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「8年かぁ……」 ぎしりと椅子をきしませ、リナは言う。 「よくまあ続くものよね」 「それを言ってはおしまいだろうがよ。それに、続いているってほど立派なもんでもねえし」 「でも一応、それなりに途切れず継続だけはしているよね」 リナの独り言に、聡が応じ、フレーゼがカバーする。 そこは焔色的超空間。卓を囲む主人公ズはいつも通りのメンバーだ。 「そんでー、今日のテーマは?」 「テーマって……。全員に共通する話題って、何かあったかな?」 「みんなの名前は由来を聞いたし、話の紹介とかもしたことあるしねー。そういう意味で共通する話題って、あとはー……、そうだ、タイトルとかは?」 ふと思いついたリナは、皆を見渡す。 「タイトルだって、一応は何かの意味があったりする、みんなの看板でしょ? その所以を紹介するとか面白いんじゃない?」 「あー、まあ、別に話題があるわけじゃねえしなぁ。じゃあ今日のテーマはそれで行くかー?」 リナの調子に聡も乗る。うんうん、と頷いたリナはメンバーを見渡し、 「じゃあまずはヴァルゴ」 「俺か?」 呼ばれると思っていなかったヴァルゴは、自分を指して驚く。が、リナは肩をすくめ、 「だって登場がいちばん早かったのは、あんただし。順番的には最初じゃない?」 「それもそうか……。しかし、『紋章伝』の由来、と言われてもな。ほとんどそのままだ。紋章、という作中の設定を、特に考えもせずタイトルにした。それだけでしかない」 「……まあ確かにね。じゃあ聡は?」 問われ、聡はひとつ頷く。 「おう、ロードシリーズだな。正確には『Lord of Magic』と『Lord of Festival』か。ロードは作中での通り名だな。親父とか桔梗とか。本当は、ロード・オブ・マジックって、俺の称号になる予定だったらしいぜ?」 「あんたがロード?」 「そりゃまあな。マジックマスターの息子で、ロード・オブ・ロードの息子。魔神ってのは相応しいだろ?」 「……まあ否定はしないけど」 能力的にはチート的に天才な聡だが、リナにとってはどつきあう相手でしかない。そういう相手を褒めるのには抵抗感があるものだ。 「フェスティバルの方は、そんな深い意味ねーな。単に文化祭を取り入れたから、そう名付けただけで」 「祭の神様って、それだけで物語になりそうな気もするけどね」 そんなことは全然なかった。 「次は……、ヒカルか」 聡は永遠の高校三年生を見やり、問いかける。 「『竜神の使徒』だな。竜神ってのは、作中のメイン設定だからな。その使徒……、まあ要するにオレのことだけど」 「他のタイトルもそうだけど、基本的には主人公を表すタイトルが多いよね」 「その方がイメージしやすいんだろ。使徒って単語が出てきたのは、まあ、特に意味もないんだろうけど。強いて言うならゴロか?」 「ゴロも大事だね。タイトルだと」 しっくりこないと、いずれ後悔するものだ。 「その後がフレーゼだよな」 「うん、僕だね」 フレーゼ・ハイブリーダは頷き、 「『えくすぺくてぃぶ ふらわー』は、日本語で言うところの、希望の花。本当にそういう意味になるかはわからない、単に単語を繋げただけの言葉だけだから、ゴロはいまいちかもしれないね」 「タイトルだけじゃなく、ふらわー組は花の名前がモチーフなのよね」 「うん。僕はフリージア。イリスさんはアイリス。みんな、花の学名をもじってつけられている。ちゃんと花言葉も調べたんだよ」 「主人公のあんたは“希望”の花言葉を持つフリージア、ってわけね」 「……そうだけど。リナ、よく花言葉なんて知ってるね?」 「え? そ、そりゃあ、それくらいはジョーシキよ! うん!」 「おいリナ。机の下からカンペ覗いてるぞ」 「にゃにっ!?」 ババっ、と何かを隠すリナ。その隣で、聡はくつくつと笑う。 「バーカ、見えてねえよ。自分でバラしてどうするんだ」 「あ、あんたハメたわね!?」 「ほらほら、ケンカしないの。次はリナの番でしょ」 エリアに収められ、急にリナは表情を明るくする。 