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■砕石のこころ
焔に染まった白き槍がガーゴイルを殴りつける。石たるその身体には刃物が通らない。 「空間を焼き尽くせ!世界を灰燼に帰せ!焔色の龍王よ!全てはお前の為に在る!」 桔梗の槍が数体のガーゴイルを指した。 「焔龍の牙!」 圧倒的な熱量を誇る火炎龍がガーゴイルを飲み込み、灰すら残さず焼き尽くす。 しかしそれでも、まだ数が多い。 「くッそお!」 羽ばたき突っ込む。否、突っ込もうとした。 突然に焔翼が消え去り、桔梗の身体はガクンと崩れ落ちた。何の前触れもなく、本当に突然に。 「な、に・・・!?」 制限時間。本来はできない世界との同化は、非魔法族の桔梗にとってはひどい負担となる。負担は通常以上の疲労となって、桔梗の手足を縛る枷と化す。今や桔梗は膝をつき、動けずにいた。 急に動きの止まった桔梗の周囲にガーゴイルが集まる。対して桔梗は、手足はおろか指一本すら動かせない。 「終わり、か・・・」 戦い死す。思えば、紅蓮には相応しい死に様かもしれない。元よりそのつもりだった。 「・・・綾瀬は、奪還できたかしら」 それだけが気掛かり。唯一、この世に残る未練。 「村野聡を信頼するしかない、か。仕方ないわね・・・」 白き槍の姿が消える。とうとう、アーティファクトすら保てなくなった。正真正銘、終末が近い。 眼前のガーゴイルが跳んだ。大きく口を開き、爪を前にし。 「さようなら」 片膝をつき、頭を垂れた。両目を強く閉じ、死の瞬間を待つ。 「ごめん」 しかし降り来たのは、予想した衝撃ではなく温かい言葉。待ち望んでいた声。 「え・・・?」 桔梗が顔を上げる。そこには、大きな背中があった。 「迷惑かけてごめん。少しだけ進んできたよ」 「あ、綾瀬行人!?」 そこにいたのは紛れもない、綾瀬行人その人。助けたくとも助けられなかった人の姿。 「ちっと遅くなっちまったな、桔梗!後は任せとけって!」 「ガーゴイルくらいなら私たちが砕いておくわ」 聡と茜の姿もある。どうやら、増援は間に合ったらしい。 「随分と・・・作為的なタイミングね」 「ヒーローってそういうもんだぜ」 聡は堂々と言ってはばからない。 「行くわよ、聡!何もしてないから力が余って仕方ないわ!」 「おう!前衛は任すぜ!」 聡と茜が飛び出していく。特に茜は、ようやくの出番で嬉しそうだ。茜の斬撃はガーゴイルには通じないが、聡が魔法を使うための時間稼ぎにはなる。それが、本来の前衛と後衛のあり方。 一方、行人は桔梗に駆け寄り、その側にしゃがんだ。 「風峰さん、大丈夫?」 「大丈夫、よ・・・。まだ戦える」 よろめきつつ立ち上がり、桔梗は強がった。 「無理はしなくていいよ。借りは返さなきゃいけないし、ね」 行人は立ち上がり、獣化する。何のための力か。答えは、最初から出ていた。誰かを守りたい、そのための力。 「風峰さんは休んでいてよ。ガーゴイルくらいどうにかできなきゃ、顔向けできないからね」 「・・・馬鹿。私より秀一を助けなさい」 「大丈夫。あっちはこっちより安全だからね」 微笑を残し、白き獣は風となる――。 学園北部は、ガーゴイルで埋め尽くされていた。 襲い掛かってくる石像は片っ端から学園長の放つ水流に押し潰されていく。それでも、恐怖も痛みもない彼らは止まる事なく攻め続けた。 学園長とて最前線を離れて長い。短い時間の戦闘はともかく、長時間になると限界がきてしまう。太一は、それを狙っていた。 加えて、超再生能力を持つ巨大ガーゴイル。すぐには倒せないと踏んだ学園長はもはや攻撃もしないが、その鋭い一撃は当たるわけにはいかない。かと言って、いつまでも回避できるわけでもない。 まさに、八方塞の状態だった。 太一が逃げられぬよう気を配っているために、最低限の目的は達しているが、このまま行けば結末は・・・見えている。 「ほ・・・?」 何体目かのガーゴイルを弾き飛ばし、急に学園長は南に目をやった。そちらに見えるのは、広大な学園の敷地と、飛び来るガーゴイルの群れだけだ。 「・・・ようやっと気付いたのかの」 青空を覆い尽くさんと言わんばかりに飛び来るガーゴイル。その群れが、突如として、途切れる。 空中で凍ったガーゴイルたちは砕け散り、瞬時にその姿を消していく。 「まったく、遅い遅い」 言いつつも、学園長は嬉しそうに顔をほころばせた。やがて、氷の翼を持つ男の姿が見えてくる。 「学園長。お待たせしましたね」 着地ついでに数体のガーゴイルを砕き、新藤は降り立った。 「新藤君、デカイのと太一を頼むぞい。残りのガーゴイルは消しておくからの」 「相変わらず無茶な要求がお好きなようですね」 鼻で笑い、新藤は宙を舞った。 「白鬼!黒鬼!」 懐から取り出したふたつの紙切れを投げ捨てる。それは、鬼となった。 顔のついた胴から手足が生えたような姿。様々な武器を背に背負う黒き鬼・黒鬼と、両腕に盾を持つ白き鬼・白鬼。新藤が使役する鬼神と呼ばれる召喚生物の一種だ。 「久しぶりに全力です。白鬼、白夜の鎧に。黒鬼、漆黒の剣に」 召喚された生物は、その形状が決まっているわけではない。この世界に生きる肉体を持たない彼らは、単にこの世界において最も活動しやすい大きさ・形をなしているだけ。すなわち、その外見は意味を成さない。 黒鬼はその姿を黒い剣へと変える。切っ先に行くほど幅の広いそりあがった刀身は、まがまがしいとしか形容できない。 白鬼はその姿を白い鎧へと変える。上半身を覆うその姿は、豪奢な装飾と共に美しさを際立てる。 氷の鎧と剣を捨て、新藤は白鬼と黒鬼を装備した。新藤玄馬が、数多の戦乱を駆け抜けた際、決して死する事がなかった理由。それこそが、この姿――鬼の装備化。 「終わりですね、松岡組長?」 剣に炎を宿し、新藤は無造作にそれを振るった――。 |