|
クリスマスなんて日がある。 キリストの誕生日だとか太陽神のなんちゃらとか細かなことは置いといて、日本では浮かれたお祭りをする日として一般的。 特に恋人同士ではそれが顕著で、なぜだか恋人と共に過ごさなきゃいけない、みたいな風潮もある。 別に誰が決めたわけでもないし法律にもそんな文面は一切、そりゃもう一切、存在していないのだが。恋人と過ごせば普通、そうでなければ負け組という風潮はいかがなものか。 「前口上なげーよ」 『ロードシリーズ』主人公、村野聡がぼやく。 円卓の周囲には、都合10人の男女が座っていた。卓の中央には小さなもみの木が飾られ、部屋は赤と緑の装飾で彩られている。 そんな明るい雰囲気の部屋なのに、円卓の周囲は微妙な空気が漂っていた。 「で、なに? 恋人と過ごせって? なら俺は帰るぞ」 「強気ね聡。殺すわよ」 毎年、この時期になるとピリピリしているのは『ミス・ジャック』の主人公でもあるリナ=ミサキ。彼女に恋人がいないのはその存在からして仕方ないといえばそうなのだが、基本的にその手の話題に触れるとなんか怒る。そりゃもう怒る。 「んなくだらないことでいちいち腹を立ててたらキリがないんじゃないのか」 余計なこと言ってリナににらまれたのは、『なみだのしずく』の主人公、カズマ=クライフォード。恋人がいる彼にはそうでない人の気持はわからないのだ。 「だが、カズマの言葉にも一理あるだろう。こと寿命のない人間に恋愛は無縁というか、無意味だ」 同調したのはヴァルゴ・オフィユカス。デリカシーの欠片さえ持ち合わせない彼は『紋章伝』の主人公だ。 「無意味ってことはないと思うけど……」 いまいち語尾も押しも弱いのはフレーゼ・ハイブリーダ。頼りなげな外見の彼は、これで『えくすぺくてぃぶ ふらわー?』では敵部隊を退けていたのだから、なんともはや。 「そうそう。特別な人がいるのといないのとじゃ、力の入りようも違うってな」 お気楽に言う永遠の高校生、橋本ヒカル。『竜神の使徒』の主人公である。 「んー、まあ、守るもんはあったほうがいいな」 男性口調で話したこの女性はグレイス・フェイリアー。色気より食い気な『幻想騎士譚』の女主人公。 「そうねえ、日常にも張り合いは出るかも」 うなずいたのはここでは初お目見え、『それでも。』のエリア・ダルクハルト。今日も今日とておしゃれとは無縁の格好をしている。 「恋路によって生きられる人も多々いるわ」 テーブルから頭だけがのぞいているのはアンジェラ・ウェーバー。言わずと知れた『夜空の鈴』の主人公(?)である。 沈黙を保っているのは『ヘルメス』の雨雲京介。自分は関係ないとばかりに目を閉じていた。 そんな京介の態度が気にさわったのか、リナは柳眉を逆立てる。 「ちょっと京介、あんたはどっち派なのよ」 「どちらというのは?」 「恋人がいたほうがいい派か、いなくてもいいや派か」 「哲学的な問いかけだね」 そうだろうか。 京介は肩をすくめ、 「人間だって動物ではある以上、恋愛はともかく、異性を求めるのは当然のことだ。それが種の保存につながるからね。 だが、ここにいるメンバーの中には、そういった心配がいらない者もいる。具体的に名前を挙げるなら、ヴァルゴ、リナ、アンジェラの三人だ。なにせこの三人には寿命がない。 寿命がないということは種族を生かすということに関して悩む必要は一切ない。自分が生きているからだ。そういう意味では、この三人だけは異性を求める感情が欠落していてもおかしくない」 「何が言いたいわけ」 「精神的な側面を抜きにすれば、君は恋人がいなくても困らないだろうという数論だよ」 「そこ抜いたら意味ないでしょうが!?」 バン、と机を叩くリナを見つめるその視線が、なんとなくあざけりを含んでいる気がする。 「この僕に精神的な支えというものを解説して意味があるとでも?」 がくっ、とリナから力が抜けた。 「そ、そりゃそうね。あんたにゃ人間性ってものがないもんね」 「それは失礼な誤解というものだ。僕だって人間である以上、人間的な精神構造というものは理解している。