「王様だーれだ!」
 明るい声に応じたのは一人の女の子。
「あったしー! へへへー、それじゃあねー、3番が2番をー」
 女の子は可愛らしく微笑み、ちょっとてれてれ。
「おー、何をするのですか!」
「え? 2番って俺だぞ!! そ、そんなふしだらな!! 女の子とはもっと自分を大切にだな!!」
「マジで!? マジでやっちゃうの!? いいじゃんやっちゃえー!」
「そう? じゃあやっちゃえ! 3番が2番を……、ジャーマンスープレックス!!」
「あ、3番って僕ー。じゃあテッセン、ひと思いにしんでくれー」
「ま、待てミハエル! お前の習った格闘技にジャーマンなんたらは存在しなぐおおおおお!!」
 小柄な少年は、自分と頭ふたつも異なる巨漢を抱えあげる、というか締めあげる。そして、そのまま巨体を持ち上げ、
「じゃぱにーずみそすーぷ!!」
 訳のわからない必殺技を叫びながら後ろに放り投げた。バカでかい体が部屋を転がり、そこらにあった机とか空き缶とかその他いろいろをぶっ飛ばす。
 そんな光景をはたから見ていた少年は、冷や汗ひとつ。
「せ、先生」
「なんだ、烏丸」
「生徒がいかがわしい遊びをしています。これは止めるべきだと思います」
「いいんじゃないか、若さってそういうことだ」
「あんた悟った風に言ってんじゃねえ!?」
「呼んだ?」
「サトリじゃねえ!!」
 烏丸太陽は焦っていた。恐怖すら感じていた。
 何が怖いって、この連中、王様ゲームをしているのに割り箸も持っていない。
 そう、“クジなんてない”のだ。
「だってこいつら酔っ払いだし! クジもないのに王様ゲームとか意味わかんないし! しかも成立してるし! 何してんのこいつら!? むしろ何されんの俺!!」
「落ち着け烏丸。そんな時はワインでも飲め」
「あんたが飲んでいるのは芋焼酎だ!!」
「カラス。大丈夫。みんな、何も考えてない」
「んなこたわかってらあ!!」
 叫ぶ太陽、その背後に忍び寄る影。
「あっれー、カー君、こんなとこでにゃにしてんのさぁ、カー君も王様ゲームやろ王様ゲーム」
「ルナ先輩、それは王様ゲームじゃねっす」
「烏丸太陽。この料理はおいしいですよ」
「くるみ、そいつは料理じゃねえぞ。座布団だ」
「太陽、お水がなくなっちゃった、くれるかい?」
「ミハエル、そいつは水じゃねえ日本酒だ! というかあんたらもう大人しくしてろよ!?」
「烏丸太陽ー! 何を言ってるの、あたしとあんたの勝負はまだ終わってないわ!!」
「勝負なんてしてねえ!」
 混沌とした部屋の中で、酒に酔うこともできない烏丸太陽は、叫ぶことしかできないのだ。
「だああああああもう!! とりあえず料理と酒を持ってくっからそれまで待ちやがれ!!」
『わーい♪』
 上機嫌に訳わからない遊びに戻った面々を前に、太陽はため息ひとつ。
「……はぁ、ったく、なんでこうなんのかね」
「運命、かな」
「先生、テキトーに誤魔化してんじゃねえぞ」
 だが、それは他の言葉で言い表しようもないような、運命の糸が繋がる一点なのかもしれない。
 もっとも、烏丸太陽がそれを知るのは、もう少し先の話。

 ――そして、時間はさかのぼる。




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