朝から強い日差しが地面を照らしていた。
 助手席に座るマイケルは空をうっとうしそうに見上げた。屋根はおろかサンルーフさえない軍用車は、太陽光を遮る能力などまったくない。
「ったく。勤勉なのは人間だけで十分だぜ」
「そう腐るなよ。あとは帰るだけなんだから」
 運転を続けるケヴィンに言われ、そうだけどよ、とマイケルはこぼす。
 動物を狩った帰り道だった。麦畑はいまだ栽培に適さず、こうして変種と化した動物たちをハントしなければ、日々の食料にも事欠く有様。裏を返せば、ハントするだけで食料には困らないのだから、ものは考えようか。
 道がだいぶ開けてきた。工兵たちの働きにより、軍用地からその周辺は、だいぶ切り開かれてきている。
「ほら、もうすぐ……、ッ!?」
 二人とも、それを発見したのは、ほぼ同時。
 目指す駐留地。そこから煙があがり、尋常ならざる吼声が響く。
「おい、こいつはッ!」
「ああ!」
 急ぎ、アクセルを全開で踏み込む。駐留地のフェンスが見えたのはすぐ、その化物が見えたのもすぐだった。
「なん、だよ!? こいつはッ!?」
 駐留地のど真ん中、そこに、巨大な影があった。
 太陽を背にしたその姿は、何かのオブジェにも見えた。細く長い足、硬質な胴体。そして、無機質に輝く瞳。
「ひッ……!」
 悲鳴をあげたマイケル。
「ビビッてんじゃねえ!!」
 一方、自分に活を入れながら銃を手にしたケヴィンは、車から飛び降りると、自動小銃の銃口を化物に向けた。
 発砲。20発もの弾丸を一気に打ち込む。たいていの獣は絶命する弾幕。
 だが。
「嘘、だろッ!?」
 銃弾は、すべてその体で弾かれる。外れたならわかる、耐えられたならまだ理解できる。だが、弾かれた・・・・
 その意味。あの大戦争を経験した軍人だからこそ知っている。その絶望感。
 かなわない。勝ち目がなどと論ずることにさえ意味がない。文字通り、存在からしての上位。
「あ、あ……」
 ケヴィンは思わず銃を取り落した。もはや、戦う意志は残っていなかった。
 直後、
「ッ!!」
 獣は一息にケヴィンを食べ散らかした。
 バリバリとかみ砕く音が響く。口に収まりきらなかったブーツが中身ごと転がり、無残な断面をさらす。
 続き、獣の目がマイケルを見た。
「ぅぁ……」
 逃げなければ、と脳は叫ぶ。だが、意に反し、足はまったく動かない。ふと、マイケルは獣の背後に気づいた。
 自分が所属していた陸軍の精鋭、最新式の戦車や軍用ヘリが、無残にひしゃげていた。へし折れた砲塔、ちぎれ飛んだローター、そして、それらを運用しようとしていた仲間たち。
 血とオイルにまみれた武器は、奴に敗北した証。
 瞬間、マイケルは悟った。こいつにはかなわないんだ、と。
 人類は再び、そして、今度こそ敗北する。その予感に、なぜだかマイケルは一瞬だけ安堵した。
 自分だけが悪いわけじゃない。
 そんなことを思いながら、マイケルはその生涯を閉じた。



次話