「●ねばいいのに……」
「いきなりなんなんだよ、殺伐と」
 いつもの焔色的超越空間。ラウンドテーブルを囲むのは、焔色の主人公勢。
 うちの一人、『ジャック』のリナは机を叩きながら、声高に叫ぶ。
「だって。だってだって! 揃いも揃って彼女持ち彼氏持ちばっかり! 新しく来た連中までそんな調子って! あたしに対する嫌がらせなわけ!?」
 すると、新参勢の片割れ、『当たり前』のユウはおずおずと手をあげた。
「あの、僕は彼女いないですけど……」
「ドハーレム部に所属しといて何をぬかすか阿呆!」
「す、すみません!?」
 さっそく涙目になっている少年の隣で、『なみだ』のカズマが嘆息する。
「リナに絡むなよ、ああなったら、あいつ、すっげーめんどくせえんだから」
「何か言いたいことでもあるわけ?」
「ねえよ」
 肩をすくめ、本当に絡まないカズマ。だが、それが正しい。
「そういえば、意外とみんな、恋人がいるのねぇ」
 カズマの対面、『それでも』のエリアが皆を見渡す。
 場にいるのは総勢15人。9年も続くと、主人公たちだけでもそれなりの量になる。
「聡には茜、ヒカルにはエレナ、カズマにはクルル、光子には笹森、マリナにはレオン。古木君もみどりがいるしね」
「そうよ。そうなのよ!!」
 ますますヒートアップしたリナが、他のメンバーをにらみつける。
「さらに言えばグレイスも太陽もユウも、ムカつくことに京介でさえ、質はともかく数は選び放題だし!!」
 リナの妄言に、みなが顔を見合わせる。
「そんなモテねーぞ、別に。なあ、ユウ」
「そうですね。確かに、一緒に行動する人たちは女の人ですけど。でも、僕じゃ吊り合わないですし」
「どうでもいいけど、リナってなんでそんな熱くなれんだよ」
 『あやかし』の太陽、『当たり前』のユウ、『幻想騎士譚』のグレイスと、揃って心当たりはないか、もしくはどうでもいい感じ。
 中でも極めつけは、『ヘルメス』の京介だった。京介は鼻を鳴らし、
「それだけ動物的ということだろう。発情期なのに相手がいないのだな。不幸なことに」
「誰が! 発情期だ! セクハラよセクハラ!」
「つまるところ、そういうことだろう。恋人が欲しいんだろう?」
「あんたのほうがよっぽど即物的よ! 恋人ってそういうもんじゃない、もっとハートがウォーミングなものなの!」
「いたこともないくせに、随分と強く言い張れるものだな」
「うるさああああああああい!!」
 炎の矢が飛び交い、それを誰かが放った魔法弾が弾く。
「リナぁ、京介は口こそ悪いけど一般人だから。ヒートアップしたら死ぬから」
「ちょっとくらい死んでも大丈夫よ!!」
「その根拠どこからだよ……」
 『ロード』の聡は嘆息し、
「だいたい、彼女がいねえだけなら、他にもいるだろ。フレーゼとか」
「ぼ、僕?」
 『ふらわー』のフレーゼは自分を指さし、
「確かに、僕は恋人とかいないけど……」
「ラナスちゃんとイリスがいる時点であんたは却下」
「ひ、ひどいなぁ。みんなはそういう人じゃないよ」
「それ以上の家族でしょうが、あんたら」
「まあ……、それはそうだけど」
「けっ。けっけっ。いいわねぇ、あんたたちは。恋人もいりませんってか? おひとりさまを舐めんじゃないわよ」
「……さ、聡。リナが怖いんだけど」
「大丈夫だよ、かみつきゃするけど、いつも通りだから」
「それがいつもってどうなの……」
 しかし定常なのだ。
「まあ、恋人がいるってのが、必ずしもいいことってわけじゃないと思うけど」
 そう言ったのは、『それでも』のエリアだ。
「心を預けるからこそ、悲しいことだってあるしね。ねえ、ヴァルゴ?」
 今まで沈黙を貫いていた『紋章伝』のヴァルゴは、小さく頷く。
