|
日本には死刑という刑罰がある。 それは、死ななければ償えないほどの罪がある、という事だ。 あいつは、それだけの罪を犯したという事なんだろうか。 斎場には色々な人が来ていた。 同僚、昔なじみ、親戚。役員や社長の姿も見える。 そんな連中が焼香していく姿を、俺はどこか遠い国の出来事でも見るような気持ちで眺めていた。 「どうしたん? こんなとこで」 振り返ると、西野が立っていた。高校時代の共通の友人だ。 「久しぶりだねー。元気してた?」 「先週まではな」 「あー、ごめん」 「いや。突っかかるような言い方して悪かったな」 西野は俺から祭壇の方に目を向けた。 「あのお爺ちゃん、君んところの社長さんか何か?」 「会長。社長はその後ろのハゲ。ついでに言うと、さらにその後ろの薄らは部長だ」 「あらあらまあまあ。お偉い方がお揃いで。なんともはや」 嘆かわしい、と小さく呟き、西野は首を振った。 「事故るとすぐにすっ飛んでくるくせに、改善はしようともしない。頭を下げて、形ばかりの対策をすれば済むとでも思ってるのかね、あの連中」 「悪いのはあいつらだけじゃない。少なくても、笹瀬川が死んだのはあいつらのせいじゃない」 俺は視線を後ろに向けた。 斎場の外では、こうこうと明るいライトが道を照らしている。たまに見えるのは黒い服を着た、マイクを持った男たち。 「あいつらが、笹瀬川を殺したんだ。それなのに、あいつらは罪の意識を欠片も感じていない」 「だろーね。会社が殺したんだ、って言い張ると思うよ。ニュースでもそんな感じで言ってたし。見る? あたしのケータイ、ワンセグもあるけど」 「そんなものを見てたらお前のケータイ、ぶっ壊しちまう」 「うむ。では、見せるわけにはいかんな」 言葉を切り、西野はそっと俺の肩に手を置いた。 「井上。あんたが怒ったって、何を叫んだって、誰も聞いてくれないよ」 「ああ。わかってる。わかってる、けど――!」 悔しいじゃないか。 言葉は、形にならなかった。 「西野、教えてくれよ。あいつ、そんなに悪い事をしたか? 死ななきゃいけないような事をしたのか!?」 「井上、落ち着いて。声が大きいよ」 「くそっ……!」 俺は、あまりにも無力だった。 笹瀬川は、船長だった。 正しくは一級航海士、だろうか。俺たちは船長としか呼ばなかったから、正確なところは覚えていない。 笹瀬川はとにかく真面目な人間だった。赤信号の道路は車がいなくても渡らないタイプだ。ルールを曲げる、という事ができない人間だった。 悪く言えば、柔軟性に欠けた面倒な人間という事になるだろう。けど、その実直さを気に入って、あいつの近くにいる人間も決して少なくはなかった。俺や西野も、その仲間だ。 そんな笹瀬川の乗る船が事故を起こした。客船の事故という、近年では稀に見る大事故だ。 乗客・乗員の大半は死亡。その中で、船長である笹瀬川だけは、なんとか生き残って戻ってくる事ができた。俺たちはそれを不幸中の幸いと捉えたが、世間の方はそうではなかった。 現代のタイタニックと話題を呼んだこの事件は、当然、多くの場所で取り上げられる事になる。雑誌、週刊誌、新聞、テレビなんかの各種報道機関。それらで、勝手な意見が述べられた。 原因は何だったのか。どうしてこれだけ多くの人命が失われたのか。 そして。船長は、何をしていたのか。 笹瀬川は真面目な人間だ。人命第一で動きたかったろう。ところが、笹瀬川はライフジャケットを着込んだ後に、船のゆれのせいで壁に頭を打ちつけたらしい。その時点で気絶した笹瀬川が気づいた時には、もう手遅れの事態だった。 指揮者のいない船内で、どんな混乱が起きたのか。本当にタイタニックの船内で起きたような事があったのかもしれない。 