■水竜との再会

うずまき列島の最奥部。激流と冷たい空気が支配する空間である。

ギンの言っていたキングドラは、探すまでもなくすぐに見つかった。何故なら、向こうから襲ってきたのだから。

激しい流れの中から飛び出したのは、普通のキングドラよりも一回り小さなキングドラだ。キングドラはシードラが特殊な進化をした姿で、竜を連想さ

せるがっちりとした顔つきと、タツノオトシゴのような体が特徴的だ。

このキングドラがショウのハイロンである事に疑いの余地はなかった。ハイロンがショウとの別れ際のバトルでついた十字の傷が、額に刻まれてい

たのだから。

「ハイロン!」

ショウ自身もこんなに早く見つかるとは思っていなかった。それだけに僅かに驚きを織り交ぜながら、それでも懐かしげに声をかけた。

しかし、ハイロンは戦闘体勢を解かない。ショウの事を忘れていないのは、その目を見れば分かる。鋭い敵意の中に見え隠れする、優しげで戸惑っ

た雰囲気。

「・・・・分かったよ、ハイロン。戦って決めたいんだろ?」

かつての主人の言葉に、ハイロンは小さく頷いた。

「どういう事だい?」

「ハイロンは真面目なんです。別にハイロンが悪かったわけじゃないのに、自分が悪いと思って修行のために俺の下を離れました。だから、今も俺

のとこに素直には帰れないんです。強くなった自分を見せて、俺はもうあんたに迷惑をかけないっていう意思表示をしたいんですよ」

「ほぅ。君は、君のポケモンの事をよく分かっているんだね」

ギンの言葉に、ショウは少し照れたように笑った。

「ポケモンって、にごらないんです。トレーナーと心を通わせて、その色に素直に染まる。だからこそ、トレーナーはポケモンの心に気を使わなきゃい

けない。俺は、そう思ってるんです。ポケモンと一体になって、初めてトレーナーを名乗れる気がするんですよ」

「・・・だったら、君は立派なポケモントレーナーだな」

ショウはもう一度、照れ笑いを浮かべると、ランと共に前に出た。

「ギンさん。手は出さないで下さいね。俺がやらなかったら、意味がないんですから」

「ああ。思いっきりやってきなさい」

ランとショウは、ハイロンと正面から対峙した。ショウが正面から受けてくれた事を喜びつつも、その事を見せずにハイロンは構えた。

先に動いたのは、ハイロン。

先手で放った技は『ハイドロポンプ』だ。圧倒的な水量で対象を押し潰す、水系でも最強クラスの技。

「ラン!右に飛んで詰めろ!」

水量は多くても、その攻撃は直線的。左右に大きく回避すればかわせる程度だ。

ランは右手に大きく回避。そのままハイロンとの間合いを詰める。

ハイロンの皮膚は竜と同格の強度を誇る。そのため、本来なら水系の弱点であるランの電気技は、ハイロンには通常打にしかならない。それでもラ

ンにはこれしかないのだ。詰めて、殴る。それ以外に選択肢はない。

大技を放ったが故の隙を狙い、ランの電撃を帯びた拳が叩き込まれた。

「『かみなりパンチ』」

ハイロンは踏ん張れず、そのまま吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。だが、強固な竜の鎧を持つハイロンは、その程度で倒せない。

起き上がったハイロンは、ランに向かって光線を放った。『れいとうビーム』。触れる者を凍らせる、氷系の上級技だ。

「ラン!かわして!」

ランは慌てて回避しようとしたが、その途中で動きが止まった。足元を見れば、その右足が地面と氷で繋がっている。『れいとうビーム』が足にかす

ったのだ。

ここぞ、とばかりにハイロンは大きく息を吸い込んだ。『ハイドロポンプ』の予備動作だ。

「・・・ラン!自分に『でんじは』!」

ランはショウの言葉を信じている。だから、一見すると意味の分からない行動でも、ためらいなく実行する。

『でんじは』は微弱な電気を流し、対象を痺れさせる技だ。だが、電気ポケモンには生まれながらの耐性があり、この程度の弱い電気では麻痺しな

い。従って、電気タイプのランに放っても無意味だ。

ハイロンは構わず水流を放った。容赦ない水圧がランにぶつかり、ランを逆の壁に叩きつけた。

ハイロンは続けて攻撃しようとするが、それは出来ない。電気をまとうポケモンに水を浴びせかけたのだ。微弱ながら電気はハイロンの放った水流を

伝い、その身体を痺れさせた。麻痺した身体は思うように動かない。まして、その状態で連続的な攻撃など不可能である。

「今だ!ラン!」

ランは残る力を振り絞り、ハイロンとの間合いを詰める。ハイロンは麻痺しているため、自由に動けない。ハイロン自身も自覚している。だからこそ、

守らない。

「・・・ッ!?」

ハイロンの周囲が凍りついていく。ハイロンが冷気を放っているようだ。だが、本来ならありえない。ハイロンは水とドラゴンのタイプを持つが、氷タイ

プは保有していない。それが、冷気を放っている――。

「ラン!やっぱり戻って!」

非常事態に、ショウは退くよう指示する。だが、すでに勢いに乗ってしまったランは急に止まれない。拳に電撃を集め、構わず振りぬく。

ハイロンは眼前に迫ったランに、その息吹を吹きかけた。得意の水流を氷弾に変え、それ自体が武器となる『りゅうのいぶき』に乗せて。

圧倒的な力の奔流がランを弾き、氷弾がその身を切り裂く。地に叩きつけられ、ランは“気絶”した。

「そんな・・・、俺の力を借りずに解除したのか!?」

ハイロンが内に眠る力を解き放ち、自身が得意とする氷・竜・水の3種類の技を同時に放つ技『凍竜牙』。ランの『神鳴拳』のようなものだ。

ハイロンは厳しいまなざしでショウを見つめた。強く成長した者だけが持つ、己への自信に溢れた瞳。

「・・・ハイロン、強くなったな。また、助けてくれないか?」

ハイロンは黙って頭を下げた。眼前に立つ男を、主人と認めて。

「ありがとう、ハイロン」

ショウはハイロンにかすかに笑いかけ、ランの治療をするために走り寄った――。



長い長い廊下が続く。左右に並ぶオリには、見た事のないポケモン達が鎖で繋がれている。

そんなある種の異様な空間を、紫のコートをなびかせて男は歩く。男は突き当たりの大きな扉をノックし、返事を待たずに開けた。

「博士。お呼びですか?」

「ハザマか。ようやくだ。ようやく、完成の直前にまでこぎつけた。君のおかげだ」

そんな事か、と思いつつも、それを態度に全く示さずハザマは頭を下げた。

「私にはもったいないお言葉。全ては博士の研究のため、偉大な神に人間が近づくため。そのためならば、このハザマ、命までも捧げましょう」

「そうだ、そうとも。ワタシは神になる。この世の全ての父となるのだ!ハザマ、ワタシが神になったその時は、君も悪いようにしないからな!」

「・・・ありがたき幸せ」

博士と呼ばれた男は、狂った笑いを部屋中に響かせた。

狂気の声が満ちる部屋で、“それ”はただ眠っている。誕生の時を、待ち続け。



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