『クリスマス対抗! ドキドキ! ナンバーワンカップル決定せええええええええええええん!!!』
 マイク大音量。無駄にうるさい。
 久しぶりに使用されているどこにあるのやら空間。そんなところにいるのは焔色メンバーの主人公とそのパートナーたち。
 面々を見下ろすような形で舞台が作られており、その上で“ロード”の神楽がマイクを握っている。
「おーい。神楽ぁ。どういう意味? ナンバーワンカップルって」
 手を挙げて質問したのは“ロード”の聡。壇上の神楽はびしっと聡を指差し、
『クリスマスというカップルのためのクソみたいなイベントにきちんと乗っかろう企画よ! まったくもって忌々しい! つーかなんで私が司会なわけ!?』
「どうして?」
『私がカップルにいっちばん遠いからだって! ざッけんな! なんで新藤先生でさえないのよー!?』
「それは、ほら、由佳ちゃんとごにょごにょあるから」
 ちなみに今日は先生欠席。
『……まあ、それはいいわ。というわけで! 今日は各話主人公たちとそのパートナーに仲良しアピールをしてもらいます! 私を含む審査員の超独断と偏見によって一位に選ばれた人には豪華賞品が! というわけで、恥ずかしがらずに堂々といちゃつけコノヤロー!』
 最後はマイクを握り潰しかねない勢いで叫ぶ神楽。音が反響してくわんくわんとかなってる。
『順番はランダム! というわけで一番、そこの目つき悪いの! ちゃっちゃと来なさい!』
「それは俺の事か」
 ずい、と前に出たのは“紋章伝”の主人公、カッコいいんだぜロンリーウルフ的なヴァルゴ。後ろには同じく紅一点の無邪気少女、セリア。
『いいから上に!』
 はあ、とため息をつくことは忘れず、ヴァルゴはゆっくりと壇上に。後ろをセリアがひょこひょこ付いて来る。
「それで、何をしろと?」
「仲良しのアピールって言ったよね。うーん、どんなのがアピールになるのかな」
『いいからキスでもしてろよバカップルが』
「なんでそんなに荒れているんだ? それに、俺とセリアはカップルじゃあない」
「そうそう。ただの旅仲間だよ」
『またまたー。男女が旅して何もないわきゃないでしょう。正直なところを告白しちゃいなさいよ』
「と言ってもな。本当に何もない」
 それもそのはず。ヴァルゴは何百年も前に死に別れた恋人を未だに引きずってるし、セリアはと言えばまだ恋を知るよりは精神的に幼い。
『……いいから。こう、親しくないとわかんないようなアピールないの?』
「そうだな。セリアは踏み込む時に若干、右手が下がる癖がある」
「ヴァルゴ、辛い食べ物が好きだよ。私は食べられないくらい辛いの」
 それからしばらく、取り留めのない事象を並べ立てる。
 回避する時は右に跳ぶ癖がある、朝は起きるのが早い、剣を弾かれた後の対処が遅い、表情に乏しいように見えて実は態度に出ているエトセトラ。
『――ってあんたは戦いの事しか頭にないんか! ええい、退場、たいじょー! 次、次にいっきなさーい!』

 次鋒、“ふらわー”組。主人公にして超絶気弱少年でもあるフレーゼ・ハイブリーダと、冷静冷血の人造人間、ラナス・プラネッシアである。
「なんで僕?」
「それを言ったらわたしです。フレーゼさんは主人公なのでともかく。わたしは脇役です。むしろイリスさんの方が適任なのでは?」
『文句を言うならどっかの馬鹿に言いなさい。で、仲良しアピールは?』
 問われ、困った表情のフレーゼ。
「うーん、と。そう、ラナスちゃん、口にはあまり出さないけどカモミールのお茶が好きだよね。それでコーヒーは嫌い。あとお酒に弱い」
「……よくわかりますね」
「そりゃあね。雰囲気を見てればなんとなく」
「そういうフレーゼさんはどのハーブティーも美味しそうに飲みます。ただ、お肉料理は苦手と見ました」
