少女は自室の窓から、夜空を見上げていた。約束の時間までは、もう間もなく。 答えはもう決まっている。けれど、それを口に出すのは、少しだけ怖かった。 深夜一時。約束の時間に、それは現われた。 「はい、こんちは」 何の前触れもなく、少年が部屋の中心に現われた。ブレザーに身を包んでいなければ、小学生にしか見えないだろう。 少女は振り向き、少年の顔をまっすぐに見つめた。 「答えは決まった?」 「……うん、一応」 「先に言っておくけど。別に、君は才能があるってだけなんだ。それも、特別に才能があるってわけじゃない。ぼくらからすれば、むしろ弱いくらいの能力にしかならないと思う。だから、無理にこっちに来る必要はないんだ。平和な世界で、平和に過ごしたっていい。ぼくは、むしろそっちのほうがマシだって思う。 その上で、聞くよ。君は、学園に入学する? しない?」 少女の答えは決まっていた。困っている人がいる。苦しんでいる人がいる。そして、彼らを助ける力、救う力が、彼女にはある。 それを、知ってしまった。知らなければ平和に過ごせたかもしれない。でも、もう知ってしまった。 知った以上、彼女には、もう捨て置けなかった。 「あたしは、入学する」 へえ、と少年は小さくもらした。 「いいの? 入学すれば、もう戻れない。今までの記憶は失い、老いることもなく、戦いに明け暮れることになる。ぼくは、おすすめしないよ?」 「うん。友達や家族と別れるのは辛い。今までを失っちゃうのは、寂しい。戦うのは嫌だし、死んじゃうのは怖い。 でも、その能力ってもののせいで、あたしの家族や友達が死んじゃったり、苦しんだり、困ったりするかもしれないんでしょ? あたし、それはもっと嫌だから。だから、自分の手で戦う。あたしにその力があるなら、自分の手でつかみたいの」 少年はしばらく、少女を見つめた。そして、口元に小さく笑みを浮かべた。 「言うね。ぼくも学園に所属して長いけど、君みたいに強い子は久しぶりだよ。君は、いい能力者になるだろうね」 言い、少年はポケットから小さなクリスタルガラスのびんを取り出した。 「はい、これを飲んで。目が覚めた時には、学園さ」 少女はびんを受け取ると、中を見つめた。きれいな白色の液体が、ゆらゆらと揺れている。 少女は覚悟を決め、それを一気に飲み干した。途端、くらりと揺れる。その体を、少年が支えた。 「願わくば、君が封呪を使えますように、ってところかな。 君ほどまっすぐな人間は、ぼくらと同じ道を進むべきじゃないんだ」 ヒュッと、ふたりの姿が消えた。 少女の物語は、今、動き出した。 |