■想いを乗せて

「ふ・・・ふふふ、はっはっはっは!」

今まで冷酷そのものだったハザマは、まるで狂喜に憑かれた人間の如く笑った。

「まさか進化するとはな!だが、だからどうしたと言うんだ?進化したとて、『かみなりパンチ』しか攻撃技を持たないお前のデンリュウではエアーム

ドは倒せまい!」

進化とは、ポケモンが姿形を変える事だ。一般的にはより高い能力を得る事が多い。しかし、進化してレベルアップしたランでも、まだハザマのエア

ームドとは絶対的な力の差がある事には違いなかった。この場では簡単に埋められない程の、絶対的な差が。

「・・・・いや、進化した今なら可能性がある。万にひとつしか成功しないかもしれない。だけど、可能性がある。それが事実だ。希望があるなら、それ

を信じる。それがどんなに小さな可能性でも、希望があるなら、絶対に諦めない。それが、俺がランと誓った言葉だ」

「立派なものだな。ならばその希望を見せてみろ。真っ向から、全力で、潰してやろう!」

エアームドが鋼の翼を広げて空を舞う。チャンスは何度もない。体に負担がかかり過ぎるし、何よりも相手が何度もチャンスをくれないだろう。

ショウとランの心がひとつになる。選択肢なんてあまりない。だったら、命懸けで、全力で、一撃に・・・賭ける。

「ラン、行くよ」

ランは力強く頷き、両手を前で合わせた。その背後にショウが立ち、優しく包むようにランに触れる。

電気を貯める毛がなくなった代わりに、額には灯台にもなる赤い玉が輝いている。その輝きが、どんどんと増していく。まるで世界を照らす太陽のよ

うに。

ランの傷が塞がっていく。瞬時に、まるで消えるように。

「ショ、ショウはん!どないする気や!?」

「ちょっと賭けてみるだけですよ」

ランの気合いが高まる。ビリビリと空気が震え出した。それは嵐の予兆。本来なら起こるはずがない何かを、空間が怖れ、震えている。

「メエエエエエエ!!」

ランの立つ地がひび割れ、そして・・・“力”が目覚める。

「ぬ・・・!?ば、馬鹿な!電圧が!?」

倍加している。いや、倍どころではない。先刻とは比べ物にならない。これが、これこそが、ランの“全力”。

「モココの時のランじゃ力に体がついて来なかった。だけど、どうやら成功したみたいだね」

「ショウはん・・・。何が起きたんや?」

「ランは俺の力で、自分の体内を巡る電圧を開放できるんです」

「電圧を開放?何なのかさっぱりや」

「普通、電気ポケモンは体内で作る電気をある程度、加減して放ってます。無意識に。全力を出せば確かに強いかもしれないけど、代わりに体には

半端じゃない反動がくる。“気絶”するどころじゃない。電気を操作する器官が壊れたり、下手をすれば一撃で死んでしまう。だから誰もやらないんで

す。いや、やれないんです」

「せやけど、そないな危ない技やったらランちゃんも・・・」

「ランは自分の体が壊れる直前で止めてます。電気を放出できない代わりに覚えた技です。ただ、モココのままでは開放が限度。技に乗せる事は

できませんでした」

それが今。まさに最高のタイミングで進化した。今なら、電圧を開放できる。ようやく、体が技に追いついた!

「ふ、ふん!所詮は『かみなりパンチ』!威力が高かろうと高速度に移動可能なエアームドには当てられまい!エアームド、『こうそくいどう』だ!」

エアームドの超高速の移動は進化したとて目では追いつかない。だからこそ、ランも動かない。体内に発生したエネルギーを無駄にしないために。

「エアームド!『かげぶんしん』!」

空間を飛び回るエアームドの影が複数に分裂する。もちろん、本体はどれだかわからない。

「さあ、締めくくりだ。エアームド、全力で『はがねのつばさ』だ!デンリュウを叩き潰せ!!」

エアームドの翼は鋼の剣と化す。全力を込めた最大級の一撃。喰らえば死ぬかもしれない。

「・・・ラン、『神鳴拳』」

ランは全電力を拳に集中させた。開放によって数倍になった電圧を込めた雷パンチ。それはいかなる壁をも打ち砕く、究極の兵器のようなもの。

無数に分身したエアームドが高速でランに迫り来る。その中で、ランは冷静だ。ショウを信じる故に。ショウが指示しないなら、まだその時ではない。

一方、ショウは感じる。空気の流れ、戦意の方向、殺意の所在。全てを全身で感じ、ランに最高のタイミングを教えた。

「今だ!」

雷拳と鋼剣が、交差した。

光が部屋を埋め尽くし、鋭い音が耳をつんざく。エアームドの分身は消える。戦いの終局を示すように。そして、ランは・・・倒れ伏した。

「くッ・・・くっくっくっ・・・はははははははは!!」

静寂をハザマの笑いが埋める。

「なかなか楽しめたぞ、少年!私とここまで戦えた奴はそうそういない。多少の慢心は認めよう。だが、確かに!お前は強い!ポケモンと信頼しあ

い、互いに命を預けるなどそうは出来ん。お前にその気があるならロケット団に誘っているところだ。だが、今はまだ及ばなかったようだな?」

「・・・ハザマ、よく見ろ」

ショウの顔には満足そうな表情が浮かぶ。この場の敗者にはふさわしくない表情だ。

「ハ、ハザマ大幹部!」

マイトが驚きの声を発した。エアームドは確かに地面に立っていた。立っていたが、しかし・・・微動だにしない。否、出来ない・・・・

「ぬッ・・・!?ば、馬鹿な!!」

エアームドは、“気絶”していた。立ったままで。

ハザマの勝利じゃない。ショウの敗北じゃない。完全な相打ち。引き分け、だ―――。

「わ、私が・・・こんな子供に?」

「やったで、ショウはん・・・。引き分けや!」

ハザマとショウの力量の差を考えればこれは十二分な結果。これ以上を望めない、最高のカタチ。

「・・・・これは、予想外だ。少年、名は?」

「ワカバタウンのショウ」

ショウはランを優しく抱きかかえながら、短く答えた。

「ショウ、か。覚えておこう。まさか私と・・・。いや、いまさら何を言っても言い訳に過ぎない。潔く認めよう。この、美しくも残酷な現実を。くくく、久しぶ

りに面白い相手だ。まさかポケモンの能力を超える技を身にした者にまた出会えるなんてな。私は運が良いのやもしれん。行くぞ、マイト!」

「は、はい!」

マイトはユンゲラーを繰り出した。片手にスプーンを握った、人型のポケモンだ。その能力は超能力。触れる事なく物体を動かし、遠く離れた場所に

主を転送する事ができる。

「少女は返そう。ひとつ、忠告しておく。我々に関わるな。次に戦う時は容赦しない。私に、本気を出させるな」

ユンゲラーが超能力の輪でマイトとハザマを囲む。

「『テレポート』」

マイトの短い指示を受け、ユンゲラーはその能力を発現した。

ハザマとマイトは姿を消し、ショウ達だけが冷たい壁に囲まれた部屋に取り残された――。



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