「死にたくなければ運命の女神を篭絡せよ! チキチキ★プレゼント交換会!!」
「はい先生、質問」
「先生じゃないけど。で、何よ、聡」
「なんでプレゼント交換会で死にたくなければって枕詞がつくんだよ」
「察しなさい。大丈夫、まともな連中はクソ面白くもないプレゼントを持ってきていると予想してるから!」
「それはお前の予想だろうが!? てか、まともじゃねえプレゼントって何だよ!」
「はッ。このあたしが! クリスマスなんぞというクサレイベントのために! まともなプレゼントを用意したと思っているのかなサートシ君は!」
「嫌だー! お、おい、ヒカル! お前も何か言ってやれよ!」
「え、オ、オレ!? 無理を言うなよ、リナが持ってきちまったものなんか、もうどうしようもないだろ!?」
「そりゃそうだが! はっ、逆に言えば、リナのプレゼントだけが外れというわけでおい京介。お前、まともなんだろうな」
「少なくとも、僕の用意した品は、使い方を誤らない限り、死人が出るような代物ではないよ」
「武器の持ち込みは禁止だろ!?」
「そんな条件は聞いていないし、それだと君のような、武器を持たずに戦いが可能な人物が極端に有利すぎると思うが」
「あ、あの。別に、戦いに来ているわけじゃないよね?」
「そうだフレーゼお前はいいことを言った! ほら、争い禁止! 楽しくやろう、楽しく!」
「何よー、ノリが悪いわね。あんたたちも普通の品を持ってきたわけ、グレイス?」
「そもそも普通のプレゼントってのがわからねーぞ、俺は」
「そうよね、あんたはそういうガサツなタイプよね」
「そりゃお前に言われることじゃねー。まあ俺が女らしくないのは認めるけどよ、お前だってたいがいだろうが」
「ふん! あたしのにじみ出る女らしさがわからないなんてね!」
「女らしい奴は自分でそんなこと言わないんじゃないの」
「そーだそーだ光子の言うとおりだー。やーい男女ー」
「ええい、小学生かっ」
「争いは同じレベル同士の間でしか発生しない、ってアスキーアートがあったよなー」
「太陽、アスキーアートって?」
「ああ、アンジェラは知らねえよな。パソコンにはさ、特殊な記号がやたらあるんだよ。ロシア文字とか、ただの棒とか。そういうのを組み合わせて作った絵のことだよ」
「面白いことをするのね」
「ああ。うまいAA職人なんてさー、あっという間に作っちまうんだよなー」
「ちょいちょいちょーい。その前に。同じレベルって何よ、このあたしが、聡なんかと同じレベルって言いたいわけ!?」
「んな下らないことでケンカしてんだから、同じレベルだろ」
「だねぇ。ケンカなんてしないに越したことないよ? 血気盛んな若者諸君にはわからないかねぇ」
「エリアだって十分に血気盛んでしょうが。動物を率いて戦争するくらいなんだから」
「ちょっと、やらなきゃいけないことしただけじゃない」
「やってはいけないことをしたって意見もあるけど」
「却下。ほら、わたしってば他人の話を聞かないタイプだしー」
「何の自慢にもならねえだろうが! おい、マリナ! お前は常識的だよな!」
「……その前に、ここ、いつもこんな調子なわけ?」
「何か問題が?」
「そうねぇ、こんな風じゃないかしら」
「そっか、マリナって初めてなんだな」
「私の常識がおかしいのかもしれないけど、プレゼント交換会というのは、いわゆる平和的なお祭りみたいなものよね?」
「そうだが」
「私が知る限り、暗闇の中で平和的なお祭りをするなんて聞いたことないんだけど」
「だって明るいと誰が何を持ってきたのか、わかっちゃうじゃない」
「それじゃあ面白味もなくなっちまうだろ」
「……。じゃあ、この異臭は?」
