「ごめん」
「……」
「本当にごめんってば」
「村野聡。私は別に怒っているのではないの。呆れているの。同じミスを繰り返すのは社会人なら失格よ?」
「ま、まだ学生だし……」
「アホ」
「ストレートが過ぎる!!」
「いいから解毒薬を探してきなさい!! その間に他の連中を集めてあげるから!!」
「はいぃ!!」
 聡がどこかへ走り出す。残った一匹の狐は、はぁ、とため息をついた。
「なんで私がこんなことを」


 数年間、その倉庫は封印されていた。ところが久しぶりにみんなが集まるということで、村野聡は倉庫の中に面白いものがないかと見に来たのだ。
 以前、この倉庫から取り出した薬品を誤ってみんなが飲んでしまい、動物に変身してしまうという事件があったものの、聡はそんなことすっかり忘れていた。
 でもってボトルを取り出し、みんなで飲んでしまい……。
 本能が勝るのか、大半のみんなは散ってしまった。残ったのは、変身しつつも比較的理性が強く残った美空のみである。


 というわけで狐に変化した美空は、ぺたぺたと草原を歩いていく。すると、空からすーっと一羽のハチドリが降りてきた。 
「あんた、そのきんきら羽はもしかして紅?」
「うん? その声はもしかして美空ちゃん?」
 ぱたぱたと落ち着きのない飛行はハチドリの特徴だ。
「ちょうどいいわ、あっちに集まってなさい。聡が解毒薬を持ってくるから」
「そんなのあるの?」
「見つかるまで探させるわ」
「鬼だね……。まあわかった」
 ぱたぱた、と飛んでいく。この調子で他の連中も集めなければいけないのか?
 美空は気が重くなった。


 さらに進むと、大きな木があった。枝の上には銀色のカメレオンがつかまっている。
「おーい。あんたは誰ー?」
「うん? ああ、美空」
「その声はリオンね」
 よくよく考えれば、彼はもともと機竜だ。カメレオンが竜かはともかく。
「……? なんでゆらゆらしてるの?」
「カメレオンとしての本能というか。枝を模している、のかな?」
「自分でもわかんないのになんでやってるのよ」
「本能だってば。どうしたの?」
「どうもこうもないわ。あっちに紅がいるから、そこで集まってなさい。あと、他の連中はどこ?」
「うーん。あ、あっちの穴に誰かがもぐってるはずだよ」
 カメレオンの尻尾で指す先に、なるほど、草原の切れているところが見えた。
 美空がそこまで行くと、穴の中に獣の気配がある。
「ほらー、こっちも出てきなさーい。出てこないと埋めるわ」
「鬼か」
 もこっ、と穴から出てきたのはモグラとカエルだ。
「モグラはまだしも、なんでカエルが穴の中に?」
「砂漠のカエルとかは土の中にいるものだよ。適度に湿気はあるし、どうせ外にいたって獲物はあんまりいないし」
「なるほど。そしてその声はあかりね」
「遠野だよ」
「どっちでも一緒よ。モグラは誰? 黒崎?」
「……なぜ。名乗っていないのにわかるのか」
「あんた土の中とかに引きこもりそうだから」
「……」
「まあいいわ。さっさとあっち行きなさい」
「外は。まぶしい」
「うるさい」
「鬼か」


