合成式携帯獣キメラ・ポケモン

マイトは縛られたまま、ナミを前に語りだす。

「博士・・・この研究所の持ち主は、こう考えたそうです。ポケモンとトレーナーの関係はおかしい、と。ポケモンは飼い主を選べず、自分の意思とは

関係なくムリヤリ捕獲され、しかも戦いの道具にされる。痛い目を見るのはポケモンだけで、トレーナーは全く傷つかない。それで友達だの仲間だの

なんて、詭弁に過ぎないって」

――キベンニスギナイ。

言葉が、ナミの頭の中でぐるぐると回る。

「だったらいっそ、そんな関係を壊そうって研究を始めたらしいです。何の研究なのかはよく知らないんですけど、結果として何体ものキメラ・ポケモン

が生まれました。ああ、他のポケモンと合成させたポケモンの事です」

――カンケイヲコワス。

「博士が最終的に何をしたいのかは分かりませんが、この間、完成形に近いのができたからって・・・。実験のためにそいつを連れて、どこかへ行っ

てしまいました。私たちは留守番をしていただけなんですよぅ・・・」

――ジッケンノタメ。

「ナミさん!どうやらここには誰もいないみたいで、す・・・?」

部屋に入ってきたショウは、ナミの変化を敏感に感じ取った。

「ナミさん。こいつら、何を喋ったんですか?」

ショウはマイトたちを指しつつ、ナミに詰め寄った。

「・・・ポケモンは、オモチャじゃない」

「え?」

ナミの発した小さな声を、ショウは聞き漏らした。そして、聞き返した。それが結果的に、ナミの感情に火をつけた。

「ポケモンはオモチャじゃない!確かにポケモンが望んでトレーナーと一緒にいるわけじゃないかもしれないけど、でも!ポケモンを実験の材料にす

るなんて!ポケモンとトレーナーの関係は壊させないから!何よ何よ、ふざけないでッ!あんたらに何がわかってるって言うのよ!何にもわかって

いないじゃないのッ!」

「ナミさん!」

ショウに肩を強くつかまれ、ナミはようやく正気を取り戻した。

「え?あ、ああ・・・ショウ。ごめん、ちょっと興奮しすぎた」

「だいたい想像はつきましたけど・・・説明してもらえますか?俺にも」

ナミは頷いて、たった今、マイトから聞き出した話をショウにした。ちなみに、ショウの後ろにはイブキがいるから、正確にはショウとイブキに、だ。

「貴様らぁ・・・!」

イブキがギロリとマイトたちを睨んだ。マイトたちは小さく、ひっと悲鳴を上げる。

「マイト。ひとつ聞きたい」

「・・・何だ?」

ショウにだけはちょっとばかり強気なままのマイトは、反抗的なまなざしを向けた。

「ウツギ博士のところから持ち出した研究資料。あれはどういう意味なんだ?」

「・・・博士が研究していたのは、ポケモンのタマゴだ。そのために、タマゴに関するあらゆる情報が欲しかった。最新のタマゴに関する研究資料と聞

いて、私たちが動いたんだ」

「タマゴ?」

全ての、かどうかはまだ判明していないが、少なくても一部のポケモンはタマゴから生まれる。これにはいくつかの法則があるようだ、というところま

でしか研究は進んでいない、まさに未知の分野だ。

「ああ。博士の研究は、合成したポケモンをタマゴから育てる事だ。これならポケモンとトレーナーの関係は、いわば親子。博士の悩み続けた課題を

クリアできるという理論らしい」

「・・・じゃあ、ナミさんをさらったのは?」

この質問には、マイトはゆっくりと首を横に振った。

「それは私には分からない。とにかく捕まえてハザマ大幹部の指示を仰げ、と。それしか言われなかったし、それ以上の事は何も知らない」

マイトの言う話の全てをそのまま信じるわけにはいかないだろう。いくらか隠している事や嘘も入り混じっているに違いない。

だが、タマゴに関する部分、そこだけは信じていいと、ショウは考えた。

確かにあの研究資料は、その筋の専門家には面白い内容だが、一般人やロケット団の下っ端に面白い内容ではない。それをわざわざ盗んだの

だ。危険を冒してまで。

ここの設備からしても、檻の中のポケモンの姿からしても、キメラ・ポケモンを作ろうとしていた事は間違いない。となれば、それをコントロールするた

めにタマゴを利用した可能性は高い。

「本当にハザマや博士の行き先は知らないんだな?」

「ああ。私は、嘘は言っていない」

その言葉そのものが嘘であろうが、そんな事を追及している暇はない。

「ナミさん、イブキさん。すぐに地上に戻りましょう。もしもそんな研究が最終段階なら、急がなきゃ」

「うん、でも・・・こいつらはどうするの?」

ナミはマイトたちを見下ろした。別にここに縛ったまま放置してもいいのだが、何かの拍子に逃げられた日には、後々面倒な事になる。

「私が面倒を看よう」

イブキが一歩前に出ると、腰のムチを取り出した。猛獣使いなどが使うタイプのもので、殺傷能力こそないが、床に叩きつければ大きな音が出る。

イブキは一度だけピシッ!とムチで床を叩き、

「ハクリュー。こいつらを引っ張って水上に出てくれ」

「イブキさんはどうするんですか?」

ショウが聞くのに、イブキはほほえんで答えた。

「君と同じポケモンを使うだけだ」



波ひとつない湖の水面を、3匹のポケモンが打ち破った。トドゼルガと2匹のキングドラである。

遅れてハクリューが縛ったロケット団を連れてきた。ハクリューはそのまま宙に浮かぶ。ハクリューは天候を操り、宙を駆けるという珍しい力を所持し

ている。

「ふぅ!ようやく普通の空気が吸えるわね!」

したたる水を振り払い、ナミは笑顔を見せた。

「笑ってる場合じゃないですよ。とりあえず、ヤナギさんたちに合流しないと」

出た場所はちょうど湖の中心辺り。すでに霧は晴れており、暖かな日差しが湖面を照らしている。

「ん・・・?おかしい、な」

キングドラの上に立ち、イブキは周囲を見回した。

本来なら湖から現れたポケモン・トレーナーは全てチェックする手筈だ。だが、湖からショウたちが出現したというのに、誰も来ない。それどころか、

誰もいない。

「何か、あったんですね」

地上に残ったのはジムリーダーが4人。それぞれが高い能力を持っており、簡単に倒される人間ではない。当然ながら、4人とも勝手に役目を放棄

して逃げ帰るような性格でもない。となれば、こんな事が起きた原因は絞られてくる。

「ハザマ、ね。やってくれるじゃない」

「どうやらこいつらは捨て駒だったらしいな」

ジムリーダーを4人も片付ける実力。そんなものを持つ相手は、ハザマ以外に考えられない。あるいはハザマ以外にあれほどの実力を持ったトレー

ナーが敵にいるのかもしれないが、少なくてもハザマが戦ったであろう事は想像にかたくない。

「しかし、ジムリーダーが4人もいたんだ。全員がこれだけの時間で倒されたと言うのか?」

「ええ、おそらく。あるいは・・・マイドの言っていた、実験中のキメラ・ポケモンとかいうのを使ったのかもしれませんね」

「・・・マイトだ」

さわやかな風が、湖を駆け抜けた。小さな波が生まれ、すぐに消えていく。

「どう、する」

かすれたイブキの声に、ショウはあっさりと答えた。

「決まってます。探し出して、倒す。それだけです」



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