毎度おなじみ、超越空間。
 真っ白なクロスが乗った丸テーブルを囲んでいるのは、四人の少女(?)だった。
「人間、諦めたらそこで終了だと思うのよ」
「……で?」
 薄っぺらい胸をそらす『ジャック』のリナに、『騎士譚』のグレイスは半目で問い返す。
「何がしたいってんだ」
「だーかーらー。前に、クリスマスケーキを作ろうとしてちょこっと失敗しちゃったでしょ?」
「女性らしく見られていないから、という件ね」
 『夜空』のアンジェラは、紅茶のカップを傾けながら言う。どうでもいいけど、この中では一番ちっこいアンジェラなのに、普通にその姿が似合うのはどういうことだろう。
「そうそう。せっかく、このあたしが女子力をパワーアップさせるお菓子作りに挑戦したのに、ラルスとかいう木偶の坊は、あたしの努力を一切評価しなかったでしょ?
 まあ、あたしに落ち度がないわけじゃないわ。そこであたしは考えました。このまま終わらせていいものか、と。失敗したのなら、何度でも挑戦すればいいじゃないか! と!」
「それにオレを巻き込む必要があんのか?」
「それはあたしが言いたいんだけど」
 不満の声をあげたのは、グレイスだけではなかった。この場では初お目見え、『世界一不幸』な有沢光子だ。
「まあまあ、細かいこと気にしてもしゃーないじゃん?」
「あんたは気にしなさいよ。てか、あたしとあんたは初対面よ」
「初対面とか気にしない。というわけで、お菓子を作ろうと思うのよ。せっかくハロウィンなんだし、かぼちゃを使ったやつ」
「……。料理ができないあんたが、ハロウィンだからってかぼちゃを使うことができると思ってるの?」
「なせばなる。なしてもならぬことはない」
「断定するかねぇ、普通」
「そういう光子は料理ができんのか?」
 ギロッとひとにらみ、有沢は言う。
「名前で呼ばないで。まあ、喫茶店でバイトしてるんだもの、軽食とかくらいはできるわよ」
「そりゃ完璧ねよし! みんな! ささっとビシッと作ってみせて、今度こそ女の子らしい扱いを受けるわよ!!」
「だから。なんで。あたしまで。含まれてるのよ」
「光子。何事も経験よ」
「だから名前で呼ぶんじゃない小学生モドキ!!」


