■神々のこころ

世界中に散る魔法使いの総本山たる場所が魔法協会である。
山間の霧深い地、その奥に魔法協会の本部がある。豪奢な建物は防御結界のための文字が彫られ、外観は古代神殿を思わせる。
中に入れば、そこは天井高い巨大な部屋だ。壁や天井には神話が描かれ、訪問者の前には横に長いカウンターが待ち受ける。
新藤はカウンターの奥にある階段を上がった先にある部屋にいた。応接セットの向かいには職員が座っている。時刻は間もなく正午になろうとしていた。
「――説明は以上です。何かご質問は?」
「いえ」
「では、ここに契約のサインを」
書類にサインを施し、協会の職員はそれを確認する。
「はい、確かに。それではこちらが免許です」
職員は小型のカードを取り出した。新藤の顔写真の入った免許である。これさえあれば、新藤は自由にどこでも魔法を使える事となる。
「いやあ、緊張して待っていたんですけど、案外と普通でしたね」
「・・・どういう事ですか?」
「ああ、内輪の話なんですけどね」
童顔の職員は無邪気に破顔した。
「実はですね、新藤さんの免許ってとっくに許可されていたんですよ。それをわざわざ理事会が圧力かけてきて、今日まで延ばせって言われていたんです」
「期日を延ばした・・・?」
新藤は口許に手を当て、瞬時に黙考した。
免許交付が今日でなければならない理由。それを持つ者が、理事会にいる――?
「すみません、理事会の名簿をお借りできますか」
「名前だけなら構いませんよ」
言って、職員は部屋の隅の机から薄い本を取り出した。
「こちらです」
「拝見します」
パラパラとめくり、新藤は目指す名前を見つけた。
「――やはり」
「どうかしました?」
「いえ」
本を閉じ、それを職員に手渡した。
「ありがとうございます。では、私は所用がありますので、これで失礼します」
慌てて立ち上がり、新藤は部屋を飛び出した。
「・・・どうしたんだろ」
残された職員の声が、静かな部屋に響く。ふと職員が開いたのは、新藤が見ていた、理事会員の“ま”の段。
『真崎真一・松岡太一・皆川大志――』

学園の周囲に巨大な柱が建っている。学園からは直接的に見る事のできない山間部にあり、それだけにその存在に気付いている者はあまりいない。
その周囲は目つきの悪い男たちが囲んでいた。たとえ気付いた人がいたとしても、これだけのメンバーが囲んでいれば、それが何なのか確認しようとは思うまい。
「あ、お嬢さん」
そこに無造作に近付く少女がひとり。その姿を認め、柄の悪い男が頭を下げた。
「お嬢さん、どちらにいらしてたんで?組長が心配してましたぜ」
「学祭を見てたのよ。悪い?」
真紀にジロリと睨まれ、男は顔色を青くした。
「い、いえ。そんな事は・・・あれ?」
男はその時点に至ってようやく、真紀の背後に続く少女たちの姿に気付いた。
「お嬢さん、そちらの方は?」
「友達よ」
「って、マズイですよ!」
男は声を小さくし、
「組長に言われてるでしょ?一般人は連れてきちゃマズイって」
「いいでしょ、私の勝手。お父さんの言う事なんかイチイチ聞いてられないっての。それとも何?私に反抗するつもり?」
真紀の鋭い視線に、男は黙ってしまった。
「目障りだから退いてて。他の連中にも言っておいてくれない?私の視界に入るなって」
「は、はぁ・・・」
不承不承に頷き、男は他の連中に声をかけに行った。
それを眺め、神楽が呟く。
「けっこー権力あるんですね・・・」
「当然でしょ。私を誰だと思っているのよ。それより、さっさと行くわよ、バレない内に、ね。こっちよ、たぶん」
真紀を先頭に、3人は歩き出した。程なく不思議な文字に埋め尽くされた小屋の前に到着した。
「あ、お嬢さん」
小屋の前に立つ男が目ざとく真紀の姿を見つけ、頭を下げた。
「お疲れ。私がちょっとの間だけ交代するわ。すぐに別の交代が来るから気にしないでね」
「はい、わかりました。お疲れ様です」
頭を下げて行きかけ、ふと男は立ち止まって振り返った。
「あれ?そういや真紀さんは今回の仕事には関与しないんじゃ――」
男が完全に振り向く、その前に。
束縛する雷レストレイニッド・サンダー!」
神楽の魔法が、放たれた。才能がなければ使いこなせない縛術も、神楽のアーティファクトは関係なく発動させる。
バチッという音を残し、男は声も出せずに崩れ落ちた。
「何だ何だ!?」
男の倒れた音が聞こえたのか、どこからともなくヤクザ共が集まってきた。
「あ!?お、おい!侵入者だ!」
「なッ!?おい、ありゃお嬢だろ!?」
「知るかッ!脅しか操作かされてんじゃねーのか!?」
単純な脳構造の彼らは、とりあえず目の前の事態に対処する。それも、最も短絡的な方法で。
「先輩、行って下さい!あたしが抑えておきます!」
神楽と真紀を突き飛ばし、由佳が前に出た。
「由佳ちゃん!?」
「大丈夫ですから!」
由佳の決意に満ちた声に、神楽は即決した。迷う暇はない。
「――すぐ戻るからッ!」
言い残し、神楽と真紀は走り出した。目指す場所は、すぐそこ。



次へ  戻る