「正解。はは、ディルにはもっと食べろって怒られるんだけど」
「よく言われていますね。そういえばフレーゼさん、来週くらいには切れてしまうと思うので、また茶葉をいただけませんか?」
「ああ、いいよ。えーと、今頃だと何が飲み頃かな」
 ぶつぶつと呟くフレーゼ。と、そこで彼は視線を神楽に移し、
「あのさ。やっぱり僕ら、カップルって言うより家族だから、こういうのってあんまり。妹みたいな気分だし」
『むむむ。でもさっきよりはまだいい感じじゃない?』
「そう?」
 ラナスは肩をすくめるばかり。彼女の概念に恋愛という要素はない。
『ま、多少はマシってところね。じゃ、次のアピール!』

 続くのは“竜神”のふたり。異世界を旅する高校生主人公の橋本ヒカルと、教会に勤めるハーフエルフのエレナ・テスタロッソ。
『ようやくカップルらしいのが来たわね……。で、おふたりのアピールは』
「あー、まあ、この間もデートらしきものに行ってきたけど」
 そっぽを向きつつ微妙に照れた感じなのは初々しい姿と言える。エレナも頬を染め、下を向くばかり。
「国から少し離れたところにちょっとした湖があってさ。エレナとふたりで行ってきたんだ」
「とても綺麗でしたね」
『普通にカップルしてる人間が目の前にいる時に殺意が沸くのは自然現象よね?』
「んなわけあるか。で、湖畔をちょっと散歩しながら話したり、昼飯を食ったりして帰ってきたんだけど。エレナの弁当は美味いんだ」
「ヒカルさんは本当によく食べてくれるんで、作り甲斐があります」
『うるさーい! 私だってねぇ、そういうイベントやりたかったわよ!』
「いや待て。お前は別の理由で無理じゃないか?」
『何よ。別の理由って』
「……いや。なんでもない。世の中は知らない方が幸せな事もあるよな』
『?』
 まあ味付けが悪いだけならばそこまで問題ではない。火を使わないはずのおにぎりさえ炭化させる人も広い世の中にはいるのだから。
「後は、そうだな、普段は話したりするくらいだよな?」
「もっと……、いえ、なんでもありません」
「うん? そうか」
『後で殺すわ。じゃ、次ねー!』
「ちょっと待て今の聞き捨てならないぞ!? おーい!?」

 四番手、“GO!”のオーラが使えるポケモントレーナーのショウとリーグチャンピオンのナミ。
「この組み合わせはありえないと思っちゃ駄目ですか」
「駄目なんじゃない? それともアカネと来たかった?」
「謹んでお断りを申し上げます」
「後でアカネに伝えとく」
『あー、そんで? あんたたちのアピールはー」
「アピールって言っても、いつも俺が一方的におごらされているだけな気がするんですけど」
「失礼ね。たまーに自分の分は払うじゃない」
「それが普通です」
「何よー。女の子におごるのって普通じゃない? ねえ?」
『私はおごってもらった事ってそんなにないけど?』
「そりゃあんたがお金持ちだからよ」
「ナミさんナミさーん。ナミさんは俺より収入が多いですよー」
「あーあー、聞こえなーい」
 そんな調子のふたりを見て、神楽はちょこっと首を傾げる。
『仲良し、なのかなぁ? これって。どっちか言うと、主従関係?』
「的を射すぎて怖いんでやめて下さい」
「ショウ、今度からご主人様って呼ばせてあげる」
「嫌ですッ!」

 五番バッター“ジャック”の最弱主人公リナと、最強脇役ラルス。
 壇上に上がるやいなや、リナは不機嫌そうに両手を胸の前で合わせる。“炎矢”の発動準備は完了。
「ごばーん、リナ=ミサキ、ラルス=グランフェルトの火あぶりやりまーす」
「ってまだ何もしてない! 何もしてないよ!」
「何かする前に悪の芽を潰す。これは正義に許された権利」
「すいませーん誰かこの人を止めてー!? ってか、本当に何もしてないでしょ!」