「誰かが持ってきた品が臭うんだろ」
「カズマ、お前、臭くねえ?」
「そんな臭いの強いものは持ってきてねえと思うけどな。蓋してあるし」
「臭うんじゃねえかやっぱり!」
「うるせえよ。ほら、さっさと始めちまおうぜ」
「そうね。じゃあ、そろそろ始めましょう。音楽スタート!」
「――この歌声、なんか聴いた覚えがあるなぁ」
「というか、むちゃくちゃに下手だな」
「音が外れ過ぎているな」
「リズムも狂ってるし。なんたら花子の方がうまいんじゃね?」
「あんまり余計なことを言わないほうがいいと思うが」
「そうね」
「……? 何のこっちゃ?」
「今、あたしの歌を下手って言ったやつ。出てきなさい」
「リナかこれ!?」
「いい度胸じゃないぶっころがしてあげるわよ!!」
「ブレイク、ブレイク!」
「ほら、プレゼントが回ってるぞ!」
「くっ……! あとで覚えてなさい!」
「あ、音楽が止まった」
「ストップ! いい? アンジェラ、明かりつけて!」
「ええ」

 パッ、とLEDの照明が室内を照らし出した。
 車座に座った主人公ズ。それぞれの手には、包みがある。
「さーあ、プレゼント交換終了! じゃ、順番に包みを開いていくわよ!」
 座の中で、『ジャック』のリナが声を張る。
 トップバッターは、リナの隣という不幸すぎる場所に座っていたヴァルゴだ。
 開いた包みから出てきたのは、なにやら、金属製のバネみたいなもの。
「……。なんだ、これは?」
「ああ、それ、俺のだ」
 手をあげたのは聡だった。ヴァルゴは金属バネを持ち上げ、
「何に使うものなんだ?」
「魔法力養成ギプス。身につけているだけで魔法の能力がアップするっていう画期的な代物だぜ!」
「それ、新藤先生につけろって言われたんじゃないの?」
「ギクッ」
「それを俺が貰ってしまっていいのか?」
「いいのいいの! そんなもん付けた日にゃあ立ち上がることもできねえぜ!」
「あとでお前が怒られるんじゃないのか」
「こまけぇことはその時に考えるんだ」
「お前がそう言うなら俺は依存ないけどな」
 すでに皆には未来が見えていたが、あえて誰も何かを言ったりしなかった。
 続いて包みを開いたのは『世界で一番』な有沢光子だ。
「これは、お茶の葉っぱね」
 中から出てきたのは、多種多様なハーブだ。となれば、送り主も決まっている。
「あ、僕のだね」
「やっぱりフレーゼなのね。ラナスがよく飲んでいるっていう?」
「そう。五種類くらい入っているよ。効能も一緒に書いておいたから、時々によって使い分けるといいんじゃないかな」
「そうね。これはなかなか良いわね」
 相変わらず有沢の額には皺が寄っていたが、なんとなく喜んでいるのが雰囲気で伝わってきた。その様子に、フレーゼも嬉しそうにしている。
「ええいつまらんものを。実弾とか送りなさいよ」
「意味がわからないよ……」
「面白くないって言ってるのよ。ほら、次つぎ!」
「わたし?」
 次に座っていたのは、『それでも』のエリアだ。彼女が包みを開くと、瓶詰めが現れた。
「あら、これ」
「きゃあああああああ!?」
 どこかから悲鳴があがる。
 それは、名前もわからない昆虫が詰まった瓶だった。何かの液体が一緒に封入されている。
「あ、オレだ。ただの漬物だよ」
「ど、こ、が!? 虫じゃないの虫!」
「何を騒いでんだよ、リナ。虫って栄養価が高いんだぜ?」
「そうねぇ。どれ?」
 瓶詰めを開き、エリアは虫を一匹、口に放り込んだ。
「ひっ!?」
「ふむ。味も悪くないわね」
「だろ?」
「って! 何故に平気で虫を食う!?」
「ほら。トカゲとか虫も食べるし」
「気色悪い!」
「そうかなぁ」