「そう! このリナちゃんの素晴らしい活躍が見放題の『ミス・ジャック』は……」 「ジャック程度の能力しかない女性キャラ、要するにリナのことだな」 「さーとしくーん。さっきからあんたは、あたしにケンカを売ってるのかな? ん〜?」 「落ち着け、落ち着けって!」 後ろからカズマが抑え込まなければ、リナの炎が炸裂していたかもしれない。まあそれでどうにかなる聡ではないが。 「まったくもう。説明としては、まさにそれで終わりなんだけど……。個人的には良いタイトルだと思うのよ。ジャックって普通、男のことじゃない? それにミスってつくと、パッと見ただけじゃ意味がわからない。タイトルが最初に気を引くための看板だとするなら、そういう意味で、面白いタイトルだと思うの」 「ま、その点は否定できねーな」 応じたのは、グレイス・フェイリアー。リナに続いて現れた女性主人公だ。 「その点、オレは特に面白いタイトルでもねーからなー。『幻想騎士譚』て。ほとんど紋章伝と同じノリじゃねえか」 「ぶっちゃけ、どのへんが幻想だったのよ」 「ファンタジーだったろ」 ただそれだけである。 「……すごーくイイカゲンね」 「ま、タイトルが全てじゃねえってことさ」 「さっきと言っていることが正反対な気がするのは気のせい?」 気のせいだ。 「えーと、次はカズマか」 「オレか……。オレのところは設定系のタイトルだな。『なみだのしずく』は、最後の最後で出た古代魔法の名前だ」 「あんたの魔法じゃないのよね」 「まあな。オレは主人公って器じゃねえし」 「それはどうかわからないけどねー」 なんとも言い難いところではある。 「その次に出たのが『ヘルメス』か」 「僕か」 雨雲京介は肩をすくめ、 「他意はない。以上」 「……ちょっと。もう少し何かないわけ?」 「タイトルを決めたのは作品をアップロードする直前だった。土壇場で気のきいた言葉が出る人間でもないだろう?」 「じゃあ、なんでヘルメスなのよ。ゼウスでもオーディンでも天照大神でもいいじゃない」 「……ヘルメスは商業と旅、そして泥棒の守り神だ。多面性があり、ずる賢く、頭が鋭いと言われている。僕の物語は知略戦が主だからね、そういう意味でヘルメスを選んだんだろう」 「何よ。ちゃんと理由があるんじゃない」 口をとがらせるリナに、京介は口を歪めた。 「君の頭脳で理解できるように説明するのは骨が折れるんだよ」 「なんかようわからないけどバカにしたわね? バカにしたわね? いいわよわかったわぶち殺しね?」 「どうどう! 落ち着けリナ! 京介も無駄に煽るな!」 再びリナを抑え込むカズマ。今日の彼は苦労人である。 「あー、次はわたし?」 エリアが手をあげる。周囲を軽く見渡し、 「わたしのところも、京介んところと同じくらい、さっぱりしたタイトルよね。『それでも』って」 「でも、京介のところよりは、深い意味がありそうだけど」 「うーん、と。わたしのところは、一部と二部の間……、わたしが人間の味方をするか、半獣人の味方をするか、ってのが大きなテーマだったのよね。だから、タイトルもそれっぽくなったの。わたしは人間、それでも、人間の味方はできない、って」 「でも、どっちとも取れるよな。タイトルだけだと。リュートの恋人、でも、人間だ――そんな風にも取れたろ」 「もしそう取ってくれた人がいたなら嬉しいかな? どっちかわかんない〜、って方が面白いじゃない」 先が読めた話よりは、先が読めない話の方が面白いものである。例外はあるだろうが。 「次は光子ね。それまではあっさり系のタイトルだったのに、急に長ったらしいタイトルになったわよね」 「まあ、ね。それより名前を呼ばないで」 こほん、と咳払いし、有沢は続ける。 「それで、あたしの話? 『世界で一番不幸なあなたに』ね。焔色では最も長いタイトルだわ。タイトルで示している、世界で一番不幸な人ってのは、マザー・テレサの言葉ね。作中でも言及しているけど」 「あーはいはい、あれね、あれ。あのー、あれよ」 「あんたの頭があれよ。……『この世の最大の不幸は、貧しさや病ではありません。誰からも自分は必要とされていない、と感じることです』。