「4年か……」
 広く、天井も高い部屋だった。部屋の中心に大きな円卓が置かれ、その周囲を囲むようにして十脚の椅子が置かれている。
 それぞれの椅子には、総じて若い外見の者たちが座っていた。彼らの共通点はひとつ、誰もが物語の中心人物として、大きな事件の渦に巻き込まれたということ。
「長いような短いような、だな」
「主人公を張ってれば短いつってもいいんだけどさー、そうでもないと長いな」
「あんたは十ヶ月もやってたでしょうが」
 そこにいるのは、焔色の主人公ズ。
 四周年記念主人公座談会。ぶっちゃけ主人公たちを集めただけの予定なし無茶振りだべり場である。
「で、話のテーマとかないのか」
「別に何も」
「何も!?」
 実際、なーんもない。特定の季節ならば季節ネタもあろうが、節分が過ぎたばかりという、なんとも中途半端な時期。
「じゃ、何の話をしようか」
「あー、それなら、自己紹介……、ならぬ、自話紹介とか」
 提案したのはカズマ。冬場だというのに相変わらず寒々しい格好をしている。
「自話紹介? 自分の話を紹介しろってこと?」
「そう。去年は全体の流れを話したんだから、今年はそれぞれの話、とか」
「それぞれの話ねぇ……。だったらまずはヴァルゴから、かな」
「お、俺か!?」
 トップバッター。責任重大な仕事である。
「なんだか余計にプレッシャーをかけられた気がするな……」
 重い息を吐くバンダナ青年。それでも振られた以上、断ることができない。強い割には流されやすい性格である。
「『紋章伝』。作者が初めて書いた小説だけあって、そこまで考え込んで作った話じゃないな。その場の流れだけで話を作っている」
「それで完結したんだからたいしたもんだな」
「他の連中も大差ないと思うけどな。慣れていない時期の話であるため、色々とバランスが悪い。女性が描けないせいで登場人物の大半は男だし、存在もありきたりだ」
「ありきたり論は全員に跳ねかえるからやめろ。んで、次は『ロード』……、つまり俺だな」
 ロードシリーズにおいて一貫して主人公。天才少年・村野聡が名を挙げる。
「確か前にも話したけど、焔色では珍しい二部構成だ。つっても、前は前で完結しているんだが」
「新藤さんも主人公の一緒なんだよね」
「俺が表なら先生は裏って感じだな。いまだに作者の中でもイメージが浮かぶくらいだし、他よりも得意な世界観なんだろうな」
「六つの属性がある魔法に、得意と不得意。似た世界で竜神が描けたわけだし、キャラ的にも適した世界だったんだろうね」
「そうそう。んで、『竜神』に移ると」
 視線が橋本ヒカルに移る。永遠の受験生は多くの視線に慣れない顔をしながら、
「オレのとこまで来て、ようやくプロットってもんを作り出したんだよな。話の流れそのものは前に書いたもんの焼き直しだけど」
「細々と違う点はあるけど、大筋では一緒だったんだっけ」
「そうそう。とまあ……、そんなに秘話とかないんだけど、オレは」
 なにせもう何度か話している内容なので。
 ならば他の連中は、となると。
「そういえば『ポケモンシリーズ』からはショウさんが来てるんだ。ナミさんでなく」
「あ、ああ、うん……。今日は帰りたくないよ……」
 誤解を受けかねない発言である。
「そっちもまた異色よねー。二次創作なんて、長編じゃあんたらだけじゃない」
「まあ、物語の主たる部分はオリジナルキャラだけどね。ポケモンそのものは作者が描いてみたかった世界観だし、必然とも言えるかな」
「だいぶ時間を置いてから『Will ! ! 』ができたよな」
「あれも本当はもう少し早く完成する予定だったんだけどね。
 元々、ポケモンストーリーとして俺の物語は不完全燃焼で、次を作るつもりはあったらしいんだ。その時の主人公もナミさんでなく、新しい人になる予定だったんだけど……」
「けど?」
「いくらなんでも、あの扱いじゃナミさんがかわいそうかなって思ったらしいね」
「そんでバトルフロンティアが舞台になったってわけだ」
「そういうこと。物語としても、もう少し時間経過を描きたかったらしいけど、失敗したみたいだね」
 不幸な話である。
「『ふらわー』ではSFに挑戦したのよね?」
 話の矛先がフレーゼに向く。気弱な黒髪少年はどこか恥ずかしげに、
「SFって言えるほどじゃないけどね。テーマはそんな感じだった」
「時代的には超遠未来……、今の文明がリセットされつつ、局所的に残った世界だったよな」
「荒廃した世界だね。具体的な描写じゃよくわからないと思うけど、現存するのは深い森か広野のどっちかで、土壌は汚染されているんだ。改善されつつあるんだけど」
