■戦闘開始のこころ

「んじゃあ、行くぜぇ!」
午前11時。騎乗竜ライド・ドラゴンにまたがり、聡たちは宙を舞う。大きな翼を持つ人懐っこいドラゴンは、あっという間に空中高くに舞い上がった。
凛に追加で召喚して貰った、人を乗せて運ぶのに適したドラゴンの一種である。この広い学園を移動するのに、移動系の魔法が使えない聡たちは徒歩以外の手段がない。それではあまりに遅すぎる。そこで機動性を確保するため、召喚したのだ。
「それじゃ、親父は頼むぜ!」
「はい!」
眼下で手を振る由佳に聡も手を振り返した。
「行くわよ」
桔梗が先頭になって南へ向かう。
学園長はすでに学園の北に向かった。真紀によると、太一が北で受け渡しをする間に、行人たちは南でガーゴイルを放つタイミングを計っているらしい。
ある程度の場所がわかっていれば茜の縛術で位置を捕捉できる。それにより、行人は学園の外にいる事が判明した。
後は簡単だ。向かい、戦う。それだけ。それ以上も、それ以下もない。
他に心配な事はある。だけど、仲間に任せると決めたから。だから振り返らず、走り抜けられる。
ドラゴンは物凄いスピードで飛んでいく。下を見れば、流れ行く景色の中でも多くの人々が見えた。あの人々を、傷つけさせるわけにはいかない。
やがて聡たち一行は学園の外に出た。そのまま高速で飛行を続ける。
「あれを」
学園の南に広がる、広い平地のど真ん中。そこにゴマ粒のように、三人は立っていた。
「降りて」
桔梗が短く指示し、全機が地上に降り立った。
「ようこそ、墓場へ」
星次は歌うように呟く。
三人の中心に立つ男は綾瀬行人。哀しげで淋しげな瞳が聡たちを見つめている。
その隣には紫藤星次がいる。いつも通りの自信に満ち溢れた表情で。
「本当にこっちに来るとは思ってなかったわ〜。おバカさんなのね」
星次とは反対の隣に美華が立つ。馬鹿にしたような甲高い声は、桔梗の不興を買った。
小声な上に早口で、桔梗は指示を飛ばす。
「・・・秀一、紫藤を。私は白鷺を殺るわ。村野と宮野は綾瀬を」
「大丈夫か」
「他人の心配なんかしなくていい。代わりに綾瀬を頼むわ。連れ戻せなかったら殺すわよ」
「――りょーかい」
聡たちと行人たちが対峙した。もう衝突は避けられない。否、避けない。
「紫藤。場所を移して一騎打ちといきませんか」
「いいよ。綾瀬君、しっかり頼むよ」
ドドン!
地を蹴り、秀一と星次は瞬時に遠く離れて行く。
「白鷺。あんたは私が殺すわ」
「え?美華とやるのォ?美華、女の子には興味ないのよねぇ。美華は男の子とやりたいなぁ。そっちの子もなかなか可愛いわね〜」
聡を見る美華を、桔梗の槍が指した。
「イエス、ノーじゃないわ。決定よ」
「・・・仕方ないなぁ。ささっと終わらせちゃおっかな」
ドドン!
美華と桔梗もかき消え、行人と聡たちだけが残った。
「行人。久しぶりだな、元気だったか?」
「ああ、すこぶる元気さ」
行人は少し痩せたような気がした。哀しげに微笑むその姿は、見ているだけで痛々しい。
「行人。どうしてあいつらに加担する」
「わかるだろ、お前なら」
「・・・血、か」
短い問いに、行人は黙って頷いた。
「わかっているよ。別に俺が半獣でも聡たちは何も言わないとね。けど、組長に言われたんだ。普通の人間になれるってね」
それは、半分しか人ではない行人には、あまりにも魅力的で。
「無限を使っても無理だってクロウに聞いた事がある。でも、それでも、俺は諦められなかった。可能性がないってわかりきっているのに、夢を見てしまうんだ。普通の人間になりたいって。獣の血なんか、要らないって」
全てわかっている。わかっていても断れない。避けられない。それほどの魅力、それこそ“魔法”とも呼べるほどの惹きつけるモノがその言葉にはある。
「馬鹿だな」
「ああ、馬鹿だよ」
行人は肩幅に足を開いた。
「思えば、ずっとこうしたかったのかもしれないな」
「俺とやりたかったっつー事か?」
「ああ。お前は俺の一番の親友で、同時に俺には絶対に越えられない壁だ」
「よく、わからねーや」
聡の手にはいつの間にかアーティファクトが握られていた。行人の腕も同様にアーティファクトで覆われている。すでに、臨戦態勢。
「わからないだろうさ。お前には乗り越えられない壁がない。どんな壁でも、必ず乗り越える。けれど、俺にはできないんだ。いや、俺自身ができないと思ってしまった。自分で足かせを作ってしまった。だからもう、無理なんだ」
「ああ、本当にお前は馬鹿だ」
行人は悲しげに顔を伏せ、すぐに上げた。そこにはもう表情がない。覚悟を決めた者だけが至れる境地に、彼は立っている。
行人は一気に大きく距離を開いた。戦いが始まるのに、もう間はない。



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