 ◆ すったもんだで ◆


「づ、づがれだ……」
 有沢光子は机に突っ伏していた。
 はたから見ているリナやグレイスには、その理由がさっぱり理解できない。
「なんだ、体力ねえなあ。それじゃ生活に困らないか?」
「そうよねぇ。女の子だからって体力がないと舐められちゃうわよ」
「た、体力バカのあんたらと、一緒にしないで……。というか、料理で体力を使う時点でおかしいのよ」
「そう? 料理は戦いよねえ、グレイス」
「オレは基本的に食う専門だからな」
「そうよねアンジェラ」
「私は食事をしないわ」
「……。きっとそうなのよ光子」
「ぜんぜん違うわ」
 有沢はこのメンツの中で唯一、まっとうに料理ができる人間である。そう言う権利がある。
「だいたい、なんでカボチャの皮を剥くだけであんな苦労するのよ」
「だって固いんだぜ、あれ」
「だからって剣を使うな! 茹でるのだって大騒ぎだし」
「だってより高い温度で茹でた方が早そうじゃない?」
「そんな理屈が通るわけないでしょ! というか火なんか出さないでよ!」
 万事が万事、この通り。そりゃ教える側である有沢も疲れるわけだ。
「まあまあ、なんとか完成したわけだし」
「あんたらの完成品と、あたしの完成品を一緒にして欲しくないんだけど」
「えー」
 有沢が言うのも無理はないのだが。
「……それで。これは、誰が食べるの?」
「ああ、それなら心配ないない。ちゃんと試食人を呼んであるから」
「また紅葉たちを?」
「ちゃうちゃう。もっとどうでもい……あ、来た来た」
 ガチャリとどこに繋がっているのかよくわからん扉を開いて入ってきたのは、聡、フレーゼ、カズマ、京介の四人。
「おーう。呼ばれて来たけど、何するんだ?」
「僕は食事会のようなもの、って聞いたけど」
「飯か……。それだけならいいんだけどな?」
「……。この室内にいるメンバーを鑑みるに、絶望的と言った方がいいかもしれない」
 ぞろぞろと室内に入ってきた四人。ほぼ強制的に丸テーブルを囲まされる。
「うふふふふよく来たわねイケニ……試食者諸君」
「普通に生贄って言いそうになったろ」
「気にしない。大丈夫よ、死食くらいでどうにかなるメンツじゃないから」
「試食、なんだよね? 本当に試しに食べるだけだよね!?」
 残念、同音異義語だ。
 ずらずら、と四人の前にカボチャケーキが並べられる。どれが誰の作品か、試食者側は知らされていない。
「まずはカズマから」
「オレか」
 カズマの前に置かれたケーキは、少し茶色がかっていた。なかば恐怖に支配されながらも、勇気を振り絞って口にしてみる。
「……」
「ど、どうだ」
 グレイスが心配そうに問いかける。カズマはしばし味覚に集中するように眉根を寄せていたが、カッと目を見開き、
「甘ぇ!!」
 そりゃもう力強く。
「ケーキなんだから甘いのは当たり前だろ」
「にしたって限度があらあ!? この白いのって化粧とかそんなんじゃなくて普通に砂糖の塊じゃねえかぁ!?」
「……。ほら、オレってケーキとかそんな食べないから」
「こういうケーキはたまにあるんじゃないかとか思わせようとしたって無駄だ! これはケーキじゃねえ、ただの砂糖の塊だ!」
「うるせえしつこい!」
「がふっ!?」
 カズマ、撃沈。物理的に。
「……。つ、次はフレーゼね」
「な、何を言っても殴らないよね? いきなり攻撃とかしないよね?」
「自分を信じろ」
「この場合にそれって正しいのかな!?」
 先程のカズマとは別の意味で恐怖を感じながら、フレーゼは目の前のケーキを口にする。
「ん。カボチャの味がする」
「私の作ったケーキね」
 アンジェラ製。普段を見ていると安全牌に見えるのだが、実のところ、アンジェラも料理は得意ではない。そもそも食事をしない彼女にとって、おおまかな部分は真似できるものでも、味の機微という点ではうといのだ。
 しばし味わっていたフレーゼは、
「というか、カボチャの味しかしない」
「?」
「ケーキなんだから、もっと甘みとかあってもいいと思うよ。うん、でも、これはこれで悪くないかな。僕、甘いの得意ってわけじゃないし」
「ちっ」
 何故かそこで舌打ちをしている少女が一人。
「まあいいわ。次、京介」
「僕か」
 京介の前にあるケーキは、見た目からして普通だった。フォークを突き刺すとはらりとほぐれ、口にすれば――。
「これは……、有沢光子の作ったケーキかな」
「フルネームで呼ぶな」
「失敬。だが、味といい食感といい、市販品のケーキと相違ない。そういった経験でも?」
「喫茶店じゃ簡単な料理もできなきゃいけないのよ」
「それにしてもパンプキンケーキまでは関係ないようにも思うが、まあ、そのあたりは資質と持っているスキルの問題か」
 ちら、と京介は隣を見た。アンジェラ、有沢、グレイスと、三人のケーキがすでに出揃っている。ということは、残るは。
「リリリリリナ。俺ってば急用で頭痛がお婆さんの荷物で妊婦をかばってだから帰っていいか」
「動揺し過ぎよ。いいから食え。男でしょ」
「男女差別はよくないと思いまーす。むしろ俺をいじめないで欲しい」
「逃げたら脳天を炎矢で撃ち抜くわ」
 すでに逃げ道などないのだ。
 聡は震える手でフォークを持つ。ケーキに触れると、なんかやけに固い。少し苦労して取り分け、
「フレーゼ。京介。骨は茜に届けてくれるか」
「約束するよ」
「努力はしてみよう」
「ああ……」
 死相を浮かべながら口にした。
 
 直後、高らかな悲鳴が響いた。

 死体二匹をベッドに横たえ、リナは頭をひねる。
「あっれー、何がいけなかったのかなぁ」
「リナ、あんた、何を入れたのよ。普通の食材を入れただけなら、あんな風にはなりえないわよ」
「何って、それこそ変なものは入れてないわよ」
 本人にはまったく自覚がない。
 そんな中、京介はこっそりとアンジェラに問いかける。
(アンジェラ。君には何か心当たりがあるのではないか)
(私は人間の味覚に詳しいわけではないけれど、一般的に日本では食材としないものが机上にあったのは関係していると思うわ)
(なるほどね)
 何を混ぜたらどういう化学変化があったのやら。
 今となっては知るよしもない、ということにしておこう。
「よし、次はクッキーなんかを……」
「もうやめようぜ、リナ」
「う、うん、その方がいいと思うな」
「なかばで諦めたら女がすたる!!」
 たとえ知れたところで、燃え盛るリナには無意味だろうし。



 ◆ おまけ ◆

「お、聡」
「おう、カズマか」
「妙なところで出会うな。というか、ここ、どこだ?」
「さあ? 超空間だからなんでもありだろうけどよ、花畑ってのはなんだろうな」
「なんか川もあるし。でものどかでいいところだな」
「そーだなー」
『カズマー! こっちに来るなー!』
「あん? なんか、どっかで聞いたような声が」
『だーかーらー! こっちに来るなとー!』
「向こうの方か?」
「なんか来るなって言ってねえ?」
「素直に従うこたねえだろ」
「この場合、素直に従うべきだと思うわ」
「うお!? アンジェラ、どっから沸いて出た!?」
「独自の手法があるのよ。さ、逝きましょう」
「なんか果てしなく字面が怖いんだが」
「私を信じてくれない?」
「……。ま、リナ信じるよかいいか」
「そうだな」
「ふふ。ありがとう」
『はーっ……。寿命が縮んだぞ。すでにないが』
「?」
「?」
「……ふふ」



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