「まあ、な。失えば悲しいのは当然だ」
「それは……、そうかもしれないけど」
 リアルに恋人を亡くしている二人の手前、リナは少しだけひるむ。
 だが、この程度でめげるほど、彼女は諦めが良くない。
「それでも、いれば楽しいことは事実じゃん!? あたしだっていっそ悲しみ込みでも人と触れ合いたいの! ねえアンジェラ!」
 机の隅に、頭の半分だけをちょこんと出した『夜空』のアンジェラが、背伸びをする。
「何かしら?」
「アンジェラだってわかるでしょう、そういうの! そりゃ、別れは悲しいかもしれないけど、だからって出会いは否定されたくないし! てか恋人欲しいし!」
「そうね……、長く生きれば、いえ、私のように、老いることも死ぬこともなければ、たくさんの生は見届けねばならないわ」
 アンジェラはひとつ頷き、
「だからといって、人との触れ合いをやめようとは思わない。死んだように在り続けるくらいならば、つらくとも、悲しくとも、成すべきと思ったことを実行することこそ、“生きる”ことだと思うわ」
「さすがアンジェラ、いいこと言う! わかった!? というわけで彼氏ください」
「まあ……、無理だろうなぁ」
 ぽつりと呟いた聡は、ソッコーで蹴り飛ばされた。皆もそうなるとわかっていたので何も言わなかったし、蹴っ飛ばされた聡を助けにも行かない。自業自得である。
 そんな中、アンジェラは小首をかしげた。
「……リナは恋人が欲しいのでしょう?」
「そう!」
「けれど、男性から想いを告げられたことはない」
「その通りだけどアンジェラじゃなきゃぶん殴ってるわ」
「ならば、女性からは?」
「……は?」
 一瞬、リナの時が止まった。
 構わず、アンジェラは続ける。
「男性から相手にされていないのであれば、女性からはどうなのと、そう尋ねたのだけれど?」
「あ、いや、あの、アンジェラ。あたしってばノーマルなんだけど」
「ノーマル?」
「つまり、普通に男の人がよくて、女の人だと支障があるというか」
「どうして? 想いを告げ合い、心の隙間を満たす存在が欲しいのでしょう?」
「それは、まあ、うん」
「ならば、それが異性でなければいけないの?」
 アンジェラは艶然と微笑む。本物の小学生には絶対にできない、大人びた笑みだった。
「心を繋ぐことに、性別など関係ないわ。私は、同性であろうとも、本当に愛し合える者の方が好きよ」
「そ、そりゃあ、アンジェラはそうかもしれないけど……、ぐぬぬ」
 うなったリナは、きょろきょろと助けを求める。
「まあ、好きにすりゃいいんじゃねーの」
「アンジェラの言っていることも、間違っていないな」
「今どき、レインボーカラーなど珍しくもないだろう。差別主義者は君の方なんじゃないか」
 方々から飛び交う逆風の嵐。今、リナは窮地に立たされている。
「う、うぐぐぐ……! そ、それでも、あたしは彼氏が欲しいのよー!!」
 圧力に負けたのか、リナは席から飛び出して行った。それを見送った面々に、ほっ、と安堵の空気が流れる。
「なんとかうまくごまかせたなー」
「本当にめんどくせえやつ」
「でもまあ、ちょっとだけ気持ちもわかります」
「まわりがカップルカップルしてっとなぁ。たまに肩身が狭い時期とかあるもんな」
 わいわいと、雑談を楽しみだす面々。
 その中で、アンジェラの隣に座ったヴァルゴが、そっと耳打ちする。
「……アンジェラ。本気だったのか?」
「どうかしらね」
 くすっ、と笑うアンジェラの脇で、ヴァルゴは肩をすくめるしかなかった。




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