ともかく、取り残された笹瀬川は船内を見回った後に脱出。結果、あいつは生き残った。 だが――他の人間は、生き残れなかった。 世間は笹瀬川を責めた。執拗なまでに。 お前は何をしていたんだ。 どうして人を助けられなかった。 気絶していたなんて嘘で、本当はさっさと逃げ出したんだろう。 我々の家族を返せ。 無茶苦茶だと思う。笹瀬川が嘘をついていた証拠なんて何もないし、俺はあいつが本当の事を言っていたと思う。 なのに、あいつは許されなかった。誰にも。 そして、結局……。 眠っている西野を起こさないように、そっと網戸を開いた。狭いベランダに出ると、生暖かい風が顔をなでる。もう、夏だった。 チリリン―― マンションの下の階では風鈴が揺れている。人工的に作られた音色は、あんまり涼しげじゃなかった。 「なんで、お前が死ななきゃいけないんだ。せっかく、生き残ったってのに」 あいつに悪いところはなかった。なのに、あいつは殺された。 けれど、俺は誰を責めるわけにもいかない。誰に文句を言うわけにもいかない。 俺は、このやりきれない気持ちを、誰にぶつければいいんだ。 チリン―― 誰が悪かったんだろう。 船を沈没させた何か? 人々を守れなかった笹瀬川? それとも、自分の身を守れなかった他の船員たち? 「彼は、悪いから死んだのではないわ」 声は、真正面から聞こえた気がした。 顔を上げると、夜空に女の子が浮かんでいた。あまりに現実離れし過ぎて、夢を見ているような感覚だ。 「誰だ?」 「アンジェラ・ウェーバー。死導者よ。こっちはエル」 頭の上の動物を指し、言う。黒い動物は、きゅい、と小さく鳴いた。 「それじゃあ、悪いから死んだわけじゃないってのは?」 「世間の中傷と、彼の自殺にはあまり関係がないという事よ。それが彼の死を早めた事は否定しないけれど、遅かれ早かれ、彼は自ら死を選んでいた」 「どうして!? 笹瀬川は何も悪くないだろう!」 「貴方は、彼がひとりだけ生き残って、それを甘んじて受け入れられるような種類の人間だと思っていたのかしら?」 「――!」 言われてみれば、確かにそうだ。 笹瀬川は過ぎるほどに真面目で。そんなあいつが、自分だけ生き残って、にこにこと笑っていられるわけがないんだ。 まして、死んだのは、あいつの友人や同僚なのだから。 「共に日々を過ごした仲間。守らなければならない乗客。大切なものを、彼は一度に失ってしまった。あまりに、大量に。彼の心は、それに耐えられるほど、強くなかった」 「でも、それならどうして俺たちに相談してくれないんだ」 「相談してどうなるものでもなかったからでしょうね。失われたものは、二度と戻らない。人の命の尊さとは、そういうものでしょう?」 それでも、頼って欲しかった。グチでもなんでもいいから、話して欲しかった。 俺は、あいつにとって、その程度でしかなかったんだろうか。 「……そういや、君はどうしてそんな話を知っているんだ? そもそも、なんで浮いて?」 「名乗ったでしょう? 私は死導者。死を導く者。死の先にあるものならば、貴方たち人間よりも、はるかによく知っているわ」 「じゃあ、笹瀬川とも?」 「会ったわ」 こくん、と頷く。 「笹瀬川は、俺たちの事、何か言っていたか」 「優しすぎる友人、と評していたわ。彼の言う通りね。それこそ、貴方が気に病む事ではない。彼は自ら死を選んだ。それが事実であり、真実」 「事実であり真実、か」 何もできなかった、俺たち。それは当たり前の事だ。あいつが相談してくれないのなら、俺たちにできる事なんて何もない。これはあくまで、あいつの問題なんだから。 それは、俺たちが気にする事じゃない。あいつが相談もせずに自殺したのは気になるところだが、あいつの選んだ道である以上、俺たちに何かを言う事はできない。 