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■列島での出逢い
アサギシティの南・うずまき列島。ジョウト地方の西端に位置し、大小4つの島からなる列島で、それぞれの周囲を渦潮が巻いている。そのため近づ くことができるのは優秀なトレーナーくらいのものだ。もっとも、野生のポケモンしかいないこの島々に近づこうと考える者もあまりいないのだが。一 応、渦潮は観光の名所にもなっているため、その近くを定期船が通る。ショウは今、その定期船の上にいた。 正確には定期船ではない。なにせ、ジムリーダー名義で借り受けた貸切船なのだから。ただ単に、普段は定期船として利用している船である、とい うだけに過ぎない。 ショウがアサギに来て最初にした事が、ジムリーダー経由の船の調達だった。カイで飛んで行ってもいいのだが、どういう地形かショウは全く知らな い。闇雲に飛ぶよりは、地元の人の協力を得たかった。という訳で。彼は今、船に乗っているのだ。 「どうです?シードラ・・・ハイロンちゃん、でしたっけ。見つかりました?」 甲板で海を眺めるショウに声をかけてきた少女。白いワンピースにロングヘア、足元はサンダルという軽装だが、彼女はいつでもこういう服装であ る。 「いえ。そうそう簡単には見つからないと思ってましたけどね」 ショウは海から目を離し、少女へと視線を移した。 少女の名前はミカン。アサギシティのジムリーダーであり、鋼ポケモンの使い手でもある。また、彼女はアサギシティの名物・灯台の管理もしてい る。昔はポケモンが灯台で灯りを放っており、そのポケモンは彼女の手持ちにいる。 一見するとただのか弱い少女だが、これでも数多くの挑戦者を退けてきた強者である。その高い防御力を活かしたバトルスタイルから、“鉄壁ガー ド”と呼ばれる。 「さて、と。ミカンさん、このあたりの島に空から降りられるとこ、ありますか?」 「空からは1・2・3の島に降りられるけど・・・あまりおススメできないですね。この周囲は時々、乱気流が出るから。強力な鳥ポケモンも吹き飛ばさ れるかもしれないんです。だからこそ、ここの島々を訪れる人はいないんです」 気流が悪いために空からは進入しにくく、海を行けば渦に引き込まれる。まさに孤島と呼ぶにふさわしい地形だ。列島だが。 ちなみに島は北から順に1・2・3・4と名付けられている。最大の大きさを持つのは2の島。逆に一番、小さいのは4の島だ。 「そうですか。でも、今は平気ですよね?」 「ええ、でも・・・まさか、飛んで行く気ですか!?帰れなくなりますよ!?」 驚くミカンに対し、ショウはあくまで冷静そのものだ。彼にとって、こんなものは悩むに値しない程度の問題でしかない。 「ハイロンを傷つけたのは俺です。俺が多少の無茶をしてでも迎えに行くのは当たり前でしょう?ま、今度はカイに迷惑をかけちゃうんですけどね」 「でも・・・」 「あ、大丈夫です。ハイロンに会えれば渦くらいどうって事ないですし。気流の安定している時なら島から離れる事も可能でしょう?そこそこの準備も してますからね。なんとかなりますよ」 心配そうに見つめるミカンをよそに、ショウはボールからカイを繰り出した。 カイは一度、大きく伸びをすると、ショウが乗りやすいように体を屈めた。覚悟はばっちり、体調は万全。心配事など、何もない。 「じゃ、行ってきます。船、ありがとうございました」 ミカンの返事を待たず、ショウは大空へと飛び立った。 「ハイロ〜ン!って、呼んで出てくるわけないよな」 頭の上にヒノ、隣にはラン。暗い洞窟内部はヒノの炎とランの光によって明るく照らされている。 島々は海底洞窟を通して繋がっており、ところどころに外の海と繋がる地点もある。ハイロンがこのあたりに住んでいるなら、洞窟のどこかにいる可 能性も高い。渦のある水中を泳ぎ続けるなどという器用な真似はそうそう出来ない。 本当は水ポケモンがいるならいいのだが、いないものはどうしようもない。 曲がりくねった道を行く。右に左に、上に下に。天然の迷路だ。 「やっぱ無茶だったか―――」 ドンッ! 何度目かの角を曲がったところでショウは壁にぶつかり、尻餅をついた。 「あたたた・・・」 尻をさすりながら見上げれば、そこにいたのは―――ニドキング? 鎧のような紫の皮膚には毒性のあるトゲが生えている。二足歩行をする、まさに怪獣という形容が相応しいポケモンだ。 だが、地面タイプを持つニドキングが、どうして海底洞窟に―――? 「やあ、どうしたんだい」 ニドキングの影から壮年の男性が顔を出した。 おじさん、と呼んでいい年齢だろう。黒いスーツは洞窟にひどく似合わない。 「人?どうしてこんなとこに?」 「ちょっと珍しいポケモンを探していてね。君は?」 「俺はここに俺のポケモンが逃げ込んだらしくて、迎えに――」 ふと。ショウは思った。 珍しいポケモンを探して? 「(まさか、密猟?)」 ポケモンを捕獲・売りさばくだけなら、倫理的な話は別にして違法ではない。ペットショップのようなものだ。もちろん資格は必要だが。 だが、密猟となれば話は変わる。法律的保護対象となったポケモンも少なくないし、ポケモン保護区という捕獲禁止区域も存在する。 ショウにその方面の知識はないために判断できないが、もし密猟者ならば放っておくわけにもいかない。 「安心してくれ。私は密猟者じゃない。ほら」 男が懐から見せたのは緑色に光るバッヂだ。中心にはPの文字が刻まれている。これが意味するのは、ポケモン協会が公認したジムリーダーであ る、という事。ジムリーダーが挑戦者に配る複製品ではない。正真正銘、オリジナルだ。 「ジムリーダー、なんですか?」 「ああ。ジョウトの、ではないがね。これで信じてもらえたかな?」 男はショウが立ち上がるのに手を貸した。ショウは立ち上がって尻をはたき、改めて男を眺めた。 高級品であろう、仕立てのよいスーツ。真っ黒な髪。柔和な印象を与える微笑。ジムリーダーらしいが、どちらかと言うと愛想の良い会社役員という 感じだ。 「俺はショウです」 「私はギンだ」 実際、ギンと名乗る男がジムリーダーだからといって、密猟をしていない証拠にはならない。だが、ジムリーダーならば、多少は信用しても間違いな い。それだけの身分なのだ。 「君のいなくなったポケモンというのは?」 問われ、ショウはギンを信じる事に決めた。 「シードラです。額に十字の傷があります」 「シードラか。そういえば、この奥で血の気の多いキングドラを見かけたが・・・何か関 係があるかもしれないな。一緒に行こうか」 ショウは、黙って頷いた。 |