■シロガネ山にて

湖のほとりには、ジムリーダーたちが気絶して倒れていた。

ほとんど抵抗した様子はなく、まともなバトルの形跡はヤナギ老人の周囲が凍っていた事くらいであった。

夜には気絶していた4人が目覚めたため、ようやく何があったのか、事情を聞くことができた。

場所はやはりチョウジジム。寒い事この上ない。

「で、何があったんですか?」

代表してナミが聞く。ちなみに今はいつもの格好に上着を着ている。さすがにこのジムで水着なんて着ていたら風邪を引く。

口火を切ったのはハヤトだ。

「不覚だったよ。いきなり後ろからガツン!さ」

「ウチも似たようなもんや。気配もせえへんかったさかい、何にもできひんかったわ」

「私も・・・です。なんとなく変な気がして、振り向いた瞬間に・・・」

ハヤトに続き、アカネとミカンも口々に言う。

「私はどことなく異常な気配を感じてな。ラプラスに『ふぶき』を放たせた。手ごたえはあったんだが・・・おそらく何のダメージも与えていないのだろう

な。すぐにラプラスが倒され、気付いた時にはベッドの上だ」

ちなみにラプラスはヒレを持つ首長竜のようなポケモンで、強力な氷技を使う。『ふぶき』はその最たるもので、氷系でもトップクラスの技だ。

「確かに周囲の木々は凍っていましたけど・・・。という事は、ヤナギさんの凍技を受けても無事って事、ですか?」

「そうなる」

それは、かなり絶望的な状況だ。最高ではないにしろ、かなり高レベルの技を受け。それでダメージを受けない。それは、当然ながらそれ以上の攻

撃をぶつけなければダメージを与える事すらできない、という事実を示す。

「・・・絶望してても仕方ないわ。ヤナギさんたちは動けないんですよね?」

つい先刻まで気絶していたのだ。当然ながら、自由に動いたりできる体調ではない。

ヤナギが静かに頷くのを待って、ナミは立ち上がった。

「相手の意図が全然わからないわ。マイトは捨て駒だったとしか思えないけど、それにしては地上のリーダーを殺さないで気絶させただけってのが

気になるし。

何の目的があったのか、どこにいるのか、どういう相手なのか。はっきし言えば未知のポケモンって事とハザマが関わってる事しかわかってないわ

ね。それでも、動かなきゃ。じっとしてても何も始まらないもの」

「で、手がかりはないと思いますけど、どーする気なんですか?」

ショウはナミに向かって呆れたように言う。

「手がかりならきっとあるわ!つーかなくても見つける!」

ショウはため息をついた。

「研究所の研究資料をいくつか持ってきました。時間があったので、そのいくつかに目を通したんです。

連中が言っていた博士ってのが書いた論文のようなものでした。そいつの書いた資料によると、キメラ・ポケモンが産卵するためには高温で安定し

ているの環境が必要らしいです。たとえば、火山のような。その実験にふさわしい場所まで書いてありましたよ」

「どこ」

短く問うナミに、ショウは少し間を空けて答えた。

「シロガネ山です」



カントーとジョウトの境に位置するシロガネ山は、現在も活動する活火山である。

山頂までは道などなく、険しい山肌が見えている。山頂付近はガスによって白く覆われ、山の中には天然の洞窟が存在している。

この山が有名な理由はふたつ。ひとつは、どんな傷にも効果的という温泉が沸く事。

そして、もうひとつの理由は強力なポケモンの住処である、という事だ。

シロガネ山の野生ポケモンは他の地域のポケモンと明らかにレベルが違う。それだけに、この山を登ろうとするのは、密猟者か腕に自信のあるトレ

ーナーくらいのものだ。

シロガネ山を見渡す上空には、ショウたちがいる。

