信じられんより、信じられる方がええ。
 頼られないより、頼られる方がええ。
 そのために努力すんのは、当たり前や。


「卒業、してもうたんやなぁ」
 校庭から校舎を眺めていると、そないな感想がもれる。なんだかんだで、この三年は今までの人生でも最高に楽しかった。それが過ぎ去ってしまったという実感は、まだあまり沸いとらへん。それでも、もう通わないと思うと、寂しい気持ちはあった。
「卒業しても、いつでも会えるの」
 オレの隣で、不思議な目をした女の子が言った。鯉田まみ。オレの友達や。
「まあ、せやけどな」
 まみちゃんと会うのは、いつでもできる。実家の神社にも行った事はある。
 そこまで連想して、ふと思い出した。
 前に神社に行った時の情景。オレは不思議な子供と出会った。
 何もないところから光る玉を取り出したり、オレがまったく思い出せなかった、親友の事を思い出させたり。
 ただのマジックでは説明がつかない、不可思議な現象を起こす子供の事を。
「そういや、前に神社で会った子供。あれってまみちゃんの知り合いなん?」
「今は、知り合い」
「変わった子供やったな、あの子。何やったんや? 手品師?」
「そんなようなものなの」
「ふうん。まみちゃんも、ああいう事ができるん?」
「私は、できないの。得意じゃなくて」
 そう言うまみちゃんの横顔は、どこか寂しげだった。オレの、学校を去るという寂しさとは違った雰囲気がある。
「どないしたん。悩み事なら、オレが相談に乗るで」
「ううん、大丈夫なの」
 それには、すぐさま首を振った。ショートヘアがふわふわと揺れる。
「……、前から思ってたんだけどさ、まみちゃん、オレに何か隠してない?」
「隠し事?」
「せや。なんかこう、意図的に隠しているような気がするんやけど」
「気のせいなの。私は別に、何かを隠そうとは思っていないの」
 また、これや。
 前にも、何度か違った形で聞いてみた事はある。そのたび、まみちゃんはごまかした。あのガキンチョの事も、あの時の不思議なマジックの事も、オレには説明してくれなかった。
 そりゃ、オレはまみちゃんの恋人ってわけじゃない。けど、友達だとは思っていた。
 何もかもを話さなきゃいけない仲じゃない。けど、なんとなく寂しかった。
 それは、学校を去る時に沸く感情とはまた別の感情。疎外感のようなものだった。
 なんで、オレは西条しんゆうの記憶をなくしていたのか。なんで、オレは西条の記憶を取り戻せたのか。
 その事に関して、オレは、何も知らない。
 校舎を見つめるまみちゃんの横顔が、少しだけ遠くに感じた。

 祝賀会から帰る頃には、あたりはすでに暗くなっていた。
 オレはひとり、薄っぺらな鞄を肩に道を歩いていた。すると、
 チリン――
 街灯の下。そこに、女の子が立っていた。
 年齢は、小学生くらいか? 夜空色のワンピースを着た、女の子。
「なん、や?」
 明らかに普通の子供じゃなかった。子供が外を出歩いていい時間じゃなかったし、何より、雰囲気が違いすぎた。
 少しばかり背筋が寒かった。それでも、オレは話しかけた。
「なんや、キミ。迷子なん?」
「いいえ。迷っているのは、むしろ貴方ではないかしら?」
 言って、女の子は小首を傾げた。
「迷ってる? オレが?」
「ええ。貴方、友人が大きな秘密を抱えているという事、その事実に悩んでいるのでしょう?」
 どきりと、心臓が飛び跳ねた気がした。
 なんでや? なんで、初対面の子供がそないな事を知ってるん?