 ぽりぽりと、平然と虫を食べるエリアの感性は、すでに人間離れしているらしい。
 エリアの番が終わったところで、太陽が包みを開いた。
「なんじゃ、これ。白い粉末?」
「僕のだね」
 京介が手をあげると、太陽は思い切り顔をしかめた。
「おい。末端価格がウン億円の品じゃねえだろうな」
「せいぜい数万だよ」
「って! やっぱり人様には言えねえ薬じゃねえか!」
「先日、繁華街でこれを売っているやからを見つけてね。僕はよせと言ったんだが、日向が聞かなかったのさ。とはいえ、証拠物件を持ち歩くと、僕らの言い訳が立たない。ちょうどいいから処分させてくれ」
「ちょうどいいからじゃねえ!? 俺が捕まるだろうが!」
「君は妖怪なんだから人間の法律は関係ないだろう」
「俺は人間の中で生きてんの!」
 ささっ、と太陽がトイレに粉末を捨てに行ったところで、次の人が袋を開いた。
 太陽の隣は聡だ。
「お。酒じゃねえか」
 鬼殺しと名づけられた日本酒だ。聡はそれを嬉しそうに開くと、コップに注ぐ。
「ちょっと。未成年が酒を飲んでいいわけ?」
「ちょっと味を見るだけだよ。どれどれ?」
 ごくり、と日本酒を飲んだ聡。その動きが止まる。
「……〜〜〜〜!?」
「お、おい、聡!? 大丈夫か!?」
 一瞬にして聡の顔が真っ赤になったかと思うと、その場でいきなりひっくり返った。慌てて光子やエリアが駆け寄る。
「あ。それ、聡が飲んだのか」
 トイレから戻ってきた太陽が、聡の飲んだ酒を見て言う。
「それ、太陽の?」
「おう。銘酒・鬼殺し。鬼さえ一発で酔っ払うっつー、妖怪御用達の酒だよ」
「強すぎんだろ!?」
「そういうもんか?」
 どうも妖怪と人間はアルコール強度が違うらしい。
 エリアが聡の介抱を続ける中、交換会は続く。
 聡の隣にいたのは、『夜空』のアンジェラだった。小さな少女が包みを開くと、茶色い乾燥肉が出てきた。
「これは、ビーフジャーキー、という代物ね」
「あ、わたしのね」
「……エリア。ちなみに、それって仲間に食わせたりしてねえか?」
「そうよ、カズマ。ヴィンとか微妙な表情になりつつも、ちゃんと食べてくれるわよ」
「犬かよ」
「これは、人も食べるのでしょう?」
「そりゃそうだけどさ」
 ジャーキーの袋をじっと見つめるアンジェラ。本人は満足そうなので、周囲も文句は言えない。
 順番がまわってきたのは、『なみだ』のカズマだ。彼が受け取ったプレゼントは、まっかな饅頭。
「俺のだな」
「ヴァルゴのか。それなら、まっとうかもしれねえな」
 ためしに、カズマは饅頭をひとつ、口の中に放り込んだ。次の瞬間、
「ッ!?」
「香辛料の入った菓子だ。辛さはそれなりだな」
「カズマ。ほら、水」
 コップに入った水を受け取ったカズマは、それを一息に飲み干し、
「っは、はぁ、はぁ……。どこがそれなりだ!?」
「そんなものだろう?」
「お前の基準はおかしい! ったく、まだ辛いぜ」
「はい、カズマ。水」
「おう。――ぐふっ」
 そのまま、カズマはばたりと倒れた。すわ何事か、とみなが注目する中、
「あ、ごっめーん。間違えて鬼殺しを注いじゃったわ」
「リナ!」
「確信犯だな、おい」
「偶然よぉ。音が外れてるとか言ったバカが死んだのは」
「まだ生きているわ」
 ビクッ、と何人かが肩を震わせたが、あくまでリナは笑顔だった。その笑顔が若干、黒く見えるのは、見る側の問題だろう。きっと。
「オ、オレだな」
 続き、グレイスが包みを開くと、なにやら金属の箱が出ていた。
「なんだ、これ」
「あ、あたしの。外で開いた方がいいわよ」
「リナのかぁ? 大丈夫かよ、おい」
 ぶつぶつ言いつつも、グレイスは室外に出た。扉を閉めた数瞬後、
 ――ズドーン!
