■合議のこころ

扉を蹴飛ばすように開き、神楽たちは学園長室に入った。
「・・・神楽。女の子なんじゃから、もう少しおとなしくできんのかの?」
「うっさい!てか、それどころじゃないのよ!松岡組が無限の書を狙っているって・・・!」
学園長は冷静に口元に指を持っていき、シーと空気を吐いた。
「大声で言ってはいかんの。極秘事項じゃ」
「って・・・事は、知ってたのね」
「とりあえず落ち着きなさい。お茶は出せんがの、座って落ち着くんじゃ」
神楽は素直にソファに座った。続いて入ってきた由佳たちも並ぶように座る。
「さて。どこまで知っておるのかの?」
「・・・松岡先輩」
神楽は真紀を見る。真紀は頷き、学園長に視線を移した。
「7年の松岡真紀です」
「知っておる。松岡太一の一人娘じゃの」
学園長は大仰に頷いた。
「はい。父が、学園内の大事な何かを奪うために画策しています。すでにガーゴイルの設置と結界の強化に成功したそうです」
「結界の強化との?」
今度は真紀が頷いた。
「学園結界を強化する事で、この学内では魔法が使えなくなっています。それに、学園内の生徒が3人・・・組に協力しています。紫藤星次と、白鷺美華、それに・・・綾瀬行人。たぶん、もう学内にはいません」
「綾瀬君が?」
これには学園長も片眉を跳ね上げた。その証言に、桔梗が付け足す。
「白鷺と名乗るヤツには逢ったわ。確かに綾瀬と一緒にどこかに行った」
もはや桔梗の瞳には殺意以外の色が見当たらない。怒りの中に後悔が混じっている事実には、学園長すら気付かなかった。
「なるほどの・・・。他には?」
「ないわ」
短く神楽が答えた。
学園長はいつも通りにヒゲをなでつつ、黙考する。
「・・・学園長。知っている事は話さないわけ」
桔梗は立ち上がり、学園長を睨みつけた。
「しかしのォ・・・。話したら間違いなく首を突っ込むじゃろ?」
「言わなくても突っ込むつもりだけれど」
「そうじゃろうな。じゃから知られたくはなかったんじゃが。まあ、少し待つべきじゃな。今、あちこちで情報を収集中じゃ。それが終わってから状況整理をすべきじゃろう」
学園長は桔梗から神楽に視線を移した。
「神楽。ついでじゃ。呼んできなさい」
「わかった」
席を立ち、神楽は部屋から飛び出して行った。
「さて・・・どうなるかの」
時間はあまりないがの。学園長は、小さな声で続けた。

秀一と凛が戻り、神楽は聡と茜を連れて戻ってきた。これで、現状に対処するのに相応しいメンバーは揃った。
「状況は以上じゃ。わかったかの?」
語り終えた学園長は、一同の顔を見回した。代表するように聡が答える。
「つまり。ガーゴイルが学園内にいて、無限の書を渡さないと暴れると。で、六芒星ヘキサグラムの結界のせいで魔法は使えないし、行人の他にふたりは生徒が敵だし、親父とお袋は拉致されているし、新藤先生は出張中だし。おまけに敵さんは松岡先輩の親父さん、と。俺でも最悪とわかる事態だな」
最悪と言いつつも、聡は嬉しそうだった。
「終わりですね」
秀一は肩をすくめた。
「マスターは敵の手中。先輩は出張。学内は敵だらけで、しかも魔法が使えない。このメンバーで、この状況には太刀打ちできませんからね」
「諦めんのが早いぜ」
明るい調子で聡は言う。
「面白いじゃねーか。要するに行人の奪還、親父の救出、強化結界の破壊、ガーゴイルの殲滅を同時にやりゃあいい。そんだけだろ?」
「・・・馬鹿ですか。マスターの守備は厳しいでしょうし、綾瀬は自ら向こうに味方している節があります。結界の破壊も簡単にはいかないでしょう。ガーゴイルに至っては、一般人では手出しできません。どうやって数多くの敵を潰すつもりですか」
おほん、と勿体ぶって、聡は最高の笑顔を見せた。
「まずは親父だな。そっちは松岡先輩に任せたらどうだ?先輩なら奥まで入れるだろ?」
聡が見ると、真紀が口を開いた。
「確かに、私がこっちに来たのはまだバレてないと思う。上手くいけば、かなりのとこまで入れると思う」
だろ、という風に聡は秀一を見た。
「・・・それでもひとつを解決したに過ぎません。無限が取られればそれで終わりです」
「結界が問題なんだけどさ、要するに魔法が使えればいいんだろ?だったら・・・学園結界を消したらどうだ?」
む、と一同が小さく唸った。
学園結界を強化する事で魔法を封じたのなら、学園結界そのものがなくなれば・・・強化結界に、意味はなくなる。
「綾瀬はどうするつもりです?」
段々とムキになりつつ秀一は聞く。
「行人なら俺に任せろ。たぶん他の生徒もいるだろうから、援護は欲しいけどな」
「だったら・・・」
何故か嬉しそうに笑い、秀一は最後の問いを繰り出した。
「ガーゴイルは、どうするつもりですか」



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