正月以来の使用となる、焔色メンバーがテキトーに集まる事のできる超異次元空間。本日は七夕祭のため、主人公たちが集合していた。
 部屋の中も畳が敷かれ、部屋の隅には大きな笹飾りが鎮座している。
「で。七夕ってーのは何なんスか?」
 畳の上であぐらをかき、『ロードシリーズ』の主人公、村野聡は尋ねた。
「えーと、あれ。織姫と彦星が会う日、でいいんだっけ?」
 疑問系で返したのは『竜神の使徒』の橋本ヒカル。それに応じたのは、『夜空の鈴』のアンジェラだった。
「日本における七夕伝説に、織姫星と牽牛星の話があるわ。天帝の娘ではたおりを得意とする織姫と、牛を追う仕事の夏彦が結婚した。けれど、ふたりは夫婦生活に溺れ、自らの仕事を行わなくなってしまった。怒りを覚えた天帝は天の川でふたりを引き裂き、年に一度、七夕の夜だけ会う事を認めたと言われている」
「要するに、バカップルが親父さんに叱られて、年一でしか会えなくなったってわけだな」
「他人の事を言えるのかな、バカップルの片割れ」
 うんうんと頷く聡に、『GO!』のショウは思わず突っ込む。
「聡は恋愛に溺れて修行を怠るようには見えないがな?」
「ええ。私がそんな真似はさせません」
 『紋章伝』のヴァルゴと『ロードシリーズ』の新藤は、そんな四人を少し離れたところから見ていた。若者の元気さは、このふたりにはないらしい。
「で、七夕って何をするんスか? おりひめーとひこぼしーを見習ってバカップルでもすりゃいいんスか?」
「いや、普通は願い事を短冊に書いて、笹に吊るすな」
「短冊?」
 チリン――
「これよ」
 アンジェラの手には、五色の短冊が合わせて六枚、握られていた。
「これに願い事を記し、笹に飾って願うの。深夜に空を彩る星々に神事を行い、未明に笹飾りを河川や海に流す風習があるわ」
「あー、はいはい。要するに、願い事を書けばいいわけね」
 ぴらぴらと白色の短冊をもてあそびながら、聡は間延びした回答を返した。

 でもって、十分弱の時間が経過。
「みんな、書けた?」
 面倒見のいいショウが全員を見渡すようにして言った。
「俺は書けたぞ」
 一番の名乗りは聡。手の白色短冊を笹に吊るした。
「……『とりあえず秀一を超える』?」
「おう。まずは秀一、次に桔梗、でもって麻生先生ってとこだな。レベルアップは段階を踏まなきゃいけないし」
「でも、これって願い事って言うより目標だよね?」
「――あ」
 今頃になって気付いたらしい。が、これはこれで、聡らしい。
「そ、そういうショウは何なんだよ!?」
「ん? 書けているけど?」
 ショウは黄色の短冊を見せた。端正な文字で、願い事が書き込まれている。
「『もう少し自立してくれますように』?」
「誰とは言わないけれどね。自分の身が危ないから」
 彼は彼で、苦労性である。続けてショウは、きょろきょろと皆を見渡した。
「他の人は?」
「オレも書けてるよ」
 ヒカルは紅色の短冊をショウに手渡した。ショウはそれを笹に飾りながら、内容を読み上げる。
「『世界平和』? らしいって言えばらしいけど」
「色々とあったから、さ。やっぱり願うなら、これが一番かなと」
 なかなかに神妙な面持ちのヒカル。根が真面目である。
 微妙にしんみりしたところで、ショウはヴァルゴたちに顔を向けた。
「そっちはできた?」
「俺はできている」
「って、今さらだけど、字が書けるんだね」
 ヴァルゴから緑色の短冊を受け取りつつ、ショウは呟いた。ヴァルゴは、それに苦い笑いで答える。
「長く生きていると、余計な知識は増えるんだ」
「ま、字が書けるのに越した事はないよ。ええと、『今が続く事』?」
 ヴァルゴは軽く頷いた。
「俺にとって現状は、今までと比べたら最高に幸せな時間だ。今まではロクな生活をしてこなかったからな。願うなら、現状が続く事。それだけしかない」