「そーねー、あたしの胸がどうこう言ったのも気のせいよね」
「は? いや、別にリナのことは何も言ってなくて、単に神楽ちゃんはそこそこスタイル良いねって言っただけぎゃあああ!? ちょっと当たってる、ちょっと当たってるよ! 助けて神楽ちゃん!」
 元気なふたりに、やや疲れ気味の神楽はジト目。
『拳でわかりあう恋愛ってお前らはどこぞの番長か』
「違うわね、神楽。殴り合いじゃないわ。一方的なる虐殺よ」
「もっと問題!?」
『あのさ、一応はパーティー会場なわけで、死体を転がさないで欲しいんだけど」
「その前に! 死体ができるという可能性を消そう! そこから話は始まる!」
「大丈夫。七面鳥ターキーの代わりだから」
「グロテスク! ってかオレを食べるわけ!?」
『筋肉質だけじゃ美味しくないのよ。ほどよく脂肪もないと』
「論点が違う! 美味しさの問題じゃない!」
「美味しさが問題なんじゃないの。調理をすることに意義があるのよ」
「ない! それはない!」
 と、そこでラルスはぴたっと動きを止め、
「あのさ、これはどう考えてもカップルって感じじゃないと思うんだ」
『仲が良いのはわかったわ。ほんじゃあ次ね』
 仲良しだからできる冗談というのもあるわけで。
「冗談じゃないけどね……」
「え?」
「なんでもなーいわー」
「ちょっとおおおおお!?」

 エントリーナンバーシックス、“騎士譚”の男勝り主人公グレイスと、ひねくれ暗黒騎士ディックのふたりが壇上に。
「で。オレに何をしろと。剣舞でもやるか?」
「グレイスはすぐに戦いに頭がいくからいけないにゃー。脳みそ筋肉って言われちゃうぜぃ?」
「筋肉はそこまででもないんだけどな?」
 自分の腕をもみもみ、確認するグレイス。引き締まってはいるが、そう筋肉が多いという印象もない。無駄を省いた、といったところが正しいだろう。実用的な肉体である。
『ディック・ハーションだっけ? そういやあんたらはここ、初めてよね?』
「そっすね。七夕イベント逃したっぽいからにゃー」
「……? ま、お前らに直接、会うのは初めてだな」
『じゃ、アピールどーぞ。こう、俺しか知らない彼女の一面、的な?』
「そう言ってもにゃー。実は自分の胸が薄いのを気にしているとか水浴びをする時はさりげなくマッサージしてるとか、そういうことしか知らないけどなん?」
「ディック。どうしてお前がんなことを知ってる?」
「そんなの覗いたからに決まってにゃああああああ!?」
 暗黒、全開。対人相手の最強兵器、グレイス・フェイリアーの名前は伊達じゃない。
「おい、不慮の事故で相方がいなくなっちまったんだがこれはどうしたらいい?」
『え? 今の不慮? まあいっか。スタイルの事をうんぬん言うヤツは死んでよし!』
「って誰か心配しろぉ!? 会場の一角を黒焦げにしといて何を言うかぁ!?」
 壇の下から聡が叫ぶが聞いちゃいない。
『まあ、あれよね。デリカシーのない男は死ぬ運命にあるのよ。ねえ聡?』
「なんだ。お前も殺して欲しいのか。人間相手なら遠慮なくやれるぜ」
「人間相手の時こそ遠慮しろお前はっ!」
『うっさいわねー。ま、いいわ。次にいきましょ』
「その前に医療班! 早くしろぉ! 間に合わなくなっても知らねえぞぉ!?」

 七組目、“夜空”より人外主人公(?)アンジェラ・ウェーバーと……。
「えっと、なんで僕?」
 奇跡のすけこまし遠藤紅葉。
「しかも今、すごく失礼な事を言われた気がする。というか、アンジェラとカップルなんて言ったらケイとか先輩とかエルとかマリアとか、ともかく色々な人に殺されちゃう気がするんだけど」
『バレなきゃいいのよ』
「いやバレなきゃってそもそもアンジェラとふたりでここに来ている事がバレた時点で殺されそうな気がね?」
「……紅葉」
