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「あたしは失敗に学べる女なわけよ」 突如、リナ=ミサキは、そんなことを言い出した。 焔色的超越空間。丸テーブルのまわりで車座になっているのは、焔色の女性主人公ズ、総計7人。 居並ぶ面々の一人、有沢光子が、リナをあきれた目で見つめる。 「あんた、バカなの?」 「バカって言うほうがバカなのよ」 「るさいバカ。あんたの、どこが、失敗から学んでいるわけ」 「いやね? 今まであたしの女子力アップ大作戦はことごとく失敗してきたわけなんだけど」 「失敗した自覚があるだけマシなのかしら」 「そこで考えました。何故! 失敗したのか、と!」 「うん、それで?」 「そこで気がつきました! 今までは素材が良くなったんだ、と!!」 「……は?」 「料理は素材から! 一流のシェフでも、一流の素材を使わなければ、できる料理は三流!! いわんや、あたしはちょっとばかりお料理の苦手な女の子! なればこそ、最高の素材を使うべきだと!!」 「あんたのどこがちょっぴり……、もういいわ」 「と、いうわけで、ここにいるみんなで最高の素材を集めて、パーフェクトケーキを作るわ!!」 「全部乗せしたロボットみたいなネーミングね。……ちょっと待った、みんなって」 「もちろん、光子もよ」 リナはにやりと笑い、 「本当ならあたしが全部集めてきたいところではあるんだけど、残念ながら季節はもう冬。クリスマスまで時間がないわ。となると、一人で集めに行くことは難しい。そこで、みんなの力を借りたいのよ」 「……何かを狩ってくりゃあいい、ってことか?」 問いかけたのは、片膝を立てて座るグレイス・フェイリアー。その隣で、アンジェラ・ウェーバーもまた、首をかしげる。 「ケーキの素材、と言われても、私には分からないわ」 「大丈夫。ちゃんと分担表を作ってきたから! この通りに集めてきて!!」 リナがリストをそれぞれに配る。みなで一読し、 「……リナ。これ、正気?」 「最高の素材を集められる、最高のメンバー編成だと自負しているわ!」 「自負しちゃったのね」 嘆息し、有沢は言う。 「どうなっても知らないから」 「というわけで、みんなに集めてきてもらいました」 とある厨房空間。シンクと作業台、オーブンなども完備した、一流シェフが使うにふさわしい場所。ただし使う者が一流とは限らない。 そんな厨房空間に、それぞれ素材を集めてきた女性主人公ズが戻ってきていた。 中心にリナ。その隣では、ケーキ作りを最も理解している有沢がサポートに立っているが、まあリナは人の話を聞く気などない。 「まずは光子、あなたの素材は?」 「普通よ、普通」 有沢の担当素材はふたつ、サラダ油とバニラエッセンスだ。 いずれも現代日本なら普通に手に入る代物。 「一応、店で使ってるやつを少し分けてもらってきたわ」 テーブルに置かれたのは、いずれも業務用。サイズの大きさに、リナも満足そうに頷く。 「うんうん、これならいい感じにできそうね。次は一番大事な素材! 小麦粉! 担当はあたし、リナ=ミサキ!」 「薄力粉ね。違い、分かってる?」 「違い?」 どん、と作業台に置かれたのは、デュラム・セモリナ。 「なんか小麦粉の棚で一番高かったから、きっとこれが一番良い奴!!」 「……リナ。これはパスタ用よ」 「うにゅ?」 すでに頭を抱えている有沢だが、一応、説明してやる。 「小麦粉にも種類があるの。強力粉とか薄力粉とか。ケーキに使うのは薄力粉。これはそもそも種類が違う粉。パスタを作るのに使う小麦粉の一種」 「…………」 リナはぽん、と手を叩き、 「まあ小麦粉だから」 「種類が違うって言ってんでしょうが!!」 「まあまあ、落ち着けって。リナにまともな素材を選べるわけねえだろ」 そう言いながら出てきたのは、グレイス・フェイリアー。担当している素材はベーキングパウダー。 「そういうあんたは、ちゃんと持ってきたんでしょうね。そもそも、ベーキングパウダーを理解している?」 「膨らませる粉なんだろ? バッチリだぜ」 どん、と作業台に置かれたのは、真っ黒な粉。 「これは黒色火薬!!」 「膨らむぞ」 「爆発すんのよ!! てかせめて食べ物を持って来なさい!!」 台をバンバンと叩きながら怒る有沢。