 ようやくマトモで平和な願いが出たところで、ショウは新藤に視線を向けた。
「新藤さんは書けましたか?」
「ええ。どうぞ」
 新藤の短冊は、聡と同じ白色の代物だった。そこにはなかなか上手い字で、願いが小さく書かれている。
「『生徒たちがもう少し手のかからない存在になる事』……」
「――先生。俺らに何か恨みとかあるんスか?」
「いえ、別に? 私の、最もわかりやすい願いがそれだったという、それだけの事です。他意はありませんよ」
「悪意は感じられますけどね」
 新藤が言うと嘘くさい。が、聡をはじめとする心魔の悪ガキ共を相手にする教師なら、誰でも願っておかしくない願いではある。
「ええと、最後は、アンジェラ?」
「どうぞ」
 アンジェラが差し出した黒色の短冊には、人間味の薄い白色の文字が並んでいた。ちなみに筆記用具は、彼女が能力で出したものだったりするのだが、それは余談。
「『人々の願いが叶う事』」
 ショウはそこに並ぶ文字を読み上げた。そして、アンジェラを見る。
 アンジェラは、薄く微笑んでいた。
「私自身の願いは、私の力で叶えるわ。神に祈り、他者の力を待つだけでは何も変えられないと、知ったから。だから、絶大なる存在に私が望む事があるとするならば、それは私の力だけでは叶えられぬ願い。この世界に住まう人々の幸せ、たったそれだけ」
「強いねぇ……」
 小さく笑い、ショウはアンジェラの黒い短冊を笹に飾った。
 六人の願いが飾られた笹は、どこからか流れる風によって、さらさらと音を立てる。一同は、その光景を見つめた。
「っと、そういえば、管理者から差し入れを受け取っていたんでした」
 ふと思い出したように言い、新藤はパチンと指を鳴らした。すると、どこからか鬼神が現われる。
「お茶と笹だんごだそうです」
 白鬼は皆にお茶を注いでまわり、黒鬼は笹だんごを配った。
 全員に行き渡ったところで、まったりティータイム。日本茶だが。
「明日からまた勉強漬けかぁ」
「聡ってそんなに勉強してたっけ? そんなシーンもなかったように思うけど」
「修行も勉強の内って事で」
「普通の勉強もしといた方が絶対にいいって。オレも三年になって慌てて勉強だよ」
「心魔は大学まで自動的にいけるから問題なしッス」
 年齢も近く、立場も近いヒカルと聡は、勉強や進路の話で盛り上がっている。
「ショウ君は生物学を研究していたんでしたね?」
「ええ。今はポケモンの誕生に関する一定のルールを研究しています。面白いですよ、ポケモンって。全く違う種族にしか見えないのに、交配が可能なんですから」
「ほう? となると、元はひとつの種族だった可能性もありますね。両親が別種族でも子供が生まれるとは、珍しい」
「そう、そうなんですよ! その秘密を探るのが、ウツギ研究所の最大テーマなんですよ」
 ショウと新藤は、なにやら学術的なお話。ショウとこの手の話ができる相手は少ないため、楽しそうである。
「貴方は、相変わらず?」
「ああ。そっちも、だろ?」
「ええ。けれど、少しずつ改善されているわ。あるいは、ある日になって突然、世界は変わるかもしれない。そんな気さえするの」
「そいつは良い兆候だ。俺の世界も、一夜で変わったからな。俺ひとりの力じゃないが、案外と世界ってのはそういうものなのかもしれないな」
 アンジェラとヴァルゴは近況報告。長生きしていると気も合うらしい。
 なんとも平和な雰囲気の、異次元空間なのであった。殺伐とした世界に生きる彼らには、たまの休養も必要である。
 笹の葉が、さらさらと揺れていた。



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