それが、あたしの物語の全てよ。あたしも、笹森も、吉村や黒木もね」 「愛がテーマ、ってわけだね」 「……フレーゼ。そういうこと言わないでよ」 有沢の頬が赤いのは、気のせいではあるまい。 「ほら、次に行きなさいよ、次。えーと、烏丸?」 「おう、俺かー……」 答えた烏丸太陽は、べたーっと机に倒れていた。 「なによ、烏丸。元気ないじゃない」 「だってよー。俺のタイトルって明らかにいいかげんだしー。紹介からしてタイトル考えるのがめんどっちいって言われる程度だしー。どうでもいいじゃん?」 「うわ、めんどくさっ。まあ、実際にそうなんだけどね」 「だいたいさー。俺の話って、要するに繋ぎっていうかさ。有沢の後に、もうマリナの話って骨格ができてたんだよなー。でも、まだ公開できるほどの段階に至ってなかった。そんで、その間を埋める感じで、軽いコメディ系の俺が入っただけなんだよなー」 「うわぶっちゃけた」 「事実は事実だしー。もう俺の話はいいよ、マリナの方に行け、マリナの方に」 やる気のない視線を向けられ、マリナ・チェストナットは頭をかく。 「あたしのところ、ね。もう言っちゃっていいの?」 「四部まで読んでいる人なら関係ねえだろ。てか、他のメンバーもネタばれしまくってんだから、今さら気にするな」 「そう? じゃあ、まあ、まだ完結していないのに言うのもあれだけど……。私の物語は、『勇者育成計画』、その言葉に二つの意味があるのよね。 ひとつは、レオンという勇者を育てる、勇者の家庭教師としての物語。主に『心に勇気がある限り』での話ね」 「もうひとつが、本当の意味ってことね」 「そうよ。すなわち、世界を救う“勇者”を育てるっていう、ディアナたちの計画のこと。この仕掛けがやりたくて始まったようなものよね」 「無駄に長い割には、かなりあっさりしてるな」 「仕方ないでしょ。他にも色々と詰め込んでいるけど、タイトルだけで言うならそれで終わり。実は世界観とか、キャラクターとか、最初から続きを描く前提の物語とか……、初めてではないけど、今までそんなに深くやらなかったことを、とにかく突き詰めた物語が勇者育成計画なのよ」 「ふうん? まあ、まだ完結してないし、ラストを迎えてからもっかい講評って感じかしら」 「……いいわよ、そんなことやらなくて。それよりラスト、アンジェラの方に行きなさい」 話を振られ、黒髪の少女――アンジェラ・ウェーバーは机の上に顔を出す。 「『夜空の鈴』の所以――それそのものは、深い意味合いなどないわ。夜空色の持つ鈴であり、夜空に響く鈴の音が、物語の中で象徴的に扱われているだけ。私の物語、その本質は、人の生きざまを見つめることにある」 「確かに、タイトルだけじゃ、生き死にをテーマにしてるってのは伝わりにくいな」 「面目ないわ。私に限ったことではないけれど、タイトルは最も初めに出会う顔。それで内面が変わるわけではないけれど、第一印象はその後が続くかどうかの契機にもなる。そう考えれば、やはり、深い意味合いがあった方がいいのかもしれないわね」 「気になればそれでいい、って考え方もあるけどな」 「考えはそれぞれだもの、否定できないわ」 くすりと笑い、アンジェラは続ける。 「良い悪いの評価はそれぞれあれど、それが自分の人生につけられた名前とするなら――愛着くらいは、あるでしょう?」 アンジェラの言葉を否定する者は誰もいなかった。 なんのかんのと言っても、自分の物語、そのタイトルくらいは、やはり愛着が湧くものだ。 自分の名前に長く付き合うほど愛着が湧くように。 「なら、この名が最良。私は、そう思うわ」 「……でも俺はテキトーだったんだよなぁ」 「こら太陽。せっかくアンジェラがいい感じにまとめてくれたんだから茶化さない」 「だってよー」 「ええいうるさい! ならあんたを焼き鳥にしてオチつけてやろうか!!」 「だからリナやめろ!!」 どたばた、と騒ぐ面々を眺めながら、アンジェラは頬を緩める。 タイトルという名の顔と、その中身とは、やはり関係ないものなのだ。 人の生きざまを眺めながら、夜空色の少女は楽しそうにしていた。 |