■マサラタウンを目指して


「では、行ってきます」

相棒である、モココのランを連れ、ショウは出発前にウツギ研究所を訪れていた。服装はいつものワイシャツだが、ネクタイはしていない。

「あ、そうそう。このヒノアラシも連れて行ってくれないか?」

さあ出発だ!というところで、ウツギ博士は間の抜けた声を出した。

「はぁ・・・。こいつ、ですか・・・?」

博士の足元で欠伸をしているポケモン・ヒノアラシ。背中の炎がトレードマークだが、今は燃えていない。

このヒノアラシは、有名なバクフーンの子供である。母親であるバクフーンは、ポケモンバトルの祭典・ポケモンリーグで優勝したトレーナーの、一番

のパートナーだ。彼女はこの研究所で貰ったヒノアラシと旅に出た。その縁でこの研究所にこのヒノアラシをプレゼントしたのだ。

「そういう顔をしないで・・・。このヒノアラシの世話は僕じゃ出来ないんだから・・・」

ショウがこのヒノアラシを少々嫌がるのにはワケがある。実はこのヒノアラシ。ボールを嫌がる上に、炎のコントロールが下手なのだ。そのため、クシ

ャミをするだけで炎が目の前の人間を襲うという事も珍しくはない。

「・・分かりました。ヒノ、おいで」

ショウはヒノアラシを頭の上に乗せると、リュックを背負いなおした。

「では改めまして、行ってきます」

ショウは軽く手を振りながら、研究所を後にした。



マサラまでの道はかなり険しい。中には滝を登って行くトレーナーもいるというのだから、その険しさは並ではない。道中は舗装されていない山道が

続く。

ショウとモココのラン、ヒノアラシのヒノの3人(?)はこの険しい山道を、汗を流しながら歩いていた。

「ラン、大丈夫か?お前は首周りとか、暑いだろ?」

「メ〜」

ショウの心配をよそに、ランは元気だ。もしこれが進化前のメリープだったら全身が毛だらけで暑いだろうが、モココに進化したランは頭と首周りにし

か毛はない。暑さも半減しているだろう。

「ヒノ、お前は?」

「ふあああ・・・・」

こちらは欠伸をしている。どうやらポケモン達の方がショウよりも体力があるようだ。

「お前達には敵わないな・・・。ちょっとあそこで休んで行かないか?」

ちょうど、ショウ達の行く手に岩陰があった。そこで、ショウ達は一休みする事にした。

日光の当たらない場所に座り、汗を拭く。

ランとヒノも座って休んでいる。やはり、多少は疲れているようだ。

「(やっぱり休んで良かったかな・・・と?)」

なにやら、急に頭の上の方が騒がしくなった。ちょっと頭を出し、覗いてみる。

「ケエエエエエエエエン!!」

「うおおおおおお!?」

いきなり、ショウ目掛けてオニスズメが降ってきた。

ショウは慌ててキャッチしてやる。

「・・・ッと!どうしたんだ!?」

オニスズメが返事をする前に。続けて何かが降ってきた。

「ぬおおおお!?」

ショウが紙一重にかわし、身構えた。続けて落ちてきたのはエアームド。鋼の身体が自慢の鳥ポケモンだ。

「な・・・いきなり何をするんだ!」

エアームドはすでに臨戦態勢。こちらの言葉を聞くつもりはないらしい。

「仕方ない、か。ラン、頼む」

ショウとエアームドの間に、ランが立ち塞がった。

「ラン、無理はするな。追い返せれば・・・それで構わない」

「メ〜」

エアームドは、空高く羽ばたいた。これではランの攻撃が届かない。

「ラン、焦るな。チャンスは来る」

ショウは冷静に、状況を見守った。

エアームドは空中で構えると、回転しながら突っ込んできた。これは、『ドリルくちばし』。回転の加わったくちばしでの突きだ。

「ラン!横にステップして回避!」

ショウは自身も横に飛びながら、ランに指示した。ランも紙一重でエアームドの一撃を回避する。

「一発でも当たると、ちょっと痛いじゃ済まないだろうな」

エアームドは空中で向きを変え、再びこちらを狙っている。

「ラン、攻撃の瞬間・・・狙えるか?」

「メ〜!」

ランはショウの質問に対し短く返事をする。それは、ショウとランの間だけで通じる肯定の意。

エアームドの『ドリルくちばし』が、ランに向かって放たれた!

ランの持つ唯一の攻撃技『かみなりパンチ』は、電気を帯びた拳で殴る技である。これを常に空中を舞い続けるエアームドに当てるには、降りてきた

タイミングしかない。しかし、このエアームドが降りてくるのは『ドリルくちばし』を放つ時のみ。ならば、危険でもそのタイミングを・・・狙う!

ランは、エアームドの攻撃を避けなかった。ギリギリまで呼び寄せ、クチバシの先端が当たる直前で。

その横っ面に、電撃をまとった拳を叩き込んだ!

飛行タイプのエアームドには、ランの電気技は抜群の効果がある。岩肌に叩きつけられたエアームドは、かなりのダメージを受けているようだ。

しかし、それでも。エアームドはまだ立ち上がってきた。まだ、戦う気らしい。

「さすがに防御力は高いみたいだな。ラン、続けて行くぞ!」

エアームドが羽を広げ、飛翔する・・・その前に!

「ラン!『かみなりパンチ』だ!!」

スピードを乗せた、高威力の電撃拳がエアームドの腹に叩き込まれた。エアームドの後ろの岩肌が、ランの拳の勢いに負けてへこんだ。

「これで・・・どうだ!?」

いかに防御が高かろうと、2発も喰らえばただでは済まないはず。

『かみなりパンチ』を受けたエアームドは動かない。

――“気絶”したのか・・・?

「ラン、念のため・・・『じゅうでん』だ」

ランは周囲の電気を、ふかふかした毛皮に溜め込み始めた。電気エネルギーを溜める事で、次に放つ電気技の威力を倍化させる技『じゅうでん』。

すでにエアームドが倒れたのであれば、意味がないが・・・?

アアアアアアアアアア!!!

高々と吼え叫び、エアームドは両翼を広げた。やはり、まだ戦える。いや、まだ戦う。

しかし、どうやら麻痺しているらしい。動きが鈍く、眼光にも辛さが滲んでいる。

「・・・エアームド。もうお前に勝ち目はない。諦めて、退いてくれないか?」

エアームドは、両翼をたたみ体勢を低く構えた。これは『ドリルくちばし』の構えだ。

「諦めては、くれないんだな」

問答無用と言わんばかりに、エアームドは『ドリルくちばし』を放った。だが、先刻と比べれば回転もスピードも遅すぎる。

「・・・ラン、『かみなりパンチ』」

通常の2倍の電気が集まった拳を、ランは全力でエアームドの顔面に叩き込んだ。

エアームドはゴロゴロと山道を転がり、再び岩肌に叩きつけられて“気絶”した。



次へ  戻る