「これは『ふらわー』に限らないけど、基本的に悪役は道化が多いよな。親父だってそうだし、ユールフォビアだって結果的には無駄に戦死者を出しただけじゃんか」
 聡の言葉に反論できる者は少ない。空回りしがちなのが焔色における悪党の宿命だ。
「空回りっていえば『ジャック』のシャルルもそうだよな」
 話を振られ、リナは目をぱちぱちさせた。薄い胸が特徴のショート娘だ。
「まあ、ね。無意味なことをしていたって意味ではそうだけど、物語のテーマからすれば、シャルルの存在自体がオマケみたいなものなのよね」
「親玉がオマケとは恐れ入るな」
「だって実際にそうだもん。執筆中のテーマは『救われない弱者を救う存在』で、要するにメイがテーマそのものなのよね」
「救われない弱者?」
「そ。いじめられっこ、中途障害者に先天的な病気を持つ人。誰もが自分じゃどうにもならない理由で虐げられる。そんな人に反撃する力を与える人がいたらどうだろうって話なのよ」
「構成的にもチャレンジしてるよな。女が主人公で、メインも女だろ?」
「そりゃあんたもでしょうが、グレイス」
 反撃され、女騎士グレイスは言葉に詰まる。
「グレイスの話も変わっているよね。女主人公で、仲間は男性って」
「イメージは女性向けの恋愛シミュレーションだそうだ。失敗して男子校みたいになったけどな」
「それはお前に女性らしさが足りないせいじゃないのか」
「なんか言ったか、ヴァルゴ」
「いや何も」
「……。んで、オレたちの最初のイメージはディック――暗黒騎士なんだよな」
「暗黒が好きってあたり、作者の人間性が知れるな」
 好きなんだからしょうがない。
「構成も、最初はディックから始めて、第五章でようやくオレが出る予定だったんだが」
「やっぱり主人公がいないとまずいって?」
「いや、周年記念にオレの登場が間に合わなかったんだ。
 だから急遽変更、それぞれの話は各章の間に挟むことになった」
「そんで話の繋がりが不自然なのか」
 何事も予定通りに進むとは限らない世の中である。
「なんだかんだで、長くなったのもそのへんが理由だな。その点、『なみだ』は予定に近かったんじゃないか?」
「らしいな。最初からオレは死ぬ予定だったっていうんだから、酷い話だよな」
「でも、貴方は生きている」
「いや……、つまりさ、『死んだって敗北じゃない』って状況を描きたかったらしいんだよ。オレの負けは負けだけど、それは次に繋がる負けってことだろ? そういう感じが好きらしいんだ」
「いかにも、ね」
 さすがこの作者から生まれる主人公たちである。なんだかんだで、誰もが性格悪い。
「呪文の形式も変わってるよな。オレたちの知っている魔法はだいたい似通った感じだけど、お前らのって平仮名じゃん?」
「ありゃ『とかげのしっぽ』から始めたからな。『とかげ』が炎の魔法なら、水の魔法はどうなるんだろう、と。そうやって派生していって、魔法体系ができたわけだ」
「そんなあっさり作っちまうんだから、適当だよなぁ……」
「そりゃお前らの魔法だって同じだろうが」
 なんだかんだ言いつつも、こんなものである。そんなに真面目に作ってなんかいられないライフワーク。
「まだ紹介してないのは……、アンジェラだけか? そういや今日はおとなしいな」
「そう?」
 机からちょこんと頭が出ている少女。『夜空』のアンジェラは、いつも通りの冷たい眼差しで見返す。
「もしかして背が足りなくて顔が出ないから?」
「……そんなことは全くないわ、リナ=ミサキ」
「ああ、そういうわけなのね」
 ちょっと目つきが鋭くなるが、アンジェラと付き合いの長い連中はそんなの気にしない。
「アンジェラって物凄く特殊よね。キャラ的にも」
「裏を返せば、私がいたから他に真似できない、ということでもあるわ」
「ああ、なるほどね。アンジェラの話はずっと続くから、どうあがいても引きずられちゃうわけか」
「そう。それでも、ラナスなどとは近しいものを感じるわ」
「クールっていえばクールだけど……、似てる、かなぁ?」
 そのあたりは主観の問題だろうか。
「夜空っていえば、キャラの数でも最高だよね。長さも相当だけど」
「普通に長編にしたら、それだけで何本になっちまうからな」
「私たちの話の特徴を挙げるとするなら、それは貴方たち以上に人の心、生きるという事を主題にしている点にある。貴方たちが戦いの中で見つけるものを、平和なる日本の中で生きる人は、平凡な毎日の中で見つけねばならない」
「生きるってことは割と色々なところで絡んできているけど、そのものがテーマなのはやっぱり『夜空』が一番、かな」
「逆に言やあ、『夜空』があるから、他は生きるってのをメインテーマに置かないようにしてるとも言えるわな」
