本質は見えないからこそ、捉えがたい。
 何も変わっていないのか。何もかもが変わってしまったのか。
 可能な事、それは、ただ信じる事。


「そこで何をしているのかな」
 いつものように川原で月を眺めながらグラスを傾けていると、呼び声を耳にした。
 取り合わないまま、私は月を眺め続ける。すると、気配は隣まで移った。そこで私は、初めて声の主を見た。
 金に似た茶の髪に、蒼の瞳。姿の特徴は、どこか懐かしい雰囲気を携えている。
「私に何か用かしら」
「少し、聞きたい事がある」
 私を見つめる瞳の奥に、刹那、冷たい色が走った。敵を敵として処理できる、戦う者の色。その目ができる時点で、普通の生活を送っていない事がよくわかる。
「君、名前は」
「名乗る理由がないわ」
「なら、これだけ答えてくれ」
 言葉を切り、男は息を吸い込んだ。
「アンジェラ。この名前に覚えは?」
「――貴方、あの子の知り合いなの?」
 アンジェラ。私の生み出した、魂の狩人。その名前を、こんなところで耳にするなんて思わなかった。
 私の問い返しに、男は小さく笑った。
「やっぱりね。そっくりだ。と、いう事は、君も死導者なのかな?」
「その通りよ」
 死導者の名も存在も知っている。なのに、彼に戦う気配は見当たらない。それが、私には解せない。
 雰囲気からして、この男は退魔の力を持つ者。魔を殺す事こそが役目の彼らが、魔そのものである私に対して何の攻撃もしないなど、考えられない事。
 私が眉をひそめている事は気にせず、男は私の隣に座りこんだ。
「ぼくの名前はアルバート。君の名前は?」
 平然と名を聞くその姿には、特におかしな様子はない。あるいは、名前を聞き出した上で仕掛けるつもりなのか、と思いつつ、私は名乗ってみる事にした。
「……マリア。マリア・キティ・ウェーバー」
 反応は、予想以上だった。
 ぐるりと首を巡らせ、驚愕に目を見開く。その姿に、偽りは感じられなかった。
「マリア、様?」
「様、などとは呼ばないで」
「いえ、あの、まさか?」
 アルバートは膝立ちになり、真剣なまなざしで私を見つめた。
「まさか、『聖母』のマリア・K・ウェーバー!?」
「その通りよ?」
 いぶかしむ私の前で、アルバートは頭をたれた。そして、緊張した声音で言う。
「失礼しました。知らなかったとはいえ、失礼な口を利いてしまいまして」
「頭を上げなさい、アルバート」
 顔を上げたアルバートと私の視線がぶつかり合った。
「貴方、教会の人間ね?」
「元、ですが」
 それで、理解できる。私の名前に反応した事も、私という存在に戦いを申し込まなかった事も。
 この子は、知っている。死導者という存在も、その現在も、何もかもを。
 思った途端、表情がほころぶのが、自分でもわかった。
「ねえ、アルバート。少し話をしても構わないかしら?」
「もちろんです」
 頷くアルバート。彼に聞いてみたい事は、いくらでもある。
「なら、まずは私が離れた後の教会について、知っている事を教えてくれるかしら?」

 日付をまたぐ頃、私とアルバートはホテルの近くを歩いていた。アルバートと話を続けていたら、時間は足りないほどだった。
 私の知っている教会と、今の教会。本質的なところは同じだけれど、表層は大きく異なる。そんな話を聞くだけで、私は飽きなかった。
「遅くなってしまったわね」
「構いませんよ。ぼくも、あなたと話せてとても楽しかった」
 本当に楽しそうな笑みを浮かべたアルバートは、顔を正面に向けた。
 瞬間。表情が、消えた。
 私も同じように前を見た。ホテルの前に、人の姿がある。
 引き締まった顔つきや隙のない身のこなしから、一般人でない事はすぐにわかる。見たところは、まだ若い女性か。
「こんなところで何をしているんだ、三上」
