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等しい者が誰もいない、その恐怖。 自分を誰もが理解できない、その悲しみ。 それを拭えるものは、ただひとつだけしかない。 誰もいない、廃ビルの屋上。私の気に入りであるこの場所ですら、気持ちが落ち着かない。 たった一言。それだけで、こんなにも心が動くなんて、思っていなかった。もうこんな気持ちは忘れてしまったと、ずっと思っていた。 『マリア・K・ウェーバー』 あの子がどこでその名前を知ったのか、私にはわからないけれど。 でも、あの子は知ってしまった。 冷静に考えれば、そんな事は何も関係ない。私の目標にも、そのための道のりにも、何の影響もないはずなのに。 それがどうして、こんなにも恐怖しているの? 私は、何に恐怖しているの? 「いけない、想いに捕らわれている」 頭を振り、私はワインを口にした。けれど、人の身ですらないこの身体では、酔う事さえできない。 「もう、何なのよ……」 私の中に芽生えた、この迷いは何? マリアという名前が生み出したこの迷いは、何なのよ? 目を細めて、月を見る。そして、ふと思い出した。 「――あれは、いつだったかしら」 人の身を超越して数日。私は、何も変わっていなかった。 今までと同じように生活し、今までと同じであるように振舞った。 あの頃は、まだ『神の領域』という発想はなくて、私もただの『能力が高い少女』でしかなかった。 狂いだしたのは、私から。 徐々に、自分が普通ではない事に気付いていく。肉体から魂だけを抜き出せる。その状態でも苦しくない。 そして。そんな能力を持っているのは、私だけ。 どれほど高い能力者と呼ばれる人も、私には遠く届かない。私と同じ悩みを持つ人間は、誰ひとりとしていない。 その事実に、私は恐怖した。 誰も私をわかってくれない。理解する事ができない。私と同じ存在は、この世界にはひとりとしていない。私と同列の存在は、どこにもいない。その、恐怖。 私は、孤独だった。 誰よりも、孤独だった。 孤独が怖くて、教会を抜け出した。世界を文字通り飛び回り、私と同じ存在を探して回った。 けれど。誰も、いなかった。 私と同じように、死ぬ事なく魂だけの存在となった人は、誰ひとりとしていなかった。いるはずもない。私と同じほどの力を持つ者なんて、いなかったのだから。 どこにも、誰もいないと知った時。私は、より強く『私と同列の存在』を求めるようになった。 もう、化物でも悪魔でもなんでもいい。とにかく、私と同じ存在がいなければ、怖くて仕方なかった。けれど、私より下の力しか持たない存在に私と同列になる事を望んでも、待つ以外の選択肢はない。 だから、私は自ら動き出した。私がより強くなる事で、私よりも格上の存在と同列になろうとした。すなわち、 ――私は、神になる。 そのために生きてきた。この世界を作った存在と同格になる事。それが私の目標となった。 そのために、ひとつだけ問題があった。私の能力は、魂も肉体も作る事ができる。すでに、神にも等しい力。けれど、ただひとつだけ、できない事がある。それは、私が指示していない事柄を、私が作った存在にさせる事。 私の作った存在は、それこそ人形に過ぎない。泣くのも、笑うのも、生きるのも、死ぬのも、全て私がそう作ったから。けれど、人間は違う。その最たる者が、私たち、悪魔祓い。 悪魔祓いは人から進化した、人ではない存在。生を操り、魔を滅する力を持っている。私が作った人間は、最初から力を与えない限り、決して悪魔祓いの能力を発現しない。 だから。私は、死導者を作り出した。 死導者は実験体。何度も同じ事を繰り返させ、仮にその中で私が指示していない何かをすれば、そしてそこにルールを見出せば、私は神と同列になれるのだから。 何度も何度も繰り返した。頑張った。そして、もう何度目かわからない今になってようやく、ルールから外れた死導者が生まれた。 