「――なあ、アンジェラ。ひとつ、聞いていいか」 「何、かしら」 「あいつは、死ななきゃいけないほどに悪い事をしたのかな」 必死で頑張ろうとして。でも、誰一人として助けられなくて。 責められるまでもない。あいつは、どこまでも後悔していた。自分で自分を嫌というほど責めていたはずだ。 それなのに、まだ責められなきゃいけないってのか。それほどまでに、死ななければ許されないほどに悪い事をしたってのか。 「理不尽だと思う?」 「ああ。思うよ。あいつは、死ぬ必要なんてなかった」 「それは、他の人たちも同じでしょう。死ぬ必要はなかった。死にたいとさえ思っていなかった。なのに、理不尽な天災とも呼べる事故のせいで、死ぬしかなかった」 「それとこれとは話が違う! 船の事故は純粋な事故だった! けど、あいつは皆に殺されたようなものだ!」 「どこが違うの? 貴方も彼らも、自分にはどうにもならない理由で大切なものを失い、その悲しみに暮れている。そこに、何の違いがあると言うの?」 「あいつらは、死ななくていい人間を殺した! 偶然の災害なんかじゃない! あいつらが何も言わなきゃ、笹瀬川は死なずに済んだ! 誰にもどうにもできなかったんじゃない、できたのにやらなかったんだ!」 荒い息を吐く俺を、アンジェラはどこか見下したような目で見ていた。 「敵がいないと、大変ね」 「……?」 「責められる相手がいない。感情をぶつける相手がいない。本当に悪い特定の相手がいない。そのせいで、感情が渦巻き続けている。吐き出す場所がどこにもない」 はあ、とため息をつき、アンジェラは続けた。 「仮に敵ができた時、貴方はどうするのかしら。責める? 殺す? いたぶる? いずれにせよ、不毛だわ」 きゅい、とエルが鳴いた。同意しているようだった。 「ひとつだけ、忠告しておくわ。過去は束縛されるものではない」 「どういう、事だよ」 「過去は変えられない。戻らない。死を迎えた人間は忘れられ、消えていく。そうしていずれ、過去になる。 死んだ人間の事を忘れろとは言わない。私も、忘れないでいて欲しい。けれど、それに引っ張られる事は、いかにも愚かよ」 「……さっぱりだ。何が言いたい」 「いずれ、わかるわ。その時、貴方が冷静になれるといいのだけれど」 チリン―― ふと気がつけば、アンジェラの姿がなかった。煙のように消えてしまっていた。 「夢、だったのか?」 あまりに現実感がなくてそう思う。でも、夢だったとしても――。 「何を、伝えたかったんだ?」 それは、わからなかった。 アンジェラの言葉の意味を俺が悟ったのは、その二週間後だった。 俺は、高校の友人と酒を飲んでいた。当然、話題は笹瀬川の事に及ぶ。 「あいつも辛かったろうな」 「ああ」 友人が揺らすグラスの中。半透明の液体が入っている。 「そりゃ、西野ちゃんの気持ちもわかるけどなー。それにしたって、あんなに打ちのめされてた笹瀬川に言わなくたっていいと思うよ、いくらなんでも」 「西野? 何かあったのか?」 「あれ? お前、知らなかったの?」 友人はごくりと酒を飲み、 「あー、言っていいのかな」 「なんだよ、そこまで言っておいて隠すなよ」 「んー? じゃあ、オレに聞いたなんて言うなよ?」 前置きし、友人はその事実について話してくれた。 俺は、そんな話、欠片も聞いた事はなかった。 「おい。それ、本当か?」 「本当らしいよ。だから笹瀬川もああなっちまったんだろ?」 「そっか」 けど、西野は前に会った時も、そんなそぶりは見せていなかった。あるいは、隠していたんだろうか。 友人を疑いたくはない。だが、そう考えるしかないようにも思う。 「おい、井上。まさか、西野に会いに行くつもりか?」 