 ふと紅葉が視線を下げると、じっと見上げるうるうるな深紅の瞳。
「私は、嫌い?」
「え、あ、いや、そういう意味じゃなくて、そりゃ僕もアンジェラは好きだけど、その好きってのは恋愛とかそういう意味じゃなくて――」
 しどろもどろに顔を赤くする紅葉。彼女持ちの大学生のくせに無駄にウブ。
 そんな脇では、
『聡! 今の撮った!?』
「ばっちり合点!」
『よっし後で売るわよ!』
「ってそれはまずい! 本当に勘弁して!?」
『ふふふ、誰であろうとも報道の自由を侵す事などできはしなーい!』
 カメラを持ってたったっと逃げてく神楽と聡。お前ら司会はどうした。
「ちょっとー!?」
「……神楽」
 チリン――
 アンジェラは軽く手を振る。顕現された鎖がカメラを持ったふたりを捉え、ぐいっと引っ張り込んだ。
「紅葉を困らせないで?」
『はいすいませんでした』
 カメラは没収。というかこんなもんどっから取り出した。
「え、えっと、次の人は最後だよね? 村野君と宮野さんかな?」
『あ、そうそう。というわけでようやくラストね!』
 すでに神楽、グロッキーである。決してカップルを何組も前にした事による反動ではない。決して。

 というわけで締めは本物のカップル、“ロード”の天才主人公、村野聡と幼なじみの宮野茜。
『出たよ出た出たあー嫌だ嫌だこのバカップルってば殺意が沸くと思わない? それが健全な反応よね?』
「うっさい神楽」
『あーあー、どうせ私はフラれた身ですよー」
 小石を蹴りながら言う神楽。なんで部屋に小石あるのとかは気にしてはいけない。もちろん気にしてはいけない。
「で、何すりゃいいわけ? 仲の良さのアピールとか今さらなんだけど」
「そうだなぁ。キスさえ見せちまったし」
「……聡。それは言わなくていいでしょ」
「ん? そうか」
『うがああああああああああああああ!!』
「うおっ!? 神楽が壊れた!?」
 負のオーラ、全開。どうでもいいけど負とは負け犬のオーラの略ではない。絶対に違う。
『茜! 今からでもぶっ潰すわよあんたッ!』
「どうしたの神楽。おかしいのが加速した?」
『するでしょ普通!? そういうのちょっと遠慮しないの普通!? そりゃ私は論外っぽかったけどさぁ!』
「落ち着け神楽ぁ! せっかく本編でいい感じに終わったんだからそれで済ませとけって! それが一番だろ!? 人気下がるぞ!」
『どうせ人気投票なんかやらないからいいのよ別にー!』
「ちょ、司会暴走だからこれ! ストップ、ストップー! 幕を降ろせー!」
 強制終了。赤い垂れ幕の向こうから、神楽の怒声がしばらく続いていた。

 しばしの休憩を挟み、壇上に神楽だけが残った状態で幕が上がった。微妙に髪とか服とか乱れているけど。
『あー、長らくお待たせしましたー。つーかこの企画って本当に私は人選ミスじゃね? 絶対に私って向かないよね』
「んなの今さらだろー」
『合いの手うっさい。さて、と。それじゃあ、審査員による結果を発表するわよ! ちなみに審査したのは内緒だけど、ここの小説でモテなかった人たち!
 たとえば、金髪スナイパーとか、腕輪をつけた槍使いとか、そんなの!』
 心当たりのある人間は、壇の下で微妙にげんなり。
「ディル……、何してるんだ……」
「帰ったらイリスさんに報告しないと」
「ルード……」
「ん? ルードがどうかした?」
「いや、なんでもない」
 他の者も、表情を見る限りはだいたい予想がついているよう。一部の察しが悪いグループは除く。
『まずは第三位! ショウナミ!
 受賞理由はただの憐れみ!』
「憐れむくらいなら助けて欲しいんだけどなぁ……」
「何よ。不満があるってわけ?」
「そういうわけじゃないですけど……」
『素晴らしい主従関係ね! でもって第二位! グレイスディック!
