い、 「ねえ、ケイ。私も貴女も、命を奪った事はあるわね」 「……まあ、そうだけど。どうしたのよアンジェラ、そんな事を言うなんて」 「この国に住んでいる人々は、おおむね私たちのような存在を許さないわ。人の社会に生きていたとすれば、犯罪者として永遠に糾弾され続ける事でしょう」 「まあ、そうでしょうね。どれだけ隠したってどっかで情報は明るみになるでしょうし、そうなったら許されるって事はないと思うけど」 「でもね、全員がそうではないの。そうではないのよ」 そう言って、くすくすと笑う。 桜色の少女は首を傾げ、 「それはそうでしょう。実際、アンジェラだって違うんだから」 「私は人間ではないわ」 「同じよ。世の中いろんな人間がいる、その中には、あたしみたいに仲間外れになる人間もいる。それだけの事なのよね、たぶん」 「そう。けれど人間は群れを成して生きる存在。ゆえにこそ、群れから外れた者をどう扱うのか……。彼らはまだ考えてすらいない。それを始めれば、きっと私たちの出番も減るのでしょうね」 「ふうん。ま、そうかもね。そうなるといいね」 「ええ、本当に」 チリンーー |