「えっと、キミ、まみちゃんの知り合いか何かかいな?」
「知り合いと言えば知り合いね」
 くすりと笑い、女の子は続けた。
「彼女の秘密を知りたければ、次の日曜、日の出の頃に駅に行ってみればいいわ。彼女の神社近くの。わかるでしょう?」
「……え?」
「ただし」
 女の子は目を細め、少しだけ雰囲気を厳しくした。
「彼女が貴方に話さないのは、理由がある。それは、貴方のためを想ってのもの。どちらが良いとは一概に言えないとは思うけれど、彼女には彼女なりの思惑がある。貴方に、それでもなお進みたいと思う気持ちがあるのなら、行きなさい」
 言うべき事は言った、とばかりに、女の子は背中を向けた。
「あ、ちょっと!」
 チリン――
「って、あれ?」
 いつの間にやら、女の子の姿は消えていた。
「何やったんや、一体」
 まるで、神社のガキンチョみたいな子――。
 あまりにも訳がわからなくて、ぞくりと背筋が震えた。
「日曜、か」
 女の子の言葉を、口にして繰り返した。幸か不幸か、日曜に予定は入っとらへん。
「……っ!」
 何がどうなっているのか、オレには、まるでわからんかった。

「来てもうた……」
 朝も早くから、オレは本当に駅前に来てしまっていた。
 こっそりと駅前にあったトイレに隠れながら、広場の方を見る。そこには、まみちゃんがいた。それは、ある意味で予想通り。まみちゃんは時計をちらちらと確認してる。まるで、誰かと待ち合わせているみたいだ。
「待ち合わせって、まさか、男?」
 あかん。いくらオレでも、友達のデートを覗き見するわけにはいかん。さっさと帰って、布団にでも入ろう。
 とは、思う。思うけど、足が動かんかった。
 どうにもならず見続けていると、駅の方からふたりの兄ちゃんが歩いてきた。
 ひとりは黒いコートを、ひとりは革ジャンを着ている。もう春で暖かい陽気だってのに、恐ろしく寒がりなふたりだな。
「よ。遅くなって悪かったな」
「……公平兄さん、また寝坊したの?」
「その通りだ。まったく、まみからも言ってやってくれないか。兄さんは時間を守るという概念が欠落しているんだから」
「いやいや、こう、な? 大人には複雑な事情ってもんがあるんだよ」
 遠目から見ても、まみちゃんと兄ちゃんの片割れがため息をついているのがわかる。苦労しているんだなぁ。
 それにしても、今、兄さんって呼んだな。まみちゃんに兄弟はいないはずだし、親戚か何かか?
「じゃあ、そろそろ行くか」
 革ジャンの兄さんが率先し、再び駅に向かう。オレは、見つからないように後をつけて行った。

 電車を乗り継ぎ、やって来たのはとんでもない田舎。そこから歩く事、一時間弱。ようやく辿り着いたのは、すでに廃校となったらしい、小学校だった。
 遠目に見てもいくつかの窓ガラスがないとわかる。なんでそないにボロボロなんやろな? 普通、取り壊す時まで窓なんて壊さへんやろうに。
「さて。困ったな」
 校門の外から校舎を眺めつつ、オレはちょっとばかり迷っていた。学校は一応、私有地のはずや。勝手に入ったら、まずいんとちゃうかな?
 まみちゃんと兄さんたちは入ってもうたけど、オレも追っていいものか……。
 なんて迷っていると、
「どうかしました?」
「ふおっ!?」
 慌てて後ろを振り向くと、そこにはオレと大差ない年頃の兄さんがいた。特徴らしきものが何もないのが特徴とばかりに、見事に表現できる特徴がない。
「学校に何か用でも?」
「あ、いや、オレが用あんのは学校やのうてな?」
「え? じゃあ、どうしてここに?」
 言うかどうか迷って、とりあえず微妙に嘘をつくことにした。
「いや、オレの知り合いが中に入っていくのを見たんで、何かあんのかなーって。ここ、どう見ても廃校だし」
「ああ、そうなんですか。ええ、ここは廃校です。中に入っていった知り合いってのは、どなたなんですか?」
「あー、ちょっと不思議な感じの女の子なんやけど」
「……もしかして、鯉田さんの知り合い?」
 なんや。この兄さんも知り合いかいな?