 アルバートの声音は硬かった。程よい緊張を含んだ、戦う者の声だった。
「もちろん、あなたを待っていました。アルバート・ヘンリー・トールキン」
 女性は、抑揚のない声で言ってのけた。
「アルバート。彼女は?」
「三上愛。教会の悪魔祓いです。どうやら、ぼくを始末しに来たようですね」
 なるほど、と思う。真実を知り、組織に反した力ある者。それは、組織にとって邪魔でしかない。
 ……ひとつだけ解せない事はあるけれど。
 愛はアルバートをにらみ、
「アルバート。あなたほどの悪魔祓いが、どうしてそこにいるのです。そこは、あなたがいるべき場所ではありません」
「それは君が決める事じゃないね」
 アルバートはちらと私に視線を送り、口早に呟いた。
「離れていて下さい」
 私は頷き返し、少しアルバートと距離を置いた。
 それを確認し、アルバートは軽く足を開く。
「来い。どうせ、戦うつもりなんだろ?」
「理由を教えて下さい。あなたがそこに立つ、その理由を」
 愛の顔に表情はない。けれど、どこか苦しんでいるように見えた。
「あなたの能力は普通の社会では何の使い道もないものです。あなたが天才でいられるのは、異常な世界だけ。どうしてわざわざ、自分からその世界を捨てるのです?」
 愛の質問に、アルバートは問い返した。
「教会からは教えてもらわなかったのか?」
 愛は眉をひそめ、首を横に振った。
「そうか。なら、ぼくから教える事もないね」
 それは、アルバートなりの配慮に思える。真相を知れば、狙われるのはアルバートだけでは済まなくなる。教会の敵を増やさないための、配慮。
 けれどそれは、必ずしも良い方法でもない。何より、彼女の気持ちは考えていないだろうから。
 思う事はあっても、私は口を出さない。私が関与すべき問題ではないし、私が何かを言えば、それはアルバートの意に反してしまう。
 黙って見守っていると、愛は小刻みに震えだした。寒い、わけではなさそうね。
「アルバート。わたしは、あなたを尊敬していました」
「ぼくなんかを手本にしない方がいいね。ぼくは、特別だから」
 ぐっと握られた拳。そこには、様々な感情が透けて見える。
「……、わかりました。あなたは敵として処理させて頂きます」
「光栄だね」
 一瞬の、静寂。そして、愛の姿が視界から消えた。
 驚く間もなく、アルバートの体が吹き飛ぶ。そのまま道路を何メートルもごろごろと転がった。
「早いわね」
 私が声をかけると、愛は振り向いた。
「敵に教える事など何もありませんが」
「見ていればわかるわ。貴女の全身を包み込む生。それが、貴女に常人ならざる動きを可能としている」
「やはり、見えますか」
 愛の瞳に、鋭さが増した。
「あなたはこの戦いの邪魔をするつもりですか? ならば、容赦はしませんが」
「そのつもりはないわよ」
 今のところは。
 最後の言葉は、口にせず飲み込む。
 愛は私に疑わしげな視線を送りつつも、アルバートに向き直った。
 アルバートは口元をぬぐいながら、ゆっくりと起き上がる。
剣の炎シュトランか。思った以上に厄介な能力だね」
「あなたの大いなる秘法アルス・マグナほどではありません」
「それは、自分の体で試してみたら!?」
 アルバートの周囲に、生が生まれる。圧倒的な量の生が、まるで洪水のように、愛に襲いかかった。
「それはできません」
 また、愛の姿が消える。現われた場所は、アルバートの背後。
「あなたの力はあくまで生を生み出すだけであり――」
 ゴン、とにぶい音が響いた。
「それを操るのは人間である、あなた。つまり」
 吹き飛ぶアルバートに追いすがり、愛の蹴りが叩き込まれる。
「わたしの動きを追う事さえもできないあなたでは、回避も防御も不可能」
