「そろそろ主人公の中の主人公を決めるべきじゃないだろうか」
「……は?」
 超越焔色空間。集まった11人の主人公たちは、円卓を囲んでいた。
 その中の一人、聡の発言に、みんなが目を丸くする。
「主人公の中の主人公、って?」
「いや、だからさ、ここの主人公も毎年、増えていくわけじゃん?」
「まあ、それはね。ここは続編を書くこと、あんまりないから」
「色々な設定とキャラクターを描くのが趣味みたいなやつだからなー、あいつ。その割には似通ったやつが多いけど」
「それは言わないお約束ってもんだろ。んで、11人、さらに増えるともなれば、この中にリーダーが必要なわけだ」
「ふむ、なるほどね。確かに、烏合の衆とも言うべきこのメンバーだ。集まる機会が年に何度かあるとするなら、それをまとめる役目もあっていいかもしれない」
 ずらりと居並ぶメンバー。その目が光る。
「だとすれば、リーダーはやっぱこの俺だよな! 俺がいっちゃん目立ってるし!」
 聡が高々と宣言すれば、
「それを言うならあたしよ! あたしはついこの前もメインになったし!」
 リナが対抗する。
「いやいや、俺の方が目立ってる! 俺の方が主人公臭がする!」
「男が看板なんてつとまらないわよ! どうせやるなら女の方が花があるでしょ!」
「小説で男女とか関係あるか!」
「……というか、決定するポイントってそこだけなわけ?」
 ごく冷静なことを述べるフレーゼ。
 聡とリナは顔を見合わせ、
『確かに』
「やっぱこう、リーダーにはそういう素質が必要だな! 知力・体力・時の運!」
「その理屈で言えば――!」
「知力で言ったら、京介さんかな?」
 フレーゼはたまに余計なことを言う。
「……まあ、村野君やミサキさんに知力で劣るとは思わないけどね、僕は」
「体力で言ったら、うーん、旅をしている人の方があるのかな? 単純に強さで言ったら、グレイスさんとか橋本さんはトップクラスだよね、世界を変えちゃうような能力だしさ」
「それだったらオレよりヴァルゴじゃねーの? 世界創生の紋章を持ってる上、何百年も修行をしてんだろ?」
「あまり触れないでもらいたいところだがな……」
 苦笑を浮かべるヴァルゴ。だが、実際に戦闘力だけで言うのなら、焔色はインフレとか何それ状態だ。
「年齢順で言ったらアンジェラよね、たぶん」
「年齢といっても、私は生きているわけではないわ」
「純粋な年齢の問題だろ」
 ふむ、と考えたアンジェラ。口元に手をやり、
「……。人間の考えた理屈だけれど、リーダーに必要な素質というものがあるわ。
 ひとつ、過去に縛られないこと。旧来の方法を最善と考えず、常に最高を模索する、進歩への貪欲さ。
 ひとつ、個人を尊重すること。全体をまとめあげるのがリーダーではあるけれど、それは個々人が成り立ったうえで存在しなければならない。個人を殺しては本来の意味が失われるという考え。
 そして、現状とゴールをきちんと認識できる能力。進む道を考えるにも、現在の位置と目的地がわかっていなければどうにもならないものね」
「それ、仕事のリーダーじゃない?」
「よくわかったわね、エリア」
「まあ、一応は社会人だし」
 この中で無職じゃないのはエリアだけなのだ。学生はいるが。
「でもまあ、真理の一側面ではあるわよね。それを言うと、まずは過去にとらわれないタイプの人」
「それこそ俺!」
 バッ、と手をあげた聡。確かに彼は過去がどうこうという話はない。そもそも年齢的に過去があまりないと言えばそうなのだが。
「その理屈だとオレもそうだぜ、一応」
「俺もそうなるんじゃないかな」
「うぐ……」
 グレイスとヒカルも名乗りをあげる。彼らも、旧来のルールを打ち破った、新しい風だ。
「じゃ、じゃあ次! 個人尊重! これなら!」
「アンジェラがぶっちぎりじゃない?」
「また俺じゃないのかってか嫌がらせ!?」
「そういうわけじゃないと思うけど……。でも、それは仕方ないんじゃないかな。個人を重視する、ってのがアンジェラの基本信条だし」
「褒めてもらっているのかしら」
「たぶん?」
「ぐぎぎ……!」
 聡も聡で、種族に縛られない男ではあるのだが。
「そうなると、あれだ! 現状とゴールを把握! これなら!」
「雨雲さんがトップだと思うよ、俺は」
 ショウ、君は常に余計な以下略。
「現状、持っているカードと最終的な目標を把握する。交渉の基礎だからね」
「……知性で勝負するのはやめよう、リナ」
「そうね。やっぱ主人公は体力よ、体力」
 だから体力勝負でもさっき不利だって言われたばっかだろうがお前ら。
「え、ええい! なんでもいいのよ、あたしを主人公にしなさい!」
「いいや渡さねえ! こればっかは譲らないぜ!」
 バチバチと火花を散らす両者。他との温度差がやけに激しいのは焔色の仕様か。
「ま、まあまあ、それなら投票とかにすればいいんじゃない?」
 愛想笑いを浮かべ、いさめたのは、エリアだった。この場では新参に近いのだが、やはり落ち着きが違う。
「パス」
「それだと負けるかもしんないし」
 そして聡とリナバカも冷静だった。
「で、でも、このままじゃなかなか決まらないわよ?」
「……それならー」
 やる気のない口調で、カズマが言った。
「くじでもやりゃいいんじゃねーの? リーダーには時の運も必要なんだろ」
 顔を見合わせたバカ。今度は反対しなかった。

 というわけで、くじ引きの箱が用意された。中には11枚の紙切れが入っており、ひとつに当たりと書かれている。
(くじなら運だけじゃねえ、指先の感触! 茜の見よう見まねだが、サーチは不可能じゃねえ……!)
