■死合うこころ

問答は終い。これ以上は無意味。そう判断したからこそ、行人は距離を置いた。聡からの先制攻撃を受けないように。だからこそ、聡も覚悟した。敗北は、許されないから。
一方、聡は茜を庇うように前に出た。
「茜、下がってろ」
「――は?なぁに言ってるのよ!ひとりで勝てると思ってんの!?」
「茜、今回はお前が前線にいたって足手まといだ。お前の剣は行人にゃ当たらねぇ。だから後ろで魔力でも放出しといてくれ」
聡は振り返らない。背中だけで語っていた。茜の瞳に写る姿は、どこか大きかった。
「頼む、茜。下がらねーと危ないんだよ」
「・・・・ッ!わかったわよッ!」
茜は後ろに飛び下がった。聡には確認せずともわかっている。茜もまた、知っている。聡が危ないと言うなら、危ないのだ。そして、やはりこの戦いでは役に立てない事も、事実なのだ。茜にとっては、悲しいけれど。
邪魔だけは、したくないから。悲しくても、己を殺しても、下がらなければいけない。
「準備はできたか、聡?」
「まあ待てよ。面白いモン見せてやるぜ」
聡は額に触れた。そして、行人に対する“殺意”を高めていく。
「行人。俺が、お前を、殺すぜ」
一語ずつはっきりと口にする事で、想いを確かにしていく。空気が震え、異様な気配が漂いだした。聡の魔力が急激に高まり、バチバチと電子がぜる。
「はァッ!」
爆音にも似た音が響き渡り、聡を中心に地が削れて行く。行人はその正体を知っていた。ただの知識にしか、過ぎないけれど。
「魔力、暴走・・・?いつの間に制御を覚えたんだ!?」
「夏にちっとな。命懸けの技術だ。これで対等だぜ」
聡の顔には笑みが浮かんでいた。行人の頬も、自然と緩んでいく。
行人と聡は構えた。互いに遠慮はない。ただ、殺意と魔力だけが満ちている。
「ああ、やっぱり楽しみだよ。聡、存分に殺り合おう」
「もちろんだぜ」
地が砕け、聡と行人の姿が消える。
あちこちで破裂音や何かが砕ける音が響くが、聡の姿も行人の姿も見えない。
聡は常に足裏で魔力を爆発させる技術・爆動で、行人は全身の筋肉を利用した移動術・獣歩で動いている。もはや、その動きは人間の目で追いきれる次元ではない。
茜や神楽も十分に訓練を積んできた。それでも、これほどの動きはできない。
これが、才能。本来なら数年を経てようやく得る筈の技術を、聡たちは数ヶ月で会得している。茜たちが低レベルなのではなく、聡と行人が高すぎるのだ。
「聡!体術も上手くなったじゃないか!」
「そりゃーありがとなッ!」
ふたりの楽しげな声が響いた。聡も行人も、今を楽しんでいた。殺し合う“今”を。
互いに弾き合い、大地を砕き。聡と行人は距離を取って対峙した。
「少しくらい体術が出来ても、俺には勝てないよ」
「わーかってるよ。じゃ、次ィ行くぜッ!」
聡はアーティファクトを正面に構えた。
殺意という想いを高める事によって制御されている暴走状態は、“あの”技術を容易にする。想いを高め、闘志がみなぎっていく。そしてその全てが、アーティファクトに力を与える。何よりも強く、美しく輝く。
何故、戦うのか。答えは決まっていた。聡の答えは、強くなりたいから。行人よりも、秀一よりも、新藤よりも、誰よりも強くなりたい。もっともっと上に行くために、立ち止まるわけにはいかないから、もっともっと強くなる!
「行くぜ・・・行人ォ!」
たとえそれが誰であろうと、前に立ちはだかると言うのならば、全力全開で倒す。そのために得た力だから。
「開放ッ!」
暴れ狂う魔力の渦巻く中心で、想いは力となって弾けた。
「なッ!?」
聡の握る杖は、短いロッドへと姿を変えた。想いを力に変える技術“開放”。稀有な能力ながら、それは誰にでも可能。想う力さえあれば、容易に。
「暴走状態の今だけしか使えねーけどな。これが俺の、開放だッ!」
聡の金色に輝く強いまなざしが行人を射抜く。自分に自信を持てる者だけが得られる輝きがそこにあった。
「(開放まで使えるなんて・・・想定外!)」
死に直面すれば暴走する可能性がある事は想定していた。確かに暴走状態の体術・魔法は危険だが、聡は一点集中型の魔法が得意。行人のレベルなら回避は不可能ではない。
だが、開放となれば話は別。開放できる能力者の危険性を、行人は幾度となく身にしている。由佳、桔梗。どちらも戦えば苦戦した。日々の訓練で、殺し合いで。それを実感した。開放の能力は、捨て置けない。
「(開放しても元の能力とは大きくかけ離れない。聡の杖は魔法を吸収、威力を高めて放つアーティファクトだったな)」
桔梗のアーティファクトは『相手の魔力を操作する』という点で、由佳のアーティファクトは『召喚する』という点で、開放しても同じ能力。となれば聡も同等に推測できる事になる。
「(吸収の能力は高めようがない。となれば、高まるのは威力!おそらくは増幅率の強化!だったら・・・魔法を唱えさせなければいい!)」
聡は無詠唱魔法が苦手だ。ならば、魔法を唱える時は必ず詠唱する。裏を返せば、詠唱しない限りは魔法が唱えられないという事だ。
行人は走った。聡と間合いを詰め、魔法に集中できないように攻撃を続ける。動作なしの攻撃魔法はほとんどない。組み手の最中では、魔法を行使するために必要な動作は取れないだろう。
「先生の言った通りだな」
行人と組み手を交わしつつ、聡は呟くように言った。
「『例えば、行人君のようなタイプの相手は理性で戦います。故に開放すれば必ずその能力を予想しようとします。村野君のアーティファクトから察すれば、ほぼ確実に魔法の威力を高める効果と勘違いし、詠唱できないように攻撃を続けるでしょう』」
「(じゃあ、まさか・・・?)」
行人が気付いた時はすでに遅い。もう聡の術中にはまっている。
「従えろ!『支配者の杖コマンダー・ワンド』!!」
聡が叫ぶのと、ほとんど同時に。
行人の体を衝撃が走り、一気に吹き飛ばした。



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