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■決着のこころ
学園に向かってとぼとぼと歩く影がある。全部で3つ、いや、4つ。 先頭は行人。その背におぶさっているのは、桔梗だった。限界まで力を使い切った桔梗は、もはや動く事もままならない。当然、帰るには誰かの手を借りなければならなかった。ひどく不満そうだったが、それでも強引に行人がおんぶをすると、桔梗は抵抗しなかった。 その後を聡と茜が並んで歩く。その動きには疲労感があったが、どこか晴れ晴れとした感じがあった。 「終わったのかな、全部」 「先生が北に向かったんでしょ?なら終わりよ」 学園の各所から煙が上がっている。だが、楽しそうな声も同時に聞こえてきた。どうやら、危険なほどの混乱は起きていないらしい。元々、学祭期間中に煙など驚くべきほどの事実ではない。 「聡。ちょっと、聞いても・・・いい?」 「ん、何を?」 聡は無垢な顔を茜に向けた。濁らない、だから綺麗。 「神楽への答え、いつ出すの?」 「うん・・・戦いは終わったけどよ、まだ答えは出てねぇ」 真剣に考え続けて、けれど答えはない。むしろ、何かを待っているのかもしれない。 「私は、あんたを混乱させるつもりなんかないんだけど」 「あん?」 戦うほど、茜の想いは強くなる。行人と戦う聡を見て、その想いは更に強まった。彼は、常に友人を一番に考える。だから、止めたくなってしまうのだ。彼に、無事でいて欲しいと願うから。 「私とあんたの関係、終わりにしない?」 「そりゃ、どーいう意味で」 「神楽と一緒よ」 歩調は緩めない。聡も、気付いていたから。けれどそれを認めれば、それは過去を捨て去ってしまうような気がして、気付かないフリをしていた。 「茜、俺は馬鹿だからイマイチわからねーや。もうちっとはっきり言ってくれないか?」 だからあえて、聡は決定的な言葉を待つ。茜の覚悟を、試すかのように。 「私は、聡がいなきゃ嫌。私は誰より、聡を失う事が怖い。認めるわよ、私は、私は・・・聡が好きなのよ」 「やっぱそうか。ありがとな」 次に出る言葉はわかっていたから、聡も驚かなかった。あるいは一番、待っていた言葉かもしれない。 「・・・困る?」 「いーや。大丈夫、答えは出すよ。すぐに、な」 そう言って、聡はいつも通りの笑顔を見せた。 山道を、息を切らしながら男が駆ける。片腕を失った太一は、たったひとりだった。 「(何なんだ、あの男は!)」 新藤が強い事は予想していた。だからこそ免許という口実で学園から引き離したのだ。なのに、現れてしまった。 それでもあの超再生ガーゴイルなら互角に戦えると信じていた。なのに、あの男は、ガーゴイルをたった一撃で倒してしまった。 どうすればいいのか、わからない。もう、手がない。自分は、自分はどうすれば生き延びられる? 「ああ、無理ですね」 いつの、間にか。太一の前には、新藤がいた。 「なッ・・・!?」 「松岡組長、あなたはもう終わりです。せっかくですから選択肢をあげましょう。座して死ぬか、戦って死ぬか。ふたつにひとつです」 冷酷な新藤の眼差しは、冗談を言っているような目ではなかった。 「ま、待て!私ならお前の望みは何でも叶えてやれる!何か欲しくはないのか?何でも手に入れてやる!」 「だから見逃せ、ですか?」 ため息をひとつ、新藤は黒い剣を中段に構えた。 「残念ながらロードは取引をしません。私が望むものは私が手に入れます。さようなら、松岡太一。次に逢う時は・・・私と敵対しないようにしなさい」 無慈悲な刃が振り下ろされ、太一は砂利道に倒れこんだ。 新藤はそれを見下ろしながら、呆れたように呟いた。 「やはりあなたは殺すにも値しません。死する前に気絶をするとは、情けない」 黒鬼を通常の姿に戻し、太一を背負わせる。そして新藤は、学園に向かって歩き出した。 「私も少し、丸くなってしまいましたかね?」 ふっと笑い、新藤と黒鬼は強く地面を蹴った。 「お疲れ様です、マスター。ご無事で何よりです」 「凛、これが無事に見えるのかぁ?」 真紀に肩を借りつつ、天原は恨みがましい目を凛に向けた。 学園の端。徒歩で帰る天原たちを、凛は出迎えに来ていた。時刻は間もなく、6時になる。 「学内の敵は全て排除済みです。召喚した生物は条件を満たし、帰りました。学園長、新藤先生、村野君たちの無事も確認しました」 「そうか。つまりこれで全部、終わったんだな?いまいち実感が沸かねーけどよ」 「ええ。また、今回の黒幕である松岡太一、および協力者である紫藤星次、白鷺美華は捕縛してあります。他、組員も何名か」 そちらの方は他の教員が動いている。聡たちもすでに教員の手で保護が済んでいる。無傷の新藤は回復術が使える教員と共に事後処理に忙しい。 「あの、誰も死んでいないんですか?」 神楽が凛に問う。凛は天原から神楽に視線を移し、 「ええ。桔梗や秀一も何故か殺害まではしていないみたいで。確かに白鷺美華は髪が焦げていたし、紫藤星次は片腕と片足を失っていたけれど。死んではいなかったわ」 「桔梗が殺さなかったのか?」 「はい、その通りです。マスター」 神楽と天原を交互に見やりながら、凛は忙しげに答えた。続けて真紀が質問をする。 「あの、お父さんは・・・」 「逢いたければ案内するわ。気絶したままだけれど」 「ぜひ、お願いします」 凛は無言で天原を見やる。天原が頷くのを待ち、凛は真紀と共に歩いていった。 「混乱、してねーな?」 「そうですね」 学園には平和な空気が満ちている。まるで何事もなかったかのように。 毎年、各所で生徒たちが騒ぎを起こす心魔祭にとって、ガーゴイルやデーモンなど問題には含まれないらしい。 「変わったとこだな、ここは」 安心したように笑い、天原たちも帰っていった。帰るべき場所、心魔学園へ。 |