クリスマス、なんて日がある。
 キリストの誕生日だとかまあそんなのはどうでもよくて、日本的にはただのお祭り騒ぎ。
 それは、日本生まれの焔空間でも違いなく。
「パーティといえば! さあ何でしょうグレイスさん!」
 『ジャック』のリナに指差され、『幻想騎士譚』のグレイスはげんなりした様子で答える。
「知らねえよ。毎年やってるバカ騒ぎみてえなやつだろ?」
「あたしが期待する答えじゃないので却下! 次、エリア!」
「すっごい傲慢な評価ね、それ。で、パーティといえば、だっけ?」
 『それでも』のエリアは少しだけ考え、
「やっぱりこう、楽しい余興とか」
「それも必要かもしれないけど違う! もっと根本的なもの! 次、光子!」
「名前で呼ばないでよ」
 『世界一不幸』の有沢はしかめっ面で、
「根本的なもの、ね。会場とかそういうこと?」
「確かにそれがなければ始まらないけど違う! ああもう、なんで出ないのよ!?」
「……みんな、答えが予想できているからじゃないの」
 あきれた様子で口を開いたのは、『勇者計画』のマリナ・チェストナット。その隣には、『夜空』の小さな死導者・アンジェラの姿もある。
 マリナは自分の姿を見下ろし、続けて周囲を見渡した。
 そこは厨房だった。ステンレス製のシンクに、調理台。オーブンや電磁調理器、包丁などの調理器具も揃っている。
 加えて、マリナたち六人の女性たちは、エプロン姿だった。そうなれば、リナの言いたいことなど、言われずともわかる。
「そう料理! これがなくちゃパーティは始まらないわ! ということで今日はお料理します!!」
「どうでもいいけどよ、なんで自分らで作るんだ。頼めばどっからか持ってきてくれんだろう?」
「そうだけどそれじゃ、あたしの女子力が上がらないじゃない!!」
「まだ狙ってたのか、それ……」
 力強く拳を握るリナ。彼女は以前、女子力向上を目指してケーキを作ったことがある。成功したとは誰も思っていない。
「このメンツじゃ料理できそうなの光子しかいないけど、でも大丈夫! ちゃんと教えてね?」
「あたしだって、ちゃんとした料理なんか、あんまりやらないわよ。軽食くらいで。パーティ料理なんて、そんなの作れないわ。それよりエリアとかの方ができるんじゃないの?」
「……まあ、一人暮らしだし? 料理もそこそこはやるけど、ね」
 光子とエリアの二人は問題なし。問題は、残るメンバーである。
 ガサツが過ぎるリナとグレイス。旅ガラスで料理の経験値は積んでいないマリナ。そして、人間の常識を持っていないアンジェラ。
 2対4はかなり重い比重である。
「ちなみに、何を作ろうとしているわけ?」
「これとこれ!」
 リナが示したレシピは2種類。
 ひとつは、ローストチキンだ。日本のクリスマスではかなり一般的な料理である。鶏のもも肉に、簡単な付け合わせと調味料、オーブンがあれば割と簡単に作れる。
 もうひとつは、やはりと言うべきか、ケーキだった。スポンジ生地に生クリームと、丁寧な飾り付けが必要になる。つまるところ、リナとかには向かない料理。
「光子はケーキ、エリアはローストチキンね! あたしはケーキを手伝うわ!」
 しかし本人は乗り気。これはどうにもならない。
「……じゃあマリナ、ケーキを手伝って。グレイスとアンジェラはエリアとチキンを焼いてくれる?」
「わかったわ」
「へいへい、りょーかい。鳥を焼けばいいんだろ? 簡単じゃんか」
 その発想はまずい。
 内心で思っていたが、有沢は口に出さなかった。
「とにかく! 余計なことは絶対にしないように、絶対よ!!」
「なによ、余計なことって。料理も格闘も基本通り、当たり前じゃない!」
「分量通り作らないあんたが言うんじゃないわよ!」
 気が強いリナと、輪をかけて気が強い有沢。その間で、マリナはなんだか面倒そうにしている。
 それを眺めていたエリアは冷や汗ひとつ、
「じゃ、じゃあ、あたしたちも始めようか」
「任せとけ」
「ええ」
 こちらは無事に作れるだろう――エリアのそんな甘い見込みは、すぐに崩れることになるのだが。