「なのに、どうしてもわからない。どうして私から外れるの? どうして、私が、私だけが!」 イライラした気分そのままに、ワイングラスを放り投げた。 放物線を描いたグラスは、そのままコンクリートの床板に叩きつけられ、粉々に砕け散った。 「……もう、なんなのよ」 どうして、私ばかりが、こんな目に遭わなければいけないのよ? 死喰いにすら、親しげな相手がいるというのに。それを作り出した、より上の存在である私には、誰も隣にいないなんて。誰も理解してくれないなんて。 そんなの、ひどすぎる。 「あれ?」 人の声に顔を上げると、学生服姿の少年が目に入った。 「誰、貴方」 「え? ええと、まあ、うん……」 「はっきりしない物言いね。では、何をするために来たのかしら? ここには、何もないわよ。人によって作られ、人から見捨てられた、忘れられた場所」 ちょうど、私のように。 少年はきょろきょろと安定しない足取りで、それでも私に近寄ってきた。 「えと、その――」 何かしら。こんなところで何ができるわけでもないでしょうに。まさか、月見というわけでもないと思うけれど。それとも、他に何か? 「……ああ」 そう。そういえば、そんな可能性もあったわね。 「貴方、死ぬために来たのかしら?」 少年は、わかりやすくビクリと肩を震わせた。図星という事かしらね。 「止めた方がいいわよ。自殺しても、しばらくはこの世界にいなければならない。孤独は増し、悲しみは増えるだけ」 少年は震えたまま、何も言わない。私も特に言いたい事があるわけでもなし、しばらく黙って眺めていた。 ようやく口を開いたのは、たっぷりと三分は過ぎた後。 「――な、」 「な?」 「何なんだよ一体ッ! どうしてそんな事がわかるんだ、どうしてそんな事が言えるんだ! 君みたいな子供に僕の何がわかるって言うんだ!?」 ようやく口を開いたと思ったら、私を子供扱いなんて。馬鹿にするにも、程がある。 けれど、何故だが怒る気は起きない。何をする気も、起きない。 だからせめて、言葉を紡ぐ。それくらいしか、する気が起きないから。 「私は子供ではないわ。私は死を導く者。零番目の死導者にして聖なる母。私にわからない事など、そうそうないわ」 「し、しどーしゃ!?」 「落ち着きなさいって言っているのがわからないのかしら。いい? この際、私が何者であるかは関係がないの。貴方が何をすべきか。何をすべきではないか。それだけが大事なの。わかるかしら?」 少年は小さく頷いた。私も頷き返し、続ける。 「死ぬという選択肢もあるけれど、止めたほうがいいわ。私はその道を選び、後悔した人をいくらでも知っている。本当に死んでよかったと思う人は、僅かでしかない」 「……でも、僕なんかが生きていても、仕方ないんだよ」 「何故?」 少年は、ぽつぽつと語りだした。 いわく、とてもありふれたもの。優秀な兄と比べられ、両親には責められ、友人はおらず、級友には虐げられる。 どこにでもあって、誰でも持っていそうな悩み。悩みは個々人によって違う重さを持つと言っても、私には死に値するほどの重みには思えない。 「能力はない。性格も弱く、己に自信がない。と、いったところかしら?」 少年は答えない。けれど、否定もしない。だから私も、無視して話を続けた。 「力は与えられる時を待つものではないわ。己の手で勝ち取るものよ。力があれば、親だろうと級友だろうと貴方を卑下できない。だからこそ、強くなるのよ」 「僕には、そんな才能はないよ」 「所詮は人の身である以上、差異に限度があるわ。努力をしても超えられない相手など、世界にはそうそういない」 昔の私なら、考えられない言葉ね。私は、努力をしたところで超えられない壁があると、知っているのに。それが、無駄じゃないから努力しろ、ですって? はッ、笑い話にもならない。 ならないのに、こうして言葉が口をつくのは、どうして? 「世界は仮想ではないわ。きちんと決められたルールがあり、真の天才なんてほとんどいない。