「迷惑だったかしら……?」
 別にアンジェラのせいじゃない。
 さらに言えば誰も迷惑していない。基本的に好き勝手をしている連中である。
「お話としては一話完結をいまだに貫いているんだよね。番外編で中編くらいの長さはやったけど」
「あのお話は、皆が表に登場するためのお話。『夜空の鈴』に登場する人物の大半は紅葉と繋がりがあるわ。いえ、あのお話を作るために繋がった、と言ってもいいかもしれない」
「そういう意味では、遠藤紅葉も主人公の一人のようなものなんだな」
「そうね……。天才であり、特別な能力を持つ青年。いうなれば、ここにいる主人公勢と同じね」
 言われてみれば、無駄に天才の多い空間である。ヴァルゴも聡もショウもフレーゼもある種の天才。ヒカルだってグレイスだってカズマだって特別な力を持っているわけだし。アンジェラは言わずもがな。むしろ才能がないのがリナだけだ。
「なーんか、さっきから殺意が湧くのよね……。気のせいかしら」
「気のせいだと思うわ」
 ふん、と鼻を鳴らし、リナはあごで青年を指す。
「だいたい才能がないのはあたしだけじゃないわよ。そこに座っている兄ちゃんだってそうじゃない」
 全員の視線が一人の男に集まった。
 焔色の中では最も新参の部類。『ヘルメス』の雨雲京介。
「僕はそもそもバトル屋じゃない。戦い専門の連中と同じ扱いを受けても困るね」
「焔色のいる時点で戦いを避けるとかいう選択肢がないわよ。だいたい、あんたの連れは戦ってるじゃない」
「日向は護衛のようなものだ。護衛が必要というのは、すなわち自分だけの力で自分の身を守れないということを意味する」
「ごちゃごちゃとうっせーなー。要するにケンカはできないってことなんだろ」
「……単純な構造の頭脳だね」
「お前が難しく考えすぎなんだっての」
 単純な話を難しくするのは彼の得意技である。
「『ヘルメス』のコンセプトは、戦闘力ではない方法で戦うことにある。日向たちのように武力を持つならそれでいい、戦って勝ち負けが決まる。だが、それだけでは、圧倒的な強者には一切、勝つ目がない。
 たとえば村野。君が父親と一対一で対戦になった時、君が勝つ方法はどれくらいある?」
「あー……、あんましない、な。そりゃあ」
 彼の父親は腐ってもマジック・マスターの称号を持つ実力者。世界でも有数の能力者を相手に、聡ではいかんともしがたい。
「僕の話というのは、それこそミサキと似たようなものってわけだ。戦闘力では下の下でしかない人間が、工夫と発想だけで戦う。その手練手管を楽しむものだよ」
「お前、適当に丸めこんでいるだけじゃねーか。しかも雪乃の手を借りて」
「その点、否定はできないけどね」
 実際、武力なしで何かをなすのは難しいことなのだ。
「そういえば、『ヘルメス』って変わったタイトルだね?」
「そうかな?」
「ま、他のタイトルはなんたらのなんちゃらー、って感じが多いし、そうでなくとも何が言いたいのか、だいたいわかるからな」
「実際、あのタイトルは適当らしいからね。公開する直前になって仮決めのタイトルしか存在しないことに気付いたというのだから、まったく馬鹿げた話だよ」
「阿呆か……」
 面目ない。
「まあ、強引にでも、それらしいタイトルになるよう話も持っていくんじゃないのか? 僕は知らないがね」
「お前が知らなきゃ誰が知ってるってんだ」
「さてね。誰も知らない、だから未来も楽しむ要素がある。だろう、ウェーバー」
 話の矛先を受け、アンジェラは机の脇からぴょこんと頭を覗かせる。
「君も君で、少しばかり厄介な話に巻き込まれているようだしね」
「そうね。お互い様、といったところかしら? 戦わねば生きられない。ならば、戦う。生きるということ、その意味」
「ふん。まあ、せいぜい死なないようにしておくよ」
 片手を持ち上げ、雨雲京介は立ち上がる。
「それじゃ、お先に失礼するよ。僕はまだ敵が残っているのだからね」
 見送る者たち。すでに戦い終え、なお生きている者たち。
「手早く片付けてくるといい」
「少しは強くなれよー。男なら強くなんないとな!」
「戦争なんて馬鹿なことはすんなよ」
「武器の使い方、間違いないでね」
「おみやげ、よろしくねー」
「殺して解決はするなよ」
「意地を通さなきゃ男じゃないよな!」
「そういうものかな……。まあ、俺も人のことは言えないか」
「京介。待っているわ」
 雨雲京介は口元を歪め、空間を出ていく。
 物語は、佳境に迫る。





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