 理由はなかなかの殺意だったので!』
「いや。これカップル決める大会だよにゃー? 殺意が審査基準とかおかしくないっすか?」
「ちっ。仕留めていれば一位だったか……」
「グレイスも冗談だよにゃー!? 本気じゃないよなん!?」
『そして! 栄光の第一位は、じゃじゃん!』
 テープも用意していないらしい。
『おめでとう! ジャックより、リナラルよ!』
「っておかしいだろそれ!? カップルどころか焼き殺されそうになったんだぞ!?」
『ちなみに受賞理由は、殺意が本物だったから』
「あくまで審査基準は殺意なの!?」
「良かったわねー、ラルス。でも不動の一位にするためにはトドメを刺さないとね」
「要らないでしょそれ! というか審査基準がおかしいと思いますっ!」
『手伝うわリナ』
「ありがとう。魔法って炎矢が出せるのよねー、便利だわ」
「って神楽にゃ何もしてないよっ!? なんでここまで殺されかけてんのオレ!?」
 壇上で暴れまわる三者。下で見ている連中は止めるどころかはやしたてる者まで。
「いいわよー、どんどんやっちゃえー!」
「ケンカと祭は派手な方がいいって誰か言ってたもんな!」
「どうでもいいが、こっちに飛ばすな。迷惑だぞ」
 ぴゅんぴゅん炎矢が飛んでいても、だいたい大丈夫な戦闘力を持つ人ばかり。部屋そのものも暴れる前提で頑丈なので、特に問題もなく。
「凄いね、これ……。アンジェラ、止めなくていいの?」
 その中でほとんど唯一と言っていいほどの一般人、紅葉は隣の女の子に問いかけた。
「いいじゃん、ほっとけって。どうせリナも神楽も彼氏がいないからって気が立ってるんだから。つーか紅葉さん、彼女と来ればよかったんじゃないの?」
「それは僕も思うんだけどね、村野君。招待状が来たの、アンジェラのところだしさ……」
 ちなみに招待状は各作品主人公に送られております。
「そのせいで僕も困ったよ。隊長は誘えないし」
 ため息するフレーゼ。その脇のラナスはいつも通りの無表情で、
「それはわたしでは不満だったということですか?」
「ううん、そういうのじゃないよ。でも、ラナスちゃんも……、まあ隊長も、恋人って感じじゃないしさ」
「それは、その通りですね」
「いやいや、世の中って何があるかわかんないすよー。家族同然なのに、ある日、相手が異性である事を意識する! なんて展開、漫画じゃよくある話だし」
 にやにや笑いが止まらないヒカル。本物の恋人持ちは余裕が違う。
「家族は家族だよ。ねえ、ラナスちゃん?」
「そうですね」
「んだよつまんないー」
「ヒカルさん……」
 苦笑する恋人。何も言わないのは気が弱いのかヒカルに弱いのか。
 そんなカオス空間の中で、ひとり押し黙っていた夜空色の少女は、ふっと口を開く。
「紅葉。ちょっと行ってくるわ」
「え? あ、うん、どこに?」
 チリン――
 返事をする間もなく、アンジェラは姿を消す。現われた場所は壇上、神楽たちの目の前。
「ストップよ、神楽。リナ。ラルス」
「オレは好きでやってたわけじゃないんだけど……」
「何よ、アンジェラ。ラルスをかばうの?」
 ふるふる、と首を横に振り、アンジェラはふたりを見上げる。
「クリスマスって、希望なの」
「は?」
 しん、と会場が静まり返る。その中を、アンジェラの声が朗々と響き渡る。よく通る声だった。
「その昔。イエスと名づけられた救い主が生まれた時、人々は喜んだわ。これで自分も救われる。絶望しか存在しなかった彼らの中に、希望が生まれた。彼らの暗い人生の中に、初めて光が生まれた。
 クリスマスは、別に恋人のための一日だとは思わない。希望が生まれた日。その事実に感謝する日だと思うの」
 反論は、誰からも出なかった。アンジェラは続ける。
「正確には神の子の誕生日ではないわね。けれど、それでもこの一日は、救われぬ者のためにこそ存在すると。そう信じたい。
 ――なんて。受け売りなんだけどね?」
 ぺろ、と小さく赤い舌を出したアンジェラは、外見相応の年齢に見えた。
「っかー! アンジェラ可愛いわねー!」
 壇の下で叫んだのは、ナミ。それがきっかけとなり、静まり返っていた会場に音が戻ってくる。
「なんで恋人いなきゃ駄目みたいな感じなんだろうな?」
