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「では、『焔色の夕凪』新年羽根突きデスマッチを開催します」 新藤は静かに宣言した。 正月早々から使われているこの部屋は、あらゆる世界に通じるパラレルワールド。高い天井の広い部屋は、日本の正月らしい門松やらが置いてある。壁にかけられた掛け軸には誰が書いたのか、謹賀新年の文字が躍っていた。 「ルールは焔流で。つまり、コートは十五メートル四方。相手コート内に特性の羽根を落とした者の勝利とします。それ以外はルールなし。いかなる方法を用いても構いません」 新藤はポケットから羽根を取り出した。物理法則を超えた一撃にも耐えうる秘密設計済みである。羽子板の方は見た目こそ普通だが、中に鉄板のようなものが入っている。まさにデスマッチだ。 「各話主人公四名によるトーナメント形式で行います。よろしいですね?」 新藤が確認を求めるように問うと、一同は頷いた。 「では、一回戦。ヴァルゴさん、アンジェラさん、前へ」 新藤の合図と共にふたりが前に出た。 ヴァルゴは黒髪の頭にバンダナのようなものを巻き、いつも通りの胸を覆う鎧を着込んでいる。 アンジェラは夜空色のワンピースという、まさに何の変わりもない服装だ。 ヴァルゴを見上げ、アンジェラはその小さな口をそっと開いた。 「勝利に興味はない。けれど、全力で戦わない事は戦士に対して無礼。貴方を戦士と認めるが故、私の全力でやらせてもらうわ」 「もちろんだ。俺も遠慮はしない」 これで互いに構えているものが剣ならば格好もつくのだが、いかんせん羽子板であるため、どこか間が抜けて見える。もっとも、本人たちはそんな事を全く意識していないが。 「はじめッ!」 新藤の開始の合図と共に、アンジェラはコン、と羽根を突いた。羽根は綺麗な放物線を描き、ヴァルゴのもとへと飛んでいく。 「最初から飛ばしていくぞ」 ヴァルゴの右手が光る。羽子板が羽根を弾いた瞬間、羽根は炎に包まれた。明るい火球が直線的にアンジェラに襲い掛かる。 「その程度?」 アンジェラは無表情のまま、火球を突き返した。途端、炎は飛び散り、ただの羽根へと戻る。 「ほう……」 ヴァルゴはため息にも似た音を出し、ニヤリと笑った。 「ならば、更に増やしていこうか」 弾き返された羽根を打ち込む。途端、空間に十近い火球が生まれ、アンジェラに襲い掛かった。 「どれが本体かわかるか!?」 「……刻限も近い。早々に終わらせてあげる」 チリン―― ばさり、と翼が広がる。いつの間にか、アンジェラの背には真っ白な双翼が広がっていた。 たった一度。その翼が、はばたく。それだけで炎は消え去り、たったひとつの羽根だけが残った。 カコン、と軽い音を立て、羽根がヴァルゴに向かって放物線を描く。ならば、とヴァルゴが羽根を突き返そうと羽子板を振った刹那、 ……羽根が、消えた。 「なッ――!?」 「アウト!」 ヴァルゴが驚きの声をあげるのと、新藤の終了の合図はほぼ同時だった。 ヴァルゴの足元には羽根が落ちている。 「そう、か……。羽根を作ったな?」 「ええ。綺麗に騙されたようね」 ヴァルゴは苦笑交じりにアンジェラを睨んだ。アンジェラは微かに笑い、その目線に答えた。 羽根を打ち返したように見せかけ、実際にはアンジェラが作った偽の羽根を飛ばす。ヴァルゴの目が追ったものは、アンジェラが作り出した幻想に過ぎなかったようだ。 「……負けた。次、頑張れよ」 「力は尽くすわ」 ヴァルゴはひらひらと手を振り、コートから出た。アンジェラもくるりと回り、その姿を消す。 代わりに、コートにはショウと聡が入った。 「村野君、負けたら特別メニューですからね」 「げッ。マジッすか? こりゃあ負けられないな」 余裕を持って言い、聡は右手に羽子板を、左手に杖を構えた。 