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■先輩のこころ
「うまかったな」 「そーね」 ファーストフード店を出たところで。聡は大きく伸びをした。 「さ、これからどこ行く?」 「うーん・・・そうねぇ?」 神楽は地図を広げた。学祭期間中に行われている催し物やらが書き込まれたものである。もちろん、学園の規模から言って全てのイベントを細々とは書けない。内容は大まかなものでしかなく、しかもゲリラ的なイベントも多いので、あまり役立つ地図とは言えない。ただ、学祭が始まる前に登録されたイベントは正確だから、それを調べるだけなら役立つだろう。 道端で立ち止まる聡と神楽の前を大勢の人々が行きかう。その中のひとりが急に立ち止まった。 「あれ?聡じゃないか」 「ん?」 聡が地図から顔を上げると、そこには黄金色の髪が美しい青年がいた。服装も洗練されていて、優しげな雰囲気が漂う。 「紫藤先輩じゃないッスか。どうしたんですか、こんなとこで」 紫藤と呼ばれた男は整った顔を笑みのカタチに変えた。 「聡こそどうしたんだ。デートか?」 「そんなんじゃないッスよ」 聡は気恥ずかしげに手を振った。それに対して神楽は僅かに表情を曇らせたが、聡がそんな事に気付く筈もない。 「あ、初めまして。紫藤星次(しどうせいじ)です」 「初めまして、紫藤先輩」 星次の出した手を神楽は握り返した。 「僕の事は知っているかな?」 「古代魔法研究会所属、6年E組の生徒。性格は女性に優しく、明るくて社交的。好みの女性は元気なタイプだっけ?」 「おや。本当によく知ってるんだね?」 少し意外そうに星次は微笑んだ。 「そりゃー神楽ッスから」 「神楽、ちゃん・・・。そうか、君が神無月神楽ちゃんなんだ。聡から聞いてるよ」 「どんな話ですか・・・?」 神楽が微妙に不安げな表情をした。星次はあっさりと答える。 「ああ、大丈夫。僕は悪い話は聞かない主義だから」 「・・・聡?」 神楽の瞳がジロリと聡を睨みつけた。 「いやまあ、そんな悪い噂は言ってない・・・はず。あれだ、事実しか言ってねーよ」 「――さ・と・し・君?」 「そ、そうだ。先輩はひとりですか?」 微笑み、星次は頷いた。 「珍しいですね、先輩が女の人と一緒じゃないなんて」 「色々とあるんだよ」 「・・・また彼女を泣かして来たんスか?」 「どの?」 あっけらかんとした口調は、放つ言葉の違和感を隠す。 「・・・先輩。いい加減、複数の人と付き合うの止めましょうよ」 「いや、僕は構わないんだよ?ただ、一緒に遊ぼうって言う娘が多いだけだよ。僕はそれにNOと言わないだけの事さ」 笑って、自身の柔らかな髪に触れた。 「じゃ、僕はもう行くよ。女の子を待たせるのは悪いからね」 「またデートッスかぁ?ほどほどにしといて下さいよ」 呆れたように聡は言う。それに対し、星次は少しばかり真面目な口調で言った。 「いや、デートじゃないよ」 背を向け、星次は人々の流れに溶け去った。 その姿は涼やかで、スマートで、格好よかった。無条件で信頼していいのでは、と思いたくなるほどに。 「・・・行くか。神楽」 「うん」 聡と神楽は手を握り、人混みへと消える。離れないように、共に歩くために、しっかりと握られた手から伝わる温かさ。それが、神楽を安心させた。自信に溢れさせた。 想いは口にするもの。そうでなければ、伝わらない。 ――成功、しますように。 一方その頃、教室棟では。 「宮野さん!ケーキあといくつ残ってるの!?」 「27!お茶は!?」 「こっちは大丈夫!」 聡たちのクラスの出し物は喫茶店。茜の作ったケーキは去年も好評で、今年も繁盛している。ちなみに行人と聡は室内装飾をやったので、学祭期間中は仕事がない。 ケーキはすでに作ってあるが、客足が思った以上に伸びている。追加で作らなければ間に合わない状況だった。茜はエプロンに三角巾といういつもとは違う雰囲気の格好で指示を飛ばす。 茜はケーキ作りだけでなく、店で言うところの店長の役割も果たしている。在庫管理や店員(クラスメート)の仕事の指示など、やる事は限りがない。 「委員長!紙皿の在庫ってどこにあったっけ!?」 「んなものは副委員長に聞きなさいッ!」 「委員長!交代の時間っていつだったっけ?」「委員長!」「いいんちょ!」「宮野さん!」 「だああああああ!!やかましい!少しは自分で考えなさい!」 茜は、爆発するほど忙しいのであった。 |