|
世の中には不思議なんていくらでもある。 ことこの空間は、それが顕著だった。 本来ならルールも法則も、ありとあらゆるものが違う各々の世界。とある世界では魔法が栄え、あるいは機械兵器が荒野を闊歩し、また別の世界では死人が堂々と町を歩く。 そんな、明らかに一箇所に集まれるはずのない、まったく異なる世界の人間が共存できる唯一の空間。それこそが、このお気楽異次元空間だった。 そんなハチャメチャ空間に、集まっている数名の男女がいる。 ヴァルゴ・オフィユカス。 村野聡。 ショウ。 橋本ヒカル。 フレーゼ・ハイブリーダ。 リナ=ミサキ。 グレイス・フェイリアー。 アンジェラ・ウェーバー。 そして、カズマ=クライフォード。 思想も思考も生き様も見てきたものも趣味も特技もバラバラの九人。彼らの共通点は、ただひとつ。 すなわち――主人公。 「なんか今日は前置き長くね? そろそろ飽きたぞ、俺は」 聡はふわ、とあくびをひとつ。黒髪の、なかなかの整った顔立ちを持つ少年。彼の世界では、黒髪とは高い魔力を持つ者の証だ。 「たまにはいいだろう、こういったものも。改めて言われると、なるほど、確かにメチャクチャだ」 応じたのはヴァルゴ。真紅のバンダナを頭に巻いた、旅人風の格好をしている。手の甲には緑色の紋章が刻まれていた。 「魔法系の人たちはいいですよ。僕なんて魔法はさっぱりだから、肩身が狭い」 気弱な声を発したのはフレーゼ。繊細な顔つきと華奢な体は、とても運動が得意であるようには見えない。 「それ言ったらポケモンなんていうイレギュラーはどうすれば……」 ちょっと困った顔をしたのはショウ。このメンバーの中でただひとり、白衣を着ている。 「まあまあ、細かいことなんか気にしないの!」 からからと笑ったのは、ショートヘアの少女・リナ。女性ではあるが、体のラインに女性らしさは見当たらない。 「そうそう。魔法を使う人間はちょっと多めだけど、じゃあそいつらで話が合うかって言ったら、やっぱ合うわけじゃないからな」 銀色の腕輪を輝かせながら肩をすくめたのは、ヒカル。ごく平凡な高校生である。 「オレには魔法も超能力も違いがわからねーしな」 女性の声で男性的な話し方をしているのはグレイス。今日は鎧をつけていないが、普段の生活もあってやはり女性らしいラインはない。 「――カズマ。どうしたの?」 部屋の隅にいる少年に問いかけたのは、アンジェラ。黒髪と夜空色のワンピースがトレードマークの人外である。 問いかけられたタンクトップ姿の少年は頬をかいた。 「あー、いや、なんてーか、オレってここ初めてなんだよな」 「そういやそうだな。お前が入ったのって先月だったし」 「だからさ、なんというか、慣れないわな。やっぱ」 「なら、ちょうどいい。新人に説明してやればいいじゃないか」 ヴァルゴの提案に、それぞれ顔を見合わせる。 「説明って、焔色をか?」 「俺たちの事も焔色の事も。もう三年も経つんだ、色々とあっただろう」 「あー、もうそんなになるのか」 光陰矢のごとし。月日が経つのは思いのほか早いものだ。 「じゃ、カズマのために説明といこーじゃねーか。ま、オレも言うほど知らないしな。えーと、最初は誰だ?」 「最初に焔色に入ったのは俺とヴァルゴだったな」 バンダナ青年に目をやったのは聡。ヴァルゴも頷き、 「元は別の場所で公開されていた小説が俺たちの話だった。けれどそこでいくつも出すのは悪いと思い、作られたスペースがこの場所――焔色の夕凪だな」 「もっとも、俺の方はヴァルゴとはちょいと事情が違うけどな。ヴァルゴはほとんど手を加えないままに、俺の方は完全な新作として登場した」 「始まった当初は今のようにテーブルタグも使っていなかったから、かなり見難い部分もあっただろう」 「なんつーか、全体的に見易さってものを考えてなかったよな。それが八月に修正された、と」 「その後、しばらくは俺たちだけしかいなかった。