「二刀流かい? 俺は一応、一般人なんだから魔法を連発とかしないでくれよ?」 「そーいうわけにはいかないッスね。負けたら……、ちっと想像したくないような事になるんで」 「そうか。それじゃあ、仕方ないな」 ショウはぽんぽんとボールを放り投げた。空中でボールは割れ、中からポケモンが出現する。 現れたのは二体。一体はキングドラという、水生のタツノオトシゴのようなドラゴンで、名前はハイロン。もう一体はひねずみポケモン・ヒノアラシ。名前はヒノ。どちらもショウの信頼するパートナーだ。 「ちょ、待ったあ! ポケモンってずるいだろ!?」 「俺はポケモントレーナーだ。ポケモンを使うのは当たり前だろ?」 「ちょ、先生! これってアリッすかあ?」 聡はショウを指差しつつ、新藤を振り仰いだ。 「残念ながらショウさんの言う通りです。何を用いても構わないというルールですしね。もし村野君が使い魔を持っていれば、使っていいのと同じ事ですよ」 聡はまだ不満げにぶちぶちと呟いていたが、新藤は完全に無視して合図を出した。 「はじめ!」 先手はショウ。コン、と軽く羽根を突き、ハイロンに向かって叫ぶ。 「ハイロン! 『りゅうのいぶき』!」 ハイロンは深く息を吸い込み、ドラゴンブレスで羽根を打ち出した。超高速の弾丸が真っ直ぐに聡に向かって飛び行く。 「だわああああ!?」 叫びつつもさすがの反射神経、羽根を正確に突き返す。とは言え、圧倒的な威力。ヘロヘロと頼りなげだ。 「トドメ、行くよ!」 早くも宣言をし、ショウは叩きつけるように打ち込んだ。 「させるか!」 走り出そうとする聡の足元に、炎弾が突き刺さり、その動きを止めた。 「ぬお!?」 炎を飛び来た方向を見れば、そこにはヒノ。聡の動くその先に炎を吐いたらしい。 などと確認している、その間に。 「……あ」 「アウト。ショウさんの勝利です」 新藤はにこりと不気味な笑顔を見せた。 「……村野君は後でお話があります。では、このまま決勝戦といきましょうか」 聡は何もできないまま、とぼとぼと歩き出した。代わりにアンジェラが姿を現わす。相変わらず、どこから出現したのかわからない。 「アンジェラが相手じゃなあ……、普通に考えてこれ勝ち目なくない?」 「それは貴方次第。私は常に私の全力を尽くすけれど、ここはルールのある戦い。ルールの裏をかけば、貴方にも勝ち目はあるかもしれないでしょう?」 「あ、そ」 ショウとアンジェラが真っ直ぐに対峙する。そして、新藤の合図が響いた。 「はじめ!」 同時に、ショウの『りゅうのいぶき』に乗った弾丸が放たれる。先刻の聡と違う点は、冷静にあっさりと打ち返したところだろう。 「だったら……ヒノ! ハイロン! 同時に撃て!」 カコンと打ち込み、それを『りゅうのいぶき』と『かえんほうしゃ』が打ち出す。 チリン―― ふわりと白い羽が舞う。アンジェラの背に現れた白翼が、炎も息吹も吹き散らし、羽根だけを空間に残した。 「さあ、終わりにしましょう」 コン、とアンジェラは羽根を突く。ショウは着地点に駆け出そうとして、 ――足を引っ張られた。 「ぬなッ!?」 ショウが右足に目をやれば、そこにはいつの間にか鎖が巻き付いている。 「アウト、アンジェラさんの勝利です」 はっとショウが相手に目を移すと、視界に入ったのは微笑むアンジェラ。そして、落ちた羽根だった。 「…………負けか」 ショウは残念そうに頭を掻いた。 「やはり少し力を使いすぎたかしら」 少女を前に、男たちは苦笑いをするしかなかった。 もちろんその後。 「そうそう。村野君、訓練をしますよ。今日は黒鬼と白鬼を同時に相手してくださいね。もちろん、ひとりで」 「は!? ちょ、それは無理……ああああああ!?」 帰った聡は悲鳴をあげる事になったという。 |