(なんかよくわかんないけど、あたしも超能力者! なんかこう、透視的なことは不可能じゃないはず……!)
 すげえあやふやな理由である。まあ、投票を行えば順当に言って彼らに目はないし、運任せも間違いではない。
「じゃ、順番に引いていこうか。じゃ、順列で言って、まずはヴァルゴから」
「ああ」
 最初に引いたヴァルゴ。あっさり開いたそれは、白紙の紙切れだった。
「外れだな」
「次は俺だ!」
 聡が箱の中に手を突っ込む。しばしごそごそやって、
「これだー!」
 引いた紙切れ。開くと、『ばーか』と書いてある。
「外れにしても他になんかあるだろうがああああああ!!」
「キレるなって。次はオレか」
 ヒカルが引く。紙切れには『地味だよね』
「……余計なお世話だよ」
「なら、次は僕かな?」
 4番手、フレーゼ。引いた紙には『押しが弱すぎる、出直して参れ』とあった。
「これ本当にくじだよね!?」
「細かいことは気にしない! 次はあたしねー!!」
 箱の中に手を突っ込んだリナ、しばし鬼の形相で探っていたが、
「これよー!」
 『阿呆が〜♪ み〜る〜♪』と書いてあった。
「ぶっ壊す、この箱をぶっ壊す!!」
「お、落ち着けリナ! まだ早い!」
「こんなもんにマジになるなって。じゃ、次はオレだな」
 引いたグレイス、内容は『がさつ』の一言。
「うるせえ大きなお世話だっての」
「んだよ、俺までまわってきちまったのかよ……」
 正直、そういう面倒事は避けたいカズマ。紙切れを引くと、『いちゃついてろよバカップル』とあった。
「……もう帰っていいか?」
「せっかくだから最後までいたらどうかな。次は僕か」
 京介が引いた紙は、『根性悪が多すぎるよねここ』とあった。
「僕らが素直や実直といった言葉と縁遠いのは、相応の理由があると考えるべきだと思うがね」
「理屈ばっかじゃまわんないわよ。もしかして、超新しいわたしの出番!?」
 エリアが引くと、『とりあえず完結させろよ』。
「終わらないのはわたしのせいじゃないわよ! それにもともと長くなる予定だったでしょうが!」
「ま、まあまあ、次は俺かな」
 ポケモンシリーズ主人公・ショウが引く。内容は『ナミとショウとどっちが主人公なんだろうね?』
「もはやこれはメッセージ!」
「……まだ当たりが出ていない、ってことは」
 全員の視線が黒髪少女(外見のみ)に向く。アンジェラが箱に手を入れると、出てきた紙には大きな黒文字で『あたり』とあった。
「アンジェラか」
「くそ、なんで俺じゃねーんだ!」
「その理屈で言ったらあたし! もうここか拍手しか出番はないってのにー!」
「いや、みんなそうでしょ」
『現役主人公が言うんじゃねえ!!』
 息は合っているな、お前ら。
 じっと紙切れを眺めていたアンジェラは、ちらり、とみんなを見上げる。
「どうかしたか、アンジェラ」
「――私は辞退するわ」
 しん、と落ちる沈黙。
「は!? なんで!?」
「ちくしょう終わらない現役世代め! ずるいわよ!」
「そういうわけじゃないと思うが、まずは話を聞いたらどうなんだ」
「ありがとう、京介」
 謝辞を述べたアンジェラ、言葉を静かに続ける。
「……私は、この場に頭という役職はふさわしくないと思うわ。皆がそれぞれ、自分の世界で望むものを探し、努力し、手に入れた。旧来の、当たり前とも呼ぶべき概念を打ち破り、あるいは過去に縛られた敵を打破し、新しい世界を手にしてきた。
 先程の理屈で言うのであれば、皆が皆、リーダーとなる素質を備えているのよ」
 仮にも主人公たち。それなりに素質はあって当然なのだ。
「その中で、私は自分が特別に秀でているとは考えていないわ。もちろん、誰もが。多様なる人間の中に特別はないと思うもの。だからこそ、私はリーダーという役職を負うことはできない。そうであるなら、辞退するしかないわ」
「……。アンジェラが、そう言うなら仕方ないな」
「そうね。なんか、どうでもいいこと張りあっちゃったかもしんないわね」
 お前たちはいつでも、どうでもいいことに全力を出しているような気がしないでもないが。
「あー、なんかどっと疲れた」
「なんか腹も減ったな」
「グレイス、君はいつでも空腹を訴えていないか?」
「ご飯の用意が必要かな。言えば出てくるのかな……」
「さあ? どうなんだろうね」
 わいわい、と話を弾ませる焔色主人公ズ。それを暖かな視線で眺めているアンジェラに、隣席のヴァルゴはそっと耳打ちした。
「――単に面倒とか、そういう理由じゃないのか?」
「内緒よ」
 口元に指を当てる少女に、青年は反論しなかった。
 何も間違ってなどいないのだから。



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