誰も彼もが普通。それが、貴方のいる世界よ」 私のいる世界とは、違って。 少年の目には、まだ迷いの色があった。けれど、死のうとする、その意志だけは途絶えていた。心の声など聞かなくても、十分にわかる。 「――僕に、できるかな?」 「できない者などそうそういない。やるか、それともやらないか。その違いだけよ」 私とて、努力なくして『神の領域』には辿り着かなかった。 他の誰よりも才能に恵まれた、私ですら。 それが、この子供は、まだ努力さえしていない。才能の有無なんて興味もないけれど、努力もせずに何かを得ようなんて、本当に甘すぎる。 少年の目に、生気が宿った。 少年はじっと私を見つめた。正面から、そらす事なく。 「あり、がとう。少しだけ勇気が湧いた気がする。どうしてだろうね、こんな子供に教えられるなんて」 「だから、子供ではないと言っているでしょう?」 物覚えが悪いわね。あるいは、本当に才能なんて皆無かもしれないわ。 少年は私に背中を向けた。 「うん、本当にありがとう。もう少しだけ頑張ってみる。兄さんを超えて、みんなを見返してみたい」 「そう。それはよかったわね。なら、これは餞別よ」 私の能力は創造。あらゆるものを作り出す力。 私は軽く手を振り、指輪を作り出した。それを、軽く少年に向かって放る。 「うわっと!?」 少年はどこか危なっかしい手つきで、その指輪を受け取った。 「肉体的に危険を感じたらはめなさい。学ぼうとする者には、敵が多いものよ」 少年はきらきらと光る指輪を見つめ、一度だけ深々と頭を下げた。 そして。それ以上は振り返る事さえせず、廃ビルから立ち去った。 消えた姿をいつまでも見つめ、私はふと呟く。 「何を、しているのかしら?」 この私が、人を導くなんて? 神にすら肩を並べようとしている、この私が? これじゃあまるで、死喰いのようじゃないの。この私が人助けなんて、似合わないにも程があるというのに。 チリン―― ……ッ! 「こんばんは、マリア」 その声は、私の背筋を凍らせた。 緩慢な動きで、私は振り向く。そして、夜空を歩む少女の姿を認めた。 黒く、癖のない長髪。吸い込まれそうなほどに深い、夜空色のワンピース。全てを見透かすような、深紅の瞳。頭上には実験生物として生まれ、何故かまだ生きる、黒いオコジョ。そして、力の全てを集約させた、金色の鈴を持つ腕輪。 私を模して作り出した、私の子供。八番目にして最後の死導者。称号は死喰い、名前は――。 「その名前で呼ばないでくれるかしら、アンジェラ?」 私が名を呼ぶと、アンジェラは目を見開いた。 「うっわー! あんたがアンジェラを名前で呼ぶのって初めてじゃない!?」 けたたましい声が降り注ぐ。見上げれば、アンジェラの眷属・ケイが立っていた。 ケイはふわりとアンジェラの隣に立ち、私を見つめた。 「どしたのよ、あんた。さっきから、らしくないわよ?」 「大きな、お世話よ」 らしくないなんて、自分でわかっているんだから。 こんな気持ちは、本当に久しぶりに感じている。これは、そう。私がまだ、人と交わろうとしていた、大昔の出来事。 まだ私の中にこんな心が残っていたなんて、ね。 「それで、何の用事かしら? 私は今、貴女たちに会いたくない気分なのだけれど?」 「少し、話をすべきと思ったから」 アンジェラにならい、私も立ち上がった。 こうして面と向かい合うと、本当に似ている。私が私に似せて作り出したのだから、当たり前なのだけれど。 「マリア。貴女は、孤独ではないわ」 「何を、言っているのかしら」 私の言葉は聞こえなかったかのように、アンジェラは言葉を続ける。 「貴女が思うほど、貴女は孤独ではない。貴女には、私たちがいる」 「貴女たちがいるから、何だと言うつもり? 貴女は所詮、私に作られた操り人形。私が手を握れと命じたから手を握れるし、私が戦えと命じたから戦うだけ。貴女に己の意志などない。そんなもの、私は欲していない」 そんなものは、ただの玩具と同じ。