 オレの心境の変化を敏感に悟ったのか、兄さんは笑顔を浮かべた。
「僕は遠藤紅葉。鯉田さんや火野さんの知り合いなんだ。えっと、名前を聞かせてもらってもいいかな?」
「あ、オレは佐倉。佐倉翔や」
「わかった。じゃあ、ちょっと待っててね」
 言い残し、遠藤は学校の敷地に入っていった。
 ちょいと待っていると、今度は三人を引き連れて戻ってきた。
「佐倉君。どうしてこんなところに?」
 まみちゃんは、無表情と驚きの中間みたいな表情だった。しかも、いつの間にか巫女服に着替えてる。その後ろでコートの兄さんはいぶかしんでるし、革ジャンの兄さんはニヤニヤと笑ってた。
「あ、いや、たまたまや。まみちゃんこそ、どうしてこないなところに?」
「私? 私は神社のお仕事なの」
 言って、まみちゃんは後ろのふたりを振り返った。
「陽平兄さんと、公平兄さん。私の親戚。兄さん、佐倉君。私の、学校の友達」
 まみちゃんがオレと兄さんたちの間に立ち、紹介する。オレは軽く頭を下げた。
 陽平さんはオレをじっと見つめ、口を開いた。
「今は宗教的な儀式の準備中なんだ。関係者以外を入れるわけにはいかない、どこか、そこらで待っていなさい」
「あん? いいじゃんか、陽平。中に入れてやれば。つーか、こんなところに時間を潰す場所なんてないぜ」
 近くを見ても、あるものはせいぜい民家と畑だけ。喫茶店やレストランさえもあらへん。まあ、こないなところで時間を潰せって言われても、どうにもできへんわな。
「しかしだね、兄さん。中は危険だよ」
「お前も見ただろうが。あんなの、どこが危険だってんだよ。こっちから話しかけても完全にシカト。意思なんざ欠片も感じられないような奴らばっかだぜ? あれがどう危険になるってんだ」
「そういう目測が危険だと言っているんだ。第一、一般人が入るような場所じゃない」
 ううむ。なんとなく、オレってば部外者っぽい感じ?
 陽平さんはオレを入れたくないようやけど、公平さんはそうでもないみたいやし。オレはどうすりゃええんや?
「佐倉君」
 混乱していると、遠藤の声がした。
「佐倉君は、中に入ってみたい?」
「中に、何があるんや」
「うーん、たぶん、佐倉君にとっては何もないと思う」
「オレにとっては、って事は、そっちにとってはあるんやな?」
「まあね」
 それが、まみちゃんが秘密にしていたものか。
 オレは、まみちゃんを見た。兄さん同士の口喧嘩に困っている様子だ。
「なあ、まみちゃん。オレ、入ってもええと思う?」
 それは、質問。
 今まで隠してきた、まみちゃんにとっては触れられたくないかもしれない部分に、オレが入っていいかという質問。
 言葉の意味は、すぐさま理解してくれたらしい。一瞬だけ迷ったように視線を泳がせ、すぐに頷いた。
「佐倉君にその気持ちがあるなら。ただ、それを見たら、私の事が嫌いになるかもしれないけれど……」
「ああ、それはあらへん。絶対や」
 オレの言葉に反応したのは、何故か兄さんたちやった。
「佐倉君。その、絶対というのはどういう意味かな?」
「はい? いや、そのまんまですけど?」
「なんだ。まみに惚れてるのか?」
 ああ、そういう勘違いか。
 うーん。恋仲、ってのはちょっとちゃうんやけどな。なんだろう、なんとなく、まみちゃんはオレと住んでいる世界が違う気がするし。
 まあ、仲良くなれるんなら、嬉しいけどなぁ。
「私と佐倉君は、そういう仲じゃないの」
「そうなのか? む、しかし――」
 まだ迷っている陽平兄さん。ここは一押しすべきところやな。
 オレはビシッと姿勢を整えると、頭を思い切り下げた。
「お願いします!」
 たったの一言。けど、こういう時は、この方が重みがあるんや。
「中に入れてあげたらどうですか。ちょうど、僕らじゃどうにもならない状況なんですし」
「しかし、我々が一般人の手を借りるなど……」
「依頼人は僕ですよ」
 オレの頭上で、ため息をつく気配が伝わってきた。
「顔をあげなさい」
 言われた通りにすると、陽平さんが苦々しげな表情をしていた。
「仕方ない。ちょうど、少し手伝って欲しい事もある。けれど、必ず私たちの指示に従うように。いいね?」
 その言葉に、オレは力強く頷いた。

 校舎の中もまた、ボロボロだった。下駄箱のところで、兄さんたちは立ち止まる。
「中に入らないんすか?」
 聞くと、陽平さんは首を横に振った。
「私たちは、中に入れないんだ。入れるのは、君くらいなものだよ」
「そうなんすか?」
 わけがわからへん。宗教的なアレか?