俺が答えないでいると、友人は慌てた。 「おいおい、やめとけって。今さらそんな話を持ち出してどうするんだよ。証拠もないし、それにあいつが言ったって止められるわけないだろ?」 「わかっちゃいるよ、そのくらい」 西野も笹瀬川も悪くない。ただ、運が悪かった。そして、お互いの気持ちが、すれ違ってしまった。 それでも、何も言わずには、いられないんだ。 そんな俺を眺めて悟ったのか、友人は一度、深く息を吐いた。 「お前がそこまで言うなら仕方ないけどよ。いいか。笹瀬川の二の舞だけは絶対にするなよ」 「もちろんだ」 俺はもう、友達を失いたくない。 死別なんて、ごめんだ。 「どしたのー、井上。まさかの告白? やーだー、そういうのはもうちっとロマンチックな時間帯がいいな」 俺は、黙って西野を部屋に招き入れた。電話の時点で、何かがある事は察知していたんだろう。西野は必要以上に雄弁だった。 「そういえばさっきさ、電車の中で前に座った人。明らかにハゲなのよね。カツラで誤魔化しているつもりだったみたいだけど、あれじゃあバレバレだよ。もっと高いの使わないとねー」 「西野」 俺が一言を発しただけで、西野はぴたりと全てを止めた。動きも、言葉も、息さえも止まってしまったのではないかと思うほどだった。 「弟さんの話、聞いたんだ」 「…………そう、なの」 西野の弟さんもまた、笹瀬川が船長を務める客船に乗っていた。 生き残りは笹瀬川だけ。それはつまり、西野の弟さんもまた、死んだって事だ。 大切なものを失って。西野の取った反応は、世間の大半と同じだった。いや、大半よりも悪い。西野は、船長の友人だったのだから。 西野は、口にしてしまった。弟の事を。最初の言葉は感情のタガを外し、それはそのまま笹瀬川にぶつかっていく。 そして、その結果――。 「井上は、あたしが悪かったって思ってるんだよね」 「いや」 「気を使わなくていいよ。だって、言ってたじゃない。『あいつらが殺した』って。まさにその通り。その“あいつ”ってのが、あたしだったって事」 西野は自虐的な笑みを浮かべ、誘うように手を開いた。 「いいんだよ、あたしを責めて。あたしは、それだけの事をしたんだから」 俺は、そっと目を閉じた。 もし、俺があの子に出会ってなかったら。 あれが夢だったのか現実だったのか、未だにわからない。それでも、あの出会いは、無駄じゃなかった。 「俺は、お前を責めない」 目を開いた時、西野の顔に表情はなかった。 「わかったんだ、やっと。こういう事なんだって。 笹瀬川は、死んだ。死んだんだ。自分で死ぬ道を選んだんだ。それが事実で、過去だ。今さらその事実は変わらないし、変えようもない。そんな事に縛られて生きるなんて、無意味なんだって」 「でも、あたしがいなければ、笹瀬川は死ななかったかもしれないんだよ」 「それはないさ。あいつの事だ、いつか、絶対に責任を取って自殺する。世間で生きるには、真面目すぎたんだよ、あいつは」 これで、いいんだ。 そうだよな。笹瀬川。 西野は俺を見上げるように見つめ、視線を落とした。 「――んで」 「え?」 「それなら、なんで、あたしを呼んだの」 「そりゃ、お前が笹瀬川に縛られているだろうなって思ったから」 笹瀬川は、死んだ。あいつは段々と過去になっていく。 『死んだ人間を忘れないで欲しい。けれど、それに引っ張られるのは、いかにも愚か』 夢か現実かもわからない少女は、俺にそう言った。 笹瀬川の事を忘れる必要はない。けど、あいつは、もう生きていないんだ。自ら死を選んだあいつのために、今度は西野が重荷を背負ってしまっては、同じ事の繰り返しにしかならない。 「お前の行動は褒められたものじゃないかもしれない。短絡的だったかもしれないし、失敗だったのかもしれない。