「さあ? 俺にはわからないな」
「別にいらないんじゃ? というか、ここにいる中で本当にカップルなのは村野君たちと橋本君たちだけじゃない」
「目立つから優先されるんじゃないかな。クリスマスにデートする人が多いから街中でいつもより増えるし」
 ワイワイガヤガヤ。元より一人を除いて冗談だっただけに、和やかな空気が流れる。
「どう、神楽。まだ不満かしら?」
『なによー。これじゃ、私が悪役みたいじゃない』
「んなのわかりきって『ゴッ、チューン――!』」
 先の音はマイクが聡の頭をぶち抜いた音、後の音はただの雑音。
 マイクをぶん投げた張本人はため息。
「まあ、今日のところは許してあげる。リナ、ラルス」
 優勝者のふたりに声をかけた神楽は、コキコキと首を鳴らしながら、
「あー、かなりいい加減な結果とは言っても一応はあんたらが優勝だし、商品をあげるわ。つってもたいしたものじゃないんだけどね?」
「商品? 何それ?」
「ああ、これ」
 神楽は制服のポケットに手を突っ込むと、小さな箱を取り出した。
 ひょいと手渡された箱を、リナはいぶかしがりながらも、ゆっくりと開く。
「あ、これ……」
「うん? 指輪だね。ペアの」
 ふたりはさっそくペアリングをはめてみた。少し大きめだったが、何かの魔法でもかかっているのか、自然とぴったりのサイズになる。
「ちなみにその指輪、どっちも仕掛けがあるの。リナ、ちょっと指輪を引っかいてみて?」
「うん? こう、かな?」
 カリッと引っかく。途端、
「うぐおっ!?」
 バチンとラルスが跳ね飛んだ。リナは特に慌てもせず呆れた視線で、
「何してんの、あんた」
「い、今、指に……」
 見れば、指のところからちょっと煙が。
「マジックスタンガン装備です」
「無意味な装備!」
「ちなみに科学技術によって位置情報を割り出す装置も取り付けてみました」
「ただの監視装置!?」
 すぐさま指輪を外すラルス。捨てないのは良心か。
「いいわね、これ。気に入ったわ」
「オレはちっともよくない……」
「まあまあ。細かい事は気にしない!」
 細かくはない。
 さて、と神楽は全員を見渡し、
「それじゃあ後は自由! 食べるなり踊るなり戦うなり、好きにしてちょーだい! クリスマスパーティーはこれからよっ!」
「おー、やっと食っていいのかぁ」
「ヒカルさん、まずは手を洗いましょう」
「お茶はどう? この葉っぱは僕が持ってきたんだけど」
「頂きます」
「私も頂ける?」
「ああ、俺にもくれるか」
「あ、ヴァルゴが飲むなら私もー!」
「あんたはお茶よりジュースのほうがいいんじゃない?」
「そういうナミさんが手にしているのはお酒のように見えるんですが」
「お堅いことは言いっこなしにゃん」
「そうそう、それよりショウも飲みなさい」
「いや、俺はお酒は遠慮しておきます。ナミさん連れ帰らないとだし」
「オレは酒より飯だな、飯」
「へえ、この茶、美味しいな」
「当然です。フレーゼさんの育てた葉ですから」
「なんでラナスが胸を張るの?」
「ほら、聡、いつまで寝てんのよ」
「ちょっ、宮野さん、蹴り起こすのは……」
「うがっ!? いったー……、な、何事だ!?」
「乱暴ねー。女の子なんだからしとやかにしなさいよ。スカートん中、見えるわよ」
「それをリナが言うの!?」
「あたしは下もはいてるし」
「そういう問題なわけ? それに私はいいの、聡相手なら」
「バカップルめ」
「バカは聡だけよ」
「っかー! 成績いいヤツは余裕だな!」
「いいよなぁ。オレなんて成績ギリギリだぞ」
「橋本君はもう少し勉強してもいいかもね」
「そうですよ。教えられるにも限度がありますし……」
「なんだ。違う世界の人間に教えて貰っているのか?」
「あ、いや、まあ、それはその……はっはっは」
「笑って誤魔化していないかしら?」
「気のせい気のせい」
「勉強よりか大切なことは一杯あるっすよー」
「でも勉強が大切じゃないということにはならないんだよねぇ」
「うぐっ――」
「聡も帰ったらヤバイんじゃない?」
「う、うるせえ!」
 神楽の散会を合図に、めいめい食事に向かったり歓談したり。
 それぞれの時間を過ごしながら、聖夜は更けていく。



 メリークリスマス!



戻る