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ピピピピピピ―― 「んっ……」 目覚ましの、音。 手探りで枕元のスマホを探し……、見当たらない。 ゆっくりと目を開く。よくよく聞けば、音が少し遠い。枕元じゃない。 体を起こすと、机の上でスマホが震えていた。 「またかぁ……」 ため息交じり、ベッドから起き上がり、机の上のスマホを手に取る。アラームを止めると、ぐっと背伸びし、カーテンを開けた。 明るい日差し。今日も良い天気だ。なのに、朝から気分は晴れない。 振り返る。窓際に近いところに机。ベッドは、部屋の反対側。 昨日は寝る前にスマホを見た。アラームがちゃんと設定されていることを確認するために。だから、間違いなく枕元に置いた。どう転んでも、机の上には飛ばないし、こんなところにあること自体がおかしい。 そんなおかしなことは……、この家に引っ越してきてから、しょっちゅうだ。けど、頻繁にあるから慣れるってわけでもなく、ただ単純に気持ち悪い。 「はぁ」 ため息ひとつ、とりあえず朝の準備をするため、私は部屋を出た。 キーンコーンカーンコーン―― チャイムの音を聞くなり、私はぐったりと机に突っ伏した。 「愛梨。お昼だよー」 「出たなのうてんき」 「今日は良い天気、ってちゃうわ。何よいきなり」 「アイリちゃんはお疲れモードなのだ」 そう言いながら、私は体を起こす。お弁当箱を持って立っているのは、城嶋美紀。私の、中学からの親友だ。メイクばっちしで派手な格好をしているけど、それは見た目だけで、面倒見もいい。 「どったの? さっきの授業?」 「それもそうだけどそれだけでもないような」 確かに私は数学とか好きじゃないけど。でも、お疲れモードなのは、ここ最近ずっと。具体的には引っ越してからずっとだ。 そんな私の様子を知ってか知らずか、美紀はじーっと私を見つめ、 「ふうん。ほう。へえ。で? 何なの?」 「ん……、まあ、色々と」 美紀は、私の親友だ。だけど、親友だって、話せないこともある。 というか、なんて話したらいいか、私自身もよくわかっていない。不都合といえば不都合だけど、それを説明すると難しい。だから、“なんとなく”気持ち悪い。 私がいつものように口を濁していると、美紀はおもむろに立ち上がり、 「ていっ」 「ぐえっ」 私の首根っこをひっつかんだ。 「愛梨ちゃーん? お姉さんにはなんでも話すって約束だよね」 「お姉さんって年齢一緒で……ぐええ」 「い、い、か、ら! 話しなさーい」 「わ、わかったってば!」 私を解放した美紀は、私の向かい側に座り直し、じっとこちらを見つめる。 「本当に。新学期になってから、愛梨ってば調子悪いよ? 何があったのさ」 「何が……、ってほどじゃないの」 そう言いながら、私は引っ越し直後のことを思い出していた。 最初に気付いたのは、引っ越しの片づけをしていた最中のことだ。 ガムテープで閉じた段ボール箱。それを開こうと、カッターを手に取ろうとして、手元にないことに気づく。 つい今さっきまで使っていたのに。そんなことを思いながら探し、結局見つからず、ガムテープを剥がして箱を開封した。 カッターは、箱の中に入っていた。 ありえない話。今さっきまで使っていたカッターが、箱の中にあるはずない。 だから、何かの勘違いか、カッターが2本あったか、そんな話のはず。そうとわかりきっているのに、気持ち悪さはぬぐえなかった。 それからというもの、たまに物がなくなっては、違うところで見つかるということが時々あった。 なくなって困るものがなくなることはない。たとえば、財布や家の鍵がなくなったことは一度もない。一方で、髪を縛るゴムとか、腕時計とか、ハンカチとか……、なくても致命的に困るわけじゃないものだけがなくなる。 なくなった後も、すぐに見つかる。わざとらしいくらい分かりやすいところに置いてあったり、必ず見る場所にあったり。つい直前に探したところにあったこともある。 お父さんもお母さんも気づいているはずだけど、気のせい、と言うだけ。私ほどは気にならないみたい。 もともとお父さんたちは共働きで、家にいる時間は私より少ない。そのせいかもしれない。 私一人が、悩んでいる。そういう話だった。 「ふうん」 私の話を聞いた美紀は、箸を起き、お茶をすすった。 「なるほどね。勘違いかもしれない。ありえないとは言い切れないけど、普通に考えるとありえない。だから、気持ち悪い」 「そう、そうなの」 私は強く頷いた。 実際、誰かが何かをしているとは、とても思えない。泥棒が入ったにしては、動くだけで盗まれないのもおかしいし、そもそも頻繁に侵入なんてできるはずもない。 そう、たとえて言うのなら……、『目に見えない第三者が住んでいる』ような違和感があるんだ。 美紀は私のことをじっと見つめ、 「そういうの、先輩にも聞いたことある気がする。心霊現象ってーの?」 「心霊って、そんな大げさな。お化けを見たとかじゃないんだよ?」 「でも、ありえないことが起きる、超常現象ってやつでしょ。似たようなもんじゃない?」 「そう、かなぁ」 「なら! そういうプロに頼んでみたら?」 美紀はスマホを取り出し、さっと操作する。 「そうそう、ここ。心霊現象っての、調査してくれるんだって」 美紀が見せてくれた画面には、ホンダリサーチ、とある。誰かのブログに載った記事らしかった。 「リサーチ?」 「そう、探偵事務所みたいな感じらしいんだけど、心霊現象を調査してくれるんだって。先輩のとこの不具合も、それで治ったらしいよ」 「へえ」 「送るね」 ラインで、美紀から私のスマホに送られてくる。 ホンダリサーチ。 「実際、それで解決するか分かんないけどさ。何もしないよりいいんじゃない? 何より、悩みを聞いてくれる相手がいるって、大事なことだよ」 「それは、そうかもしれないけど」 「普通の人、たとえば警官とかに言ったって、たぶん何もしてくれないと思う。でも、こういうとこの人なら、とりあえず頭ごなしに否定したりしないでしょ? で、ちゃんと調査してくれる。その結果、何もなければ、本当に愛梨の勘違い。でも、聞く限りだと、ただの勘違いとも思えないんでしょ?」 「それは、そう」 ありえなくもない、ありえない。 小さな違和感。その、原因を調べてくれる人。 「心配なら、あたしも一緒に行こうか?」 「……ううん。一人で行ってみる。私のことだしね」 そう言って、私はスマホを握りしめた。 |