夕陽がレンガの家を赤く染める。小さな庭の中心には、初老の男性と、まだ小さな子供がいた。男性は腰と手に剣を持っている。
「いいかい。この町に限らないとは思うが、とにかくこの町では、十歳になったら剣を授けられる」
「それで、ルーンナイトになるんだよな!」
「まだ気が早いぞ。剣を持っただけでは、その人間はただの剣士だ。ナイトじゃない」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
 首を傾げる子供に、男性は優しく言う。
「ナイトは誇り高き存在だ。戦う時は名乗り、相手の名も知り、互いを認め合って初めて剣を抜く。感情の任せるままに剣を振るうのは、ナイトのやることじゃない」
「大丈夫! オレはきちんと名乗るし、名乗らせる!」
「……お前を見ていると不安になるが、今から不安に思っていても仕方ないな。次に、ルーンのことだが」
「知ってるぜ! 剣にルーンを刻んで、その力を引き出す!」
「その通り。だが、力を引き出せるルーンにも限りはある。それに何より、ルーンの力を引き出すのはその人間の心だ」
「こ――?」
「ああ、お前にはちょっと難しい言い回しだったかな」
「ば、馬鹿にすんなよ! 心くらいわかるよ! 怒ったり、喜んだり、泣いたりってことだろ!?」
「そう。つまり、感情に任せず、感情を引き出す。それがルーンナイトだ」
「……あのさ、わざとオレにわかりにくいように言ってない?」
「今の意味がわからなきゃ、本物のルーンナイトにはなれないさ」
 ごほん、と咳払いし、男性は手に持った剣を子供に渡した。
「まあ、ごちゃごちゃした話はこのくらいにしておこう。一度に説明しても、お前は覚えないしな」
「こんなもん、体で覚えるぜ!」
 剣を受け取った子供は、それをまじまじと見つめた。鞘から抜き出すと、紅の光を放つ。燃えるような色に染まった剣が、天を指す。
「すげー、ずっしりくる! 木刀とは大違いだ!」
「ああ、木刀とは違う。それは、人を殺せる道具だ。だからこそ、その扱いを間違えるなよ」
「ああ。それだけは、全身にイヤってほど叩き込まれた。大丈夫だ」
 そして子供は、両手で剣を持ち、構える。
「さあ、お前はどうして戦いたい? その想いを、引き出してみろ」
「ああ」
 男性も剣を引き抜き、構える。互いに正面から対峙する様は、まるで決闘のようだ。
「お前のルーン、見せてみろ!」
「ああ、行くぜ!」
 子供と男性が駆け出したのは、ほとんど同時だった。
 夕陽に染まる町に、鋼の曲が響き渡った。