 ガードレールに激突し、アルバートは崩れ落ちた。ガードレールは、まるで車がぶつかったかのようにひん曲がっている。並々ならぬ衝撃があったろうけど、生がアルバートを包んでいる以上、ダメージもいくらか軽減されたかもしれない。
「降伏してください、アルバート。わたしは何も、あなたを殺したいわけではありません。単にあなたの能力を奪うように命じられただけ。あなたが抵抗さえしなければ、すぐに終わる問題です」
 アルバートはぴくりとも動かない。気絶したかもしれないわね、と思っていると、声だけが返ってきた。
「……冗談じゃ、ないね」
 愛の眉が跳ね上がった。
「ぼくは、教会の道具じゃない。あんな、連中の、思い通りになんて、なるものか」
「アルバート。あなたは能力を失ったところで、何も困る事はないはずです。こちらの世界にはいられませんが、普通の人間として、十分に生きていけるはずです」
「それが、どうした」
 愛の眉間に、ますます深い溝が刻まれる。それでもアルバートは言葉を続けた。
「ぼくは、『黄金』のアルバートだ。今さら普通の世界に交わろうなどとは考えていない。もちろん、教会の道具として使い捨てられるつもりもない。ぼくは、ぼくを信じて、ぼくだけの道を行く」
「聞き分けのない子供のような事を言わないで下さい。今、あなたがここで降伏しなければ、道も何もありません。ここが終点になってしまうのですよ?」
「だからって諦めると、本気で思っているのか?」
 顔を上げたアルバート。その表情に、愛の動きが止まった。
 その瞳は、私から見ても恐ろしいほどの力があった。絶対に屈せず、敗北を認めず、何度でも起き上がろうとする強い意志が、瞳の中で輝いていた。
 思わず、ため息が出た。どうして私の近くには、こんなにも下手な生き方をする人間ばかりがいるのだろう。
「そこまでになさい」
 一言で、愛とアルバート、ふたりの動きが止まった。
「愛、アルバートは言葉で敗北を認めないわ。けれども、アルバートの能力は愛の能力と相性が悪い。決着をつけるには、愛が覚悟を決めてアルバートを殺すか。あるいは、アルバート、貴方が真実を口にするか。どちらかよ」
 宣言して、私はふたりを見つめた。先に口を開いたのは、愛。
「もしかすると、あなたも真実とやらを知っているのですか?」
「もちろん。教会が貴女たちのような下の者には教えていない真実。狩人の闇。私が知らないとでも思ったかしら?」
 くすりと、笑う。途端、愛の気配に殺気が混じった。
「ひとつ、教えてあげるわ。私は貴女よりも、アルバートよりも強い力を持っている。勇気で埋められる差は、人間同士までよ」
「それは戦って初めてわかる事です」
「貴女はそれほど弱くもない」
 言うまでもなく、彼女は気づいているはず。そもそも、この広い世界において、私を傷つけた者は死喰いの眷属である、あの子くらいなもの。いかに人間の限度を超越した運動能力があっても、私の前には何の有利にもならない。
 愛が歯噛みして沈黙すると、代わりに私が口を開いた。
「アルバート。話してみてはどう?」
「嫌です、ね」
 即答、か。それほどまでに守ろうとするなんて。
 本当に、人間という生き物は馬鹿げている。私もこんな風だった時期があるなんて、我ながらとても考えられない。
「ならば、私が話すわ」
「キティ!」
 名を呼ばなかったのは、こんな時ですら、彼の配慮とわかる。マリアの名前は、教会に属する者の前では簡単に使えない名前だから。
「キティ、いけません。真実を知って、それでも演技ができるほど、彼女は器用じゃない」
「そうかしら? 私は、そうは思わないわ」
 真実。教会に生きる者が死導者となり、教会の敵を生み出したという事実。
 それは、確かに驚愕すべきもの。不条理に怒りと悲しみを覚えるべき事柄。
 そして、それを隠した教会に対して、不信の念を抱く事もまた当然。でも。
「アルバート。考え方を変えてみなさい。仮に教会が真実を公表したところで、誰が利するの?」
