■無力感のその先に

「ん・・・・?」

「あ、目が覚めましたか。よかった・・・。どこにも何もされていませんか?」

ナミが目覚めてみれば、目の前にはショウの顔。頭がぼーっとして、前後の状況がいまいち思い出せないらしく、しばらく間の抜けた表情でショウを

眺めていた。

「はれ?私、どして・・・?うん、と、あッ!」

突然、思い出したらしく、大きな声を出した。

「何が、あったんです?」

真剣な表情のショウに、ナミも真剣に返す。

「夜にさ、散歩してたのよ。そしたら警官に呼び止められて・・・。職質みたいの受けてたら突然、警官があッて叫んだの。で、振り向こうとした

ら・・・・」

「したら?」

ショウが先を促すが、ナミは首を振り振り答えない。

「ダメ。思い出せない。たぶん薬か何かでやられたんだと思う」

その時、パタパタと部屋の外から足音が聞こえてきた。

「こっちやこっち!ようしいや!ショウはん、色々と呼んできたで!」

飛び込んできたのはアカネだ。後ろには警官や医者らしき連中がいる。

「なんや、目ぇ覚めとるやん。まぁええで。医者のおっちゃん、頼むで」

初老の医師がナミの横に膝をつき、いくつか問診する。その間にショウとアカネが警官に事情を説明した。

医師がOKを出したところで、警官がナミに前後の事情を問いただした。もっともナミもショウも疲れていたため、すぐに帰してもらえたのだが。



後に警官に聞いたところ、昨夜より巡査がひとり行方不明になっているという。そいつがナミに職質した警官だろう。ハザマの目的が分からぬ以上

は断定できないが、まず間違いなく連中の手にかかったはず。・・・・生きている可能性すら低い。

一方、医者の見立てによると外傷はほとんどなく、ただ腕に注射痕があっただけだ。他に何かされていないか精密検査の必要はあるものの、特に

問題はなさそうだった。

薬は恐らく草ポケモンの『ねむりごな』を精製したものらしい。僅かだが、粉末を溶かした液体が発見された。

目的その他は一切が不明だったが、ナミが無事だったという事実だけが幸いだった。

アジトを捜査したが、本当に何もなく、証拠らしい証拠は得られなかった。指紋ひとつ残さない、完璧な手口である。

連中がユンゲラーの能力でどこまで行けたのか分からないが、少なくとも緊急配備した警察官の目は誤魔化したらしい。それらしい奴の影にも会わ

ず、犯人と直接に出会ったショウ達の意見だけが頼りだった。

一応、似顔絵も作ったが、あまり効果があるとは思えない。なにせ元々、めちゃめちゃ目立つ服装をした連中だ。目立つとか見つかるなんて事は毛

ほども気にしていないだろうから。



数日後、身体の傷は癒えた一行。だが、それだけだった。

痛みはない。違和感はない。だが、無力だった。

ナミはハザマ相手に何もできず、ただ気絶していただけ。

アカネはジムリーダーという要職にありながら、敵に負け、逃がしてしまった。

ショウとて誰を助けたでもなく、相手が逃げなければ殺されていた。

誰もがロケット団の前に無力だった。実力・戦術・策謀など、あらゆる点で劣っていた。しかも、ハザマは大幹部と呼ばれていた。すなわち、あいつ

がリーダーではない事を示す。もしかすると、あのクラスの敵が他にもいる、という事にもなりうるのだ。

それを理解し、だが、立ち止まらない。そんな暇はなかった。

ショウは夕食時、ナミとアカネに告げた。

「・・・少し、コガネを離れても構いませんか?」

「なんやショウはん。深刻な顔して?」

アカネは努めて軽く聞いた。

「今回、俺はランに助けられました。ランが頑張ってくれなければただでは済まなかった。だからこそ、もっと力が必要なんです」

「それで、どこに行くわけ?」

ショウは質問者であるナミの方を向き、決然と言い放った。

「アサギシティです。正確には、うずまき列島です」

うずまき列島。アサギシティの南に位置する4つの島の総称である。

その名の由来である複数の大きな渦が島への侵入を阻んでいるため、島への人の出入りはあまり多くない。すぐ近くを定期船が航行しているが、

これはさらに南のタンバまで行くもので、島へ渡るための船は存在しない。

「・・・・あいつを連れてくる気?」

「そういう事です」

「なんやなんや?ウチにも教えてぇな」

ナミとショウだけで通じる会話に、アカネがのんきな疑問の声をあげた。

「俺、昔ラン以外のポケモンが手持ちにいたんです。シードラのハイロンっていいましてね。負けん気ばかり強くて、俺の言う事なんてちっとも聞いて

くれなかった」

シードラとは、毒性のトゲを持ったタツノオトシゴのようなポケモンである。

「今、ハイロンはうずまき列島で修行しています。より強くなるために」

「なんで・・・うずまき列島に?」

「運が悪かったと言うか、何と言おうか」

ショウが口ごもったのを見て取り、ナミが言葉を継ぐ。

「私のせいよ。ちょっとしたバトルだったんだけど、ショウのポケモンと私のポケモンじゃ勝負になるはずがない。それがハイロンには悔しかったみた

いね。勝手にショウのとこを離れて、うずまき列島に住み着いちゃったの」

「ポケモンが逃げる?そないな真似ができるんかいな?」

「普通は難しいと思うんだけど・・・。ショウはこの通り甘ちゃんだし、ハイロンもめちゃめちゃ気が強かったからね」

「いや、気ぃ強いとか、そういう問題かいな!?」

「・・・ま、それだけじゃ普通は無理だけど、ショウも逃げるのを反対しなかったからね」

そこで初めて気付いたようにナミは口をつぐんだ。

「・・・ごめん、ショウ。言わなくて良かったことだよね」

「いいんです。あれは、俺が悪いんだから」

ショウは冷たいお茶を口にした。

「俺にはポケモンの持つ、真の能力を無理やり引き出す力があります。限定解除は、何もランに限った技ではないんです。ただ、限定解除はポケモ

ンの体に絶対的な負担をかけてしまう。それだけに使うポケモンを選ぶんです。そして、ハイロンにはまだ早かった」

「・・・ショウの真価を引き出す力ってのは、昔はまだコントロール出来てなかった。おかげでハイロンは力を出しすぎて自滅。自分の弱さに嘆いたら

しいわね。ショウの前から、姿を消してしまった」

だからこそ、ショウはトレーナーではなくブリーダーをしている。戦ってしまえば、ポケモンを傷つけてしまう。それが、その辛く悲しい事実が、ショウの

心に深く、深く、刺さったままだから。

「ハイロンが俺を許してくれるか分からないけど、今のままじゃ俺は足手まといになる。それは、嫌なんです。他人の力を借りておいて足手まといも

何もないけれど、それでも・・・たとえ、俺が憎まれたって、ロケット団を放ってはおけない」

強く、明確な意思。それは、ポケモンたちに確かに伝わった。ランもヒノもカイも、そういうショウに付いて行くと心に決めている。

「必ず強くなってから戻りますから、それまで待ってて下さいね」

「分かったで」

「・・・・もちろん」

アカネとナミは、ショウの力強さに対抗するように強く、頷いた。



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