「あー、まあ、そこらが幽霊だらけって感じでな。満員電車に乗れないのと一緒だ」
「はい?」
 ますます理解できへん。どうすりゃええんや?
「佐倉君」
 陽平さんはコートから取り出した紙に何やら書き込むと、それをオレに手渡した。
「これを持って、校舎の中を一周してきてくれないか。どこかで紙が破れたら、すぐに足を止めて我々に連絡する事。我々は、校庭で待機するから。いいかな?」
「はい、任しといてください」
 不安そうにオレを見るまみちゃんに笑いかけ、オレは校舎の中に足を踏み入れた。
 もうすぐ春だってのに、校舎の中はなんとなく薄ら寒い。右を見ても左を見ても、何かがあるようには見えなかった。
 まみちゃんは、何を隠そうとしとったのか。陽平さんや公平さんは、どうして中に入られへんのか。
 その理由らしきものは、オレの視界にはあらへん。けれど、なんとなく予想はついていた。
「幽霊、か」
 本当にそないなもんがおるのか、オレにはわからんかった。見えた事もないし、ここでも見えない。
 でも、いるんだろうと思った。そして、まみちゃんは、そんなのを相手にしている。
 普通の人には見えへん。だから、そんなのを相手にしていると知れたら、ただの変人にしか見えへん。それを嫌って、まみちゃんは隠しているんだろうか。
「いや……、ちゃうな」
 まみちゃんは、そないなタイプやなかった。
 どっちかって言えば、そう、危ないからだ。
 オレは幽霊の専門家じゃないけど、悪霊ってのがいるだろうってのは予想できる。人間だって、悪い奴は悪いしな。
 そういうのが、オレみたいな何の抵抗力もない人と触れ合うのを嫌ったんじゃなかろうか。さっきの陽平さんみたいに。
 そう思うと、ちょっと気が楽になった。
 オレがまみちゃんにとって、信頼できんかったんやない。まみちゃんはオレを大切に想ってくれているから、何も言わんかったんや。
 今。まみちゃんは困っていて、オレにはできる事がある。
「なら、お返しせなあかんな」
 口元を緩めながら歩く。嬉しかった。まみちゃんが、オレを頼ってくれているという事が。その感覚が、純粋に頼もしかった。
 歩き続けると、奥に二階へと続く階段があった。
 二階を覗く。元々は教室やったろうに、机も椅子も窓ガラスもない今は、寂しさだけがわだかまっていた。
 教室をひとつずつ覗き込む。いくつかの教室を見た後、入った教室。そこで異変が起きた。
「お?」
 手に持っていた紙切れが、何もしていないのに、ぴりりと破れた。そういや、この教室は他の教室より明らかに寒い。絶対に、ここはおかしかった。
 オレはすぐさまポケットからケータイを取り出すと、まみちゃんに電話をする。
「まみちゃん、オレや。来たで。たぶん、東から三番目の部屋かな? 窓から見えへんか」
『大丈夫。見えてる』
 校庭では、まみちゃんと兄さんたちが待機していた。まみちゃんは、どっから取り出したのか、弓みたいなもんを持っている。
『佐倉君、しゃがんで。頭はかばっておいて欲しいの』
「おう、了解や」
 オレは教室の隅に移動すると、頭を低くした。
『行くよ』
 声が遠くなる。直後、ものすごい風が部屋中を駆け抜けた。
「ぬお!?」
 続いて響く、耳を覆いたくなるような衝撃。これは、声?