 一瞬、アルバートは息を飲んだ。それは、そんな簡単な事さえも考えた事がなかったという表れ。
「過去は変わらない。変えられない。組織の汚点もまた、消える事はない。真実を知る者が増えたところで、混乱が増すだけよ。だからこそ教会は、自分たちだけで懸命に動いたと考えられないかしら? 過去の間違いを正すために」
 少なくても、私が知る頃の教会は、そういう場所だった。
 キリスト教という宗教が生まれたのは偶然なんかではない。誰かを救いたいと、助けたいと。救われたいと、助けてもらいたいと。人々の願いと苦しみが交じり合い、生まれるべくして生まれた。
 教会は、常に人助けを行ってきた。彼らにしかできない事を、彼らだけの方法で続けてきた。
 でなければ。悪魔祓いなどという存在は、必要なかった。
 私は、アルバートを私にぶつけようとした事は、教会なりの苦肉の策だったと思っている。
 神の領域に辿り着いた私を倒すためには、教会にも同じ領域に辿り着いた駒が必要になる。人間と神の差は、万でひとりを囲んでも埋められないほどにあるから。
 そのために、無茶をしてでも、彼に辿り着いて欲しかったのだと思う。人間を超越した、その世界に。
 もちろん、それが正しい証拠など何もない。自分たちの汚点を隠した事も事実。反抗するという彼が選んだ道も、間違いとは言いがたい。損得の話ではなく、単純に、隠し事にはデメリットが大きすぎる。
 それでも、私が信じた、私を守ってくれた、私が守ろうとした教会は、不器用ながらも人々を懸命に守ろうとする場所だった。
「な、なら」
 アルバートの声は震えていた。決して、寒さなどのせいではなく。
「なら、どうして教会はぼくの無力化を命じたんですか。守るための組織なら、どうして!」
「無用に傷つく事を恐れたから、でしょうね。貴方も知っているはずよ。その力の危険性は」
 武器を持った人間は野放しにできない。その武器を使って、誰を傷つけるかわからないから。
 誰かが傷つけられる前に、相性の良い能力者を送り込んできたのは、むしろ自然な流れとさえ思える。再び生まれてしまった自分の汚点を、自らの手で決着するために。
 訪れた沈黙。その中で、愛だけが何もわからないまま、ただ私たちの顔を交互に眺めていた。
「もちろん、これはただの想像。教会が本当に良性なのか、それとも悪性なのか、知る事はできない」
 おそらくは、両方。組織である以上、一枚岩とは思えない。
 それでも、教会には良心の方が強く残っていると、私は信じたい。それは、私の私情かもしれないけれど。
 それでも。
「アルバート。まだ、真実は口にできない?」
 私の静かな問いかけに、アルバートは、小さく答えた。
「――いえ」
 顔を上げ、愛を見つめるアルバート。揺れる瞳の色彩は、そのまま彼の不安定さを示している。
「三上、ぼくの知っている事を話す。信じられないかもしれないが、事実だ。けど、他言はしないでくれ。そして、全てを知った上で、君が判断してくれ。断罪すべきは、ぼくか。それとも、教会か」
 前置きし、アルバートは紡ぎ始めた。
 呆れるほどに長い、私の逝き様を。

 ビジネスホテルの狭い一室に、三人もの人影がある。
 アルバートは椅子に座り、私はベッドに腰かけ、愛は窓際に寄りかかっていた。
「これで、ぼくの話は終わりだ。満足したかい?」
 問いに、愛はすぐには答えなかった。アルバートをじっと見つめ、聞く。
「あなたは本当に、教会にそう言われたのですか?」
「ああ。確かにアークビショップは言った。『その件は他言はしてはならない。そして、今まで通り死導者を倒せ』とね」
 疑心暗鬼に陥っていたアルバートは、だから教会に離反した。死導者と戦う理由を持たず、勝ち目もないと理解しているからこそ。
