■水中の研究所

湖は波ひとつなく、静かに漂っている。湖全体を白い霧が覆い、反対側の湖岸はおろか、数歩先も見えない。

そこに、ジムリーダーたちは集まった。結局、前日の相談より後に到着できた者はひとりもいなかった。そのため、今ここにいるのは昨日と同じメン

バーで、7人だけである。

水中での活動ができるポケモンを持つショウ・ナミ・イブキの3人が水中へ。体力的に厳しいヤナギや、水中では動けないポケモンしか手持ちにいな

いアカネ・ミカン・ハヤトは地上でロケット団が逃げないよう、見張りをする事になった。

「じゃ、行くわよ」

ナミが先頭になり、後ろのショウとイブキに確認するように言った。

水中に入るという事で、今はいつもの服装ではない。水中でも動きやすいように、ビキニタイプの水着に短パンをはいている。ショウもまた、水着を着

て、上半身は何も来ていない。

ナミはトドゼルガを繰り出し、その首元にしがみつく。ショウとイブキも黙ってキングドラを出した。

そして、冷たい水の中へと、身を躍らせる。



湖の水はキレイだった。おかげで、湖の底にあった施設も簡単に見つかった。

白い長方形の建物。かなり大きく、窓らしきものはない。周囲をグルリと回って確認してみたが、入り口はひとつだけ。どうやら中からしか開閉でき

ないらしく、扉の周囲には取っ手になるような部分がない。仕方なく、ナミのトドゼルガが扉を強引に破壊して中に入った。

入ってすぐは狭い部屋だ。3人とポケモンが入ると、すでに余裕はほとんどない。壁にはウェットスーツとボンベが並び、排水と書かれたスイッチが

壁にある。

ナミはすぐに入り口だった場所を凍らせて壁を作り、部屋の壁にあったスイッチを押した。予想通り、部屋の中の水が自動的に引いていった。

どうやら、この部屋は着替えをするための部屋らしい。扉を開いて水ごと中に入り、扉を閉じて排水する。こうすれば建物の中に水を入れずに済む。

いわゆる、気密室というやつだ。

続けてやはり鍵がかかっていた戸を、これまた破壊して中に進入する。すでにこっそりと入ったところで、気密室を壊しているのだからもう遅い。

入ってすぐは左右に道が分かれていた。親切にもそれぞれに名前が書いてあり、右は研究ライン。左は生活ラインと書いてある。

「どちらに行く?」

イブキが問い、

「右。左にいそうなザコは後でいいわ」

ナミが答えた。

狭いので、3人は縦に一列になって走る。ナミはトドゼルガを戻し、この狭い通路に見合った大きさのリーフィアを出している。ショウはラン。最後尾

のイブキはハクリューという、長い身体を持ったドラゴンポケモンを出している。

右手の道に入ってすぐ、今度は通路が左に折れ曲がっていた。ためらいなく曲がり、その先で――。

「うっ!?」

「こ・・・れ!?」

左右に続く檻。その中には、見た事のないポケモンが並んでいた。どいつも半分くらい眠ったような目をしている。おそらく、睡眠薬か何かを打たれ

ているのだろう。

この光景の異常な部分は、そのポケモンたちの姿形にある。どれもマトモなポケモンではない。新種ではなく、明らかに・・・“作られた命”だ。

右の檻には九尾の尻尾を持ったブラッキーがいる。毛並みの色からすると、おそらくキュウコンとの合成だ。

左の檻にはピカチュウがいる。普通のピカチュウと明らかに異なるのは、額に生えた角。よく見れば背には小さな羽まである。

「どうやらふざけた研究をしているらしいな」

イブキが表情に怒りをにじませて言う。

「・・・行きましょう。すぐに止めなきゃ」

また、走り出す。できる限り左右は見ない。そこには、もてあそばれ、改造された“命”がある。そして、その姿は、あまりにも痛々しい。

突き当たりの白い壁を、リーフィアの『リーフブレード』が斬り飛ばした。

奥の部屋はおそらく研究室だったのだろう。不気味な色の液体が詰まったガラス瓶が並び、機械や書類が崩れそうなくらいに高く積まれている。

「ようやく来たようだな!」

部屋の奥の壁際に4人の男がいた。いつも通りのロケット団の黒服。

ショウはひとりだけ前に立つ男を指差し、

「あんたは・・・確か、扇風機のマイド!」

「旋風のマイトだッ!貴様、わざと間違えただろ!?扇風機の毎度って何だよ!?」

「と、その隙に『かみなりパンチ』だ!」

ショウの策略につい反応してしまったマイトは、ランに不意を突かれた。

ランの電撃を帯びた拳が、マイトの腹に叩き込まれる。そのままマイトは吹き飛び、壁に激突した。

「マイト様!?」

「ふ・・・ふふふ!ははははは!はーっはっはっははっはゲホゴホ!あ、甘いぞ!この程度、私には予想済みだ!」

むせつつ言って、マイトは団員服の上着を脱ぎ捨てた。その下にはドロリとした、紫色の物体がへばりついている。

「こんな事もあろうかと、ベトベトンを腹巻代わりにしていたのだ!どうだどうだ!まいったか!」

「・・・ハクリュー、『りゅうのいぶき』」

ハクリューの口から放たれた高圧の息吹が、マイトとその部下たちを覆い、吹き飛ばしていく。

「うおおおおおおおお!?」

ベトベトンは引き剥がされ、マイトとその部下3名は床に叩きつけられた。

「ぐぞ・・・ひ、卑怯な!」

「何?文句でもあるの?」

ぐしゃ。

マイトの頭を思いっきり踏み潰しながら、ナミは堂々と言い放った。

「はりまひぇん」

「ならいいのよ」

ナミが足をどかした瞬間、マイトはガバッと跳ね起きて、

「隙あり!ユンゲラー、『サイケこ・・・』

「リーフィア、『リーフブレード』」

マイトが腰のボールに手を伸ばして繰り出す直前。その首元に、リーフィアの刃と化した葉が突きつけられた。

「言いなさい。ハザマはどこ?ロケット団の本部は?それに、ここは何の研究をしていたわけ?」

「ず、ずいまぜん・・・。話しますから、この葉っぱどけて・・・」

目に涙を浮かべつつ、マイトは願い出るのであった。



結局、ロープで4人を縛り上げ。イブキとショウに研究所内の探索を任せ、ナミはマイトたちを尋問していた。

「さっきの質問に答えて」

「は、はい。まず、ハザマ大幹部がどちらにいらっしゃるのかは知りません。あの人、すぐに連絡なしでどこかに行ってしまわれるので・・・」

先刻までの強気な態度と異なり、今のマイトはいたって素直。他の3人も、黙ってはいるものの、暴れたり抵抗したりしない。

「本部はここのはず、です。基本的に団員や幹部勢はあっちこっちに散らばっていて、本部に全員が揃ったのは最初の日くらいです。それで、ここで

の研究ですが・・・」

そこでマイトはちらりと水槽に目をやり、

「わかるでしょう?」

「言って」

ナミに睨まれ、マイトはため息交じりに答えた。

「人工的なポケモンの製作です」



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