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■信じるこころ
心魔学園のメインストリート。そこでは、生徒たちが大きな声を張り上げながら何かを配っていた。 時刻はまだ朝の8時前だというのに、すでに道を歩む人は多い。学園祭の最後の日を楽しむためにだろう。 「どうぞぉ!心魔祭記念の魔法符です!」 生徒が配っているものは、不思議な紋様の描かれた紙切れ。魔法符と呼び、要するにお守りのようなものである。一応、攻撃魔法や物理的な攻撃に対してもある程度は防御してくれる、実質的な効果もある。 ちなみに配っているのは聡たちのクラスの生徒。別の場所では神楽の友人や由佳の友人も忙しげに配ってまわっている。 道を歩く人たちも、祭りの雰囲気に飲まれてか、魔法符を受け取っては鞄やポケットに入れていく。 「おい、そろそろ在庫が尽きるぞ」 配る生徒のひとりが、もうひとりに話しかけた。 「おう!とにかく全部、配ればいいんだろ」 「らしいな。委員長がそう言ってた」 「おっけ。それじゃ、さっさと配って、次ィ行こうぜ!」 元気のよい声がメインストリートに響く。 その意味を、知らずに。 学園の一角に人目の触れぬ場所がある。大きめの魔方陣の中心で、凛はひとり複雑な呪文を唱えていた。天原が作ったオリジナルの召喚魔法で、普通の召喚魔法よりも少ない魔力で召喚ができる。 「・・・召喚。レッサー・デーモン」 魔方陣が光り輝き、異形の化物が姿を現した。背丈ほどの翼を持つ、大柄なデーモン。 「主として命じます。ガーゴイルを発見、破壊する事。ただし、生物は決して傷つけてはいけません。召喚終了条件はガーゴイルの殲滅。以上です」 「承知した」 大きな翼を広げ、デーモンは空へと飛び立っていった。 デーモンはある程度だが、相手の魔力を感じられる。ちょうど茜の“魔力のサーチ”を可能にする魔法・縛術のようなものだ。 「どうじゃ。足りるかの」 少し離れたところで、学園長は別の魔法のために珍妙な動作を行っていた。 「クロウから借り受けた分でおよそ予定の7割。学園中から集めている魔力を加算すれば、十分に間に合うかと」 凛は額の汗を拭い、次のデーモンを召喚するための呪文を紡ぎ始めた。 「ほっほ。後は・・・時間だけじゃな」 時間は足りない。けれど、タイムリミットは変わらない。なら、限られた時間の中で、全力を尽くすのみ。 すでにここにクロウの姿はない。 無限の書を守るだけの存在は、昼間は魔力を使う事ができない。代わりに、昼の間は歴代の学園長が無限を守ってきた。 クロウが信頼に値するとした者だけがなれる、特別な肩書き。それこそが『昼の守人』。だからこそ、クロウは夜の間に魔力だけを渡し、その姿を消した。自分にできる事は全て行い、後を信頼できる相棒に任せて。 「信頼は、大事にせねばならんからの」 学園中の魔法符を持つ者から、学園長は魔力を集め続ける。学園を守るため。クロウの信頼に応えるため。 「行くのね」 「・・・ああ」 「私は置いて、茜と一緒に」 「・・・ちょっち語弊があっけどな」 聡は微笑む。とても優しくて、温かくて、だから儚い。 聡と神楽は出発時間までの僅かな時間を利用し、ふたりで少し離れた木陰に並んで座っていた。 神楽は由佳や真紀と共に天原の奪還に向かうメンバーに入っている。行人たちとのガチンコバトルにおいて、神楽は邪魔にしかならない。 それは、悲しくても事実で。もし神楽が行けば、聡に迷惑がかかってしまう。だから、どんなに辛くても、我慢をしなければならない。全員が、生きて帰るためには、これしかないという道。 こんなにも日差しが明るいのに。これから、戦いが始まる。 いや、学園のどこかではもう始まっているだろう。デーモンによる、ガーゴイルの殲滅作戦が。ただ、それが見えないだけで。 「聡。無茶は、しないでよ?」 「そいつはちっと約束できねーな」 見つめられないくらい輝いているのに、とても昏い。先が不安になる。 「神楽。お前の気持ち、まだ変わってないんだろ?」 「うん」 小さく頷く。微かで明確な、強い強い意志。 「やっぱ俺はお前が好きとか茜がどうとか、そういうのは言えない。言えないけどよ、言える事もある」 「何・・・?」 真剣なまなざし。それは心の奥底に在る意志を示してくれる。何よりも、確実に。 「俺はみんなと一緒にいたい。神楽とも、茜とも、行人とも。由佳ちゃんだって桔梗だって秀一だって、みんな一緒にいたいんだ。ずっとってのは無理だよ。んな事は知ってるさ。でも、でも今だけは壊したくない。それが明日にでも終わっちまうもんでも、俺は壊れないように行き続けたい。」 過去は振り返らない。前を進む。ただひたすらに、望む世界を得るために。だから聡は、カッコいいのだ。 「・・・うん、行ってきなよ。私はそんなあんただから惚れたんだもの。私は勝手に付いて行くからさ」 俯き、微笑み。前を向く。 「おっけ。ありがとな、神楽」 神楽に背を向け、聡は歩き出す。何が待つかわからない、だけどだからこそ楽しい、未来に向かって。 |