昨日のハザマ(だと思われる何者か)にやられた傷のせいでヤナギは来られなかったが、それ以外のリーダーたちは全員揃っている。

「いい?ここではかなりのレベルが必要になる。絶対にひとりにならない事。飛行ポケモンに乗っていけるのは中腹までだから、そっから先は歩きに

なる。いいわね?」

このメンバーでは唯一、山頂まで踏破した経験があるナミが、皆に確認するように言った。

「ひとつだけ。ここって山の中は洞窟になってますよね?ハザマたちがそっちにいたら、見つけられますか?」

「ああ、無理よ。道順が複雑すぎる。でも、それだけ複雑だからね。ハザマもたぶんそっちの道は使わないと思うわ。他に質問は?」

皆が首を振ったりする光景を確認し、ナミは言った。

「じゃ、行くわよ!」



道はそこそこ歩きやすかった。

というのも、木々がなぎ倒され、岩が砕かれているのだ。道らしきものがあればそこそこ歩きやすくなる。間違いなく、巨大なポケモンが通った後。

こんなマネをする人間はただひとり。ハザマしかいない。

「もうすぐ少し開けた場所に出るわ。山頂はそこからもう少し先よ」

先頭を歩くナミがナビゲートしつつ一行は進む。

ほどなくナミの宣告通り、広い場所に出た。火山の成分のせいか、ここで木々は急に途切れている。少し先からまた森が続くが、その手前には人

がいた。

「久しぶりだな、ご一行。出来ればもう少し会いたくはなかった、が」

紫のコートを着た、長身の男。笑っているのに、殺気を感じる。

「久しぶりね。ハザマ大幹部様?」

ナミもまた、ハザマに向かって殺気を放った。

ハザマの左右にはふたりの女性がいる。おそらくはかなりの実力者なのだろう女たちも、不敵に笑った。冷酷に、それでいて・・・強く。

ひとりは眼鏡をかけた若い女性。多少の露出が大人の色気を感じさせる。

もうひとりは、杖をついた老婆。ここにいるという事実が、この老婆がただの年寄りではない証拠だ。

「カントー四天王のカンナにキクコね。どうしたの、こんなとこで?散歩かしら?」

ナミは明らかに馬鹿にした口調で言い放った。

四天王とは、何年かに一度だけ行われるポケモンの祭典・ポケモンリーグの頂点を極めた者の事だ。

リーグは各地方にあり、カンナとキクコはカントー地方のリーグ優勝者である。

「初めまして。氷姫のカンナよ。残念だけど、ここは散歩には向いてない道ね」

「天霊のキクコだよ」

四天王は大袈裟な身振りで自己を紹介した。

「ショウ。先に行って」

ナミはショウにだけ聞こえる小さな声で呟く。

「こいつらがここにいるのは多分、卵を産む時間を稼ぐためよ。先に行って邪魔してきて。私もすぐ行くわ」

ショウは黙って小さく頷き、いきなりカイを繰り出した。そのまま飛び乗り飛翔する。目指すは、眼前の森。

「先に行く気かな?」

「そうよ」

ハザマとナミが同時にポケモンを繰り出していた。

ハザマのポケモンはエアームド。『こうそくいどう』でカイに襲いかかる。一方、ナミが出したのは――。

「『かえんほうしゃ』!」

熱線が、高速で移動しているハザマのエアームドを苦もなく包み込む。圧倒的な熱量がエアームドを焼き尽くし、そのまま鋼鳥は地に落ちた。

ショウは背後を振り返らず、まっすぐに森の中に姿を消した。

「今日は最初から全力でいくわよ」

ナミが繰り出したのは、彼女が最初に得たパートナー。圧倒的な炎でポケモンリーグ優勝に貢献した、ナミの持つ手持ちの中で最強のポケモン。

首を炎で包み、大地を両足でしっかりと踏みしめる、ヒノの母親。種族はバクフーン。名は、サラ。

「ハザマ。あんたは私が直々に潰してあげる。覚悟なさい」

ナミの怒りに満ちた瞳が、ハザマを射抜いた。



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