 ガタガタガタ、と窓枠が揺れ、教室の中に積もっていたホコリが舞い上がる。
『……、もう大丈夫なの』
 ケータイから聞こえた声に、オレは顔をあげた。おそるおそる、窓の外を見る。
 校庭では、まみちゃんが笑っていた。だから、オレも笑い返した。

 校庭に戻ると、まみちゃんは事情を話してくれた。
 この世には、幽霊が実在するという事。幽霊の中には、死んだ事を認められなくて、悪霊になる奴もいるという事。まみちゃんや陽平さんたちは、そういう悪霊を倒す仕事をしているという事。
 全てを話し終えたところで、まみちゃんは上目遣いにオレを見た。
「今まで黙っていて、ごめんなさい。でも、信じられないでしょう?」
「あー、まあ、オレもおばけを見えるようになったってわけやあらへんからな。見えへんままやけど、ただ、まみちゃんが言ってる事が本当ってのはわかるで」
 つまり、あのガキンチョもおばけの類ってわけか。なんや、まるでマンガみたいやなぁ。
「退魔師、やったっけ? かっこええやん、そういうの。みんなの笑顔を影ながら支える立役者! って感じやな」
 まみちゃんは目を丸くし、続けて小さな笑みを浮かべた。
「私、佐倉君と知り合えてよかった」
「な、なんや、急に」
「私たちの事、普通は理解してくれないから。佐倉君が、私たちを認めてくれて、本当によかった――」
 笑顔の上を、涙が伝わった。
 不安、やったんや。それこそ、マンガみたいな事を本当にしているなんて、誰も信じられるわけがあらへん。あるいは、昔、そのせいで辛い事があったのかもしれへん。
「大丈夫やで、まみちゃん。オレも男や、そんな小さな事で人を評価したりせぇへんで!」
「ありがとう、ありがとう……、佐倉君」
 目元をぬぐい、まみちゃんは言った。
「えっと、けど、できれば秘密にしてね?」
「口は堅いで」
 頷き、オレは校舎を見上げた。
 さっきまで寒い空気が漂っていた校舎は、なんとなく暖かに感じられた。


「アンジェラ。どうして話した」
 田舎町の学校前にある庭の隅。黒いコートの退魔師は、怒りの表情を少女に向けた。
 対する夜空色の死導者は、素知らぬ雰囲気でそれを受け流す。
「私は、想いを大切にしたいと思っただけよ。彼は貴方たちの事を知ったからといって態度を変えるようには見えなかった。そして、貴方たちの事を知らないという事実が、彼に鬱々とした気持ちを与えていた。なら、教えてあげるのが最善でしょう?」
「だからって、一般人の部外者をこんなところに呼ぶなんて! 何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「その時は私が守るわ」
 平然と答える死導者に、コートの退魔師は怒り心頭といった様子だ。
「まあまあ、落ち着きましょうよ。結局、人間に戻ってくれたんですし、鯉田さんの練習もできましたし」
「そういや、さっきの凄かったわね。なんなの、あれ?」
 桜色の眷属は、少し離れたところに座る少女を見やった。その手には、不思議な暖かさを持つ弓が握られている。
「ありゃ、あずさ弓ってんだ」
「あずさ弓?」
「そ。魔除けの弓だな。あいつは特別製で、力の弱いまみでも戦えるようにって陽平が作ったもんなんだよ」
「へー。やさしーじゃん、よーへー?」
「……その気色悪い笑みはやめてくれないか」
 わずかばかりに頬を染め、コートの退魔師は視線をそらす。その様子に、少女たちはくすくすと笑った。
「そういや紅葉、なんでこんな小学校を知ってたの?」
「ん? いや、ちょっと前に教授の畑が近くにあるとかで、ここを通ったんだ。その時、遠目にもすごい幽霊だったから、気になっててさ。ちょうど陽平さんが鯉田さんの練習相手を探しているって話だったし、ぴったりかなって思って」
「ふーん。あんたってさ、なんて言うか、マメよね」
「そう?」
「どうしたの」
 声に振り向けば、退魔巫女が少年と一緒に立ち並んでいた。
「もう説明は終わったか?」
 巫女の少女が頷く。それを見て、最年長の退魔師は大きく伸びをした。
「よっしゃ、そんじゃあ帰るか!」
 校庭から出て行く一行。その様子を、校舎は静かに見守っていた。
 チリン――



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