単に僕のそれが少しばかり他の人とずれるというだけの話だ」 「自覚あるんじゃねーか」 誰かがちゃちゃを入れたが、京介は反論しなかった。 「っかー、もう! ここにゃ恋人持ちかボンクラしかいないわけ!?」 「恋人持ちが4人だな」 「そういうのに興味なさそうなのが5人か」 カズマ、ヒカル、エリア、聡の4人には恋人がいる。 ヴァルゴや京介はそういうのに興味ないし、グレイスは精神的にそこまでいたっておらず、フレーゼは家族のほうが大事な性分。アンジェラは以下略。 「最悪のメンバーだわ」 「悪ってなんだ、悪って。仮にも主人公メンバーつかまえといて」 「あたしが集めたわけじゃないし、京介なんか悪党そのものじゃない」 その点において反対する者はいない。 「まあ、最悪なのは今に始まったことじゃないからいいにしても、誰かしらあたしの気持を理解してくれるセンシティブな人はいないわけ?」 「つってもよ、恋人がいたからって何をすんだ?」 周囲は男子校状態のくせにそういう意識の低いグレイス。飛び出たのは割と素直な疑問である。 対するリナは少したじろぎ、 「そりゃあ、買い物したり、一緒にご飯食べたり、なんかそういうの」 「旅仲間はだいたい一緒に生活するけど、それって恋人か?」 「うぐ」 「僕も隊長とかラナスちゃんと一緒にご飯は食べるけど、恋人じゃないね」 「むぐ」 「宗也もそんなことを言っていたが、単純に聞く限りじゃ友人と恋人の境目はあいまいだね」 「むがー! あんたらどっちの味方よ!?」 少なくともリナと同じ悩みを持つ者がこの場にいない以上、味方はいないとしか答えられない。 「むむむ……。それでもあんたら健全な若者なわけ?」 リナは周囲をにらむが、 「私は若者ではないわ」 「俺もだ」 「誰が実年齢の話をしているか若年寄ども!」 素直ではない死導者と紋章使い。 「もー! もー! なんなのよあんたら!? もういい、あんたらに相談したあたしが馬鹿だったわ!」 「相談だったのか、あれは」 冷や汗たらり。ヴァルゴは思ったことを口にしすぎである。 リナはそんな朴念仁をキッとにらみ、 「っるさい! あたしもう帰る!」 怒りそのままの状態で異空間から飛び出していった。 「いいのかよ、ほっといて?」 「追いかけても無駄だろ。今のあいつは何も聞きゃしないさ。それに、俺やお前が行っても嫌味になるだけだぞ」 問いかけるヒカルに、聡が答える。彼の言う通り、恋人がいないという事実に悩まない彼らが追いかけても、余計に彼女を怒らせるだけのことである。 「でも、このまま捨て置くわけにゃいかないだろう」 「そうね、自棄になった人間が何をしでかすか。ましてや、一般人の持たざる能力を持つ彼女なれば、何が起きうるか。想像してみると、よい結果は思い当たらないわ」 さりげなくひどいことを言う。とはいえ、あながち間違いでもない。 はぁ、とため息ひとつ、 「仕方ない。捜索せざるをえないだろう」 代表するようにヴァルゴは言った。 〜 ほんでどうした 〜 「見つかるわけねー!」 「あきらめるの早いっ!?」 異次元パーチールームの外は、広大な草原。そりゃもう見渡す限りの草原。異次元なので最果てとかさえない。どこまでも続く平和そのものな光景。 んでもって、当然ながらこんなところを全力疾走されたなら、どこにいるやらわけわかめ。ぽつぽつと生えているモミの木がまた視界をさえぎって邪魔をする。 走り回って体力が尽きた聡は、草の上に大の字になって横たわる。 「アンジェラ! なんかこう、どうにかできないのか!?」 声をかけられた精神老人少女は眉根を寄せ、 「私は探知が苦手なの。せめてエルがいてくれれば……」 「それを言えば、茜でもいりゃあ、簡単に見つけられるんだろうけどよ」 「だったらよ、ヒカルがやればいいんじゃねーか。なんでもありなんだろ?」 「あ、そりゃそうだ」 ぽん、と手を打った高校三年生。聡はますます脱力する。 「できるんなら最初からやってくれ……」 「そうは言ってもなぁ。オレだって魔法とか使うの久しぶりだし」 そこは悲しい現代日本の高校生。