と、 「まあ、リナやグレイスにやらせたのが間違いなんじゃない?」 ずい、と出てきたのは、ポニーテールの女勇者・マリナ。 「マリナの担当は、牛乳だっけ?」 「そう。採ってきてあげたわよ」 ずん、とテーブルに置かれたのは、瓶詰された白い液体。 「見た目は普通ね……」 有沢はいぶかしみながら匂いを嗅ぐと、 「ッ!? な、何この生臭いの!?」 「そう? 普通だと思うけど」 「普通じゃない! ……あなたまさか、モンスターのドロップアイテムとか採ってきてないでしょうね」 「よくわかったわね。クレイジーブルのドロップアイテム、『ビースト牛乳』よ」 「町で買ってきなさい!!」 「最高の素材なのよ、それ。クレイジーブルの討伐クエストって上位勇者でなければ受けられないんだから」 「知るか!!」 一応、牛乳は牛乳。こしたりすれば使えるだろうか。 「なんだかどっと疲れてきたんだけど、もう帰っていい?」 「何言ってるの、まだケーキ作り始めてもいないじゃない。それより、次はエリアね。卵、持ってきた?」 「お姉さんに任せなさい」 ぽん、と作業台に置かれたのは、いやに大きな卵。 「これは?」 「ギャロップの卵よ」 「ギャロップって、あの、あんたたちが乗っている、ダチョウみたいな鳥?」 「そうそう。大きい方がいいかと思って」 「……鳥の卵ってだけで安心しちゃったのはおかしいのかしら」 「最高よ、エリア!!」 「でしょ!」 きゃっきゃと喜ぶリナとエリアを横目に、頭痛が止まらない光子。正直、本当にメンツが悪い。 「残りは、えっと、アンジェラ? なんでよりによってアンジェラに塩と砂糖を取ってこさせたのよ」 「冒険組だと塩とか砂糖は手に入りにくいかなっていう配慮」 「エリアでもあんたでもよかったでしょうが!! アンジェラは塩と砂糖の区別がつかないのよ!?」 「あら、大丈夫よ。有沢光子」 つい、と出てきたアンジェラ。作業台に手が届かないので、踏み台を持ってきて、その上に立つ。 「確かに、私は味がよくわからないわ。塩と砂糖の区別もついていない。けれど、塩と砂糖、両方を持ってくるのであれば、間違える要素など何もないでしょう」 「いや、正直、袋の字を読んできてくれれば十分なんだけど」 「それに、今回は紅葉に分けてもらったから大丈夫」 「ああ、それなら安心だわ」 とん、とテーブルに置かれたのは、ふたつの小さな袋。 中身をチェックした有沢は、 「うん、ちゃんと塩と砂糖、それぞれあるわね。ようやくちゃんとした素材ね」 無言だし無表情だが、なんだかドヤってる小さな女の子。とはいえ、頼んでもらってきたなら間違える要素はない。 「はあ、これでラストね。恵美は、果物担当よね?」 「ボクだね。果物を探すのは苦労したよ」 ごろり、と机に置かれたのは、スイカほどの大きさがある赤い実。 「何これ?」 「イチゴだよ。クリスマスだしね」 「イチゴッ!?」 目を見張った有沢。恵美は肩をすくめ、 「大変だったよ。元イチゴ農園だった場所を探したんだけどね、大型種の浸食を受けててねぇ。イチゴの変種なんだ、それ。ただ食べられるし、みんなの食料にもなったから、一石二鳥だよ」 「変種って……」 つんつん、と突くと、なぜだかほのかにうごめいているような。 「これ、生きてないでしょうね」 「たぶん大丈夫。斬ったから」 「元はなんだったのよ!?」 「知らない方がいいと思うけど……」 「変種ってそういうことなの!?」 がっくり、と膝をつく有沢。 「……リナ。この素材で、本当にケーキを作るわけ?」 「んー。まあ、いつもの素材とは違うし? きっと素敵なケーキを作れるはず!! これでリナちゃんの女子力アップ大作戦はさらに上のレベルへ!」 「雲より上に行くのは男どもよ」 そう言って、有沢は深く深くため息をついた。 「なあ、聡」 「んだよ、太陽」 「すげえ不吉な噂を聞いたんだけどさ」 「おう」 「リナが最高の素材を集めていたんだと」 「狩りゲー?」 「ケーキ作り」 「オレ帰る」 「させると思うのか?」 「お前ひとり逃げられると思うなよ」 「むしろお前ひとりいればいいんじゃないか」 「えっと……、ごめんなさい」 「やめろお前らどっから出てきたッ!? この、薄情者ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 |