■挽回のこころ

一同は黙って聡に注目している。今、聡は完全にこのメンバーを引っ張っていた。
明らかに不利な状況で、しかし聡だけがこの場を楽しんでいた。
「ガーゴイル、ね」
聡は最後の問いを繰り返した。これは、どう考えても一番、厄介なのだ。
学内にいるガーゴイルは一般人には相手をさせられない。かと言って、遊撃するには教師を合わせても全く足りない。
しかも、この事実を一般客に知らせるわけにはいかない。知らせれば大混乱が起き、それだけで被害者が出てしまうだろう。
「ちょっと確認するけどよ、ガーゴイルってのはどういう生き物なんだ?」
質問に、秀一の代わりに何故か神楽が答えた。
「ガーゴイルは魔力で意思を持たせた動く石像の一種。最初の命令のみを忠実に守り、訂正できるのは魔力をこめた術者のみ。頭の程度は低く、単純な命令しかこなせない。で、合ってるかしら?」
「・・・正解です」
意外そうに目を開く秀一に、神楽は得意げに語った。
「ちょうどこの前、授業で習ったばっかりよ」
「授業、聞いていたんですね」
「・・・それってどーいう意味よ?」
秀一は神楽をまるで相手にせず、聡に向き直った。
「理解できましたか?」
「弱点とかは?」
「頭の程度。それに魔法は使用できません。が、石でできた身体は傷つけにくく、頭が悪いと言っても命令には忠実です。厄介なものですよ」
聡はあごに手を当て考え込む。学園長や凛はあえて何も言わなかった。何か妙案があるわけでもないし、聡の集中を邪魔してはいけないと思ったから。
他の人にはない、聡だけの自由な発想。戦闘に慣れてしまったロードや学園長では思いつかない、奇抜な発想が必要だった。そして、聡にはそれを思いつく可能性がある。
それこそが、聡が生まれながらに戦道にいるという証。天原聖の息子という戦闘の天才の血に、皆が賭けていた。
数分も経ったかと思える頃、聡はゆっくりと口を開いた。
「まずさ、ガーゴイルから学園内の人を守らなきゃいけない。暴れだすのはたぶん、正午を過ぎて・・・学園長との交渉が決裂した後だ。そうでなきゃ脅しの意味がない。暴れだしちまったら交渉どころじゃないからな。
って事は、それまで時間を稼いで、ガーゴイルをできる限り潰しちまえばいいんだ。魔力のこもった石って事は、魔力を探せばサーチできるんだろ?」
その質問には、専門の知識を持つ茜が答えた。
「不可能じゃない、ってのが正確なとこ。全く動かない魔力だけを探せば、それがガーゴイルの筈だから。でも、私の縛術だって学園全部は網羅できないわよ?」
「そっちは学園長に任せる。俺は魔法の知識はねーから。で、後は数で遊撃すればいい」
「・・・誰が迎撃できると言うんですか」
ため息混じりに問う秀一に、聡はさらりと答えた。
「俺らに無理なら、他のヤツに任せればいいだろ」
「他のヤツって誰ですか。まだこの学園内に実力者がいるとでも?」
「ここにはいねぇ。だったら、呼べばいいだろ?」
聡は凛を見た。凛の得意魔法は、つまり・・・。
「召喚術?」
凛が言った言葉に、聡は頷いて返した。
「馬鹿な!いくら凛でも学園内を網羅するほどデーモンを召喚するには魔力が足りませんよ!」
「だったら供給すりゃいいじゃんか」
当たり前と言わんばかりに、聡は秀一に返す。
自分を信じるが故の強気。自分にできる事をしっかりと理解し、目的も明確だからこそ、常に冷静で、しかも諦めない。諦めないからこそ、可能性が見えてくる。安全性を最優先する作戦ばかりを選んできた秀一との決定的な違いがここにある。
秀一は秀一なりに冷静に、事態を説明した。
「契約なしに魔力供給しようとしてもロスが多すぎます。このメンバー全員を足したところで魔力が足りるとは思えませんが?おそらく、魔法使い数百人分は必要ですよ?」
「お前も馬鹿だな」
秀一は不機嫌そうに顔を歪めたが、聡は気にせず笑った。
「今、この学園には何人の魔法使いがいると思っているんだよ?」

教員棟の屋上にかがり火が燃えている。夜風になびく旗色は赤。
どこかから松岡組の者がこの光景を眺めている事だろう。心魔の学園長が、ひそかに屈した事を意味する旗が。
相手を挑発するわけにはいかない。今、ガーゴイルが暴れだせば何もできないのだから。
「足りない、だろうね」
「・・・ああ」
その光景を聡たちは下から見上げていた。悔しい想いと共に。
「デーモンを召喚してもまだ足りない。たぶん、全部は迎撃できない」
学園長と凛は手分けして魔力集めとガーゴイルの位置の特定に奔走している。どちらも学園の有事用のアイテムを使用する事である程度はカバーできる。
だが、それでもまだ足りないだろう。全てのガーゴイルの測定は不可能だし、デーモンもどれだけ召喚できるかわからない。
「どうするの?行人君の事もあるし」
神楽が聡に問いかけた。
聡は僅かに言葉を詰まらせ、それでも答えた。
「だったら俺たちが暴れてやればいいさ。そうすりゃ、向こうだってガーゴイルで迎撃しようとするかもしれないだろ」
「マスターを解放できればそうなるでしょうね。マスターとぶつかろうと思う人間はいないでしょうから」
「・・・だったら、成功させるしかねーな」
聡たちは決意する。強く、強く。
失敗は許されない。たとえ許されたとしても、自分で自分を許せそうにない。
「みんな。勝つぜ」
それぞれに想いを抱え、それぞれが頷く。
決戦は、明日――。



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