新しく入ったのはショウだったよな?」 「そうだね」 こくんと頷いた研究助手は遠い昔を思い出すように、 「夏、というか正確には夏休みに合うように公開が始まったのが『GO!』だね。ヴァルゴとは入れ替わりだったよ」 「んでもって、続いてアンジェラが俺と入れ替わりに入った」 聡に指され、アンジェラは軽く前に出た。 「アンジェラは凄いよね。今も続いているんだから」 「長編ではなく一話にて完結している、という点が大きいわね。長編であればここまで長くは続けられないもの」 「アンジェラも設定は話しながら少しずつ変わっていってるよね」 「ええ。当初は変魂なんていう発想もなかったくらいだもの。あれはケイを活かすためのものだから」 「ケイが登場するって決まったのが数話やった後だもんね」 補足すると、アンジェラが登場する『夜空の鈴』では、最初の三話でおおよその世界観説明を行ってしまっている。その時点で変魂の話が出ないのは、その時点でまだケイが登場する予定がなく、変魂という存在もなかったため、と言える。 「アンジェラが公開してちょっとして、また俺の出番なわけだな!」 「聡は二部構成の珍しいタイプだからね。前の話でやりきりたかったものができなかったんだっけ?」 「そうそう。特にクロウのあたりの話だな。結局、後の話でも匂わせるだけで終わっちまったんだけどさ、要するに『紋章伝』『竜神の使徒』『Lord』の三話は微妙に繋がりがあるって事なんだよな」 「こっちでは敵役だったロキの息子がそっちの主人公の片割れ。竜神の人間、というか簡単に言えばヒカルが作った世界がそっち、という話だったか」 と、ここでカズマは首を傾げた。 「ちょっと待ってくれよ。その時点じゃまだ竜神のりの字も出てないぜ」 「そこでオレの出番ってわけだな!」 ずい、と前に出たのは、渦中の人物、ヒカルだった。 「実はオレ、ヴァルゴと同じとこで公開してる小説を元に作られてるんだよ。なんかいない奴は増えてるし逆に減った奴も多いけどな」 「じゃあ、基本は変わらないわけか?」 「オレが主人公ってのは変わらないな。他にも細々と同じ点はあるけど、違う点も多い。元になっただけの、完全な別の話って言えるな」 「小説の方はしばらく竜神と夜空だけになって……、竜神と入れ替わりに入ったのが僕たち」 「夏の新作ね。公開期間を夏休みに限ったから、トップに表示されていたのはたった二ヶ月弱だけれど」 「……あは、は。おかげで影が薄いよ」 「あんたの影が薄いのは別の理由じゃないのぉ? ま、そんな情けないフレーゼに続いて入ったのがあたし、リナ=ミサキ!」 「『ミス・ジャック』か。秋から冬にかけての登場だったな。そして、長編主人公として初の女性でもあった」 「その理由はオレも知ってるぜ。要するにここがむさかったからだよな」 「……そんな理由なワケ?」 と、ヒカルはげんなりするリナに視線を走らせ 「なんだ。リナは知らなかったのか? ここで季節物が追加されたのは最初の年の十月、ハロウィンだ。その後もちょこちょこ追加はあったけど、主人公が集まるとアンジェラの紅一点状態。だから追加として女の子が主人公になったんだよ」 「じゃ、じゃあ下手したらあたしは男だったわけ!?」 「今でもたいして変わらなふぐはぁっ!?」 橋本ヒカル、ノックダウン。勝者、リナ=ミサキ。 「胸で女を区別する奴は死ねばいいのよ」 「その意見には同意するぜぇ」 ここでようやくの登場となったのが、『幻想騎士譚』の主、グレイス・フェイリアーだ。 「グレイスは僕と違って登場期間が長かったよね。ほぼ一年、最長じゃないかな?」 「実際に最長だよ。もっとも、そこまで続けるつもりはなかったらしいけどね。作者のリアルが忙しくて、新しい原稿に手をつける暇がなかったってのが大きいと思う」 「最後の方はなんとなくダレてた気がするしな」 「大きなお世話だよバーカ。二部構成に言われる筋合いはねえ」 バチンと弾ける火花。