 〜 一方その頃 〜

「今年のクリスマスパーティはリナが料理をする気らしい」
 車座になる男衆。その中の一人、『ロードシリーズ』の村野聡が口火を切る。
「いいか、あのリナが、だ。加えて他のメンバーも、はっきり言って料理は向かねえ」
「そこまで言いきらないでも……」
 控えめに苦言を呈したのは『ふらわー』のフレーゼ。対して聡はちっ、ちっ、と指を振り、
「フレーゼ、今までを思い出せ。リナがヤバいのは言わずもがなとして、他の連中も、はっきり言ってキツい。グレイスはこまけえことが苦手だし、アンジェラは塩と砂糖の区別がいまだについてねえ。マリナは知らねえけど、ヴァルゴと似たようなもんだって考えれば、料理なんざできるはずもない」
「……俺もシチューくらいなら作れるが?」
 やり玉に挙げられた『紋章伝』のヴァルゴは眉をひそめるが、聡は首を横に振る。
「そりゃ料理ってほどのものじゃねえだろ。どうせ、そのへんで捕まえた野ウサギとかをお湯の中に突っ込んで、ついでにちょっと香辛料を入れただけの奴だろ」
「なんでそこまでわかるんだ、お前は。旅もしていないのに」
「お前のやりそうなことなんかとっくの昔だよ。つまり、だ。女組で期待できるのはエリアと光子の二人だけ。あの二人で、あのドギツいメンバーを抑えるのは無理だ」
「それで?」
 先を促したのは、『ヘルメス』の雨雲京介。聡はそんな彼に向き直り、
「いいか、女どもが期待できねえのは、もうわかってる。なら、こっちもそれなりの用意をすべきだ」
「その用意がこれ、ってわけかよ」
 『なみだ』のカズマ=クライフォードが周囲を見渡す。
 そこは厨房だった。ステンレス製のシンクに以下略、要するにリナたちがいる厨房と、間取りだけは同じ。もちろん揃っている調理器具や、材料も同じものだ。
「つまり、こっちで料理を済ませちまうってわけか。食えるものを」
「そういうこった」
「発想はわかるけどさ、そんなん、オレたちにできるのか?」
 首をかしげたのは『竜神』のヒカル。彼の言うことはもっともで、別に彼らも料理スキルが高いわけではない。
 だが、聡は胸を張る。
「少なくても! あのリナやグレイスよりかはマシにできるはずだ。最悪でも何の材料が入っているのか、自分でわかる範囲ってのは凄いことだぜ。連中が作ったとなると、何が入っているかもわかりゃしねえ」
「言い方はあれだが、お前の言う通りだな」
 『あやかし』の太陽は頷き、同意した。何故だか料理が下手な人間は、できもしないアレンジを加えたがる。
「というわけで、こっちも連中と同じもんを作る。レシピはパクってきた」
 出てきたレシピは女性組と同じ、ケーキとローストチキン。そのメニューを眺め、
「できんのか、これ?」
「この中で料理ができるやつ」
「いるわけねえだろバカ」
 早くも計画は断絶か。思われた時、
「あ……、僕は少しだけなら。ディルの料理を手伝ったりもするし」
「まあ俺も一応。自炊とかするしな」
 手をあげたのはフレーゼと太陽。そんな二人に、聡はガッツポーズ。
「よし、じゃあみんなで協力して作っちまおう! 太陽とフレーゼが先導でな!」
「う、うん」
「オッケー、ま、なるようになるだろ」
 適当すぎる男たちの適当な料理が今、始まるのであった。