 少し進むと、湖になっているところがあった。
「さすがに水中までは探しに行けないわね。干上がらせるか」
「ちょちょちょーっと待った! 狐火使う気か!? ってか使えるのか!?」
 ばしゃっ、と水から飛び出したのはイルカだ。体半分を陸の上に乗せ、美空に抗議する。
「そうやって自然環境を勝手に変更するのはよくないぞ。というか犯罪だ」
「この世界にルールなんてないわ。存在する私がルールよ」
「無茶苦茶すぎる……」
「うるさいわ。顔じゃわからないけどその加齢臭、フォスター・アリオストね?」
「おじさんでも悲しいって感情はあるんだぞ」
「やかましいおっさん。でも、イルカだと地上を歩くのは大変そうね」
「大変というか無理……」
「なせばなるわ。根性」
「無理だ。それに、この湖は他にもいるぞ」
「ふうん?」
 よくよく見れば、湖の中を何かがくるくるしている。かと思うと、ばしゃっ、と顔を出した。ラッコだ。
「そこのラッコは誰?」
「比奈山君だ」
「ああ、確かにラッコって大食い……」
「そういう覚え方は不本意です! というか言うほど食い意地は張っていない!」
「怪異食べるあんたが言うの?」
「ラッコは意外とグルメなんです! ウニとか伊勢海老とか好きなんです! そういうところが似ているんです!」
「確かに怪異はグルメかもしれないけど……」
 それはそれでどうなのだ。
「しょうがないわね」
 狐となっていても、美空のチートは変わらない。
 そこらにあった竹を何本かぶったぎると、丸太に変えた。
「あんたらはこれで合流しなさい」
「みんなをこっちに集めるべきじゃ」
「動けおっさん。あと単純に、呼びに行くのが面倒なの」
「ひどいな!?」


「あと5人もいるのか……。どこかに集まってないかしら」
 そろそろ飽きてきた美空。進んだ先は岩山のようになっていた。
 崖でも構わず立っているのはヤギと雌鹿だ。
「器用なものね」
「鹿はリルア、ヤギはアディーだよー」
 答えたのは鹿の方。崖の上でもぴょんこぴょんこと落ち着きがない。
「リルアさんに無理矢理、ここまで連れてこられて……」
「あんたそんなのばっかね。自己主張とかないの?」
「あったらぼっちしてません」
「ある意味で自己主張だわそれ……。他の連中、どこにいるかわからない?」
「崖の上にいたよー」
「……この崖を登れと?」
「じゃあおぶっていこうか?」
「そうね任せた」
「楽することには決断が早いですね……」


 崖の上まで来ると、雪が積もっていた。そんな雪の上で、白熊とレッサーパンダが互いに立ち上がって威嚇しあっていた。
「……普通に考えてレッサーパンダじゃ勝ち目ないでしょ」
「勝てないからやらないってのは性分じゃねえんだ」
「あんたもしかしてアルフォンスね?」
「おう!」
「じゃあ白熊は……」
「愛梨だよ」
「ふうん。で、あんたは何をしているの」
「なんか寒いとテンション上がっちゃって!」
 白熊の本能だろうか。
「あっちの方にみんないるから、そっちでやりなさいよ」
「えー。でも雪のないところは暑いし……」
「無駄にでかいから暑いのよ。ほら、すぐ聡が元に戻すから、我慢して行きなさい」
「はーい。行こうか、アルフォンス君」
「ちょっ、早いって! 歩幅考えろ!」
 2頭の獣がいなくなり、はて、と美空は考える。
「……一人足りない?」
「存在を忘れていたでしょ、不知火さん」
 ぼこっ、と雪の中から顔を出したのは、エゾリスだ。
「あー、なんかいたわね。えーと、そう、コハル」
「普通に忘れられた……」
「いいから、あんたも戻るわよ」
「肉食獣と戻るのはリス的に怖いんだけど」
「文句を言うと噛むわよ」
「やっぱ怖い……」


 そうこうしてみんなが戻り、聡が倉庫から薬を見つけてきたところで元に戻った。
 その後、美空は聡をボコボコにし、一人で休憩がてら草地で寝転がる。
 と、そんな彼女の隣に黒い影。
 チリン――
「アンジェラ、あんたどこに行っていたのよ」
「ずっと見ていたわ」
「あぁ!? じゃあ手伝いなさいよ!
「必要なさそうだったもの。それに、楽しそうだったし」
「はぁ!? どこが!」
「焔色のメンバーと話すのも、楽しいものでしょう?」
「……冗談。もうやらないわ」
「ふふっ。そうね、しばらくはいらないかもね」
「……」







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