その間に、カズマが割って入る。 「まあまあ、やめとけって。そんでもってようやく今年、つまりはオレの出番というわけだな」 聡は若干の不満をにじませながらも、 「カズマは一人称小説だったよな。俺たちはアンジェラ除きゃ全員が三人称だった。けど、お前は一人称。そのせいでやりにくい事も多いんじゃないのか?」 「だろうと思うぜ。なにせオレ視点なものだから、言えない部分が山ほどだ。ま、そんなのは想像しといてくれってわけで頼むよ」 「逆に一人称だから誤魔化せているところもありそうだしな。ま、そこんところは一長一短か」 「そういうこった。と、焔色の歴史はそんなとこか? やけに長かったが」 「もうちょっとだけあるな。だろ、アンジェラ?」 話を振られ、アンジェラは微妙に嫌そうな表情。 「……? まだ何かあるのか?」 「ええ、あるわよ。とても話したくないと言うか、私は思い出したくないのだけれども?」 「なーに言ってんだ。可愛かったぜ、あれ」 「そうだよね。中身は今と大差ないし」 「普段からオシャレしないからいけないのよ。あたしがヒラヒラ着せてあげましょーかー?」 「断固拒否するわ」 ぱちぱちと目をしばたかせ、カズマはアンジェラを見やる。 「えーと、どういうこった?」 アンジェラは不満げに、 「『夜空の鈴』にはパラレルストーリーが存在するわ。その名も『魔法少女☆死喰いちゃん』」 「ま、まほーしょーじょ」 アンジェラはどこか開き直ったように、 「そう。魔法少女よ。元は著者が友人と話している時にちょっとばかり出た冗談のような話題だったわね?」 「そんな感じだな。クールで冷静、およそ子供らしくない子供、しかしてその正体は! 町の平和を守る可憐な魔法少女だった!」 「やめて」 「なんで。いーじゃんかよ。そっちなんか大人気の三部構成だろ?」 「別に人気を推し量ったわけではないわ。単純な趣味と冗談の産物よ」 「つーか人気投票とかした事ないしな。実際、俺たちにどう人気があって、そもそも面白いと思ってもらった奴がいるのかって事さえ不明、と」 「それでも続けるのか?」 問われ、一同はにんまりと笑顔を見せた。 『当然ッ!』 「文章が下手だからダメというのであれば、俺は存在意義をなくす」 「作者の自己満足がダメじゃ二部構成なんてできねーっての」 「二次創作厳禁じゃ俺たちに出番はなかった」 「厨二くせえのがダメじゃ竜神なんてやってらんないよ」 「SFとさえ言えない幼稚さがダメなら、僕は死ぬしかない」 「女主人公が下手って言われてもあたしはいるのよ!」 「無駄に長かろうがダレていようがオレはオレだ」 「個々の質がバラバラでも、どの話にも大切な命が関わっていたわ」 各々の開き直ったその表情には、後悔の色はない。それぞれがそれぞれで全力を出し、楽しみ、戦い、勝ち取った結末を胸に抱いている。 「さって、次はお前の番だぜ、カズマ=クライフォード。やれる事は今の間にやっとけ。でないと後悔したって遅いぜ?」 「時間は無限じゃない。有限だよ。だからこそ、その間にできることをやらなきゃいけない」 「望む結末を得られるように努力をする。想いは通せる」 「完全というわけにはいかないだろう。だからと言って、不完全だから無価値というわけではない」 「元より物語に完全性などというものは存在しない。完全な物語とは何を指して言うのかしら?」 「全員が面白いなんて不可能! ひとりでも面白きゃそれで十二分っ!」 「作者が面白がっている間は、ひとりが消えることはないもんな」 「つーわけだ。お前にゃ後ろがいる。安心して、ぶちかまして来いよ。カズマ!」 作品の枠さえ超えた仲間に激励され、カズマは自然、頬が緩んだ。 パン、と自らの頬を叩き、仲間たちに背を向ける。 「オッケー。後は任せろ。オレが決めてやるよッ!!」 『なみだのしずく』を知るために。 カズマ=クライフォードの旅が始まる。 |