 〜そしてパーティへ〜

「さあパーティよ!」
 パァン、とクラッカーが鳴り、どこからかジングルベルの曲が流れる。
 焔的パーティ空間は、綺麗な飾り付けと大きなクリスマスツリーが並ぶ、ごく一般的なパーティ空間に変化していた。
 その中で、主人公ズはテーブルを囲む。
 テーブルの上には、二つのローストチキンと、二つのクリスマスケーキが並んでいた。
「って、なんで二つあんのよ!?」
「綺麗なノリツッコミだな」
「いや、ま、一応。それはそれとして、どういうことよ、聡」
「お前らが信用できねえからだよ!!」
「はぁ!? リナちゃんの女子力を舐めんなだし!」
「リナ。やめなさいよ。村野の方が言っていること、正しい」
 興奮するリナをいさめたのは、疲れた様子の有沢だった。不良高校生はぐったりと椅子に座り、
「マジでただケーキ作るだけで、あんなに苦労するとは思わなかったわよ……」
「簡単だったわよ」
「どこがよ! ケーキを作るのに鶏肉もマグロも大豆もいらないの!」
「だってほら、美容にいいし」
「そんなの食べてもあんたの胸は大きくならないわよ!」
「あぁ!? 言ったな、言ったなー! 言っちゃいけないこと言ったなー!」
「待て、待て待てリナ! あいつ一般人だから! 炎矢とかやったら死ぬから絶対に!!」
 後ろからリナを羽交い絞めにする聡。今、リナが自分の能力を発動させたらりょうてをあわせたら、本気で死人が出る。
「そ、それより料理だろ! ほら、自分で言うのもあれだけど、俺たちだって悪くねーと思うぜ?」
「グレイス、それは間違っても言っちゃいけない言葉だわ」
 女性組が作った料理。それは、ある意味で予想できた結果でもあった。
 まずはエリア主導で作ったローストチキン。
 もも肉は焦げ目がついたと言うよりも焦げていた。味見をしたエリアはよくわかっているが、香辛料の振り方はバランスが悪くて味ムラがあり、しかも基本的に分量が多すぎる。
 やはりと言うべきか、グレイスやアンジェラのやることから目を離すべきではなかったのだ――!
 その隣に並ぶケーキも似たり寄ったりだった。スポンジはきめが粗く、クリームの塗り方は予想通り雑。スポンジに塗るクリームはやり直しができるはずなのに、この有様。よほど悪戦苦闘したのだろうか。
「でもまあ、食えなくはないよな? な、京介、ヴァルゴ」
「何故、僕に振るんだ。まあ、確かに繊細な味覚を持っているわけではないが」
「否定はしないが、ゴミ箱と勘違いしていないか」
 ゴミと言うほど酷くはない。失敗した料理であることも否定できないが。
「それより、あんたたちの料理、どうなってるのよ」
 普通に疑問を持ったのはマリナ。何故かと言えば、男子組の料理は、見た目にもごく普通だったのだ。
 ローストチキンは綺麗な焼き目がついているし、漂う匂いは香ばしい。ケーキのクリームは少し不格好だが、努力の痕跡が見て取れる。
「まあ、料理なんてレシピ通りにやれば、そんな大きくは外さねえだろ。調理実習とかそうだろ?」
「調理実習が何だか知らないけど……、なんか腹立つわね」
 それは、男子組と女子組の差だったのかもしれない。
 女子組は人の話を聞かないメンバーに加え、基本的な常識が欠如した者も混じっている。しかも雑だ。
 対して男子組は基本を外さなかった。香辛料はフレーゼが選んだハーブ、チキンを焼いている間は目を離さず、分量はきちんと測って入れた。テクニックはないにせよ、大きく外しはしないのだ。
「なんかムカつく!」
「……そう言われてもな」
「君が余計なことばかりするからいけないのだろう。本来なら、有沢光子たちは料理の基本を知っている人間なんだ。彼女たちが言う通りに作れば、焦げつかせたり味付けを間違えたりしないはずだろう?」
「それはそうだけど。……ちょっと待て食べてないのに、どうして味付けがわかる」
「食べないでもわかるさ。君たちがやることだぞ?」
「ますます失礼!!」
 だが反論できない結果が目の前にあるのだ。
 と、その中で、女子組の料理に手を出す者がいた。アンジェラだ。
 リナたちが作ったケーキを切り分け、口に運ぶ。ゆっくりと味わい、
「美味しいわ」
「そ、そう?」
「ええ。努力の味がする」
「……」
 柔らかく笑み、アンジェラは続けた。
「確かに私は、人間のように繊細な味もわからないし、調味料の区別も苦手だけれど、人の努力も否定したくない。生きようとした結果だもの。リナは決してうまくないのでしょう、けれど、苦手なことから逃げもしなかった。それは評価すべきだと思うわ」
「それは、その通りね」
「まあ、前向きではあったな」
 同意する面々。その中で一人、リナだけが首を傾げる。
「褒めてくれたっぽいのはいいんだけど。決してうまくないって言ったわよね?」
「……そうだったかしら?」
「絶対に言った! やっぱりアンジェラも下手だって思ってんじゃん!!」
「落ち着けリナ、アンジェラも悪気ねえんだから! 落ち着けってー!」
 飛び交う炎矢、暴れる超能力者。
 そんな炎から力を持たない人間を守りつつ、アンジェラは笑みを絶やさなかった。
 彼女が欲するものが、そこにあるのだから。



 メリー・クリスマス!


「……ところでフレーゼ、太陽。後で料理を教えなさいよ」
「まだ諦めてないの……?」
「いいかげんにしといた方がいいぜ。向かねえよ、お前」



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