けど、それだって結果論だ。 後悔するなら、次はやらなきゃいいんだ」 ……本当は、それじゃ納得できないって奴も、いるかもしれない。笹瀬川のお袋さんの顔がちらりと頭をよぎる。 でも、駄目なんだ。そんな事の連鎖は、死を増やすだけだ。大切なものを失って、その怒りを誰かにぶつけて。そしてまた、大切なものが失われていく。 どこかで止まらなきゃいけない。それが、あの子の言っていた、死に引っ張られないという事なんだろう。 西野は沈黙したまま、何も言わなかった。俺も特に言える事がなくなって、つい黙ってしまう。 息苦しい空気が狭い部屋を漂う。何か気分転換になるようなものはないかと部屋を見回し、 「ビール、飲むか」 返事を待たずに立ち上がった。冷蔵庫を開き、缶ビールを取り出す。 「お母さんに、言われたの」 西野の言葉が、俺の動きを止めた。 ゆっくりと振り向くと、西野は俺を見ていた。俺を見ながら、泣いていた。 「あなたが悪いんじゃない、あの子が弱かったんだって。あたし、どうしたらいいか、わかんなかった……」 ぼろぼろと大粒の涙をこぼす西野。それは、高校の時でさえ見た事のない、初めて見る姿だった。 「井上。あたし、とんでもない事しちゃった。取り返しのつかない事をしちゃったんだよ! なのに、どうして誰もあたしを責めないのさ! あたしが、あたしがいなければ! それで済んだのに! どうして!?」 「……」 俺は黙ってビールを取り出すと、それを持って戻った。テーブルの上に缶を置き、そっと西野の頭をなでる。 西野は、声をあげて泣いた。 胸をえぐるような声を聞きながら、考える。一体、何がいけなかったのだろうか、と。 船が沈没したから? 笹瀬川が気絶したから? 誰も生きて帰って来れなかったから? 西野が我慢できなかったから? 笹瀬川が我慢できなかったから? それとも、まったく関係のない他の何か? 原因は、わからない。ただ、何かが狂って、どこかで間違って、こんな事になってしまった。 「――やっぱり、わからないな」 ここまで人が苦しまなければいけない理由。 こいつらは、そんなに悪かったのだろうか。 答えは、西野の泣き叫ぶ声だけだった。 チリン―― 腕輪の鈴を揺らしながら、少女は首を横に振った。 「不条理なの。貴方たちが生きている社会、貴方たちが生きている世界は」 平等に不平等な中、生きる人間。 それらの輪廻からは外れた者だからこそ、見えているものがある。 「どうすればいいのか、考える事もできる。けれど、それでも万事が上手く行く事はありえない。だから、不条理」 「きゅう……」 少女の頭上では、黒い獣が耳を伏せている。悲しげに。 「私たちは恵まれていた。もちろんそうなるために努力はしたし、必死に動いてきた。それでも、こうして得られた幸運は、本当にただの偶然でしかない。私たちだけの力では何もできなかったろうし、何も得られなかった」 動き出した少女の足。その向かう先に、迷いはない。 「では、諦める? 思い通りにはならないから、努力しても報われない事もあるから、だから最初から諦めてしまうの?」 そっと、口元に笑みを浮かべて。 「それは違う。不条理でもなんでも、やるしかない。それによって敗者も生まれれば空回りする者も現われるでしょうけど、それでも、やるしかないという事に変わりはないの。挑戦せずに得られるものなど、それこそ偶然の副産物だけなのだから」 「きゅう!」 チリン―― 足を折り曲げ、少女は強く跳ぶ。 決めた道は、揺るがないから。 「一度で勝てぬならば二度、三度。挑み続ける者こそが、勝者となる最低の条件よ」 今なお、歩みを止めぬ少女は言葉を残して遠くを目指す。 まだ見ぬ、彼女を待つ人のもとに。 チリン―― |