現代では魔法を使うような異端者はいられないのだ。 えーと、などと、どこかぎこちない姿勢でポージング。 「理屈は……、まあいいや。よくわからん。『リナを探し出せ!』」 ヒカルの呼び声に従い、手のひらに光が生まれる。できた光球はふよふよと漂い、やがて明確な方向に動き出した。 「あっちだ!」 ずらずらずら。主人公ズは光の後を追っていく。 「見つけたらどうするの?」 フレーゼの問いかけに、 「暗殺するとか」 「能力を行使できない状況であれば殺すまでもないだろう」 物騒な発想しかできない無職と暗殺業。 「説得しようって発想はないのね」 「そのほうが手っ取り早い」 早ければいいというものでもないと思うのだが。 「だいたい、説得に応じるのかな」 先頭を歩くヒカルは首をかしげた。 「究極的にはリナの悩みを理解できないって点で同じだし。そういう人の説得には応じてくれないんじゃないのか?」 「……やっぱこれか」 剣を抜くグレイス。きらりと光る刃がまぶしい。 そんな馬鹿どもを眺め、そっと嘆息する黒少女がひとり。 「わかったわ、私が説得をしてみる」 「できんのか? 今日は死導じゃないぜ」 「生き様を導くこと、それが私の決めた、私の役割だから」 「そんじゃあ早速だけど頼むぜ」 ぴたり、とヒカルは足を止めた。みんながその後ろに並ぶ。視線の先には一本の大きなモミの木。 樹高は100メートル近いだろうか。もはや何の木かわからない大きさである。その樹上に、人影が見て取れた。 「高いな」 見上げた誰かがつぶやいた。それでもアンジェラならば関係ないが……、 「めんどくせえ」 グレイスの蹴り一発。狂獣の力を使ったもんだから、巨木が揺れる揺れる。でもって、 「うきゃあああああああ!?」 樹上のほうがよく揺れる。たまらず落っこちてきた人影を、ヒカルが受け止めた。 「は、はなしなさい!」 ばっ、とはなれたリナ。恨みがましい視線をみんなに向ける。 「何よ、あたしをあざわらいに来たわけ?」 「本当にそう思う?」 すっ、と音もなく前に出たのは、やはりアンジェラだった。 夜空色の死導者は、正面からリナを見つめる。 「ここにいる人間たちが、あなたを嘲笑するためだけにわざわざ探しに来たなどと、本当に考えられる?」 「むぐ……」 「ごめんなさい、私には貴女の悩みを実感することはできないわ。私は生きていないから」 けれど、と続ける。 「私は人と人のつながりまでも否定することはしない。それは私が最も尊いと、最も信じたものだから」 「だ、だから何よ」 「貴女も理解しているのではないかしら。人と人のつながり、その呼び名は様々なれど、その本質にあるものはひとつだということ」 そっと手を差し出す。無防備な平手。 「今宵はそういう夜よ。主イエス・キリストは人々に愛をとなえた。男女の愛ではなく隣人愛。身近に生きる人に手を差し伸べ、赦し、救いを与えるべきと言った。今日は、そんなキリストの生誕を祝う日なのよ」 「……そのくらい、わかってるわよ」 はーっ、と深く嘆息し、リナは手を伸ばす。 アンジェラもまたほほえみながら、その手を握ろうとして、 「つかまえた」 「え゛」 横合いから伸びた手。聡だった。 「もーうー逃がさないぜッ! 雷撃!」 「にゅわあああああああ!?」 ゼロ距離で魔法を放たれれば、いかに運動神経がぶっちぎってるリナでも回避不能。 「ふーはははははは!! さんっざんぱら引っかきまわしやがって! 今日という今日はお灸をすえてやんぜ!!」 「面白ぇ! そういうのなら付き合うぜ、聡!」 「ちょうど体がなまってたところだぜ!」 「にゃにおー! このあたしをなめんなー!!」 ぽかすか。バトル狂どもは即座に戦闘体勢。 「なんでこうなるのかなぁ」 「いいんじゃない? このほうが仲良くなれるんでしょ」 「人間の歴史そのものだな。争い、手を取り、また争う」 戦闘力ない組の人間は眺めるばかり。 一方、手を差し出した姿勢で固まっていたアンジェラは、くすっ、と笑みをこぼした。 「本当に、平和ね」 |