決められた通りに従うのであれば、それはどれほど複雑な動きであろうと、作られたものに過ぎない。そんなものでは、私と対等にはなれない。なりえない。 「私と同格の力を持っていない貴女たちがいたから、それで何だと言うの? 私の孤独を解消できるのは、世界で唯一。この世界を作り出し、この世界のルールを決め、この世界を支配する者。すなわち、創造主だけ――!」 この世界を作った誰か。この世界のルールを決めた誰か。 私が孤独を解消するには、彼と並ぶ以外に道はない。私は、必ず、彼に並ばなければいけない。 そのために、そのためだけに払ってきた犠牲なのだから。 「確かに私は貴女ではないし、貴女は私ではない。けれど」 アンジェラは一度、言葉を切った。そして、私をしっかりと見据え、はっきりと口にする。 「共に在るために、力が必要なのかしら?」 「……は?」 予想外と言えば、あまりに予想外な言葉。私はそんな言葉に対し、まともな反応さえできなかった。 私が反論しない隙に、ケイが続ける。 「そーよそーよ。あたしだってアンジェラにはぜんっぜん敵わないけどさ、こうして一緒にいるもの」 「きゅー! きゅー、きゅきゅい!」 オコジョまでが、アンジェラに賛同するなんてね。 この子たちは、ひとつ。まるで家族のように、暖かい絆がある。それが、目に見える。私が失ったもの、私が欲していたものが、目に見える。 「貴女の悩み、苦しみは、私には共有できない。私は貴女ではないのだから。けれど、歩みを共に、手を取り合う事はできる。貴女は独りではないの。心が、誰かと触れ合う限り」 アンジェラの言葉のひとつひとつが、私の中に染み渡る。 あるいは、私は待ち望んでいたのかもしれない。誰か、私を迎え入れてくれる人。 私を化物と、呼ばない人を。 「孤独を甘んじて受け止め、己の不幸を嘆く貴女は、悲しみに酔っている。目を覚まし、耳をすまして。光はまばゆい。雑音も存在する。けれど、光の中にこそ希望があり、雑音の中には、確かに貴女を想う小さな声があるのだから」 希望の居場所なんて、知っていた。私を呼ぶ声がある事も、最初からわかっていた。 けれど、信じられなかった。私が生み出した存在だからそうしているに過ぎないと。それは、彼女たちの想いではないと。 だから、アンジェラは私を怖れるよう、ルールを組んだのに。 「私の手は決して長くない。そして、この手が届く範囲しか助ける事はできない。でも、この手が届く範囲なら、私は懸命に伸ばす。ただのひとりも見捨てられない、見捨てたくない。だから、こうして戦うのだから」 なのに、この少女はルールさえ超越した。 私が知らない、見つけられない、神様の法則によって。 「……何よ。私より短い時間しか過ごしていないくせに。私より弱いくせに。その貴女が、私に説教? 冗談が過ぎるわ」 本当に、冗談が過ぎる。 私が欲していたものが、目の前にあるなんて。得られないと、誰も追いつかないと信じていたこの場所まで、手を伸ばした者がいるなんて。 そんなの、信じられるはずがないじゃないの。 「マリア」 アンジェラが、手を差し出した。小さな手。私と同じ、小さな小さな手。 ――ここまで、ね。 私は手を伸ばし、アンジェラの手を握り返そうとして、 「私を、誰だと思っているの?」 思い直し、その手を払いのけた。 ケイが飛び出そうとするのを、アンジェラが手で制す。 「貴女はいつまで私に縛られれば気が済むの? いつまで私の手を握っていれば気が済むの? もう飽きたわ。ゲームはこれで終わりよ。死導者たちは任を解する。後は、好きなように逝きなさい。私の知った事ではないわ」 そう。これでいい。私の手は、この子の手を握り返すには、ひどく汚れすぎている。 アンジェラ。貴女は、もう光を見つけたの。だから、私のような闇とは、関わっては駄目。貴女は光の世界で、私は闇の世界で。それが、相反する私たちの関係。 「マリア、足りないわ」 アンジェラは一歩、前に。