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■決裂のこころ
「がッ――!」 地に伏した行人はヨロヨロと目を開いた。そこには、光が浮いていた。 聡を中心にして空間に光球が浮かんでいる。無数の光は、まるで小さな太陽のようであった。 「これが俺のアーティファクトの力。こいつは『魔法の威力を高める杖』じゃねぇ。『魔力を隷属する杖』なんだよ」 魔法は全て魔力を練り上げて構成されている。支配者の杖は魔法を吸収して、そこに魔力を加算する事で威力を高めていた。 よって開放して強化された能力は『魔力の隷属率』。聡の周囲に浮かぶ光球は理論上、魔球弾と同じものだ。 「なる、ほどね・・・」 行人は血を吐き捨て、再び構えた。 「それは迂闊だったよ」 「・・・俺のアーティファクトの特徴はよ、能力がバレても関係ねーって事だ。行人、お前の能力じゃこれだけの数の魔球弾は防げねぇ。一度だけ言うぜ、行人。降参しろ。お前の負けだ」 行人は口許の血を拭い、不敵に笑った。 「それは違うよ、聡。俺にとっての負けは、この体が千切れて死んだ時だ。戦える限り、俺は負けてない。俺は、戦う」 行人の言葉を聞き、聡は複雑な笑みを浮かべた。 「言うと思ったぜ。強情だな」 「聡もね」 互いに、心の底から嬉しそうに笑った。いや、本当に心の底から嬉しいのだろう。友と、決着を迎えられる事が。 「行くぜ!行人ッ!」 「ああ!」 行人が地を蹴り、聡は力を解き放つ。互いに遠慮せず、全力で。 光の海が、弾けた――。 時刻は間もなく午後1時。すでに学園長と太一が対峙してから1時間近く経過している。 太一はひとりで待っていた。もっとも、見えない場所に潜む仲間がいない筈はないのだが。 太一に無限を要求された学園長は、何も言わず紅い宝玉を放り投げた。受け取った太一は時間を忘れるように宝玉を眺めている。 当然だが、あの宝玉は無限の書などではない。あれは天原が持っていた秘石と呼ばれる宝玉。秘石は無限の書の欠片。無限ほどの効力は持ってないが、それでも多少は“異次元の知識”を得られる。 無限の書はあらゆる世界の知識を有する空間・精神世界への扉。秘石はそれに対し、覗き窓と呼ばれる。もっとも、呼ぶのはクロウくらいなものなのだが。 これらの特徴は、使い手の精神をアストラルへと飛ばす事にある。見ている本人は気付かないが、アストラルと現実世界では時間の流れが違うのだ。 学園長は太一が確認するのに相応の時間を要すると踏んでいた。それは、確認をするには自身がアストラルへ飛ばねばならないからだ。アストラルに飛べば、間違いなく時間の流れに気付かない。そこでできる限り時間を稼ぐ事が目的だった。 「(それでも、そろそろ限界じゃろうの)」 どれだけのガーゴイルを撃破できたかはわからない。けれど、これ以上は稼げないだろう。ならば、ここから先は――戦いあるのみ。 学園長は太一に気付かれないように呪文を紡ぎ始めた。ほとんど間を置かず、太一は宝玉から顔を上げた。 「確かに、これは異次元の知識を得られるアイテムのようだ。まさかこんなものだとは思わなかったが」 「(どうやらバレなかったようじゃの。とは言え、秘石も渡すわけにはいかんのじゃが)」 「さて。それでは交渉成立だ。私が安全圏に行けたなら、ガーゴイルを破壊しよう。それでいいかな?」 片手をポケットに突っ込む太一に、学園長は魔法で答えた。 「水王の封呪!」 学園長の放った“限定空間のみを別空間に封印する”魔法。声に反射し、その長方形から逃げるように、太一は身をひねる。 「はッ!」 座標の外れた封印術は、太一の右腕を封印した。右腕をもがれつつも、太一は左手に握る秘石を離さない。 「やれ!」 ぐらぐらと地面が揺れる。すぐに地面を揺らしている存在が土中から姿を現した。 岩盤を砕き、力任せに現れたのは巨大な石像。四足にコウモリのような翼、顔は鳥のよう。その身体は学園長の数倍はある。 「巨大ガーゴイルかの。その程度でワシを倒そうとは、舐められたものじゃな?」 太一は大きく飛び下がり、ガーゴイルの後ろに隠れた。 「ただのガーゴイルなものか。こいつには生半可な魔法は通じないぞ。得意の封印術も、こいつには無意味だ」 「それは、やってみればわかるじゃろ?」 とん、と大きく跳ぶ。ガーゴイルの大きな顔面に向かって、学園長は手刀を切った。 先刻、太一の腕をねじり取った封印魔法はガーゴイルの顔面を封じる。顔だけが四角く切り取られたガーゴイルは、しかし倒れない。 どころか、ガーゴイルは・・・何もない空間に、もう一度、顔を“再生”した。 「ほお・・・」 学園長の感嘆が洩れた。学園長の使う魔法は、学園長自身ですら封印したものを戻す事はできない。それだけに、使う相手は常に選んでいる。 だが、このガーゴイルは。何の予備動作もなく、切り取られた部分を再生した。これでは確かに封印など意味がない。この巨体を封印する以外には。 学園長が封じられる大きさの限界はせいぜい列車半両分くらい。それより大きいこのガーゴイルは、封じられない。 「それは少し困ったのォ・・・」 大きく下がり、ガーゴイルと対峙しつつ。それでも学園長は闘志を絶やさない。 この学園は、守り抜きたいから。 「こいつは天原の魔力を吸収した化物!他のガーゴイルとは格が違う。ついでだ。学内のガーゴイルもこちらに呼ばせて貰おうか。それでお前は、終わりだ!神無月金五郎!」 岩陰に隠れ、太一が叫ぶ。ひとりでは何もできない。そのくせ、偉そうに。 「やはり、負けられんの」 独自の構えで、学園長は化物を迎え撃つ。 |