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■増援のこころ
人の口では紡げない呪が風に流れる。やがて言霊は無数の炎矢となりて石像を打ち砕く。それは遠い光景であり、ひどく間近でもある。 「東部地区制圧率六割八分。南部制圧率四割二分。西部制圧率九割七分。北部制圧率六割五分。中央制圧率九割三分。以降、順調に制圧中」 学園を見渡せる観覧車の、一番高いところ。そこに髪をなびかせ、凛が立っていた。 学園内に放ったデーモンは全て凛が同時にコントロールしている。中央のデーモンを、一部だけ南部に向かわせた。 「・・・マスター、必ずや学園内に邪魔者を残しはしません」 凛の周囲をアーティファクトが取り囲む。カード状のアーティファクトは、凛のイメージを具現化する効力を持つ。その内の一枚を無造作に手に取り、地上に向かって投げた。 クルクルと回転するカードは炎に包まれ、炎は鳥をかたどった。 炎鳥は、凛を目指し跳んだガーゴイルを焼き尽くす。 凛はその光景を見下ろしながら、デーモンを操っていく。学園を破壊せんとうごめく、命なき命を砕くために。 学園南東部。秀一の周囲を、数え切れないほどのガーゴイルが囲んでいた。 星次を倒した途端、どこからともなくガーゴイルが現れだした。どうやら奥の手として残しておいたものが、主人が指示できない状態になった事で襲ってきたのだろう。 石でできたガーゴイルには刃が通らない。ならばと魔法を使い続けているが、元より魔法剣士たる秀一は魔法の乱発は得意ではない。この戦い方にも限界がある。 しかも、秀一はこれだけのガーゴイルを相手にするのは初めてだった。経験不足は聡たちと同じ。故に無茶を無茶と気付かない。おまけに、秀一には聡たちと違って仲間がいない。苦戦を強いられるのも当然だった。 「しつこい、ですねッ!」 迫る石像を太刀で殴り距離を開く。 じりじりと周囲をガーゴイルたちが囲んでくる。秀一は気にせず何度目かの呪文詠唱に入った。 「やはり経験不足ですね」 突如、秀一の上から声が降ってきた。同時に、パチンと指を鳴らす音。殺し合いの中でも確かに響くその音は、世界を凍らせる。何体かのガーゴイルが凍って砕け散った。 「・・・先輩、いつお戻りで?」 「ついさっきですよ。さあ、早々に終わらせましょうか。まだ各所に援護せねばならない状況が続いているようですから」 転移魔法で戻った新藤が出た場所こそが、まさにここ。状況はまだよく把握できていないが、目の前に敵がいる事、さらには契約の書の効果で聡たちが危険な事だけはわかる。 「秀一君、戦いながらで結構。状況説明をお願いしますよ」 無茶な要求をし、氷神は背に翼を、胸に鎧を抱く。彼の作り出した強化魔法は、その姿を美麗に飾る。新藤は手に剣を握り、地を蹴り刃を振るう。頬を、笑みのカタチにつり上げたまま。 学園南部。ここの戦いは終わっていた。 「行人。どうだ、満足か」 「・・・ああ」 ふたりとも大の字になって横たわっている。どちらも、無茶をし過ぎだ。 行人の体術では聡の攻撃を防ぎきれなかった。複数の魔力の塊に殴られ、行人は倒れこんだ。同時に、聡も。 暴走は力というメリットがある代わりに、反動というデメリットもある。当然の結果だった。 「もう!本当に馬鹿なんだから!暴走の上に開放までして、死んだらどうするのよ!?」 茜は文句を言いつつ回復魔法を唱える。彼女の得意な魔法ではないが、気休めくらいにはなる。 「ワリィな、茜。怖かったか?」 「馬鹿ッ!誰が私の心配したのよ!?あんたよ、あんた!自分が危ないとか思わないわけ!?」 「つってもよ、行人相手じゃああするしかねーだろ?」 「うっさい!口答えしないの!」 薬を同時に併用する事で、聡たちの傷もだいぶ癒されてきた。瞬時に体力を回復させる魔法薬は、学園長から渡されたものだ。 「ん、大丈夫。もう動ける」 割としっかりした動きで、聡は起き上がった。続いて茜は行人に治療を施す。 「宮野さん、俺は大丈夫だって」 「何を言ってるの!行人君も十分、怪我してるでしょーが!それに、まだやってもらわなきゃいけない事があるんだから!」 「え・・・?」 茜は鼻息も荒く、言い放つ。 「まだ戦いは続いてるの!他の敵も倒さなきゃ終わりじゃないでしょ!?」 「・・・ああ、そうだな。風峰さんじゃガーゴイルを相手にするのはキツイかもしれない」 そう言うと、行人は強引に体を引き起こした。 「ちょ、行人君!?まだ回復は・・・」 「いいよ、何とかなる。風峰さんや秀一君に死なれたら寝覚めが悪いしさ?」 「ああ、秀一なら大丈夫だ」 破れた上着を脱ぎ捨てつつ、聡は言う。それに対し、行人は疑問を口にした。 「どうしてそんな事が言えるんだ?」 「さっき魔法通信があった。俺の脳みそに直で話しかけやがって・・・。先生が秀一を助けて、ついでに学園長の方をカバーするってよ」 「・・・そうか。組長ももう終わりだな」 その時。ズズンという大きな地響きが聞こえていた。聡は音源の方角を確認する。 「ああ?ありゃあ・・・由佳ちゃん達の方か」 「結界塔が壊れたのね。後は、ガーゴイルを倒せば終わりって事になるわね」 「よし!俺らも負けてらんねーな、おい!」 行人も立ち上がり、3人は西部に向かって走り出した。 |