 部屋全体が振動するほどの衝撃が伝わる。みな、こっそり冷や汗をかいていた。
「リナ。い、今のは?」
「季節外れの花火じゃない? むちゃくちゃに下手とか言った人が当たったのは偶然にしても」
 ここまで来ると、運命の改変を疑わざるをえないメンバー。リナにはそんな能力などないはずだが。
 それ以上は誰もつっこめなかった。グレイスが戻ってこないことを含めて。
 少し後、様子見に行ったヴァルゴが黒っぽくなったグレイスを拾って戻ってきたりしたが、それは別の話。花火とは何の関係もない。本当に。
「次は僕か」
 開いた包みから出てきたのは、粘土のような物体。
「あ、それ、グレイスが食べてた携帯食料」
「遺品か」
「死んでない死んでない。はず」
「どれ」
 粘土をちぎり、京介は口に運んだ。しばし味わい、
「悪くないな」
「どれ?」
 隣に座っていたヒカルが、味見とばかり、食べてみた。
「……うげっ。土みたいな味がするぞ、それ」
「刺激臭がするわけでも、食べにくい硬さがあるわけでもない。食料としては問題ないと思うが」
「それが食料の基準ってのがおかしい」
 まあ、コンビニ弁当が主食の人間には、複雑な味などわからないのかもしれないが。
 順番通りで、今度はヒカルが箱を開いた。
「これ、アップルパイ?」
「ああ、あたしが焼いたの」
「光子か。なら食べられるな」
 携帯食料の口直しとばかり、アップルパイを食べるヒカル。
「おお、美味い! あたりでよかったぁ……」
 良いものが手に入った喜びより、恐怖な品があたらなかった喜びをかみ締めるヒカル。無理もないのだが。
「次は私ね。あったかいわね?」
 『勇者育成』のマリナが受け取った袋は、ほんのり温かかった。開くと、黄色い食べ物が入っていた。
「これは、芋の揚げ物?」
「私の贈り物ね」
「ア、アンジェラ!? マジかよ」
「何よ、太陽。これ、知っているの?」
「知ってるつーか、マックのポテトだろ、それ」
「まっくのぽてと?」
 食べてみた。不味くはないが、なんとなくチープな味がする。
「まあ、普通の食べ物ね。どうしてこれを?」
「人への贈り物というのはよくわからなかったの。だから、私が食べたことのあるもので、美味しかったものを選んだわ」
「マックにアンジェラとか、超絶似合わねえ」
「私も、知人に待ち合わせ場所として指定された場所がそこだっただけで、私が選んだ店ではなかったわ」
「そもそも店なんてわかんねえだろうが」
「でもまあ、悪くはないわ、これ」
 格別に美味しいわけではないのだが、なんとなく止まらない味。マリナも気に入ったらしい。
 マック異世界店が出る日も近いかもしれない。
「僕のプレゼントは……」
 フレーゼが受け取った包みから出てきたのは、皮袋に入ったワインだ。
「お酒かぁ。僕、お酒は苦手なんだけどな」
「大丈夫よ、それ。弱いもの」
「あ、マリナさんの?」
 ポテトを食べながら、マリナは頷く。
「急に言うものだから、たいしたものを用意できなかったわよ。それ、世界樹の水で作った、ユグヴァールのぶどう酒。薄いし、悪酔いもしないわよ」
「それなら」
 少しだけ飲んでみたフレーゼは目をぱちくり。
「凄い。なんだか元気が沸いてくるような気になるね」
「実際にそうかもしれないわよ。あんたに魔法の適正があるなら」
「あるのかなぁ」
「行き過ぎた科学は魔法と区別がつかないってやつか」
 たぶん違う。
 一周し、最後となったリナは、プレゼントを手に取った。
「残るはヒカルよね?」
「おう」
「何かしらね」
 小さな包みを開くと、安っぽいカメラが出てきた。一応、ポラロイド機能付き。
「……カメラ?」
「ああ、思い出を残すには一番だからさ」
「ふうん。面白みはないけど、まあいいわ」
 リナはカメラを構えると、いきなりシャッターを切った。
「あ、おい、いきなり撮影すんなよ!」
「いいじゃない。日常の方が思い出としては重要じゃない? 特別な日のことなんか、忘れはしないもん」
 ふっ、と皆の視線が遠くなった。
 この場にいるのは主人公たち。『特別な日』など、いくらでもある。それぞれ、思い出すこともあるのだろう。
「だからこそ、今日って日を記念にするのよ。ほら、サラダ記念日よ」
「意味わかってんのか、それ」
「テキトーよ!」
 リナの言葉に、自然と笑顔が生まれた。
「てか、クリスマスだろ、今日は」
「あ、そうね。じゃあクリスマス記念!」
「さっきと言ってること違くね?」
「いいのよ、別に」
 そう、小さなことだ。
 そこに笑顔がある。それだけで、十分なのだから。



 メリー・クリスマス!



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