手を伸ばし、私の手を握り締めた。 「私たちだけが解き放たれても駄目、貴女が呪縛から解放されなければ。貴女はもう、鎖を断ち切る剣を手にしている。そのための力もある。後は、それを振り下ろすだけよ」 この、子は。底抜けに、どこまでも、死喰いだった。 死を喰らう者。生ある者に仇なす死導者を狩り殺す者。死を導く、人の味方。 アンジェラは、ただのひとりも見捨てない。見捨てられるのなら、死導者を殺す必要はない。 私の前に立つ、この黒い少女は、どこまでも穢れのない少女だった。 「へっへー」 私が振り払いもせず、答えもしないと、手が重ねられた。私たちの手より少しだけ大きな、暖かく強い手。 「マリア。あんたもさ、意地とか張るの、止めなよ。もう疲れたでしょ? 無理なんかしなくていいわよ。素直に一緒にいてくれって、そう言えばいいの。わかった?」 これが、人の力。アンジェラが守ろうとした、人の暖かさ。 「きゅッ!」 そこに、さらに小さな手が重ねられる。いえ、これは前足かしら? どちらでもいい。この手には、確固たる意思がある。離さないという、私を独りにしないという、強い意志が。 握っているという、たったそれだけで、想いがこんなにも伝わってくる。熱いほどの、想いの奔流が私を飲み込む。 「マリア。私にも、共に歩むものができたの」 優しい声。信じられないほどに、優しい。 全てが、暖かいなんて。 「ケイも、エルも、紅葉も、陽平も公平も、私を信じてくれる。私と共に歩んでくれる。この、憎しみと悲しみだけが存在していた私の道に、こんなにも暖かな心があるの」 その憎しみを与えたのは、悲しみを与えたのは、この私だというのに。 どうしてこの子は、私の手を握っているの? 「私でもできた。努力をして、道を切り開く事ができると知った。だから、貴女も道を見つけて。貴女は私たちと違って、才能があるのだから」 その理由を、私は知っている。 「アンジェラ――」 私の頬を、何かが伝う。そっと手を当てると、それは涙だった。 何百年ぶりかに流す、本物の涙だった。 私は涙をそっと拭い、握る手を剥がした。 「……これからは、共なる歩みを。マリア・ウェーバー」 微笑を浮かべ、アンジェラは言う。私はその瞳に背中を向けた。 そして、最後の一言。 「――遅れないでくれるかしら、アンジェラ・ウェーバー」 チリン―― 白き少女が姿を消し、夜風が吹き抜ける中。夜空色の少女と桜色の少女は、ただ呆然と立ち尽くしていた。 「終わった、のかな。アンジェラ?」 ぽつりと、桜色の少女は問う。あまりにもあっけない、戦いさえない結末に、実感が沸かないのかもしれない。 だから、夜空色の少女は、しっかりと頷いて答えた。 「私たちの螺旋階段は、ここが終着点。憎悪と悲哀の連鎖は、断ち切られた」 長年、待ち望んでいた答え。 戦い、想い、叫び、そして。ようやく辿り着いたのが、この場所。 「……なんか。実感とかないけどさ、おめでとう、アンジェラ」 「ありがとう。けれど、終わりではないわ」 「え?」 チリン―― 夜空色の少女は舞うように回る。楽しそうに、嬉しそうに。 「私たちの戦いは死導者を狩る事だけではないわ。変魂を倒し、悩める人々に道を示す。それが私たちの新たな役目」 「今までとたいして変わらないじゃないの」 「そうね」 夜空色の少女はくすくすと笑う。楽しそうに、嬉しそうに。 「それは、私の本質が変わっていないから。輪廻は断ち切られた、けれどそれだけ。私は、私。私が今までと変わらぬ以上、世界も変わりようがない。それとも、貴女はそんな世界は嫌いかしら?」 「ううん。そんな事はないよ」 それだけはすぐさま、断定的に否定する。 「アンジェラ。これからも、よろしくね?」 「きゅー!」 桜色の少女と黒い小動物、双方を等分に眺め、夜空色の少女は笑った。 「ええ。これからもまた、共なる道を。志野ケイ、エルミネア」 夜風は、心地よい空気を運んでいた。 チリン―― |