 愛は、深く長い息を吐いた。そして、言った。
「わかりました。では、わたしも戦う理由はありませんね」
「どうして?」
 アルバートの、当然と言えば当然の疑問に、愛は小さく笑みを浮かべて答えた。
「わたしが命じられたのは、教会の敵を殺す事です。あなたは教会の敵ではない。なら、倒す理由は欠片も存在しません」
「こじつけの論理だ」
「……そうですね、認めましょう。この判断には、わたしの私情も含まれていると。しかし、それがわたしなりに考えた、最良の結論です」
 最高ではなく、最良。
 全てを望むのではなく、自分に可能な限りの答え。
 なればこそ。否定する理由は、見当たらない。
「でも、教会にはどう報告するつもりだい?」
「『アルバートの能力は使えない状態にした』と報告します。実際、嘘ではありません。あなたは教会の敵として能力を使う事はできない状態ですから」
「それも、めちゃくちゃな論理だ」
 苦笑を浮かべ、でも、と続けた。
「そういうの、嫌いじゃない」
 言葉に、愛は私が知る限りで初めての笑みを浮かべた。
 ――これで良いのでしょう? 死喰い。
 生きる者を導く。戦うよりも、ずっと難しい事。殺すよりも、ずっと難しい事。
 これだけの事を続けていた貴女。今さらながらに、心が震える。
 私も、まだまだね。


 チリン――
 朝日の中、純白の少女は言う。
「そう、貴女たちも彼女と会っていたのね」
 朝日の中、夜空の少女は言う。
「ええ。けれど、私たちだけでは、彼女を導く事はできなかった」
 朝日の中、桜色の少女は言う。
「ま、結果オーライってとこだけど。諦めたんでしょ? あの子」
 死の先を逝く三者は、足元を眺めた。そこには、別々の道を行こうとしている、少年たちの姿がある。
「信じただけの甲斐はあったようね」
「うん。殺し合いになんてならなくて、よかったわよ。あたし、どっちの霊体にも会いたくないし」
 ふと、桜色の眷属は顔を上げた。
「マリア。アルバートとか愛とか、もう話はしなくていいの?」
「何も。十分に話は聞けたし、彼らには自分だけの道がある。死導者は、その道に必要がない」
「へえ? アンジェラみたいな台詞ね」
 言葉に、純白の少女は目を細めた。
「私は、まだ貴女たちほどの力を持っていないわよ? 誰よりも強く、何をも従え、けれど私は、大切な事をずっと忘れていた。取り戻すには、もう少し時間がかかるわ」
「もう十分だと思うけどね、あたしは」
 少女は、小さく首を振る。
「貴女なら、アルバートが傷つく前に決着させた。そうでしょう? アンジェラ」
「どうかしら。その場にいなかった私では、どうとも判断しがたいわ」
「……そうね。仮定の話に意味はないわ。決して訪れる事のない未来。それは、夢や幻と何も変わらない。あるいは、それ以上に儚い」
 ふと、白い少女は首を傾げた。
「貴女たちは、教会が良性だと思う? それとも、悪性だと思う?」
 すぐさま、桜色の眷属が答えた。
「あたしは教会っての、よく知らないけど。あたしの知る退魔師は、性根から腐ったような奴はいなかったわよ」
 続けて、夜空色の死導者は答える。
「愛を送り込んだ人物は、良性ではないかしら。確実性を狙うなら、何も愛だけに任せる必要はないもの」
 そして何故か、漆黒の獣も答える。
「きゅ! きゅきゅきゅ」
 それぞれの答えを胸に、白い死導者は頷いた。
「やはり私は、教会を信じるわ。信じられる」
 そして、白い少女は歩き出す。すっと、音もなく。
「私は、行くわ」
 夜空色の少女は、そっと告げた。
「貴女の道に幸運があらん事を」
「またね、マリア」
「きゅ」
 それぞれの言葉を背に、少女は微笑む。
 チリン――
『そうね。貴女たちにも、無双の幸運を』
 姿を消した少女の居場所を、死導者たちは眺めていた。
 チリン――



戻る